※本稿は、谷昇『レシピ通りに作っても なぜ、おいしくならない?』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■殻をうまくむくなら、ゆで上がった瞬間に「氷水」へ
【ゆで卵の失敗】
殻がうまくむけない
→ゆで上がったらすぐに氷水で急冷し、白身をキュッと収縮させる
ゆで卵の殻がうまくむけず、白身がボロボロになってしまう。あるいは薄皮がくっついて離れない。これらは、卵の温度による変化を理解すれば、防ぐことができます。
調理の入り口で最も大切なのは、卵を必ず「常温」に戻しておくことです。冷蔵庫から出したての冷たい卵を熱湯に入れれば、急激な膨張に殻が耐えきれず割れてしまいます。
ゆで卵の白身に薄皮がくっついてしまわないために、私の妻はゆでる前に卵の丸いほうに、針で小さな穴を開けています。あらかじめガスを抜いておけば、加熱中に膨張するガスが逃げ、白身が殻に強く押しつけられるのを防げるからです。
ですが、私は別のアプローチをとります。
それは、ゆで上がった瞬間に間髪入れず「氷水」に取ることです。急激に冷やすことで、熱を持った白身がキュッと収縮し、殻との間に隙間が生まれるのです。
■水の中でむくと、白身が傷つかない
白身がボロボロになる
→殻を全体に細かく叩き、水の中で「水様卵白」を洗い流す
仕上げのむき方にも、確実なコツがあります。
私は冷えた卵の殻を、テーブルなどでコンコンと叩き、全体に細かくひびを入れます。そして、水の中でむいていくのです。
ゆで上がった卵の殻の内側には、熱で完全にきれいな身になりきれなかった「水様卵白」が、薄い膜やカスのようになって白身の表面にまとわりついています。これが接着剤のような役割をして、むきにくさを生むのです。
水の中でむくことで、細かなひび割れから水が入り込み、この不要な水様卵白を一緒に洗い流してくれます。
いわば、水が「掃除」の役割を果たしてくれるわけです。このひと手間こそが、身を傷つけることなく、表面を滑らかに保つための一番の近道となります。
■黄身の固さは、時間管理と急冷で決まる
黄身の状態が思い通りにならない
→沸騰したお湯から正確に時間を計り、氷水で一気に熱の伝導を断ち切る
半熟にならない、あるいは逆に固ゆでになりすぎてしまう。これは単純に、お湯の中で卵にどれだけの「熱」を蓄えさせるかという、時間の管理ミスです。
ゆで卵という料理において、黄身は「ソース」です。殻という器の中で、その天然のソースをいかに理想の温度と固さに仕上げるか、という仕事なのです。
私は、常温に戻した卵を沸騰したお湯に入れ、そこから正確に時間を計ります。
「6分」ならとろりとした半熟、「8分」ならしっとりした固ゆで寄り、というように、時間は熱の伝導そのものです。
そして、狙った状態で止めるためには、冷水での急冷が欠かせません。お湯から上げたあとも卵の内部では調理が進み続けますから、氷水で一気に余熱を断ち切り、ソースの完成時間を固定しなければならないのです。
■最初の1~2分転がし続けると断面がきれいに
黄身が中央にゆで上がらない
→白身が外側から固まる最初の数分間、向きを変え続ける
切った瞬間に黄身が片寄っていると、それだけで料理としての品格が損なわれてしまいますよね。なぜ黄身は動いてしまうのか。それは、黄身を中央に吊り下げている「カラザ」という組織の拘束力が、実はそれほど強くないからです。加熱がはじまれば、黄身は自らの浮力で、まだ液体である白身の中を自由自在に動いてしまいます。
そこで私は、白身が外側から固まりはじめる最初の1~2分の間、菜箸で優しく卵を転がし続けます。卵を回すことでお湯に対流を起こし、同時に卵の向きを変え続ける。
一度白身が固まってしまえば、もう黄身が動くことはありません。最初の数分の「手当て」が、断面の美しさを決めるのです。
■ボソボソを防ぐには生クリームを加えて
【スクランブルエッグの失敗】
「ボソボソの炒り卵」になってしまう
→卵3個に対し生クリーム大さじ2で、しっとりした密度の土台を作る
理想のふわふわのスクランブルエッグを目指したはずが、結局はボソボソと硬い「炒り卵」になってしまう。お皿の上に、卵から出た生臭い水分が溜まっている。こうした失敗のすべては、火の上で卵に何が起きているのか、その物理的な理屈がわかっていないことに起因します。
