人口減少や高齢化によって、病床数や診療実績には大きな地域差が生じています。
同じ大阪府内でも年齢調整をした死亡比が1.4倍の格差があり、過疎地域などアクセスの悪い地域においてはさらに大きな格差が生じています。
しかし、行政や病院がその課題を客観的に把握することは決して簡単なことではありません。
これまで全国47都道府県中28の地域において地域医療構想の推進や病院の統合再編に携わってきた株式会社日本経営は、2026年3月25日(水)、全国330医療圏の地域医療データをまとめた「医療需給総覧」をウェブ上で無料公開しました。
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なぜ、社内で蓄積してきた分析データを無償で提供するのか。リサーチ&インテリジェンス事業部の近藤瑛佑が、その決断の裏側にある想いを語ります。
見える化の必要性―現場で感じたもどかしさ
私はこれまで、自治体や病院の政策立案のパートナーとして、人口動態、医療資源、病床数、診療実績といったたくさんのデータの分析に携わってきました。現場で耳にしたのは、「課題はわかっているけど、客観的な数字をどう集めればいいのかわからない。分析作業そのものが大きな負担となっている」という切実な声です。データが不足しているわけではありません。むしろ逆です。必要なデータはあっても、どこに何があるのかわからず、比較の前提をそろえるだけで時間がかかります。地域医療の格差が広がる中で、正しい判断が遅れることは、そのまま地域住民のリスクにつながります。
まず必要なのは、地域の実態を同じ土俵で見られる状態をつくることでした。
その確信から、私たちは独自の分析ツールを用いてオープンデータを整理。全国の行政・医療関係者が同じ指標で地域の現状と将来の見通しを確認できる基盤として、「医療需給総覧」を創り上げました。
「AKARI335」の裏側―未来の医療を照らすチームの想い
この「医療需給総覧」を開発したのは、社内の「AKARI335」プロジェクトです。AKARI(Advanced Knowledge Aggregation for Research & Intelligence)という名には、高度なデータを集約し、地域の意思決定を支える“明かり”になりたいという願いを込めました。
この挑戦は、年に一度の社内研究開発大会で高く評価され、金賞を受賞しました。私はそのプレゼンの場で、全社員を前に「医療福祉を支えるために生涯をかける」ことを誓いました。自社のためだけではなく、私たちを成長させてくれたこの業界の発展のために、課題解決に挑戦し続けたい。その熱意が、サービス開発を本格化させるきっかけとなりました。
開発メンバーの一人、髙橋あかりの存在も大きかったです。彼女は1年前まで鉄道会社の車掌として働いていました。
「前職では目の前の命を守ってきました。今は仕組みづくりで未来の命を支えたいんです。」
異業種から転職した彼女が、膨大な資料作成の自動化に全力で取り組んだのは、「現場の苦労をなくし、同じ方向を向く仲間を支えたい」という想いから。業界経験は浅いながらも、作業を仕組みに変える実行力によって、自動化をここまで進めることができました。
なぜ「総覧(Atlas)」と名付けたのか―「共通の地図」に
「総覧」とは、関係事項をまとめ、全体を見通せるようにした書物のこと。英語の「Atlas(アトラス)」には地図帳という意味があります。
地域医療の評価には、正解がありません。病床数が多いか少ないか一つ取っても、立場によって解釈が変わります。議論が噛み合わないのは、まず見ている数字がバラバラだから。そこをそろえる共通認識が出発点だと考えました。
また、Atlasの語源であるギリシャ神話のアトラースには、「支える者」「耐える者」「歯向かう者」という意味も。
私たちコンサルタントは、その時で得られる情報を尽くして意思決定を支援しますが、その支援が真に地域住民のためになったのか、本当の答えが出るのは2040年、あるいはその先のことでしょう。
答えがわからないからこそ、常に考え、更新し、社会に実装し続けるしかありません。
だからこそ私たちは、ノウハウの流出を恐れるのではなく、未来の医療福祉を支える存在として発信し続けることを決意しました。どれほど負荷のかかる開発にも耐え、少子高齢化という厳しい現実に正面から向き合い、挑み続ける。─そんな覚悟を、この名前に込めました。
「医療需給総覧」で330の医療圏を一元把握―数字を「生きた情報」に変える
特設ページで公開したのは、単なる統計資料ではありません。人口構成や疾病構造を多角的に整理し、「この数字から何が読み取れるのか」というコンサルタントの視点もコメントとして付け加えました。
・全330医療圏を網羅: 自地域だけでなく、他地域との比較も容易。
・継続的なアップデート:使用データの公表にあわせて年3回更新。
・専門知識の共有:地域医療構想支援で得たノウハウと活用方法を全国へ普及。
当社コンサルタントはこのデータを活用し、医療資源の分散による病床稼働率の低下や在院日数の長期化を分析しています。また、医療機関の統合再編の議論の推進や、地域ニーズの変化(急性期の減少・慢性期の増加)を可視化し、「治す医療」から「支える医療」への転換を後押ししています。
今回公開した内容はオープンデータをもとにしていますが、私たちの分析チームは日頃、レセプトデータや非公開の経営データなど、より詳細な情報も扱いながら、多くの地域を支援してきました。
複雑かつ膨大な情報を処理し、誰もが使える形にそろえていく作業は、簡単ではありません。この「標準化された知見」が全国各地に届くことで、より良い意思決定の出発点になると信じて取り組んでいます。
データの価値―地域の未来を照らす明かりに
330の医療圏を可視化すると、地域ごとの実情が浮かび上がります。地域医療について本気で話し合うときに「まずここを一緒に見る」─そんな共通の地図になってほしいという願いを込めて、「医療需給総覧」を作成しました。
データの公開はあくまで出発点です。
私たちは、単なるデータの提供者ではありません。持続可能な地域医療を共につくるパートナーでありたい。データで誰かの未来にそっと明かりを灯し、現場の意思決定に役立つよう、整備と発信を続けていきます。