プロダクトデザイナー(左から、百田俊一氏、和田圭亮氏、吉永幸善氏、西川歩氏、志水良氏)

今、目の前にある製品や技術が、将来、社会実装されるかもしれない―。そんなモノたちに出会えるのが万博の醍醐味です。
バイオプラスチックを使って、未来に向けた提言を進める企業たちをサポートしたプロダクトデザイナーたちは、その経験を一足先に味わいました。「アイデアとして非常に面白く、これぞ万博!という開発を目の当たりにした」と百田俊一氏は語り、志水良氏も「こちらの『こんなのできない?』に対し、絶対にNOを返さない技術者たちのプロ意識に脱帽」と、それぞれ楽しみや驚きを語ります。もちろん、すべての展示品が将来的に商用化されるかどうかは、まだわかりません。ただ、大学のデザイン学部で教鞭をとる西川歩氏は「日頃接する学生を見るかぎり、『同じモノを買うなら環境に良い方を』という考えが確実に浸透している」と指摘。環境に対応した製品の市場は大きく広がる可能性を秘めています。

一般社団法人西日本プラスチック製品工業協会(事務局:大阪市西区、会長:岩﨑能久)は、大阪・関西万博の「大阪ヘルスケアパビリオン」リボーンチャレンジエリアにおいて、8月19-25日の1週間、植物由来のバイオプラスチック製品を展示する予定。未来のプラスチックに挑む企業とモノを取材し、連載でレポートします。

針を使わない近未来の注射器

患者を痛みや恐怖から解放し、医師の針刺し事故もゼロに

プラスチック業界が万博で挑む 「楽しんでもらう」+「考えてもらう」 【連載3回目】環境素材を切り口に提言された製品と未来社会を想像する面白さ


 「ん?これが注射器なの?」と疑われそうな形をした注射器を展示するのは、家庭用品と医療器具を製造する岩崎工業(奈良県大和郡山市)。針は、着け忘れたわけではありません。先端の小さな穴からワクチンや薬液をガス圧で高速発射して皮下注射ができる、針を使わない近未来の注射器なのです。

 患者を痛みや恐怖から解放し、かつ医師の針刺し事故をなくすための開発。ガスを液体状態で長期間封止し、ロックを外して気化するガスの圧力にも耐えられるバイオマス原料として、堅牢なバイオPC(ポリカーボネート)を採用する予定です。小さな子どもや、ペットのワクチン注射なども想定し、ガス発射時の音を低減する機構を設けるなど、徹底して患者の不安や痛みを取り除こうとしています。


 同社の開発の核となっているのはユーザー目線。それは、家庭用品の開発・製造で培われたものだと言います。インターネットで、使い勝手などのレビューが山ほど掲載される時代。それらの声を1つひとつ精査し、次の開発へ活かすだけでなく、企画当初から多角的に利便性を検証する文化ができました。岩﨑能久会長は「医療器具にはまだまだ改良の余地があり、我々のユーザー目線での開発がきっとお役に立てる」と意欲的に語ります。 

 1970年の大阪万博では様々な技術が展示され、後に私たちの社会へ多くが浸透しました。この注射器もそうなるかもしれない、と期待させられる未来の技術。本年にも、協力研究機関で犬猫などペット用のプロトタイプの実験を始める予定です。まず、自由診療である動物用で商品化して知見を広め、成功を収める事ができた暁には、人への認可を目指す計画。日本でもいずれ海外のようなセルフメディケーションが浸透すれば、その際には恐怖感なく、かつ針刺し事故が起きない注射器がいま以上に重要性を増す可能性があり、未来を見据えた開発に邁進しています。

竹炭とバイオポリエチレン 植物由来の機能性素材タンブラーでビールをもっと美味しく!

捨てられるはずだった竹を機能性素材として復活させ農家の困りごとを減らす

プラスチック業界が万博で挑む 「楽しんでもらう」+「考えてもらう」 【連載3回目】環境素材を切り口に提言された製品と未来社会を想像する面白さ


 口当たりが良く、かつ時間が経っても生ビールのような味わいが持続する―。宅飲み派のビール好きなら誰もが夢想する欲望を、バイオ素材のタンブラーで実現しようとしているのが、山佳化成(大阪市平野区)。サトウキビ由来のバイオPE(ポリエチレン)に、竹炭粉を混合した機能性素材で成形しました。
ビールを注ぐとクリーミーな泡が生成されるタンブラーとしては、市場で既に陶器製タンブラーが流通していますが、違いは泡。よりクリーミーで、泡を保持し続けやすくするために、泡の生成につながる多孔質の竹炭粉の粒子を小さくしています。このタンブラーの主原料は竹炭で、その比率は50%以上にのぼります。「竹炭が多い方が、泡立ちがよかったから」と山佳慶秀社長はビール好きとしての強いこだわりをのぞかせますが、実は根底に、以前から気にかけていた課題の解決がありました。「捨てられているものを機能性素材として活用出来たら」という発想から企画が動きだし、農家が畑に隣接する竹林から伸びる竹の伐採後の処理に困っていることに着目。かねてからノウハウを蓄積してきたバイオプラスチック成形技術との融合につながりました。

