【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、『浅田家!』の中野量太監督作、柴咲コウさん、オダギリジョーさん、満島ひかりさんの共演作『兄を持ち運べるサイズに』(2025年11月28日公開)です。
ノンフィクションエッセイ『兄の終い』(村井理子著・CEメディアハウス刊)の映画化作品で実話です。

試写で鑑賞しましたが、ダメダメな兄の思い出を明るくコミカルに描きつつ、最後は涙……いい映画でした~。

では、物語から。

【物語】
作家の村井理子(柴咲コウさん)は警察から兄(オダギリジョーさん)が亡くなったことを知らされます。兄が住んでいた東北に向かうと、そこで兄の元嫁の加奈子(満島ひかりさん)と姪の満里奈(青山姫乃さん)と再会。

3人で兄と甥の良一(味元耀大さん)が住んでいたアパートの部屋を片付けをすることになるのですが、そこはまるでゴミ屋敷。悪臭もすごい! そんな中、理子は部屋の中で意外なものを発見するのです。

【兄の超ダメ人間エピソード満載】
警察から電話で「お兄さんが亡くなりました」と報告を受けた理子は息子に「お母さん悲しくないの?」と驚かれるほどずっと冷静。というのも、理子は兄からずっとお金を無心されて困っていたので、胸中複雑だったのです。

「大量に募金したから金がない」「給湯器が爆発したから金がない」「良一にピアノを習わせたいけど金がない」

このような理由で無心してくる兄を「嘘ばっかり!」と、理子はガン無視していました。以前から何度かお金を貸していたようで、彼女にしてみれば、本当にロクでもないお兄ちゃんだったのです。

しかし、部屋の片付けをしているときに見つけたあるものをきっかけに、理子はやさしかった兄のことを思い出していきます。


【思い出の兄が理子の目の前に現れて】
理子と加奈子は兄のことをたくさん語り合います。そんな思い出話になるとたびたび兄がスクリーンに登場するんですよ。髪はボサボサ、服はヨレヨレ、でもいつも楽しそうに笑っていて。いい加減な人間だけど愛嬌たっぷりで憎めない人なんですよ。

幼いころ、両親が共働きで毎日寂しかった理子を楽しませようと兄がしてくれたこと。そのときのやさしい嘘。理子と兄の思い出にこちらも胸がギュンとなりました。きっと上手に生きられない人だったんだと思います。

【キャスティングがバチっとハマった】
そんな兄を演じるオダギリさんは、これ以上ないベストキャスティング。死んだ役なのに存在感ばっちりで、オダギリさんが実に上手にダメ男をチャーミングに魅せています。

いっぽう柴咲コウさんは前作『でっちあげ』のモンスターペアレンツから一転、亡くなっても振り回してくる兄に困惑する理子役で全く違う一面を見せてくれました。こんなコミカルな役を演じる柴咲さんをもっと見たい! 

そして満島ひかりさんは徐々にギアをあげていって、後半は見せ場たっぷり。
私は何度か加奈子と一緒に泣きましたよ!

『浅田家!』など家族ドラマが大得意な中野量太監督の演出も素晴らしく、キャラクターに対する深い愛情があったからこそ、ダメな兄の心の奥底の魅力を引き出せたのだと思います。

家族だから「しょうがないなあ」と呆れながらもやってあげちゃうことってありますからね。そんな気持ちを思い起こさせてくれる映画『兄を持ち運べるサイズに』。ユーモアと感動の匙加減が最高の傑作、ぜひ劇場で観てくださいね!

執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:©2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会

『兄を持ち運べるサイズに』
2025年11月28日(金)全国ロードショー

原作:「兄の終い」村井理子(CEメディアハウス刊)
監督・脚本:中野量太
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
出演:柴咲コウ オダギリジョー 満島ひかり 青山姫乃 味元耀大

©2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会

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