日本は海外の人々にどう映っているのか。多摩美術大学特任准教授の佐宗邦威さんは「日本製品は、品質の高さや使いやすさ、手頃な価格が評価されている。
日本人にとっては当たり前の品質や細やかな配慮こそが、海外からの信頼を支える重要な価値になっている」という――。(第1回)
※本稿は、佐宗邦威『ジャパン・アズ・オンリーワン 文化立国としての日本』(PHP新書)の一部を再編集したものです。
■日本人が知らない「海外から見た価値」
海外で日本文化に対する思いもよらない好評価を知った時、最初に私が思ったのは、日本人自身が海外の人からどう見られているのかを知らなすぎるということだ。
そこで私が代表を務める戦略デザインファームBIOTOPEでは、2023年1月から3月にかけて、経済産業省(以下、経産省)クールジャパン政策課(現・文化産業創造課)とともに「日本ブランドイメージ調査」を実施した。文化経済政策立案の土台にすることを目的に、「日本文化」がどのように海外都市住民から受容されているのかを定性調査で明らかにしたものだ。
海外在住の邦人デザインリサーチャーのグローバルチームを編成し、以下の具体的な方法で調査を実施した。
①日本発ブランドの国外発信拠点17カ所での実地観察調査

②ロンドン(イギリス)・ベルリン(ドイツ)・パリ(フランス)・ニューヨーク(アメリカ)・シンガポールの5カ国5都市に在住する外国人ユーザー(日本ブランドの顧客)22人への家庭訪問インタビュー

③ソーシャルメディア調査

④前述の5カ国にオーストラリア、中国を加えた7カ国12人の有識者インタビューを行う
■旅に100万円以上使う新しい富裕層
そしてその結果を、ユーザーの視点を深く理解する手法であるデザインリサーチのアプローチで分析した。②の調査対象の外国人ユーザーは20代から40代で、観光庁が定義する今後の日本のインバウンド政策におけるコアの顧客になりうる「モダン・ラグジュアリー」層にあたる。
モダン・ラグジュアリー層とは「訪日1回あたり100万円以上を消費する旅行者」かつ、高級ホテルやブランド消費を重視する従来型の富裕層とは異なり、体験や精神的充足を重視する新しい富裕層である。
彼らに対しては、家庭訪問によって徹底的なインタビューを行った。その中で印象的なインタビューを紹介する。
■歌舞伎と初音ミクがコラボする面白さ
初めて東京を歩いた夜のことが忘れられない。
新宿で巨大スクリーンやネオンが立ち並ぶエリアを歩いていると思ったら、ふっと雰囲気が変わって次の路地では石畳と小さな神社が現れた。京都でも、金箔(きんぱく)に覆われた仏像の静謐(せいひつ)さを堪能した日の夜に、バイオヴォルテックス京都にチームラボの光と映像のアート作品を見に行った。
歌舞伎座で伝統芸能がバーチャル・シンガー「初音ミク」とコラボした「超歌舞伎」を観劇し、金沢の国立工芸館では人間国宝を含む伝統工芸の作家・職人が、多種多様な素材と技術でポケモンを作っているのを見た……。伝統文化と現代文化が共存している。不思議な国だ、そう思った。 〈ロンドンの建築家、マイケルの日本旅行記〉

日本に対して、マイケルのような印象を持つ人は多い。フランスとマレーシアにルーツを持つベルリン在住の29歳のキュレーター、Jは、次のように語る。
「Zenのように、伝統的な価値観をそのまま現代社会に持ち込む方法を、日本人は知っていると感じます。フランスや東南アジアで、伝統が単なる観光客目当てのイベントや商品になり、消費されているのとは対照的です。
文化の変容にオープンでいる日本の姿勢は、現代に生きる私たちにとって学びが多いものです。伝統を重視してテクノロジーを嫌うか、テクノロジーだけを狂信的に受け入れるかのどちらでもない中間的存在、伝統と現代の二元で分け切っていない点が、非常に興味深いです」
■外国人の印象に残る「ふたつの顔」
インタビューを行ったエキスパートたちも、口々に同様の指摘をする。オーストラリアにおける日本文化研究の第一人者で、モナシュ大学の日本研究センターのアン・デ・クレッツァーさんは、オーストラリア人の目には日本文化に2つの種類があるように見えると話す。

