コスメディ製薬は2001年、京都薬科大学薬剤学教室に所属していた二人の研究者が創業。TTS(経皮吸収治療)の研究成果を社会に実装するために、ベンチャー企業として歩み始めました。
しかし、創業者の神山(現:取締役相談役)と権(現:代表取締役社長)は研究者としての人生を過ごしていたため、企業経営の知識や資金はほとんどありませんでした。あるのは「皮膚から薬剤を吸収させる技術で、生活者にやさしい医療を提供したい」という想い、工学と薬学を融合させた独創的なアイディア、そして技術開発に対する自信のみ。
この危ういほど小さな企業は、注射に代わる次世代の投薬方法として「マイクロニードル」に着目し、研究を進めました。その後マイクロニードルの安全性を高めるため、基材を皮膚中の成分ヒアルロン酸で作製した「溶解型マイクロニードル」の開発に成功。この「溶解型マイクロニードル」の技術を承認プロセスに時間を要する医薬品や医療機器ではなく、短期間で製品化できる美容領域に応用して、2008年にマイクロニードルを世界で初めて※1製品として上市しました。現在生活者もよく知る「マイクロニードル化粧品」の市場は、コスメディ製薬が生み出したものです。
その舞台となったのが、当時コスメディ製薬が本社を置いた「クリエイション・コア京都御車(みくるま)」。オフィスやラボの利用だけではなく、二人の研究者が経営者として歩んでいくための様々なサポートをこの施設で受けたことで「世界初」※1の製品を生活者に届けることができたといいます。
コスメディ製薬のターニングポイントとなった時間と場所を振り返るために、クリエイション・コア京都御車 IM(インキュベーションマネージメント)室の小関さん、江村さんにお話を伺いました。
※(左)チーフ・インキュベーション・マネージャー:小関 英一さん (右)専門職員:江村 寛計さん
ウエルネス分野の研究開発、事業化を支援する京都の拠点
クリエイション・コア京都御車は、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するインキュベーション施設。鴨川と高野川の合流地点「鴨川デルタ」のすぐ南、西には京都御所という立地のこの施設は、ウエルネス分野で新製品、新技術の研究開発や事業化をめざす中小・ベンチャー企業を支援する拠点です。2005年の設立より今年で20年、数多くのスタートアップを支援し、社会に送り出してきました。
※現在の入居者のボード(エントランスにて撮影)
※ノーベル賞2025受賞のお祝いポスター(エントランスにて撮影)
現在クリエイション・コア京都御車には20の企業や大学研究室などが入居しています。
施設設備面だけではなく、IM室がベンチャー企業の課題を全方位支援
IM室の小関さんと江村さんにクリエイション・コア京都御車の施設内をご案内いただきました。「IM室」は施設に常駐するインキュベーションマネージャー(IM)などのスタッフ組織。中小機構の支援ネットワークを活かして、入居するベンチャー企業の経営・技術・販路などを全方位で支援されています。コスメディ製薬も企業成長のフェーズに沿った、様々なサポートでIM室に伴走いただきました。「コスメディ製薬さんは、2006年1月から2011年6月まで入居されていました。この施設の第一期生になりますね。」と江村さん。当時のコスメディ製薬をサポートいただいたスタッフのお一人です。「入居当初はオフィスとラボの2室で活動、その後九条に本社と研究施設を移転される直前には、8室になっていました。」
クリエイション・コア京都御車の居室は、オフィスタイプとラボタイプの全36室。特にラボタイプの部屋は給排水設備や耐薬性素材の床など、実験研究を行う上で最適な環境。実験室と併用したオフィスとしての利用も可能です。
※2025年12月1日に入居公募を開始した209号室
また、会議室や打合せスペース、リフレッシュコーナーやシャワー室などの共有ユーティリティーも充実。
※清潔なリフレッシュルーム
※オープンテラスからの鴨川ビューの景色
京都市内が一望できる屋上にもおじゃましました。「コロナ禍で中断してしまったようですが、五山の送り火の日には入居者が集まって、この屋上で懇親会も開催されていたみたいですね。」と小関さん。京都大学吉田キャンパスや京都府立医科大学にも近いこの施設は共同研究拠点でもあり、まさにイノベーションが数多く生まれる、京都の「共創」の場所にふさわしい景色です。
※京都市内が一望できる絶景の屋上
企業経営をゼロから学んだ二人の研究者の姿
※2008年開催「第7回 国際バイオEXPO」のコスメディ製薬のブースで。展示会も二人の研究者が運営(IM室提供)
2026年5月に創業25周年を迎えるコスメディ製薬は、現在従業員数は約200名。京都市内に本社、研究開発センター、2工場の4拠点で事業活動を行う企業に成長しました。クリエイション・コア京都御車で「溶解型マイクロニードル」の開発に成功し、世界で初めて※1マイクロニードルを製品化した当時の従業員数はたった8名。企業経営を全く知らなかった、二人の研究者の当時をお聞きしました。
自分たちの技術を生活者に届けるため、企業経営を誠実に学ぶ
「確かに神山さんも権さんも研究者であり、会社を起こすという道を準備されていたわけではありませんから、当時は企業経営に関する知識はほとんどなかったかもしれませんね(笑)ただ、お二人とも、私たちIM室スタッフを含め、弁護士や税理士などの専門家のレクチャーや助言をとても熱心にお聞きになり、素直に吸収されていきました。お二人は自分たちの技術を生活者に製品として届けたい、という想いがとてもおありでしたから、企業として事業を継続されるためのノウハウを誠実に実践されたように思います。」(江村さん)
※世界初※1の技術「溶解型マイクロニードル」が生まれたラボ(2008年撮影:IM室提供)
発想の転換で、技術を事業化するベンチャーマインド
「経皮吸収治療の医療技術として開発した溶解型マイクロニードルを、化粧品に応用して製品化するという発想もすごかったと思いますが、全く未経験の事業分野に舵を切るということは、とても勇気がいることだったのではないでしょうか。
※世界で初めて※1上市したマイクロニードル化粧品(2008年撮影)
※クリエイション・コア京都御車内、マイクロニードル化粧品を製造するラボ工場(2008年撮影)
千年を超える、京都のイノベーションの歴史を継承する
マイクロニードル技術が拓く「やさしい医療」
IM室の小関さん、江村さんとコスメディ製薬のターニングポイントとなった時間を振り返ったことで「革新的な発想と確かな技術で社会に貢献したい」という私たちの原動力を実感しました。
コスメディ製薬が開発した「溶解型マイクロニードル」は、皮膚を傷つけず、痛みをともなわない「貼る注射」。この注射に代わる世界初※1の技術と製品を生みだせたのは、ベンチャー企業として新しいものづくりに情熱を持ち、粘り強く研究に取り組む私たちを見守り、育んでいただいたクリエイション・コア京都という場所、そしてIM室スタッフの皆さんのおかげです。
コスメディ製薬はこれからもクリエイション・コア京都御車の第一期生、国際産業都市京都の一員としての誇りを持ち、独創的な発想力と高度な技術力で社会に「やさしい医療」を実装し続けます。
※1 公益社団法人 日本薬剤学会発行 学会誌「薬剤学」より