目次

  • 「人」が企業価値の中核へ ― 義務化を超えたチャンス
  • 人的資本スコアが浮かび上がらせる「見えない株価」
  • ISO 30414 ― “人事の健康診断書”から戦略ツールへ
  • いま取り組まないと企業は取り残される
  • 「人」が企業価値の中核へ ― 義務化を超えたチャンス

    昨今、企業価値の源泉が有形資産から人的資本を含む無形資産へと大きくシフトしつつあります。労働力の質や組織力といった「人」に関する資本は、従来の財務諸表には現れにくいものの、企業の将来価値を左右する重要な要素です。そして、今後、その流れはさらに加速していきます。


    こうした流れを受け、日本でも2023年から人的資本や多様性に関する情報開示が有価証券報告書で義務化され、企業にとって対応が急務となりました。政府は「人材版伊藤レポート2.0」や「人的資本可視化指針」といったガイドラインを相次いで発表し、投資家や社会からの注目度も一段と高まっています。

    このように人的資本への期待と監視が強まる中、各企業は自社の人材戦略や組織力をいかに「見える化」し、価値創造につなげていくかという課題に直面しています。「人」は企業にとって最大の資源であるにもかかわらず、その価値を客観的な指標で示すことは簡単なことではありません。

    しかし、それを避けていては投資家から正当な評価を得られず、ひいては競争力の低下を招きかねません。人的資本情報の開示は単なる法令対応にとどまらず、企業の成長戦略そのものとして位置づけるべき喫緊の経営課題と言えるでしょう。

    人的資本の価値を可視化するための有効なフレームワークの一つがISO 30414です。ISO 30414は2018年に国際標準化機構(ISO)によって策定された、人材に関する情報を定量・定性的に測定・分析・開示するための国際ガイドラインです。採用・育成・後継者計画・ダイバーシティ・エンゲージメントなど、11の分野にまたがる58項目の指標が定められており、企業が人的資本への取り組み状況を「見える化」するための世界共通言語と位置づけられています。

    例えば離職率ひとつを取っても、その数字の背後には組織風土やマネジメント上の課題が潜んでおり、ISO 30414はそうした定量データから課題を浮き彫りにする“人事の健康診断書”として機能します。

    エンゲージメントスコアや人材育成投資額、多様性比率といった指標を測定・分析するプロセス自体が、経営層と現場の対話を促し、人事戦略の再点検につながります。

    このように、ISO 30414は単なる情報開示のチェックリストではなく、企業の人材マネジメント全体を見直す枠組みとして捉えることが重要です。


    人的資本スコアが浮かび上がらせる「見えない株価」

    財務諸表には表れないものの、企業の未来の株価や価値創造力を左右する“見えない株価”──それが人的資本のスコアによって浮かび上がってきます。

    人的資本スコアとは、社員のエンゲージメントやスキル、リーダーシップ、組織の健全性といった多面的な人材要素を総合的に評価した指標です。

    2023年3月期決算以降、有価証券報告書を発行する上場企業約4,000社を対象に、人的資本に関する「戦略」と「指標及び目標」の開示が義務化されました。さらに、2022年に公表された「人材版伊藤レポート2.0」では、人的資本経営を推進するための具体的アプローチや動的な人材ポートフォリオの重要性が示されており、企業の人的資本戦略は“義務”から“成長機会”へと認識が変化しつつあります。

    こうした法制度の整備を背景に、ESG評価機関「ESG Book」が提供する国内約980社の人的資本スコア・プラスランキング(2025年2月28日時点)では、首位に伊藤忠商事が輝きました。2位には小松製作所、3位にGSユアサコーポレーションがランクインし、商社や製造業を中心に人的資本投資の成果が高く評価されています。これは、女性管理職比率や従業員一人当たり営業利益の成長率など複数の指標に基づくスコアリングが精緻化された結果であり、人的資本の優劣が明確に投資家の判断に直結する時代が到来したと言えます。

    加えて、日本取引所グループ(JPX総研)と日本経済新聞社は、新たに「JPX日経インデックス人的資本100」を2025年7月22日から算出開始すると発表しました。これは、JPX日経400銘柄を母集団とし、人的資本に優れた100社を選定する株価指数です。人的資本重視企業への投資を後押しすると同時に、市場全体に「人への投資」が長期的なリターンを生むとのメッセージを投げかける試みとして注目されています。