「日本には伝統的な文化と、POPカルチャーの2つの文化があり、オーストラリアではどちらも興味を持たれています。オーストラリアは国が若く、歴史を大事にしていません。日本は、伝統的な建物、伝統的な地区がある一方、モダンなビルや新幹線もあり、バランスが良いですね」
外務省により設置された対外発信拠点のジャパン・ハウスのロンドン館長を務めるサム・ソーンさんは、
「ロンドンで人々はハイストリートに並ぶファッションブランド、例えば無印良品やユニクロなどの印象から、日本に対するイメージを作り上げています。これらのブランドは、デザイン性の高さと価格の手頃さのバランスの良さが好まれています。イノベーションと伝統・歴史もそうですが、こうした『二面性(Duality)』は、人々が日本に付随して持つイメージの至るところにあって、それこそが日本の印象だと言えます」
と特徴を指摘する。
■伝統的なもののすぐ隣に現代生活がある
同じくロンドンの有名博物館で、日本美術のギャラリーのキュレーションを担当している有識者は、「日本は1000年以上続く工芸技法が数多く残っている国です。何世紀も続いている文化が、日本の現在の生活やデザインにどう生かされているのかに興味を持つ人は多いです。イギリスは産業革命の影響で、多くの伝統工芸が一度途絶えました。残っているものはアーツ・アンド・クラフト運動の影響で価値を再認識され、復興されたものなのです」と話す。
五重塔や神社仏閣が並ぶ京都や、富士山が見えるレトロな雰囲気の旧東海道など、古く伝統的な町並みが残る地域の人気は高い。
オーストラリアやアメリカ、シンガポールといった若い国はもちろん、長い歴史を持つ国の人々にとっても、見るに値するユニークなもののようだ。そういった伝統的なもののすぐ隣に、ユニクロや無印良品といった世界的で現代的なアパレルブランド、自国に似た現代生活がある。

さらに、世界に広がる漫画やアニメ、ゲームなどのPOPカルチャー、街中の大型ビジョンに投影された3D映像などによって、未来的な印象を抱くことも多い。
先に紹介した日本美術のギャラリーのキュレーターは、東京都が観光振興のスローガンとしている「Old meets New」というシンプルなコンセプトを評価して、次のように語る。
■「浮世絵×ドラえもん」が融合できる強み
「日本は、新しいものと古いものが共存していて、ただ伝統を守っているということではなく、伝統を新しい形で更新しているところが強みです。日本美術の中でも海外によく知られ、人気があるのが葛飾北斎(かつしかほくさい)による富嶽三十六景《神奈川沖浪裏》などの浮世絵です。浮世絵は江戸時代に発展したものですが、ファッションデザイナーの山本耀司(ようじ)が服飾に取り入れたり、ドラえもんやポケモンが浮世絵とコラボレーションした商品が販売されていますよね」
もちろんヨーロッパでも教会の隣にITスタートアップ拠点があるなど、古さと新しさは同居している。
しかし、欧米の外国人旅行者にとって教会は背景化しやすいのに対し、鳥居や賽銭箱(さいせんばこ)、神社の境内(けいだい)は外国人にとって見慣れないものとして目につきやすい。その既知と未知のギャップが「伝統と未来が息づく国」を感じさせているのだろう。
■海外の人が衝撃を受けた「無印良品」
ロンドンの無印良品の店で衝撃を受けた。驚くほど品質が高いのに、価格が手頃だったのだ。不思議だった。それであちこちに日本製品を見に行った。すると、包丁、文房具、茶器、キッチン用具など、どれも使いやすく、生活の美を宿していることがわかった。
それでいて高級品のような敷居の高さは感じない。品質と価格の両立を達成しているのは、数ある国の中でも日本だけだと思う。 〈ニューヨークの編集者、クリスが日本製品を発見した日〉
クリスのような印象は、多くの人から聞いた。パリ在住の33歳のGは、ファッション・音楽・カルチャープロジェクトのマネージャーだ。彼女は日本とパリのレストランを比較し、「日本では安くてもおいしいものを食べられるが、パリでは5ユーロではまずいものしか食べられない」と述べる。
彼女のこの発言は、日本では低価格帯でも品質と満足度がそれほど落ちないという経験からだ。シンガポール在住の23歳の企業会計監査担当者Nは、ワードローブの20%がユニクロ製品だと話す。ただし、それはユニクロのデザインが「ぜひ欲しいものだから」揃えているという積極的な理由ではない。
■「日本製品を買えば、間違いがない」
品質と価格のバランス、つまりコスパを考慮してのことだ。この種の日本製品への愛着の持ち方は、他のユーザーからも聞かれた。無印良品、ユニクロ、ダイソーなどの商品を、積極的な理由ではなく、コスパの良い商品だと割り切って選択し、購入する。日本製品は、生活の中で合理的に選ばれる“標準解”なのだ。