 竹炭の比率の高さは、美味しさのためでもあり、捨てられるはずの竹を多く使うためでもあります。「混合率が30%を超えたあたりから、とたんに型へ流し込みにくくなり外観が汚くなる」(同)という壁がありましたが、竹炭粉の粒度と金型形状、成形温度の最適値をトライアンドエラーで探り出して形作りました。

 山佳社長は「約13年前、海外のプラスチック展示会で、海洋汚染問題とバイオプラスチックに関するセミナーを聴講した際、いずれプラスチックは変わると感じた」と、バイオプラスチック研究を始めたきっかけを振り返ります。「最近になって、企業からの相談が増えてきた」との手ごたえもあり、万博という舞台でさらに認知度が高まることに期待しています。

展示会来場者の指摘を受け奮起!万博ではバイオプラスチックの“出口戦略”を展示

使用済みポリ乳酸を都市ガス原料として再利用する大阪ガスの取り組みへ参画

プラスチック業界が万博で挑む 「楽しんでもらう」+「考えてもらう」 【連載3回目】環境素材を切り口に提言された製品と未来社会を想像する面白さ


 現在、もっともポピュラーなバイオプラスチックといえるポリ乳酸(PLA)の歴史は意外と古く、2000年初頭には業界内でその存在は知られていました。しかし当時はまだ成形しにくく、できても割れやすいなど物性の課題が山積。協和(大阪府高槻市)は、早くからこの壁に挑戦し、素材改質を繰り返してカップやカトラリーとして使用できる成形技術を確立した企業です。


 しかし展示会では、来場者が足を止めて「すごいね」と評価してくれる一方、「でも最期は結局燃やすのでしょ?」と指摘されることが続いたそうです。「何か今までにない資源循環の仕組みを見つけなければと感じた」。原田淳一プラスチック事業本部機能性材料推進部部長は、当時の経験を振り返ります。そんな同社が2025年万博で魅せるのは成形品だけでなく、バイオプラスチックの出口戦略。現在、大阪ガスが取り組む、使用済みPLA成形品を資源として循環させて都市ガスにアップサイクルするスキームに協力しています。

 協和が成形した製品を使用後に回収。PLAは分解しやすいように前処理し、微生物の力で都市ガス原料となるメタンに変換されます。既に、協和はサッポロビールの協力を得て、音楽フェスのビアカップを供給・回収する取り組みなどをスタート。「いずれは食品容器メーカーなどとタイアップして、大きな流れにしていきたい」と構想を描きます。現時点ではまだ目標の回収量には達しておらず、現在の都市ガス利用量からの代替を考慮すると、圧倒的に物量が足りません。このため、リサイクル可能なポリ乳酸成形品の認定マーク制定や国や自治体の協力、回収スペースを設置してもらうスーパーなど小売店との折衝も今後は必要になってきます。「きっと長い道のり。
でも、実現できたら凄いと思いません?」。原田部長はワクワクした笑顔を見せ、未来社会を提示する万博で共感者が増えてくれることに大きな期待をよせています。

多様なバイオプラスチックと複合素材で自社キャラクターのプラモデルを制作

社会のカーボンニュートラルに向けて何ができるかを探る

プラスチック業界が万博で挑む 「楽しんでもらう」+「考えてもらう」 【連載3回目】環境素材を切り口に提言された製品と未来社会を想像する面白さ


Ring(大阪府八尾市)は、プラスチック部品の金型・成形のみにとどまらず、金属部品の金型・成形をも手掛けるハイブリッド企業。精密成形技術と、金属・プラスチックを一体成形するインサート技術に強みを持ち、自動車の電装部品や家電、医療機器など広い分野で活躍しています。国内外に生産拠点を持ち、グループ人員は約1500人にのぼる量産対応可能な企業。そんな同社は万博に向け、親しみやすい自社キャラクターを創り出し、多様な素材のプラモデルにすることで、自社の強みである“何でもできる”を表現しました。