    人的資本スコアが示す“見えない株価”の画像はこちら >>


    こうした潮流の中で、人的資本スコアを定期的にトラッキングし、業界平均や競合他社とのベンチマークを取ることは、経営戦略における必須のアクションです。

    人的資本スコアが高い企業は、将来の成長余力やイノベーション創出力を市場から高く評価され、見えない株価が形成されます。一方、人的資本への投資や開示に消極的な企業は、真の価値が埋もれたまま資本コストが上昇するリスクを抱えることになるでしょう。


    今こそ、人的資本スコアという「見えない株価」を意図的に高め、投資家やステークホルダーに示すアクションが求められています。

    ISO 30414 ― “人事の健康診断書”から戦略ツールへ

    こうした背景から、人的資本の「見える化」を専門的に支援するサービスへのニーズが急速に高まっており、私たち ITSUDATSUへの相談も急増しました。

    弊社は独自の組織・人事アプローチをとり、ISO 30414に準拠した人的資本経営の実践と情報開示をワンストップで提供する総合コンサルティングサービスを展開しています。

    主に3つの特徴があります。

    1.国際資格が裏付ける専門性

    弊社には、ISO 30414 Certified Lead Consultant/Assessorの国際資格を保有するコンサルタントが複数在籍し、累計320社を超える支援実績を有しています。単なる認証取得支援に留まらず、企業価値向上と現場変革に直結する実践的なコンサルティングを提供します。

    2.独自KPI開発と組織変革伴走

    ISO 30414の58指標を土台にしながら、企業固有のカルチャーや戦略課題に即したオリジナルKPIを開発します。コンサルタントが現役の経営陣、CxOとして日々事業運営に携わってきた豊富な経験と、経営目線を持ち、経営トップの視点で「何を達成すべきか」「どの指標が真に価値を生むか」を見極める能力に長けており、ISO 30414の汎用的な指標群をベースに、自社の中長期戦略や市場環境に合致したKPIをセレクト・カスタマイズします。さらにそのKPIを「成長のエンジン」として組織に根付かせるための実装支援が私たちの強みです。

    3.情報開示サポートとISO 30414認証取得支援

    有価証券報告書や統合報告書への人的資本開示項目の整理からレポート作成、ステークホルダー向けIR資料の策定まで、ワンストップで支援しています。ご要望に応じてISO 30414認証取得まで専門チームがフルに伴走し、人的資本経営を社内外に力強く発信し、投資家からの信頼獲得とブランド価値向上に寄与します。

    ISO 30414は、“人事の健康診断書”として組織の採用、離職率やエンゲージメント、ダイバーシティを可視化し、課題を浮き彫りすることができます。最近はその枠を超え、経営戦略のアイデア創出や投資判断の根拠として活用される“戦略ツール”へと進化しつつあります。


    今、この瞬間に一歩踏み出し、人的資本を真の資本として経営の中核に据える企業こそ、選ばれる企業へとなっていくでしょう。

    人的資本スコアが示す“見えない株価”


    いま、取り組まないと企業は取り残される

    人的資本経営へのシフトはもはや待ったなしの状況です。それは、「制度上の義務だから」というわけではありません。「これからの競争優位性として」という理由からです。

    リクルート社から刊行された『未来予測2040 労働供給制約社会』では、日本の人口動態統計をもとに2040年の労働需給をシミュレーションし、日本が「労働供給制約社会」になると警鐘を鳴らします。

    プロジェクトリーダーをつとめたリクルートワークス研究所主任研究員の古屋氏は下記のよに言います。

    「これは、単なる人手不足論ではありません。日本社会が生活を維持するために必要な労働力を供給できなくなる可能性があるということです。この背景にあるのは人口動態です。2044年までは65歳以上の高齢人口が増え続け、一方で15~64歳までの現役世代が2040年まで急激に減少していくのです。結果として起こるのは、労働の担い手となる現役世代の割合が不足する社会です。」



    このような市場になる中、企業の本質的な価値を厳しく見極める時代になりました。

    いま取り組まないと取り残される──この危機感を経営陣が共有し、行動を起こせるか否かが明暗を分けます。


    人的資本は「見えない株価」であると同時に、適切にマネジメントすれば確実に見える成果となって現れる資本です。社員の成長やエンゲージメントの向上が新規事業の創出や顧客満足度の向上につながり、それが中長期的な企業価値の増大となって投資家に評価される――その好循環を生み出すために、今すぐできる一歩から始めましょう。
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