「自立支援事業はオムロン、そして私たちでなければ実現できないと思う」
そう語るのは自立支援事業の発案者であり、現在は同事業部の部長を務める加藤さんです。自立支援事業の構想から5年、2024年に本格的にサービスをリリースしました。
■自治体と共に歩む高齢者の自立支援に資するサービスについて
-自立支援事業は加藤さんが社内研修で発案したことをきっかけに動き出し、事業化から現在のサービスリリースに至ったと伺っています。サービスについて教えてください。
足腰が弱って歩きづらくなった、身の回りのことができなくなってきたなど、高齢者の多くは様々な身体の衰えなどによる日常生活の課題に直面します。しかし、課題の原因や背景を深堀り生活機能の改善をめざす、短期集中予防サービス(通所型サービスC)*1で適切なアプローチを行えば状態の改善を図ることができるのです。
*1 短期集中予防サービス(通所型サービスC)
市区町村が行う総合事業のサービスの1つ。専門職が一人ひとりの改善プログラムを提供し、3ヵ月から6ヵ月間の短期間で実行する。利用者が生活活動や社会参加ができるよう生活機能を回復し、自分らしい生活を再び送れる状態をめざす。
わたしたち、オムロンの自立支援事業部は、この「適切なアプローチ」を通じて高齢者が再び元気を取り戻し、前向きな気持ちで歩み出せることを目指してきました。その第一弾の取り組みとして2024年9月にリリースしたのが、介護予防領域に特化したアセスメント支援機能などを搭載する支援システム「ハレクルWith」です。

ハレクルWithは、地域包括支援センターによって行われる高齢者の状態を分析するアセスメントとケアプランの作成に用いられるものです。
介護の熟練者やリハビリテーション職など、専門職のノウハウ・思考過程を反映したアセスメント支援機能によって、誰もが日常生活の課題や原因を分析できるようになります。
-リリースしたハレクルWithに対するお客様の反応はいかがでしょうか。
実際に、実証事業の頃からご協力いただいているお客様には「アセスメントで課題を分析できるようになった」「機能性・操作性が格段によくなり、日々の業務でしっかり使えそう」というお声をいただいています。
また、大分県のある自治体では、実証事業への参加と私たちのサービスの導入を経て、当初数名だった短期集中予防サービス(通所型サービスC)の利用者が100名ほどに増えました。これはお客様である自治体が、自立支援サービスの提供を強化することを決意してくださったからではありますが、私たちのサービスを活用したことによる相乗効果も感じられ、自治体で自立支援の活動が軌道に乗ってきた事例として嬉しく思っています。
-事業的に見て、率直に自立支援事業の可能性をどのように見ていますか。
事業としてのポテンシャルは、もちろんあります。全国約1,700の市区町村のうち、短期集中予防サービスの制度設計を行なっているのは現時点で約700自治体です。制度設計に取り組む自治体は年々増加しているので、各自治体で自立支援・介護予防の効果性を一層高めるためのご支援ができるということになります。

私たちはハレクルWithを通じて、自治体や地域包括支援センターが取り組む自立支援・介護予防施策の効果最大化と現場業務の負担軽減を図り、日本全国どこに住んでいても、また元気を取り戻して、自分の足で買い物に出かけたり、友人とゲートボールを楽しんだりできる高齢者を増やせるように働きかけていくつもりです。
■オムロンの自立支援事業、その原点にある想いとこれまでの歩み
-この事業を立ち上げた背景を教えてください。
2018年にオムロンとして社会的課題を解決する事業を考える研修に参加し、「介護予防」に関する取り組みを調べるなかで、ある人物と出会いました。
その方とは、大分県で先進的な介護予防の取り組みを推進してきた株式会社ライフリー(以降、ライフリー)の佐藤さんです。ライフリーでは、デイサービスで短期集中予防サービスをはじめとする生活機能改善プログラムを実施しており、そこで、3ヵ月前と比較して状態が改善し、再び元気な姿に戻っていく人々を数多く見たのです。年を重ねると介護が必要になり、状態が悪くなっていくのが当たり前だと思っていた、これまでの常識が覆されました。
その実体験から、「多くの高齢者が再びいきいきと歩み出せる、この自立支援・介護予防の仕組みを全国へ届けたい」と決意し、研修の成果報告会で新規事業案として「自立支援事業」の提案をしました。そして、2019年からイノベーション推進本部で事業化に向けた検討を始められることとなったのです。
-介護領域ならではの大変さがあると思いますが、難しく感じるところはありますか?
わたしも現場を知るまでわからなかったように、年齢を重ねると介護が必要になり、状態が悪くなっていくのが当たり前だという認識が一般的なものです。それに対して別のアプローチで改善を目指せる場合もあります。そのため、それを知ってもらうための活動もしました。さらに、介護をとりまく社会構造の複雑さから、事業モデルを作り上げるのも簡単なものではありませんでした。
それでもこの事業を通じて、超高齢社会における社会的課題を解決するんだという強い使命感で取り組んでいます。
では、なぜオムロンが事業としてこの領域に挑戦できるかというと、「事業を通じてよりよい社会づくりに貢献する」という企業理念が本当の意味で浸透しているからです。

