【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、世代を超えて愛されるスピッツの名曲からインスパイアされた映画『楓』(2025年12月19日公開)。
出演は福士蒼汰さん、福原遥さん。演出は『世界の中心で、愛をさけぶ』を手掛ける行定勲監督です。純愛映画なのですが、切ない秘密を抱えた作品でよかったですよ~。

では、物語から。

【物語】
ニュージーランド旅行中に交通事故死した須永恵(けい/福士蒼汰さん)。同乗していた恋人の木下亜子(福原遥さん)は一命をとりとめますが、恵が亡くなったことが信じられず、目の前に現れた双子の兄・涼(福士蒼汰・2役)を恵だと思い込んでしまいます。

涼は彼女の苦しみを思い、恵のふりをして共に過ごすのですが、そんな嘘の関係は長くは続かず……。

【やさしい嘘からはじまった関係】
亜子が「けいちゃん」と呼んでいるメガネをかけた男性が実は兄・涼であることは最初に明かされます。出勤途中で亜子と別れた涼は公共トイレで着替え、メガネをはずして恵から涼へ。そしてカメラマンとしての職場に向かいます。

帰宅するときはまた着替えて恵になり、亜子が待つ家に帰るという毎日。1日の半分は恵を演じ、もう半分は涼。
そんな生活続くの?と思ったのですが、やっぱり続くわけがないのです。

涼の仕事仲間、亜子の友人は違和感を抱きます。涼は亜子と一緒のときは知人に会うことを避けているのですが、そういうときに限って会っちゃうんですよね。見ているこちらもハラハラすると同時に「亜子にバレたらどうするんだろう…」と。しかし、これが意外な展開を見せていくのです。

【事故の後遺症と真実への第一歩】
亜子はニュージーランドでの交通事故の後遺症で複視(物が二重に見える)になっていました。彼女は手術を選び、入院することになりますが、このとき恵(涼)には出張と嘘をつくんですよ。

いつも「けいちゃん」と言って彼を頼っていたのに。そして入院中に「恵は涼のなりすまし」だと気づいた人物が亜子に会いに来ます。これが決定打となり、ふたりの関係は大きく変化していくのです。

【愛ある嘘が形を変えて物語の中で展開】
嘘という言葉はあまりいい響きではないけれど、本作で涼が亜子に対してつく「自分は恵である」という嘘は、決して相手を欺くための嘘ではなく、相手を思うあまりついた嘘。そして、やさしい嘘は切ないんだな……と思いました。


そして後半に明かされる嘘は、亜子と恵が出会った学生時代に遡ります。個人的にはここがいちばん驚きましたね。そんな真実があったとは!

嘘をついたことから生まれる涼と亜子の葛藤もあるけれど、それらを経て彼らが悲しみや苦しみからの立ち直っていく姿も描いているのでじんわり感動できました。

【スピッツの歌が作品を大いに盛り上げる】
スピッツの楽曲『楓』の歌詞は、はっきりとしたストーリーがあるわけではないのですが、本作は歌の世界観を壊さずよりそうように作られた物語。純愛だけれどひねりも加えてあり、そこはベテラン行定勲監督の手腕ですね。

また劇中、渋谷龍太さん(SUPER BEAVER)とシンガーソングライターの十明(トアカ)さんが『楓』をカバー。亜子の母校から聞こえてくる合唱の曲でも流れます。いずれもいいのですがやはりいちばんは本家スピッツの『楓』。映画の最後に流れる『楓』は格別で心の中で一緒に歌ってしまいましたよ!  映像も美しいのでぜひスクリーンで観ていただきたい作品です!

執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:Ⓒ2025 映画『楓』製作委員会

『楓』
2025年12月19日(金)より全国ロードショー
監督:行定勲
脚本:髙橋泉
原案・主題歌:スピッツ「楓」(Polydor Records)
出演:福士蒼汰 福原遥
宮沢氷魚 石井杏奈 宮近海斗
大塚寧々 加藤雅也

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