カレー詰め合わせ CRN60
そんなレトルトカレー最大の特徴が「レストランで提供される味を忠実に再現していること」。レストランとレトルトという異なる環境で、同じ味を実現するにはどのような技術や工夫が必要なのでしょうか。今回は製造の舞台裏に迫るため、レトルトカレーに込められたこだわりと、変わらない美味しさを守り続けるための取り組みについて紐解きました。

■資生堂パーラーのレストラン・小売事業に共通する3つの価値観
資生堂パーラーの起源は1902年まで遡ります。銀座の「資生堂薬局」内に開設された、ソーダ水とアイスクリームの製造販売を行う日本初の「ソーダファウンテン」を始まりとし、1928年に本格的な西洋料理を提供するレストランを開業しました。以来、レストラン事業と洋菓子やレトルト商品などを販売する小売事業を展開しています。多岐にわたるメニューや商品を販売・提供する両事業において、共通して大切にしている考えがあります。それは「本物であること」「高い品質であること」「美味しいこと」という3つの価値観です。これらの価値観は、資生堂の創業者である福原有信の「本物志向」に端を発しています。ソーダファウンテンを導入する際にも、機械一式はもとより、グラス、ストロー、スプーン、シロップに至るまで本場・アメリカから輸入したものを使用するほどでした。この「新しい価値」「高品質」「本物」を追求する姿勢は、資生堂パーラーのDNAとして今日まで脈々と受け継がれてきました。

アメリカから輸入されたソーダ水の機械
■レストラン開業時から愛される唯一無二のカレー。レトルトで家庭へ届ける
そんな資生堂パーラーで提供しているメニューの一つであるカレーは、レストラン開業当時から提供されている、まさに伝統の看板メニューです。幅広いお客様に愛されており、資生堂パーラーにとってなくてはならない、唯一無二の存在と位置づけられています。
1928年 レストラン開業の店内
その特徴的な味わいは、他にはない独特な個性を持っています。具材はシンプルなものですが、カレーソースの完成までには3日を要します。まずは、ラードで香味野菜をゆっくり揚げて芳ばしい香りが立ってきたら、特製のカレー粉を合わせて炒め、火をいれることおよそ一時間。深みのある鳶色がついたら一晩寝かせます。翌日に鶏ガラ、香味野菜、ブイヨンを加えて煮込み、さらに一晩寝かせることで、深い味わいのカレーソースが出来上がります。この工程で生まれる「焦がしたような苦味と旨味」こそが、資生堂パーラーのカレー独特の深い味わいの秘密です。色合いも黒めで、鶏ガラの旨味がしっかりと効いているため、「大人なカレー」と表現されることもあります。


レストランでの製造工程のイメージ
このレストランで親しまれてきた味わいがレトルトとして誕生したのは1974年のこと。そして1998年には現在のパウチ型の「洋食シリーズ」としてリニューアルされました。

1974年当時のカタログ

1998年 洋食シリーズ
■レストランの味を忠実に再現。工場とレストランの連携で品質管理を実現
そんなレトルトカレー最大の特徴であり、開発において最も重視しているのが「レストランで提供される味を忠実に再現すること」。この味の再現への徹底したこだわりこそが、資生堂パーラーが大切にする「本物であること」「高い品質であること」「美味しいこと」という価値観を体現しているのです。製造工場ではレストランと同様の丁寧な工程を再現しており、ルーの製造や鶏ガラから取ってスープを作る工程など、手間ひまかけた調理法を工場でも忠実に再現。まるでレストランのキッチンがそのまま大きくなったような工場で製造されています。さらに、味の均一性を保つため、徹底した数値管理を行っています。甘み、塩分、濃度といった項目を細かく数値化し、基準値内に収まるように製造しています。これにより、季節による野菜の水分量の違いなど、わずかな味のブレが生じる可能性があっても、数値に基づいた調整により、常に安定した味をお届けできる体制を整えています。
味の均一性を保つための取り組みは、レトルトカレー開発を手がけるマーケティング部とレストラン部の緊密な連携によっても支えられています。具体的には製造ロットごとに総調理長が味を確認し、承認されたものだけを販売するという体制を敷いています。また、製造工場のスタッフには実際にレストランでカレーを味わってもらう取り組みも実施。
一方で、レトルト食品特有の制約もあります。それが「殺菌工程」です。この工程こそがレストランと大きく異なる部分であり、味が変化してしまう要因でもあります。この味の変化をいかに最小限に抑え、レストランの「美味しい」味を保つかが大きな課題となります。
最も大きな影響はスパイス感が薄れること。高温での殺菌処理によって香りの成分が損なわれてしまいます。そこで、スパイスの香りが飛ぶことを前提として材料の配合の調整を行っています。工場の持つ技術ノウハウを最大限活用しながら、殺菌後の味を想定した配合調整を行い、レストランの味に限りなく近づける努力を続けているのです。

現在の資生堂パーラー 銀座本店レストラン
レストランの味をレトルトで表現する理由。それは、このカレーがレストラン開業当初から提供されている、特別なメニューであるから。そして、長年にわたってこの味を愛し続けてくださるお客様が数多くいらっしゃり、その期待に応え続けたいという強い思いがあるからです。
■伝統を守りながら挑む、時代のニーズへの対応
伝統の味わいを守り続ける一方で、最近では「新しい価値を届ける」ことにも積極的に挑戦しています。過去にはその一環として、グルテンフリーや動物性不使用など健康志向のお客様に向けたレトルトカレーや、神戸ビーフや飛騨牛を使用したプレミアムなレトルトカレーを開発・販売したこともあります。その背景には、海外輸出やインバウンド需要の高まり、新しい食文化への対応という時代のニーズに応えたいという思いがありました。現在も、市場に合わせた新しい商品の開発に日々取り組んでいます。これらの挑戦は、レトルトカレー企画部門に留まらず、資生堂パーラー全体に共通する企業文化です。

過去に販売していたシリーズ
資生堂パーラーのレトルトカレーは、販売以降、様々なシーンで楽しまれてきました。現在は一人暮らしの家族へのギフトや、共働きのご家庭への贈り物としても利用されるなど、多様化する食生活にも対応しています。資生堂パーラーにとって、カレーは「なくてはならないもの」であり、その味を守り続けることは、開業時からの歴史とお客様への感謝の思いを繋ぐことでもあります。料理人たちも「レストラン開業時からの味を守りたい」「妥協せずにとことん味わいを追求していく」という二つの思いを胸に、日々カレー作りに取り組んでいます。
長きにわたる歴史と伝統を背景に、品質への変わらないこだわりを持ちながら、時代に合わせた新しい挑戦を続ける資生堂パーラーのレトルトカレー。手間暇を惜しまず作られたカレーには、開業時から受け継がれる精神と職人の思いが込められています。ご家庭で本格的なレストランの味をお楽しみいただくことで、私たちが大切にしてきた「本物の味」をより多くのお客様にお届けできることを願っています。
資生堂パーラー公式サイト:https://parlour.shiseido.co.jp/
公式オンラインショップ:https://parlour.shiseido.co.jp/food_products/onlineshop/category.html?cat_id=001