ここには事業として社会的課題の解決を目指すオムロンのDNAやチャレンジできる仕組みと雰囲気があり、私のビジョンに共感してくれる優秀なメンバーたちが集まってくれています。
-加藤さんの想いを事業として実現するため、どのように活動を進めたのでしょうか。事業化までの経緯を教えてください。
研修で考えた事業案をベースとしながらも、事業として成り立つビジネスモデルに組み直し、価値検証から始めました。常に走りながら試行錯誤していく、そのような進め方でした。最初にお話を聞いてくださった大分県と実証事業を進められるように、モックアップを作ったり、この事業に欠かせない個人情報を取り扱う仕組みを構築したり、何もかもが手探り状態でしたね。
しかも、2020年に入ると4月にはコロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が発令され、7月には大分県で豪雨災害が発生しました。このまま進めてよいのか不安も感じましたが、大分県の皆さんが「この事業は行うべきだ」と言ってくださり、2020年7月に連携協定を締結することができました。
そこからの1年は、大分県における高齢者の要介護状態等の軽減や悪化の防止を実現するため、がむしゃらに取り組みました。途中、新たなシステムの活用にユーザーである地域包括支援センターの方々が戸惑う場面などもありましたが、1年目の成果報告会ではこれまでの活動を振り返り、感動から我々メンバーの中には涙する者もいました。
試行錯誤の結果、事業価値が認められ、2021年には事業化検証のフェーズへステップを進めることとなりました。
-事業化検証フェーズでは具体的に何を行い、どのような壁を超えられてきたのでしょうか。
小松市、大阪府とも連携協定を締結させていただき、大分県以外での実証事業を行うと同時に、2023年の事業化実現に向けて動き出しました。
しかし検証を進めていくと様々な課題が見えてきました。構想からちょうど3年たったころです。

当時検討していた事業モデルでは高齢者を救えない、このままではいずれ事業を終息させることになってしまうと思い、事業化直前で事業モデルの見直しを決意。事業化を1年先に延期することにしました。
この決断の葛藤は大きいものでしたが、その1年で事業モデルを見直し不安要素を解消し、満を持して、2023年12月にオムロン内で新規事業としての投資判断が下されました。いま思うと、この時の判断が現在に繋がっていると思います。
■自立支援事業が描く未来の実現に向けて、全国の自治体と共に自立支援・介護予防の仕組み化を目指す
-サービスをローンチし、2024年度からは事業責任を持つ事業部となりました。今どのような活動をされているか教えてください。
事業特性上、私たちのお客様は自治体です。自治体と取り組みを行う場合、事業年度の1年前、早ければ2年前からアプローチを行い、事業提案をしていく必要があります。
そのため、初年度である2024年度の取り組みは大きく2つでした。
-ここから先はどのようなストーリーを描いているのでしょうか。目指す先を教えてください。
私たちのゴールは、日本全国の自治体が「持続可能な自立支援・介護予防の仕組み」を構築できるように伴走し、一人でも多くの高齢者が前向きな気持ちで再び歩み出せる社会を実現することです。

そのためには、事業として成長しなければなりません。お客様とともに歩み続けられるよう、自立支援をしっかりと仕組み化する。そして、地域を元気にしていくという文脈においてはオムロンがベストパートナーであり、良き伴走者であると思っていただけるよう働きかけていきたいと思います。
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