一般的なPLA(ポリ乳酸)で成形したプラモデルほか、生分解性コンパウンド樹脂を使用したもの、木粉とPLAを混合して質感と軽さを追求した素材など、実にバラエティーに富んでいます。住友電気工業が開発し、オープンイノベーション拠点の「MUIC Kansai」を起点に社会実装を目指しているCO2アップサイクル素材「メタコル」を活用し、プラスチックと掛け合わせた素材もプラモデルにするなど、植物由来の枠にとどまらない多角的な切り口でカーボンニュートラルを提示します。

プラスチックは種類や混ぜ物の違い、その比率の違いなど、条件が少し異なれば、成形時の流動性や収縮率が変化する素材です。多くのバイオプラスチックや複合素材を扱えるのは、成形の高い技術力と素材の幅広い知見を持っていることの証といえます。営業部の宮木秀幸氏は「何ができるか、探るための万博」とし、企業としてさらに成長するきっかけになることに期待。同時に、今回のプラモデルを、樹脂の特性を学びながら創造力と環境意識を育むための教育ツールとして製品化することを検討し、社会への貢献を目指しています。

捨てるという行為や思考、カルチャーを、楽しく自然に変えていく

芽が出て植物になる「地球と育むハブラシ」

プラスチック業界が万博で挑む 「楽しんでもらう」+「考えてもらう」 【連載3回目】環境素材を切り口に提言された製品と未来社会を想像する面白さ


「環境に配慮した製品が、メーカーから消費者への押しつけになってはいないだろうか、ずっと気にかかっていた」。
エビス(奈良県大和郡山市)R&D部の秀熊良午部長は、環境対応の必要性と、ユーザー目線の開発の狭間で自問自答を繰り返していたといいます。

同社は幅広ヘッドハブラシ市場で売り上げトップのメーカー。ハブラシは健康寿命を延ばす歯磨きの大事な道具ですが、誰もが使う道具だけに廃棄量は多く、CO2問題とは無縁でいられません。捨てるという行為や思考、カルチャーが、意識せずとも楽しく自然に変えられるハブラシができないか? 同社は、そんな発想で生み出した「地球と育むハブラシ」を万博で提案します。

ハンドル部とブラシ部、全体に生分解性樹脂を採用し、内部に植物種子を埋め込んだ構造。使い終えた後に、庭やプランターに埋めれば土中でハブラシが分解され、芽が出て花や木が育ちます。開発のハードルだったのは、磨く道具としての剛性と、土に埋めた際の分解のしやすさを両立させること。企画の発案者でもあるR&D部の森川淳平係長は、「無垢や厚みのある板は使わず、分解しやすい薄板を組み合わせ、空洞部がありながら強固さを保つことができるハニカム構造にしました」と、緻密な設計の一端を明かします。

ハブラシは手ごろな価格であることが求められる日用品で、このハブラシの設計構造から量産品へのハードルも高く「商用化は10~20年先かな?」と秀熊部長は首を捻ります。「でも、広大な土地にたくさん埋めて森になったり、庭先で育った木を見ながら『〇〇ちゃんが小さい時に使ったハブラシだったんだよ』なんて親子の会話が生まれたりしたら、と想像すると嬉しくなってくるよね」。森川係長と顔を見合わせ、2人で楽しげな笑顔を咲かせています。

【参考資料】

■連載

1回目

2回目

■関連情報(リリース・記事)

万博展示概要リリース

当協会会長インタビュー記事

展示・商談会リリース

オルガン制作プロジェクト記事

オルガンおひろめリリース

オルガン奏者決定リリース

■万博出展に関して

当協会は、公益財団法人大阪産業局と大阪商工会議所が共同設置した中小・スタートアップ出展企画推進委員会の「リボーンチャレンジ」事業を活用し、「Nature Positive from bio plastics.(ネイチャーポジティブ―バイオプラスチックから始まる自然と共生する社会―)」をテーマに万博に8月19~25日の7日間出展します。
会場では、本リリースにあるバイオプラスチック製パイプオルガンほか、18社のプラスチック成形会社がバイオプラスチック製品を展示する予定です。

■一般社団法人西日本プラスチック製品工業協会について

西日本地区におけるプラスチック製品製造業界唯一の総合団体で、正会員297社、賛助会員116社の合計413社で構成しています。技能検定実技試験や人材育成、勉強会・セミナーの実施、情報提供等で会員をサポートするほか、会員同士の交流・情報交換の場の設定、技術振興事業などを展開しています。

バイオプラスチックに関する取り組みに関しては2022年に開始。SDGsをテーマにした懇談会を開催しているほか、バイオプラスチックに関心を有する企業や大学等研究機関、行政等支援機関で構成するネットワーク「大阪バイオプラスチックビジネス推進ネットワーク(OBPN)」を立ち上げ、脱炭素や海洋プラスチックごみ問題の解決に向けた動きを加速しています。
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