ベルリン在住の36歳の映像・モーションデザイナーのN・Gは、自分の消費傾向を「流行りよりも、質の良いものや自分が気に入ったものを長く使いたいタイプだ」と話す。そんな彼が日常的に買うのは無印良品のノートやペン、ユニクロの下着やスウェット、ダウンなどだ。
この彼の発言には、日本製品が生活のインフラとして入り込んでいること、長く使いたいという指向性と合っていることが見えてくる。前節でも登場したパリ在住の日本専門雑誌の編集者であるエミル・パチャ・バレンシアさんも、品質が良いことが信頼と尊敬に直結すると指摘している。
「フランスでは日本製のモノを買えば、99%の確率で品質が高いと考えられています。例えばファッションブランドのコム・デ・ギャルソン。1969年に設立されて以来、今でもカルト的影響力があるブランドの一つですが、デザインはもちろん耐久性などの面でも非常に質が高いです。このレベルの品質と尊敬を保ち続け、長く続くブランドはそれほどありません」
■外国人は日本のコンビニにも驚く
この点に関しては、日本で暮らしていると、いくら指摘されてもなかなか気づかないかもしれない。しかし、海外である程度の期間、旅行ではなく生活してみると、その意味がよくわかってくる。
自分がいかに日本の製品に込められた配慮の恩恵に与(あずか)ってきたか、しかもそれが日本国内においては驚くほど安価に提供されていたのかを実感するばかりなのだ。
ユニクロや無印良品以外にも、日本のプロダクト――例えば文房具、調理器具、化粧品などは、欧米のブランドと比べて圧倒的に質が良く長持ちすると複数ユーザーが言及しており、お得だと実感している人が多い。
日本製のものはコスパが良いという感覚は、外国人が母国ですら感じることだが、訪日すると、現在の円安の環境の中で、さらに強く感じるという。

日本には質の良いものが溢れており、そして、それは彼らのコスト感覚でいうと圧倒的に安く手に入れることができる。日本のコンビニやドラッグストアを訪れて、そこに並ぶ商品とその価格を見ると、信じられないほどお得に感じられるようだ。

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佐宗 邦威(さそう・くにたけ)

ストラティジックデザイナー、多摩美術大学特任准教授

東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科(Master of Design Methods)修士課程修了。P&Gにて、ファブリーズ、レノアなどのヒット商品のマーケティングを手がけたのち、ジレットのブランドマネージャーを務めた。ヒューマンバリュー社を経て、ソニークリエイティブセンター全社の新規事業創出プログラム(Sony Seed Acceleration Program)の立ち上げなどに携わったのち、戦略デザインファームBIOTOPEを創設し、2026年6月に継承。企業や自治体の理念の策定、ビジョンデザインとその実装の伴走を得意とする。著書に『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』(クロスメディア・パブリッシング)、『直感と論理をつなぐ思考法』『理念経営2.0』(以上、ダイヤモンド社)などがある。京都市カルチャープレナー政策推進パートナー、一般社団法人カルチャープレナーコレクティブズ理事。

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(ストラティジックデザイナー、多摩美術大学特任准教授 佐宗 邦威)
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