自社新開発のイノシシ柵の製造・販売に取り組み、イノシシ被害対策という全国的課題の解決に挑戦する取り組みをご紹介します。
■営業職から創業へ。知的財産を活用して、長島町のために『選べる雇用』創出
創業は2012年9月であるが、その経緯は、1995年までさかのぼる。創業者である大戸宏章が1992年大学進学でふるさとである鹿児島県長島町から東京へ移住。大学時代に切磋琢磨した友人たちとの議論の中で、「将来、ふるさとである長島町は消滅するかもしれない。でも、どうやったら止められる?やはり、雇用だ。しかも『若者が選べる雇用』の創出とその継続性(安定性)が必要で、その雇用を生み出すビジネスの競争力が、『東京』と対抗できる(知的財産)ほどに高くなくてはならない」という結論にたどり着く。
大学卒業後、東京で社会人の作法を学びつつ、2001年にご縁を頂き知的財産権を重要視する企業に転職。メーカーの営業職としてビジネス全般を学ぶこととなる。
やることは決まっていた。
「知的財産を活用して、長島町の若者のために『選べる雇用』を創出することである。
■地域特産のじゃがいもを守る、「イノシシ被害対策研究所」の始まり
とは言っても、経験したのは「営業職」であり自分自身に何か専門的な知識や技術があるわけではなかった。帰還移住後、直ぐに始めた事業は前職から引き続きベビー用品関連の受託業務、そして長島町が鹿児島県ブランドとして登録されているじゃがいも栽培であった。もちろん両事業とも、家族が生きていくために必須の事業。そして事件は、帰還移住後数年経過した2015年2月に起こったのだ。そう、イノシシ被害である。収穫目前のじゃがいも畑の9割をやられたのだ。近隣の畑の所有者から被害の連絡を受け駆け付けた私は、茫然自失。
■情報収集の中で見えてきたワイヤーメッシュ柵の改良点
開発にあたって、先ず必要なのは情報収集。近隣農家からこれまでの被害状況やその防御方法について学んでいった。
しかしながら被害に遭っていく中で、既存のワイヤーメッシュ柵の弱点や改良すべき点も明確になり、理想の柵の姿が見えてきたのも事実だ。自社農場は、中山間地の小規模農地。しかも、過疎の進む令和日本の鹿児島県長島町。農業従事者は、60歳以上が圧倒的に多い。そんな環境のもとでは、①75歳以上の高齢者でも一人で設置可能、②軽トラでの運搬が可能、③容易に設置・撤去可能、あとは④手の届く価格であることが理想の柵の条件で、さらに既存のワイヤーメッシュ柵の決定的な弱点である⑤「地際からの潜り抜け」(破壊)対策や⑥柵の設置後農家の畑への出入りを可能にすることなどが必要になる。①~⑥全てを実現する必要があり、それを実現しているイノシシ侵入防止柵はこの世に存在しないということが分かってきた。「イノシシ被害対策研究所」の初めての研究成果だ。
そんな中、あることに気づいた。2019年頃だ。
■跳躍を避けるイノシシの習性から必要十分な高さを把握し開発。回転することで、イノシシが鼻で押し上げる力をいなす「クルッと!イノシシガード」特許取得へ
そこから自社のじゃがいも畑やさつま芋畑での検証が始まった。本当にこの置いているだけの「コンテナ柵」で防げるのか?30cmしかない高さで大丈夫なのか?地面に固定しなくて大丈夫なのか?もし大丈夫なら、単ユニットはどんな形が理想で、高さは何cmが妥当なのか?「単ユニットの連結体」という方向性は決まっても、商品化はもちろん簡単ではない。ユニットサイズは、素材とするワイヤーメッシュの大きさから長さ2mのままが加工効率が高い。この長さなら軽トラでの運搬が可能だ。コンテナは直方体で自立する。
■「クルッと!イノシシガード」の2つの連結問題解消へ。生産工場との連携やアイデアで乗り越える
時はコロナ禍の最中である。売上の柱であるベビー用品関連事業は「赤ちゃんとのお出かけ」が需要の大前提。それなのに、国内全体が3蜜回避のためお出かけの抑制を受け、会社の売上は2020年V.S.2021年の1月~6月の売上前年対比が50%以下にまで落ち込んだ。特許は取得しても多額の特許料、そして続くコロナ禍。量産モデルの最終仕様未定、生産工場あてもなく…。順風は何もない。でもコロナ禍の終焉が見えない中で、会社が瀕死の状況から抜け出すには、どうしても「赤ちゃんとのお出かけ」需要が大前提のベビー用品関連事業以外の事業を、しかもコロナ禍の影響を受けにくい獣害対策事業を創出する必要があり、これまで何の知見もないワイヤーメッシュ製造業界の中に飛び込むしか選択肢はなかったのである。
