Thinkingsが運営する「組織再考ラボ」のフェロー、森田 徹が、多くの企業の採用支援経験をもとに、データと仕組みで採用を進化させる方法について語ります。

業界20年で見えた採用課題の本質「時間軸のズレ」

──森田さんのキャリアの原点と、現在の専門領域に至った経緯を教えてください。

新卒で入社した会社で、大手企業の採用コンサルティング部門に配属されました。
特定のプロダクトありきではなく、お客様の課題に合わせてあらゆる手法を組み合わせ、時には新たに作り、他社とも連携して解決する。ATSを提供し始めてからも、同様のスタイルで伴走型支援を続けています。約20年、大手からベンチャーまで1000社超の採用を支援してきました。今は、採用の前後工程まで含めた新たなプラットフォーム開発に挑戦しています。

――森田さんが感じる、採用課題の本質とは何でしょうか。

採用の本質である「なぜ・どんな人を採用するか」は不変ですが、手段は激変したと感じています。かつて新卒採用はリクナビ・マイナビを中心とする大手就職サイトで完結していたが、今や学生や求職者と企業との接点は分散し、プロセスも複雑化していますね。

実際1000社を支援して最も強く感じるのは、採用がうまくいかない根本原因は「時間軸のズレ」にあるということです。

経営層は5年、10年先のビジョンから必要な組織や人材像を考える。ですが採用担当は目の前の充足率に追われ、現場は今日明日の人手不足に悩んでいる。この時間軸が同期していない限り、どんな優秀な人材を採用しても、結局ミスマッチが起きます。どんな最新のテクノロジーを導入しても、本質的な解決にはなりません。


「企業力×採用設計力×採用実行力」。1000社から導いた成功の方程式

──1000社を超える支援経験から、採用成功のパターンをどのように見出してきたのでしょうか。

採用は「企業力×採用設計力×採用実行力」の掛け算です。多くの企業は「努力の方向性」を間違えているケースが少なくありません。企業力が不足しているのに大手と同じ土俵で戦ったり、BtoB企業なのにBtoC企業の手法を真似たり。まず必要なのは、自社がどの要素をどれだけ持っているかを正しく認識することです。

BtoC企業は日常での接点があるため「集める」は容易ですが、大量の応募者から「見極める」のが困難。 一方BtoB企業は認知されていないため「知ってもらう・惹きつける」に工夫が必要です。例えば大手メーカーの製造部門を支援した際、企業ブランドで人は集まっても生産技術の魅力を伝えるのに苦労しました。ものづくりの本質を学生に理解してもらうため、特別なセミナー企画やターゲット校へのアプローチなど、地道な努力が必要でした。

また業界特性だけでなく、新卒・経験者でも戦略は異なります。新卒はイメージ先行で社員の印象に左右されやすい。
経験者は自身のキャリアビジョンが明確で「実現可能か」で判断。これらの違いを無視した、画一的アプローチでは成果は出ません。

重要なのは、ATSなどのデータから自社固有の成功パターンを発見すること。入社理由や活躍要因を分析し、再現性を持たせて拡張する。こうした探索的アプローチが採用課題解決の鍵です。

自己認識のアップデートがもたらす採用改善サイクル

──採用改善において、最も効果的だった手法について教えてください。

内定者と辞退者、両方への徹底的な調査です。例えば過去に支援させていただいた企業では、アンケートで「志望度の変化」「決め手となった要因」を把握し、さらに個別インタビューでの深掘りまで行いました。これにより、企業側の「伝えたつもり」と求職者の「受け取った内容」のギャップが明確になり改善に繋がりました。

また別の大手IT企業では、学生のモチベーショングラフまで記録し、どの接点で志望度が変化したかを可視化。徹底検証しています。

採用の「数と質の両立」という難題に対し、蓄積されたデータから改善ポイントを特定。こうした地道な取り組みが、企業人気ランキングで何年も上位を維持する結果につながっています。
また、ある小売大手も学生体験の設計に重きを置くことによって、インターンシップ評価で業界トップを獲得している例もあります。

