KOMORIの証印事業は、セキュリティープリントテクノロジーを通して世界中の人々に安心・安全・信頼を届ける、KOMORIの基盤事業の一つです。
その証印事業本部を率いるスティーブ・クレイグ本部長に、経歴、異文化の中でリーダーとして果たすべき役割、証印事業の強みや今後の方向性について、長期的なビジョンとともに語っていただきました。
証印事業本部長
スティーブ・クレイグ
クレイグ本部長の経歴をお聞かせください。
私はイギリスのベルファストで生まれ、1998年にイングランド銀行に入行しました。その後、印刷部門が民営化され、デ・ラ・ルー社に売却された際、私もデ・ラ・ルー社に移籍し、マルタ、ケニア、イギリスで勤務しました。2012年には、イギリスの全ての紙幣を印刷するデブデン工場の工場長に就任しました。当時、イングランド銀行はデブデン工場でポリマーの新紙幣を製造することを企画し、2つの製造ラインに投資することになりました。この入札で私はKOMORIと競合他社を評価する立場にあり、私たちは機械の性能や信頼性のみでなく、顧客の意見を聞き、ともに問題を解決しようとするKOMORIの姿勢に感銘を受け、KOMORIの機械を選んだのを覚えています。この時のご縁によって、私は2019年にKOMORIグループの証印事業に参加することになりました。KOMORIの証印事業の優位性はなんでしょうか。どのような課題があると考えていますか。
先ほども述べましたが、顧客とともに問題解決を図る、まさに『感動』を与える姿勢が、全世界各地域の政府機関に受け入れられているのだと思います。当社の機械の精度や製造品質は高い信頼を得ていますが、顧客基盤が拡大するにつれ、パーツなどのリカーリング部品を含むアフターサービスの強化が急務となっています。例えば、AI技術を活用し、遠隔地からリモートでソリューションを提供するような新しい取り組みが必要です。また、KOMORIは異なるタイムゾーンにわたる世界中の顧客を抱えており、各政府機関に対してタイムリーなサポートを提供できる体制の構築が、今後の重要な課題となっています。革新を追求するためには、自社の事業に限らず、他業界の事例を参考にすることや、それに伴う投資も必要です。その点、当社は第7次中期経営計画で200億円の戦略投資を掲げており、リソースを有効に活用できる体制を整えています。
クレイグ本部長は、自身の経験で今回初めて日本人を主体とした部署のリーダーになったと伺いますが、日欧の文化の差などをどう捉えていますか。
プレゼンテーション能力を磨くため、私は月曜の朝に、部門の一人一人に自由に発表をしてもらっています。仕事のことでも趣味のことでも何でもいい。その中で文化の違いが話題に上がったのですが、日本人は非常に丁寧だと感じました。顧客のことをよく理解し、共に解決しようとする姿勢が、世界の政府機関で受け入れられる大きな理由の一つだと考えています。しかし、日本人と西洋人には明確な文化的な違いもあります。例えば、日本文化には非常に奥ゆかしい一面がありますが、それが物事を進めるスピードを遅くすることがあります。一方で、西洋では「We’ll figure it out.(なんとかなる)」や「Just do it.(とにかくやってみよう)」というように、どんどん物事を前に進める傾向があります。東洋の「徹底性」と西洋の「スピード」をうまく融合させることが重要です。例えば『稟議』はその一例です。なぜ複数人の承認が必要なのか、西洋人の視点から見ると、説明責任の欠如や意思決定の曖昧さと捉えられるかもしれません。
ただし私はどちらが良い悪いという話ではないと思っています。お互いに違いを理解し、良い点をより引き出せ合えばいい。私は部下に言うのは、「失敗しても学べばいいじゃないか」と。あと部下には遠慮なく自分の率直な意見を言うこと、分からない事が有ればすぐに上司に質問することをお願いしています。お互いの立場・文化に尊敬を払い、短所は改善するバランスが重要なのです。

今後の証印事業の方向性を教えてください。
前述の通り、紙幣印刷機市場は独占された状態にありましたが、現在KOMORIはこの分野で大きな成功を収めており、今後もシェアを拡大させるつもりです。KOMORIグループのネットワークにより各地域に商圏を広げ、印刷機の販売には留まらず、アフターサービスも拡充するつもりです。KOMORIの顧客に寄り添う姿勢と、リモートサポートのような革新性は、当社が新しい市場を開拓していく上でのエンジンとなると考えています。市場が複占の状況なので数値は差し控えますが、私たちは具体的な目標として当社印刷機の採用率を高め、サービスを強化したいと考えます。そのためにはつくば工場との連携を強化し、問題の発見と解決を常に迅速に進めなければなりません。

銀行券以外では、パスポート・IDカードなどのセキュリティー印刷分野を拡大させるため、新しいチームを編成したいと考えています。商業印刷分野にセキュリティーフィーチャーなどの証印事業で使っているテクノロジーを移転し、トレーディングカードなどの価値保全能力を高める仕組みを試行しています。