工場は、きつい、汚い、危険 ── 製造工場の現場には、長年“3K”という言葉がつきまとっています。最近では「暗い」「臭い」を加えた“5K”という表現も耳にします。
しかし、そんな固定観念を打ち破ろうとする企業があります。間仕切りメーカーとして知られるコマニー株式会社です。
コマニー株式会社(以降コマニーと表記)は、オフィスや病院、学校など、あらゆる空間に機能性とデザイン性を兼ね備えた製品を提供してきました。近年は、パーティションで仕切るだけでなく、ゾーニングによる“ゆるやかな仕切り”を提案し、空間に新しい価値を生み出しています。
(写真:コマニーのパーティション「WEDGE(ウェッジ:写真左)」と「Xis-Frame(エクシスフレーム:写真右)」。大きな空間を仕切るパーティションから、近年は空間を“ゆるく”仕切る新しい発想の商品も存在する。)
コマニーが掲げるキーワードは「間づくり」。単なる空間の仕切りではなく、人と人、人とモノ、人と働く場――複数の要素が交わる“関係性”をデザインすること。それがコマニーの考える「すぐれた間」です。
「間」は、目に見える壁や仕切りだけではありません。人と人の距離感、働く環境の心地よさ、情報のつながり――こうした“見えない関係性”を整えることが、働く人のウェルビーイングにつながる、と同社は考えています。
(画像:コマニーが提唱する「間づくりモデル」。
■工場にカフェ?その発想の背景
その様な考え方、そして働く人のウェルビーイングを体現する取り組みが、同社の工場で始まりました。「工場だからできない、という考えはありませんでした。」そう語るのは、プロジェクトリーダーを務めた長野さん。彼が目指したのは、工場内に本格的なコーヒーが楽しめるカフェブースを設置すること。工場で働くスタッフが休憩時間をもっと快適に、もっと心地よく過ごせる空間にしたい──その想いからプロジェクトは2023年10月に動き出しました。長野さんは社内の賛同を得るため、何度も企画を練り直し、上申。承認後は設計から施工まで、すべて社内スタッフで行い、ブースが完成したのは2024年12月25日。1年を超える活動となりました。
長野さんに当時を振り返ってもらうと「せっかく作るなら、工場で働く仲間への【クリスマスプレゼント】にしたいと思ったんです。でも、工期がギリギリだったので、ここまでドキドキした思いでクリスマスを迎えることになるとは思いませんでした(笑)。」とのこと。
(プロジェクトリーダーを務めた長野さん)
■カフェブースのこだわり
完成したカフェブースは、ただの休憩スペースではありません。そこには、働く人の心を動かす細やかな工夫が詰まっています。まず目を引くのは、本格的なコーヒーメーカー。
「工場で働くスタッフが、自分の仕事がどこにつながっているのかを知ってほしい。誇りを持って働いてほしい。」──プロジェクトチームの想いが、このブースの仕掛けに込められています。
(写真:ブース内の様子。コーヒーの香りとともに、様々な人、情報につながる空間となった)
■広がる効果、つながる“間”
このカフェブースは、設置直後から想像を超える変化を生み出しました。休憩時間に工場スタッフが集まるだけでなく、出張で工場に訪れた営業所のメンバー、工場へ見学に来られたお客様までが足を運ぶようになったのです。コーヒーを片手に交わされる会話は、部門を超えたコミュニケーションを育み、情報の流れを変えました。
さらに、ディスプレイに映る納入後の写真や感謝の言葉は、製造現場のメンバーに「誇り」をもたらしました。「自分たちの仕事が誰かの役に立っている」──その実感が、働く人のモチベーションを高めています。「このブースは、会社全体の横連携を強化する象徴になりました。」と長野さんは語ります。
(写真:ディスプレイには全国の工事物件の様子や完了の報告が日々更新・表示されている。
そして、思わぬ効果もありました。工場見学に訪れたお客様がこのブースを目にし、「うちの工場にも設置したい」と、おっしゃられたそうです。働く人の声から生まれた空間が、社外にも価値を広げ、販売につながる──これは、単なる休憩スペースではなく、企業文化を変える“場”になったことを意味するのではないでしょうか。
■未来への問い
このカフェブースは、単なる休憩スペースではありませんでした。それは、働く人の声から生まれた“場”であり、部門を超えた関係性を育む「間」そのものです。そして、その「間」は、今や社内にとどまらず、社外にもひろがり始めています。働く空間は、これまで効率や生産性を追求する場として語られてきました。しかし、これからの時代に求められるのは、心地よさとつながり、そして誇りを感じられる場ではないでしょうか。コマニーが掲げる「すぐれた間」は、その答えのひとつなのかもしれません。
人と人、人と空間、人と時間──その交わりをデザインすることが、働く人のウェルビーイングを支える鍵になる。そう考えると、このカフェブースは、未来の働き方を示す小さなモデルケースなのではないでしょうか。
「間づくり」は、まだ始まったばかり。
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