まず、生産拠点となる工場探し。これはインターネットで調べての飛び込み営業。幸運にも早い段階で「作ってもらえませんか?」のお願いを聞いてもらえる工場が見つかった。しかし、製品化には乗り越えなければならない大きな課題がもう一つあることを、開発者である私は理解していた。そう、「2つの連結問題」である。「クルっと!イノシシガード」は、ユニットの褄面の正三角形の重心同士を隣のユニットと紐で連結する必要がある。だが、現状この「重心」は試作品に露出していない。この重心の露出は、ワイヤーメッシュ3面の固定とその露出を、90度ねじれたフックを両端に持つ部品で同時に解決することができた。私のアイデアを協力工場の社長に相談したところ「その形状のフックなら、自社の設備で生産可能です。」とのことで一気に量産化への道が開けたのである。残るは最後の連結問題。「スポッと!イノシシガード」の平面部と斜面部を連結する部品である。この部品には、2面のワイヤーメッシュを前後上下に乖離させず、かつユニットの上下運動による平面部と斜面部の接続部の回転運動を可能とし、さらにはユニットへのイノシシの接触時にユニット自体が破損しないことが求められる。この部品は、ばね状の部品やリング状の市販部品で実現可能であることはこれまでの試作品で分かっていたのだが、それと同時にそれらの方法ではコストが高く、またそのような形状の部品は協力工場の設備では作れないことも判明していた。この部品だけを他工場で製造してもらう選択肢はあったが、協力工場の社長の知見では「かなり困難」とのことで、事態は暗礁に乗り上げ、深く長い思考の時間へ突入したのだった。この部品に機能面以外で課した条件、それは「同じ協力工場での生産が可能なこと」だった。ヒントは、協力工場で生産可能な「クルっと!イノシシガード」の連結フック、ただそれだけ。特許取得後、2022年の3月には、「クルっと!イノシシガード」の量産モデルはほぼ完成し、その後両製品は、同年9月に令和4年(2022年)度鹿児島県トライアル発注制度で採択されると同時に、同年11月に鹿児島県農業開発総合センターへ納品しなければならないことが決まった。採択された時点では、最後の連結問題は未だクリアされていなかった。
深く長い思考は2022年3月に始まり、その終わりは鹿児島県農業開発総合センターへの納品を控えた同年10月だった。唯一のヒントである「クルっと!イノシシガード」の連結フックを何本も潰して、曲げたり、ねじったり…。最後は、夢の中でも考えるようになっていた。自宅にユニットを持ち帰り庭先で暗くなるまで考え続けることおよそ7か月間、長い思考の末に誕生したのが最終パーツ「L字フック」だ。L字フックのその単純な構造とは裏腹に、ユニット内での連結の仕様を見ると、私の7か月間の格闘が垣間見えるであろう。2021年12月江口先生(前出)のイノシシの跳躍に関する記事を読んだときよりも大きくて静な興奮を覚えたのは、納品期限直前の2022年10月、場所はふるさと鹿児島県長島町の自宅の庭先であった。そして、その地は45年前に私が通園していた実家近くの町立幼稚園の園庭が、少子化により姿を変えた場所でもあった。
■イノシシの侵入阻止率100%。知的財産を活用して、長島町の若者のために『選べる雇用』の創出を目指し続ける
かくして、2022年11月初期量産モデルは鹿児島県農業開発総合センターのミカン畑へ設置されたのち、2023年9月に鹿児島市の建築資材会社様の敷地内ののり面を掘り起こす迷惑イノシシの侵入防止柵として設置され、両現場でのこれまでの侵入阻止率は100%を誇る。そして弊社は、最新モデルの量産タイプを昨年末12月26日に発売・プレスリリースして、30社以上のメディアで紹介され、そして農家様から注目を浴びつつ、「知的財産を活用して、長島町の若者のために『選べる雇用』を創出すること」をひたむきに目指し続け、現在に至るのである。
【会社概要】
社名:アムザス株式会社
本社所在地:〒899-1304 鹿児島県出水郡長島町城川内865番地
代表取締役:大戸 留美
事業内容: 特産品生産事業、インターネット販売事業、施設用ベビー用品販売事業、ソフトウェア開発事業、教育関連事業
設立: 2012年
HP:http://www.amzas.jp
お問い合わせ:info@amzas.jp
【商品概要】
商品ページ: http://www.amzas.jp/inoshishi/inoshishiguard/
イノシシガードシリーズ全2タイプ
■クルっと!イノシシガード 【出入口、傾斜、段差部用】(1ユニット 約2m)[特許第6978654号]
6,930円(税込)
■スポっと!イノシシガード 【囲い部、平面部用】 (1ユニット 約2m)[特許第6978655号]
4,400円(税込)