パーソルグループでは、中期経営計画2026において目指すべき方向性として「テクノロジードリブンの人材サービス企業」への進化を掲げ、グループの各事業・サービスがテクノロジー活用の取り組みを加速させています。
今回は、そんな中期経営計画2026達成の切り札ともいえる新組織、グループAI・DX本部の本部長を務める岡田にインタビュー。
グループAI・DX本部発足の背景や取り組みの指針、グループ各社の現状と課題や今後の展望について、詳しく話を聞きました。
パーソルホールディングスが運営するWebメディア「TECH DOOR」では、パーソルグループ内で取り組んでいるITプロジェクトを紹介しています。本記事と併せてぜひご覧ください。
自らをディスラプトする覚悟で臨む、本気のAI活用
—2025年4月に新設された「グループAI・DX本部」とはどのような組織なのでしょうか?
一言でいうと、AIを中心としたテクノロジーによって、国内外合わせて約150社あるグループ会社のDXを推進する組織です。顧客に提供する事業やビジネスのDXと、社内業務や従業員体験のDXの2つをミッションとしています。—2025年4月にグループAI・DX本部が発足した背景を教えてください。
われわれの組織ミッションは、「テクノロジーの力で顧客体験 / 従業員体験 / 事業を変革する」です。これはグループAI・DX本部の前身となる「グループデジタル変革推進本部」時代から一貫していますが、この1年で外部環境と内部環境が大きく変化しました。その原動力となっているのが、昨今注目を集める生成AIの急速な進化です。グループAI・DX本部は、こうした急速な進化をグループ各社の事業成長に転化するために組織ミッションと組織名を改めました。—パーソルグループのDXを加速させる意図があるということですね?
はい。生成AIによる事業変革や事業創造は業務のデジタル化の延長線上にあるという見方もできるかもしれませんが、いち早く生成AIをビジネスに取り込もうと思うのであれば、既存の取り組みの延長線上で考えるのはあまり得策とはいえません。なぜなら、生成AIの本格的なビジネス活用は、従来の業務プロセスやビジネスモデルをディスラプトし、自己否定する側面があるからです。自己否定を伴う業務改善やビジネスモデルの変革が自然の流れの中からは到底生まれないでしょうから、急速なDXの加速を目指すためには自らの手でギアを上げることが必要だと感じました。われわれグループAI・DX本部が生まれたのは、生成AIをビジネスに実装し、非連続な跳躍を実現するために他なりません。平たくいえば、いまあらゆる産業が転換点にあり変革が求められていますが、われわれパーソルグループも例外ではありません。この転換点を逃してはいけないという危機意識の表れでもありますね。
—だからあえて組織名に「AI」をつけたわけですね?
はい。とくに2025年は「AIエージェント元年」といわれるように、AIは“単なる便利ツール”から“複雑な業務を自分で考え自律的に遂行するためのビジネス手法”への端境期です。企業にとって、機会にも脅威にもなりうる生成AIを我がものとするためには絶好のタイミングといえます。生成AIによる事業変革や事業創造を成功させる覚悟を内外に示すために「グループAI・DX本部」と名付けました。
生成AI活用に必要な機能を網羅する新体制
—新組織の特徴を教えてください。
前身となる「グループデジタル変革推進本部」と4月から名称変更した「グループAI・DX本部」との大きな違いは、AI活用に必要な組織を細分化して専門性を持たせた点です。グループAI・DX本部は、大きく3つの部署で構成されています。社内向けの人事システムや財務システムなど共通業務基盤の企画開発を担う部と、グループ各社の事業変革を横断的に支援する部、人材派遣の事業変革支援に特化した部です。パーソルの主要事業のうち人材派遣事業だけ専任組織を設けているのは、グループ全体の売上の約4割を占めており、DXによる伸び代が大きくビジネスインパクトが期待できるためです。いずれにしても非連続的で抜本的なチャレンジをするために必要な機能を網羅したのが、2025年度の新体制といえます。
—同じAI活用でも事業変革や事業創出は、生産性向上や付加価値向上と比べるとその難しさは数段上といわれますが、どんな点が難しいですか?
われわれがやろうとしているのは、生成AIをフル活用した事業変革、事業創出の実現です。本気で取り組めば取り組むほど、既存の業務プロセスやビジネスモデルのディスラプト、つまり自己否定につながるので、当然「痛み」が伴います。これまでの成功体験を捨て、新たな成功体験をつくり出すには相応の覚悟と努力が必要です。また、生成AIの進化は文字通り、まさに日進月歩で、雨後の筍のように次々と登場するソリューションのなかから、将来性のある技術をピックアップするのも容易ではありません。ベクトルや質の異なる難しさをいかに克服するか、日々問われています。
—前例のない取り組みである以上、試行錯誤が欠かせません。答えを模索しながら走り続ける難しさもあるのでは?
