●「つながらない日常」が、そこにある
普段スマートフォンを使っている中で、ふと「なんでつながらないんだろう?」と思う瞬間があります。都市部では、一時的に不便に感じる程度の電波の問題も、山間部に行くと状況は大きく変わります。山や谷などの地形が物理的な障壁となり、電波が遮られることで、“つながらない”が日常の一部になっているのです。
私は、こうした電波の届かない状況が生む「デジタルデバイド(情報格差)」を、まるで目に見えない壁のように感じています。地形や地域特性により、通信環境の整備が難しい地域もあり、情報通信の活用に制約が生じています。こうした状況を、ここでは「電波の壁」と呼びたいと思います。
今回は、この「電波の壁」が、畜産業界にも影響を及ぼした「2024年問題」により、現在も取り組みが進められている『飼料流通合理化』にも影響を与える可能性についてお伝えします。
●「電波の壁」がもたらす畜産業への影響
畜産業は、私たちの「食」を支える重要な産業です。その畜産業は平地だけでなく、広大な土地や自然が豊かな山間部でも行われています。しかし、山間部にある畜産農家の事務所では電波が通っていても、牛や豚、鶏などの家畜に与える飼料(えさ)のタンクがある場所では電波が通らないことがしばしばあります。また、農場全体に電波が届かず通信できない農場も存在します。この「電波の壁」が、情報通信の面で大きな障害となり、畜産業の効率化を妨げていると考えています。
「飼料在庫管理のためにセンサーを入れても、電波が届かないから意味がない。」
畜産現場で聞いたこの言葉が、ずっと私の頭に残っています。技術があっても、電波がなければ使えない。これこそが、「電波の壁」だと感じています。
●「電波の壁」と『飼料流通合理化』
_「2024年問題」が浮き彫りにした飼料流通の課題
2024年4月に施行された時間外労働の上限規制、「2024年問題」は、畜産業にも大きな影響を与えました。特に、飼料の安定供給を支える輸送体制に課題が顕在化し、飼料メーカーや運送会社は対応に追われることになりました。_「電波の壁」が合理化の障害に⁉
しかし、山間部などでは「電波の壁」が存在することで、通信インフラが整っていないため、飼料の在庫管理や配送ルートの最適化が難しくなっています。このことが、畜産農家だけでなく、飼料メーカーや運送会社にも影響を及ぼし、『飼料流通合理化』にも大きな障害になると考えています。_リアルタイム管理が求められる現場の現実
『飼料流通合理化』の取り組みでは、農林水産省などの行政機関から、リアルタイムでの在庫管理や配送の最適化が畜産関係者に求められています。しかし、通信環境が不安定な地域では、デジタル技術の活用が難しく、在庫量の確認は人手に頼らざるを得ないためムラが出てしまい、在庫の過不足が発生しやすくなります。これが、飼料の無駄や過剰在庫の発生につながり、結果的には経営に大きな負担をかける要因になると私は感じています。

●「つながらない」を変える未来、新たな選択肢
山間部や遠隔地で畜産業を営む現場では、通信インフラの未整備や携帯電話回線の不安定さが、業務の効率化やデジタル技術の導入を妨げる要因となっています。特に、事務所には電波が届いていても、飼料タンクのある場所までは通信が届かないというケースも少なくありません。
こうした状況に対して、当社では「Milfee(ミルフィー)LoRa親子通信モデル」を提案しています。このモデルでは、事務所に設置した親機から、LoRaという低消費電力・長距離通信が可能な無線技術を使って、飼料タンクに設置された子機と通信を行います。これにより、携帯電話回線が届かない場所でも、飼料残量の“見える化”を実現することができます。
_通信環境の整備に衛星通信という選択肢も
最近では、事務所のインターネット環境を整えるために、比較的安価になってきた低軌道衛星通信(例:Starlink ※)を導入する農家も見られるようになってきました。実際に、ある農場では事務所に「Starlink※」を導入し、事務所内に安定したインターネット環境が整った、というお話しを聞きました。
それぞれの農家に合った通信技術を柔軟に組み合わせることで、「電波の壁」に阻まれていた農場でも、飼料残量のリアルタイム管理が可能になります。
●飼料残量をデータで管理! 持続可能な畜産業をめざして
飼料タンク残量管理ソリューション「Milfee(ミルフィー)」は、YEデジタルの技術力と畜産農家の声から生まれたソリューションです。
「Milfee」端末を飼料タンクの蓋の内側に取り付け、タンク内の残量をリアルタイムで計測し、そのデータをクラウド上で管理します。これにより、畜産農家、飼料メーカー、運送会社がそれぞれパソコンやスマートフォンから、いつでもどこでも残量を確認することが可能です。飼料残量を「見える化」することで、高所での目視確認が不要となり、作業の安全性と効率が大幅に向上します。
また、飼料残量のデータを活用することで、飼料発注業務の支援や飼料流通合理化も実現します。これにより、畜産業界の人手不足や長時間労働、属人化作業、飼料配送効率の低下などの課題が解決し、働き方改革と生産性向上が期待されます。
_電波が届かない場所でも、飼料残量が見える「LoRa親子通信モデル」
山間部や遠隔地の電波の問題により、取り残される飼料タンクを減らす必要があると考え、携帯電話回線のエリア外でも利用可能な「LoRa親子通信モデル」があります。
この仕組みは、通信回線が整った事務所などに「親機」を設置し、そこからLoRa(低消費電力・長距離通信が可能な無線技術)を使って「子機」と通信します。「子機」は飼料タンクなどの現場に設置され、携帯電話の電波が届かない場所でも、200~400メートルほど離れた「親機」を経由してクラウドに接続できます。
これにより、「つながらない」ことが当たり前だった場所でも、「飼料残量の見える化」が可能になります。
「Milfee」を詳しく見る
●さいごに
今回は、「電波の壁」という言葉を通じて、『飼料流通合理化』妨げとなりうる現状と、それを乗り越えるための新たな通信技術の可能性についてお伝えしました。
こうした課題の解決は、畜産業の効率化や生産性向上につながると期待されます。
私たちは、『持続可能な畜産業』の実現に向けて、これからも少しずつでも前に進み、現場に寄り添った技術で寄与していきたいと考えています。
※「Starlink」はSpaceX社の商標または登録商標です。