卵は、部位によって固まる温度がすべて異なります。特に凝固温度が高い「濃厚卵白」のコシをしっかり切らずに加熱すれば、口当たりはバラバラになります。
さらに、フライパンで直接熱を入れれば、たんぱく質は一瞬で固まり、抱き込んでいた大切な水分を外へと絞り出してしまいます。これが、卵から生臭い水分が出てしまった状態。素材が持つしっとりした質感を、熱の入れすぎによって壊してしまっている証拠なのです。
では、失敗をゼロにするにはどうすればいいか――。
まず準備として、卵3個に対し、生クリーム大さじ2と、味つけの塩ひとつまみを加えます。ここで生クリームを入れるのは、単なるコク出しではありません。脂分がたんぱく質同士の結合を物理的に邪魔し、凝固を劇的に緩やかにしてくれるからです。これが、しっとりした密度の土台になります。
そして、こしょうは絶対に入れません。火が入ることで生まれる余計な「苦味」が、卵の繊細な風味を邪魔してしまうからです。
■卵液は泡立てず、静かに混ぜて
「スカスカの食感」になってしまう
→卵液に「空気」を入れずにコシを切る
なめらかな口当たりにしようと、良かれと思って泡立て器(ホイッパー)で勢いよく卵液を撹拌してしまう。これもよくある失敗の入り口です。
ホイッパーで撹拌すると、卵の中に大量の空気が入ってしまいます。卵液に空気が含まれた状態で熱を入れると、加熱によってその空気が一気に膨張します。
そうなると、目指すべきしっとりとした質感ではなく、中身がスカスカの「スフレ」のようになってしまい、スクランブルエッグに求める密度の高さは失われてしまうのです。なめらかな密度の土台を作るには、ホイッパーを使い、濃厚卵白のコシを切るように優しく静かに回し混ぜるのが正解です。
決して泡立ててはいけません。空気を入れないように、しかし白身と黄身の硬さを均一にするイメージです。
■とろとろに仕上げるなら「湯煎」一択
「一瞬で固まって」修復不可能になる
→直火ではなく「湯煎」の蒸気で温め、余熱に任せる
フライパンを火にかけ、ダイレクトに卵を炒めていく。この「直火」による調理こそが、スクランブルエッグを一瞬で失敗させる最大の要因です。直火の熱は卵にとって強すぎるため、理想のとろとろ加減を狙おうとしても、一瞬で限界を超えて凝固し、もはや修復不可能な硬さになってしまいます。
調理の核心は、直火を捨てて「湯煎」に切り替えることです。これ以外にありません。
鍋に沸かしたお湯の上に、鍋よりひと回り大きいボウルを乗せ、立ち上がる「蒸気の熱」だけで卵液を温めていきます。卵液が温まりはじめたところで、冷たいバター(10g程度)を投入してください。このバターを蒸気の熱でゆっくりと溶かし、卵の水分と結びつけていく。これがフランス料理の「乳化」という作業です。
熱が当たるボウルの外側から卵が固まりはじめますから、耐熱性のゴムベラを使い、その部分を絶えず内側へと混ぜ込んでいきます。
理想の状態は、なめらかな食感の極限の半熟です。ボウルの中で卵が柔らかな塊を見せはじめたら、そこが勝負どころ。完全に固まってしまうと、もはや修復は不可能です。少し頼りないと感じるくらいの状態で湯煎からはずし、あとはボウルの余熱で仕上げる。この温度の調整ができてはじめて、理想的なスクランブルエッグが完成します。
----------
谷 昇(たに・のぼる)
レストラン「ル・マンジュ・トゥー」オーナーシェフ
1952年東京都新宿区生まれ。専門学校在学中よりアンドレ・パッション氏率いる六本木「イル・ド・フランス」で働き、卒業後に就職。1976年、1989年と2度フランスへ渡り、アルザスの3つ星レストラン「クロコディル」や2つ星レストラン「シリンガー」などで研鑽を積む。帰国後、六本木「オー・シザーブル」「サバス」などでシェフを務めたあと、1994年に「ル・マンジュ・トゥー」をオープン。2006年に改装リニューアル。2012年、辻静雄食文化賞専門技術者賞を受賞。
----------
(レストラン「ル・マンジュ・トゥー」オーナーシェフ 谷 昇)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