もちろんそれもありますね。ただ、私自身は過去にいくつもの新規事業の立ち上げを経験するなかで、不確実をコントロールしていく術を身につけてきました。失敗から学ぶ価値も心得ているので、厳しさを感じても不安はありません。なので、一緒に取り組むメンバーには、決して失敗を恐れないでほしいと思っています。メンバーには「場当たり的で次への展開が見込めない『仮説なき失敗』でなく、考えを尽くした上での失敗なら、それは単なる失敗ではなく次につながる前進だ」と日ごろから伝えています。—パーソルグループにおけるDXの進捗状況を教えてください。
パーソルグループには多くのグループ会社があり、デジタル化やDXにはまだ多くの課題があります。グループ全体のボトムアップはある程度できているので、それぞれの事業に寄り添いながら取り組むことと、明確な指針を示してトップダウンで取り組むこと、その両面が必要だと思っています。なかでも主力事業である人材派遣事業と転職支援事業、BPO事業などを並べると、それぞれの事業内容やその特徴は違いますが、「人と仕事をマッチングする」という基本の部分は同じです。それゆえ、ある事業で成功したテクノロジー活用の事例が、他の事業で応用できる可能性は極めて高いと思っています。各事業が持つテクノロジー活用のノウハウを活かし、成果を一気に横展開できるような体制づくりにも挑戦していきます。

究極の組織目標は「はたらくにまつわる負」の解消
—岡田さんにとって仕事へのモチベーションとは?
もちろん、顧客のため、仲間のために最善を尽くしたいからという気持ちで仕事をしているのですが、もっと深く掘り下げるとパーソルグループが掲げるグループビジョン「はたらいて、笑おう。」の実現に辿りつきます。こうした言い方は少し語弊があるかもしれませんが、私自身、いまの日本のはたらき方は、決して良い状態ではないと思うんです。業種を問わず、労働集約的なはたらき方、生産性の低いはたらき方がいまだにたくさんあります。その責任は一部の企業だけでなく、われわれ人材サービス業にもあると思うんです。「はたらくにまつわる負」を解消するには、既存事業を磨き込むだけでは不十分だと思います。これまで新規事業の立ち上げなどに携わってきましたが、テクノロジーの進化を利用すれば、こうした負の解消にレバレッジを効かせられるはずです。
とりわけ生成AIには、「はたらくにまつわる負」を解消するポテンシャルを強く感じています。当面はグループのDXを通じて顧客や仲間に喜んでもらえる取り組みへの着手が中心になりますが、その根底には「日本のはたらく」をより良くしたいという気持ちがあるのです。デジタルの力でAI時代の新しい“はたらく”を、そして彩りのある“はたらく”を創造していきたいと考えています。

—となるとやはり、最終的には新規事業の創出が目標になるのでしょうか?
とくに生成AIを中心に取り組むDX分脈において、そのビジネスを「新規」か「既存」で分けるのは、あまり意味がないと思っているんです。新規事業と冠したビジネスも捉え方によっては既存事業の一形態に位置づけられるでしょうし、既存事業に手を加えた結果、新規事業と見紛うばかりの変貌を遂げることもありうるからです。ですから、われわれグループAI・DX本部は新規か既存かにこだわらず、生成AIによる事業変革、事業創造を目指します。
—具体的な取り組みとしてはどんな構想がありますか?
共通汎用業務AIを基盤に対話型自動マッチングや面談スケジュールの調整など、個別業務ごとに開発されたアプリケーションの利用を突破口に、いくつかのアプリケーションを組み合わせ、いずれ事業全体をAIで賄えるような世界を目指します。
—大胆かつ野心的な展望ですね。
前編でもお話した通り、われわれが目指すのは「はたらくにまつわる負」を解消し、「はたらきがいのある社会を実現する」ことにあります。それがパーソルグループの掲げる「はたらいて、笑おう。」を実現することであり、テクノロジードリブンを標榜するわれわれにしかできない取り組みだからです。道のりは決して平坦ではありませんが、私は今ここで取り組むべき価値があると信じています。たとえば、自分に代わってAIがはたらいてくれるような時代がくれば、人間は生計を立てるためにはたらくのではなく、自己実現や社会のためにはたらくことが常識になるかもしれません。全くはたらかないという人が出てきてもおかしくないでしょう。近い未来には、こうした世界が実現できるのではないかと思っていますし、AI協働時代に向けて「はたらくを問い直す」ことも、われわれの使命だと思っています。
※2025年4月時点の情報です。
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