【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、北村匠海さん、林裕太さん、綾野剛さんが共演する映画『愚か者の身分』(2025年10月24日公開)。
闇ビジネスの世界で生きる男たちが、そこから抜け出すまでの日々を描いた作品です。

行き場のない人たちが必死に生きる姿が強烈に突き刺さってきました!

では、物語から。

【物語】
東京・新宿の歌舞伎町で戸籍売買の闇バイトで生計を立てているタクヤ(北村匠海さん)と弟分のマモル(林裕太さん)。パパ活女子の希沙良(山下美月さん)の協力のもと、うまく稼いできました。

いつか真っ当に生きたい、と思っている彼らですが、2人が所属している闇組織の幹部の大金が消えてしまい、それにタクヤが関与していた疑惑が浮上するのです。

【歌舞伎町で生きる男たちの青春】
前半、戸籍売買でひと儲けするタクヤ、マモル、希沙良の仕事っぷりが描かれます。その連携プレーはお見事。まんまと戸籍を手に入れて大金を手にいれるテクニックはやり手の詐欺そのもの。仕事がうまくいったときの3人の充実した表情は、闇社会の青春を見ているようでした。

【闇バイトから抜け出せない理由】
しかし、組織の上層部が登場すると一変。幹部のジョージ(田邊和也さん)は笑うと金歯がキラキラして気味悪いし、ジョージの部下で指示役の佐藤(嶺豪一さん)は、人使いが荒く乱暴。

「仕事は与える、成功報酬もやる。
けれど失敗したら命はいただくよ」という犯罪組織の怖さが表れると、タクヤとマモルが都合のいいように扱われているゲームのコマのような存在だというのがわかります。

本人たちは重々承知しているけれど、命が惜しいから抗えない。そしてまた次の仕事の依頼が来る……。闇バイトは延々とループしているから、なかなか抜け出せないのです。

【闇から抜け出すために命を懸ける!】
闇ビジネスから抜け出すために、タクヤは唯一信頼できる兄貴・梶谷剣士(綾野剛さん)を頼ります。そして、裏社会の運び屋の彼はボスに内緒でタクヤのために人肌脱ぐ!

タクヤをこの世界に引っ張り込んだ梶谷は彼に対して申し訳ない気持ちを抱いているからこそ助けるのです。そしてマモルをこの世界に連れて生きたタクヤもマモルに対して申し訳ない気持ちがある。だから一緒に逃げようと彼に内緒で準備をしていたのです。

この思いやりの連鎖がよかった。やってきたことは悪事ですが、その中で生まれた友情があり、その絆が闇社会から抜け出す原動力になるのです。

後半は追いかける組織と逃げるタクヤたちの逃走劇。死に物狂いで人生を取り戻そうとする姿はスリリングかつ胸熱でした。


【役者の素晴らしいパフォーマンスと見事なトリック】
タクヤの悪になりきれない優しさ、タクヤを絶対的に信頼しているマモルの純粋さ。そして、梶谷の頼り甲斐のある器の大きさ。俳優たちはそれぞれのキャラクターの魅力を最大限に魅せ切っていて、北村匠海さん、林裕太さん、綾野剛さんの3人の相性もばっちりだったと思います。

特に綾野さんが色っぽくてかっこよかった~。綾野剛は日本映画界における唯一無二の俳優になりつつあると改めて思いました!

またこの映画にはいくつか仕掛けがあり、後半の展開に活きてきます。ネタバレになるので多くは語れませんが、前半の登場人物のひとりが実は……だったり、後半に出てくる “あるもの” の秘密にナルホド~!と感心したり。闇社会を描いたダークな物語ですが、エンターテインメントとしても楽しめる作品です。

3人が闇ビジネスからどうやって脱出するのか、壮絶な生き様をぜひ劇場で見てください!

執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:©️2025映画「愚か者の身分」製作委員会

『愚か者の身分』
2025年10月24日(金) 全国ロードショー
監督:永田 琴
脚本:向井康介
原作:西尾 潤「愚か者の身分」(徳間文庫) 主題歌:tuki.「人生讃歌」
出演:北村匠海
林 裕太 山下美月 矢本悠馬 木南晴夏
綾野 剛

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