少子高齢化や人口流出という課題に直面する地方自治体において、住民サービスの質を維持・向上させるのは「人」に他なりません。青森県八戸市は、全国の自治体に先駆けて職員エンゲージメント調査を導入し、組織の健康診断とその後の具体的な改善アクションに着手しました。
カクナルにとっては自治体支援の第一歩となったこのプロジェクトの舞台裏について、八戸市市役所総務部人事課の皆様と、カクナル代表取締役の中島が語り合いました。

登壇者

写真右の中央:木村 智(キムラ サトル) 

八戸市市役所総務部人事課 参事(人事研修GL) 

写真右の左:中村 直也(ナカムラ ナオヤ)

八戸市市役所総務部人事課 主査 

写真右の右:濱谷 祐輔(ハマヤ ユウスケ)

八戸市市役所総務部人事課 主査 

(以下、八戸市人事課

写真左:中島篤(ナカシマ アツシ)

株式会社CAQNAL(カクナル) 代表取締役

iU情報経営イノベーション専門職大学 客員教授 / 地方創生アドバイザー

(以下中島)

採用難と若手の離職。数字に表れない閉塞感への危機感

カクナル広報:

今回、エンゲージメント調査を導入しようと思われた背景を教えてください。

八戸市人事課

実はコロナ禍が明けた頃から、組織の中に目に見えないモヤモヤ感というか、閉塞感のようなものが漂っているのを肌で感じていました。実際の数字でも、採用試験の受験者数は減少傾向にあり、若手の離職率も高まってきている。当時は人事ではない部署にいたのですが、外側からも「人事に何かやってほしい」という期待を強く感じていました。しかし、具体的に何から手をつければいいのかが全く見えていなかった。まずは今の組織がどういう状態なのかを見える化したいと考えたのが、導入のきっかけです。

中島:

2年前の当時は、今よりもずっと自治体におけるエンゲージメントへの関心は低かったですよね。東北の自治体から組織改善を目的としたアドバイザー人材の公募が出たときは、その先進性に驚きましたし、地元の東北を盛り上げたいという一心で手を挙げさせていただいたのを覚えています。

本音の蓋を開ける恐怖と向き合った人事チームの覚悟

カクナル広報:

自治体という組織において、職員の「本音」を募るサーベイの導入にはハードルもあったのではないでしょうか。

八戸市人事課:

正直に言えば、「エンゲージメントって何?」という反応からスタートするような状態でした。特に匿名でフリーコメントを募ることについては庁内でも議論がありましたね。
どんなことを書かれるかわからない、いわば「蓋を開けてはいけない場所」に手をつけるような恐怖心が確かにありました。プロジェクトに途中から加わったメンバーも、最初は「いきなり多くの質問が並ぶアンケートが届いて、職員は驚くのではないか?」という戸惑いがあったのが本音です。しかし、中島さんと共に対話を重ねる中で、自分たちの現在地を正しく知るためには、この道は避けて通れないだろうという覚悟が決まっていきました。

中島:

サーベイ設計では、言葉選びにかなり気を遣いました。犯人探しにならず、かつ改善の打ち手につながるような、丁寧なワードチョイスを何度も協議しました。

八戸市人事課: 中島さんに設計を支えていただく一方で、回答率を高めるための工夫も自分たちなりに行いました。例えば、ナッジ理論を学んだ職員を巻き込んで印象的なポスターを作ったり、PCにリマインドのポップアップを出したりと、とにかく職員に届けようと泥臭く動きましたね。そうした積み重ねの結果、多くの職員がこの調査を「自分たちのためのもの」として捉えてくれるようになったと感じています。

※ナッジ理論:経済的なインセンティブや行動の強制をせず、行動変容を促す戦略・手法

郷土愛という青い炎と人事評価という明確な壁

カクナル広報:

実際に調査を行ってみて、どのような組織の姿が見えてきたのでしょうか。

八戸市人事課:

嬉しい発見だったのは、八戸市のために貢献したいという志を持つ職員が非常に多かったことです。とりあえず仕事をしているだけなのでは、という不安もありましたが、実際は地元を想う熱い気持ちが根底にある。中島さんが「青い炎」と表現してくれましたが、静かに、でも確実に燃えている熱量を確認できたのは大きな収穫でした。

中島:

貢献意欲の数値は、期待を大きく超えて高かったですね。
一方で、課題もまた鮮明になりました。

八戸市人事課:

はい。人事評価に対する納得感の低さや、キャリアプランの描きにくさといった部分にネガティブな回答が集まりました。自分がどう客観的に評価されているのか、この先どのようなスキルを身につけられるのかという点に、職員が不安や不満を感じている実態が数値として突きつけられました。これはある程度予想はしていましたが、改めてデータではっきりと示されたことで、改善への道筋が明確になりました。

分析を確かなアクションへ変える。納得感を醸成するための具体的な歩み

カクナル広報:

調査結果を受けて、具体的にはどのようなアクションを起こしたのですか。

八戸市人事課:

まず着手したのは、人事評価のフィードバック改善です。評価の理由をきちんと説明できるよう面談を義務化し、納得感を高めるための対話を促すようにしました。また、キャリアプランの可視化を目的に、各部署の業務内容や魅力や得られるスキルなどを紹介する「職場紹介シート」を作成しました。これも、管理職が作ると堅い内容になってしまうので、あえて若い職員に作ってもらう試行錯誤を続けています。

中島:

データで明らかになった不透明感に対して、透明性を高める打ち手をスピード感を持って実行されているのは素晴らしいと思います。
他にも「生理休暇」という名称を「F休暇(Flexible/Female)」に変更して心理的ハードルを下げるといった歩みも進んでいますよね。

八戸市人事課:

はい。今では職員の間でも「エンゲージメント」という言葉が一般的に通じるようになりました。他部署の職員から「エンゲージメント向上の参考に」と資料が送られてくることが何度かあり、職員の意識も確実に変わり始めています。

地域を盛り上げるために人事部門が果たすべき新たな役割

カクナル広報:

最後に、同じように組織課題に悩む全国の自治体へメッセージをお願いします。

八戸市人事課:

予算や時間の制約があるのはどこも同じです。しかし、職員が100%の力を発揮できないことは、市民サービスの低下や地域の未来を損なうことに直結すると考えています。今の時点で客観的に自分たちの強みと弱みを知ることは、将来的な破綻を防ぐ健康診断のようなものです。どうか、限られたリソースの中予算でも、新しいことにチャレンジしてほしいと思います。

中島:

2年間の伴走を通じて、八戸市の皆さんの対話がどんどん深まっていくのを感じています。データは単なる数字ではなく、より良い組織を創るための武器です。これからも名誉市民を狙うくらいの熱量で、皆さんと共に汗をかき続けていきたいと思います。


八戸市人事課:

自治体はこれから、働く場所として選ばれる組織にならなければなりません。そのためには、人事部門は職員のモチベーターであるべきと考え、業務に取り組んでいます。八戸市がそのロールモデルとなり、日本中、地方の自治体が盛り上がっていくきっかけになれば嬉しいです。
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