どの個室ブースが空いているのかをディスプレイで確認できれば便利ですが、市販のデバイスを導入するには1つにつき数万円以上かかります。仮に10部屋すべてに設置するとなると、数十万円のコストに加え、システム料や工事費も必要です。
そんなオフィスにまつわる課題を解決したい社員たちの駆け込み寺が、ITイノベーション部です。この部門には、自宅にサーバーまで立ててしまうほどのDIY精神を持つ社員がいます。さまざまなIoT機器を自作していることから、ついたあだ名は「原田工務店」。
「原田工務店」こと原田裕文さんは、約2,000円からのコストで個室ブースの在室状況確認システム「あいとる?」を開発しました。
今回は、「あいとる?」と、開発者である原田さんの情熱と創意工夫に迫ります。
【プロフィール】
ITイノベーション部 原田裕文
2022年入社。前職を含め、システム開発として20年以上のキャリアを持つ。DIY精神が高じて、自宅にサーバーを立てて、システムのアイデアが浮かぶと自室でロジックテストを日夜行っている。
―オンライン会議のために個室ブースを使用したいけど、空いている部屋が見つからないことってよくありますよね。どうして在室状況確認システム「あいとる?」を作ろうと思ったんですか?
原田:個室ブースは、会議室と違ってシステムを入れていないので、Webやサイネージで在室状況を事前に確認できませんでした。出社する人が増えて個室ブースの利用ニーズが高まる中、例えばオンライン会議の参加のために空いている個室ブースを探し回っている間に会議が始まってしまう…といった状況が今後増えていくことが予想されました。無駄な時間が発生し、社員にとっても大きなストレスですよね。
―既存のシステムじゃなくて、自社開発を選んだ理由は?
原田:市販の在室状況確認システムは、センサー1つで3万円もする上に、システム利用料や工事費もかかります。すべての個室に設置するとなると、かなりの予算が必要です。そのうえ、弊社はセキュリティの関係でネットワークが複雑なので、市販のものをそのまま使うのは難しい状況です。そこで、市販のものよりも安価で、セキュリティ的にも安全なものを自作できないかとチャレンジしてみました。

―「あいとる?」はどうやって作ったんですか?
原田:使用しているのはサーモセンサー、ドアセンサー、環境センサー(光センサー)の3種類です。個室ブースの構造に応じて、適切なセンサーを選んでいます。例えば、ドアセンサーはドアの開け閉めを感知し、光センサーは個室ブースのライトが点灯したときに感知して、在室状況をサーバーを通してディスプレイに表示する設計になっています。

原田:一番高価な環境センサーを使ったシステムでも、他の部品と合わせて12,000円程度で構築できました。ドアセンサーを使ったシステムは2,000円程度で済みました。材料は通販で購入した部品と、100円ショップで購入したハンダゴテを使用しています。部品を机に並べ、自分でハンダゴテを使って溶接して作り上げました。

▲「あいとる?」の作り方を解説している原田さん
―どのように開発を進めましたか?
原田:そうですね。企画提案をする前に、センサープログラムの調査を行い、見込みが出てきたところでハードを製作して自宅でもロジックテストを繰り返しました。そこでシステム的に完成の見込みがでてきたので本格的に社内でのプロジェクトとして稼働しました。実はプログラムの勉強も兼ねて、自宅にサーバーを立てていて、システムのアイデアが浮かぶとまずは家で実験をしているんです。息子には「お父さん、また工作しよる」とからかわれています。

▲「あいとる?」のプロトタイプ版の設計図
原田:ちょうど光センサーのテストをしている時に、家族で海外旅行に行く予定がありました。それで、ホームセキュリティも兼ねて、旅行中にテストしてみることにしたんです。1階と2階には人が通ると光るセンサーライトがあり、それが光ると光センサーが反応してサーバーに情報が届くように設定しました。旅行中にサーバーにアクセスして「異常はないかな?」と確認してみましたが、幸い反応はなく不法侵入はありませんでした。

―泥棒が入ったら困るけど、センサーは反応して欲しいし、色んな意味で旅行中にサーバーにアクセスするのはワクワクしたでしょうね。開発で特にこだわったことは何ですか?
原田:もともと開発をやっていたので、機能的なところや使いやすさは重視していたのですが、総務の方々からのアドバイスをいただいて見た目も重要なファクターであることに気づかされました。当初は市販のケースを使っていましたが、経験のなかった3Dプリンタにチャレンジし、自作でより小さくてインテリアに馴染むケースを製作しました。

▲黒いケースが市販、小さい白いケースが3Dプリンターで自作したケース
―私も個室ブースを使いますが、全然センサーが入っているなんて気が付かなかったです。空き状況もわかるようになってすごく便利になったことは実感していましたが、こんな工夫もされていたんですね。

▲個室ブースの中の様子。赤枠がシステムの一部。
―さまざまなIoT機器を手作りすることから、「原田工務店」と社内であだ名が付いています。昔からモノづくりが好きだったんですか?
原田:子どもの頃から作ることは好きでしたね!父が電気技師で、子供の頃は夏休みの自由研究で父の工具を使っていろいろ工作をさせてもらっていました。中学では技術の授業でハンダゴテを使ってインターフォンを作ったりしていました。そのインターフォンは家の中に設置して、1階にいる母が、2階の子ども部屋に「ご飯ができたよ」などと伝えるときとかに使っていたんですよ。
―お母様も息子が作った作品を便利に活用されていて面白いですね。モノづくりをする時、どういった瞬間が好きですか?
原田:モノづくりで一番好きなのは、やっぱり自分が考えたシステムが実際に動いた瞬間ですね。その時の達成感は何にも代えがたいです。また、新しい技術を試してみて、それがうまくいった時のワクワク感もたまりません。
×▲「あいとる?」プロトタイプ版の実験で、システムが動くことを確認できた瞬間の動画
―今後の展望について教えてください
原田:「あいとる」は、今は自分で手作りしていて、4日かけて、10個のシステムが完成するペースです。現在は福岡本社オフィスにしかありませんが、今後は外部の協力会社に委託して量産し、他の拠点にも展開していきたいと考えています。
これからも、社員の皆さんが「WOW」「!」とワクワクしていただけるようなシステムを開発していきたいです。