データの活用において大切なのは、弱点を補強するだけでなく、意外な強みの発見です。例えば内定者調査で「社員の人柄が決め手」という結果が出たら、その事実を数値化して社内に共有する。すると「自分たちが採用の武器になっている」と現場も協力的になります。自己認識を常にアップデートし続けることが、誤解や思い込みを防ぎ、本当の強みを活かすことにつながるでしょう。

データと仕組みで採用を進化させる  ―Thinkings【組織再考ラボ】フェロー 森田 徹


採用管理システムの進化で実現する、全フロー最適化

──これからの採用において、企業が持つべき視点と実践すべきことは何でしょうか。

従来のATSは応募から内定までしかカバーしていません。しかし実際の採用業務は、募集前の採用計画策定から入社時の手続きまで続きます。私たちが推進しているのは、ATSを拡張してこの全工程をシームレスに管理する構想です。

採用は事業戦略を実現する手段。どんな組織を構築したいか、現状とのギャップは何か。それを埋めるのが採用と配置の役割です。今後数年以内に、外部の労働市場から人材を獲得する「社外採用」と、社内の人材を最適配置する「社内異動」の境界は曖昧になるでしょう。
優秀な人材ほど、社内外問わず最適な機会を求める時代。社内公募とキャリア採用を別々に扱い続ける企業は、人材獲得競争で確実に遅れをとります。

採用力を継続的に高めていくためには、自社の成功パターンを一つ見つけ、それを拡張することが重要です。例えば内定者調査を定点観測として実施するなどして、自己認識をアップデートし続ける。このような地道な積み重ねが、5年後、10年後の組織力の差となって現れるはずです。

森田 徹(もりた とおる) について

Thinkings株式会社 事業開発室 シニアスペシャリスト

新規事業開発責任者

Thinkings 組織再考ラボ フェロー



新卒時代から一貫して「伴走型」の採用支援を実践。1000社超の企業ヒアリングと、50以上のHRサービスの特徴を把握したデータ活用・仕組み構築の支援で培った知見から、「企業力×採用設計力×採用実行力」の掛け算で採用成果を最大化する独自の視点を獲得 。B2C/B2B、大企業/ベンチャーそれぞれの特性に応じた課題解決パターンを体系化。内定者・辞退者調査による自己認識アップデートと、自社固有の成功パターンの発見・拡張を通じて、採用から配置まで一気通貫の組織づくりを実現する。

■プロフィール

北海道大学経済学部卒業後、2006年に人材コンサルティング会社へ入社。超大手企業の採用伴走支援からキャリアをスタートし、大手からベンチャーまで幅広い企業の採用スキーム構築を支援。2013年、イグナイトアイ株式会社の創業メンバーとして参画し、採用管理システムである「sonar ATS by HRMOS」のマーケティング・セールス部門を管掌。Thinkings株式会社との経営統合後、プロダクトマネージャーとして「sonar AI」のサービス開始にも携わる。現在は新規事業開発責任者として、「sonar Connecter」の企画開発をはじめ、募集前の採用計画から入社時の手続きまでを一気通貫で支援するATSの拡張構想を推進。
20年で1000社を超える採用課題解決の知見を活かし、企業固有の成功パターンの発見と拡張を支援している。

プロフィール詳細


「組織再考ラボ」とは

「企業における組織づくりのあり方について再考し、経営層や人事部門の皆さまに対して有益な情報発信を行う」をミッションに掲げ活動しています。

データと仕組みで採用を進化させる  ―Thinkings【組織再考ラボ】フェロー 森田 徹




https://thinkings.co.jp/re-thinking-org_lab/


メディア・企業からのお問い合わせ先

組織づくりに関連した専門的な知見と実践経験を持つ、「組織再考ラボ」の各フェローへの取材・講演・企業コンサルティングなどは、こちらからお気軽にお問い合わせください。



■お問い合わせ先はこちら

https://thinkings.co.jp/contact/



■森田 徹の取材・講演可能なテーマはこちら

https://thinkings.co.jp/re-thinking-org_lab/report_20251216_morita/

編集部おすすめ