不動産業を母体とする企業が、なぜクルージング事業を提供しているのか。どのような体験が楽しめるのか。クルージング事業に関わる3人の社員に話を聞きました。
新しいことに果敢に挑戦する社風が生んだ「クルージング事業」
――まずは、皆さんの自己紹介を簡単にお願いいたします。
二階堂:弊社は割と新卒入社の方が多いのですが、我々は3人とも中途入社組です。前職がリーマンショックで会社が吹っ飛びまして。とあるご縁で入社させて頂く事になりました。
いろいろな事業を展開している弊社ですが、母体である不動産事業の営業として入りました。その後、いろいろな理由で異動になり、今はグループ総務本部に在籍しつつ、フォト事業が忙しいときに手伝いに行ったりしている感じですね。フォト事業を立ち上げたのは私なんですよ。
岩本:私は以前より弊社社長と付き合いがあり、前職の経営陣刷新時に社長にご相談に乗ってもらい入社しました。今は二階堂さんが立ち上げたフォト事業の仕事を担いつつ、クルージング時のアシスタント兼カメラマンとして同乗もしています。
滝川:私は住宅リフォームの仕事をトータル30年ほどやってきました。このグループの賃貸会社から仕事をもらっていた縁から入社しました。今はクルージング事業の船長として働いています。
――「不動産を母体にした会社からフォト事業が立ち上がった」「リフォームの仕事をしていたところから、クルージング事業の船長になった」というエピソードは、御社を知らない方からすると「どういうことなの?」と思われるのではないかと思います。あらためて、どういう経緯で事業が多角化している会社なのかについても触れていただけますか?
二階堂:弊社はワンルームマンションの不動産投資事業(管理)からスタートしています
祖業であり母体の事業が不動産投資事業ですから、マンションオーナーや入居者など関わる人は多岐に渡ります。これは個人的にもユニークだなと思うのですが、うちは毎年全国にお住いのマンションオーナーとご家族を招いての新年会や忘年会を開いていて、社長や役員も参加するんですよ。そうした場でいろいろな話や意見、アイディアをいただいて、そこから新たな事業が生まれるということもあります。
たとえば、札幌にある親子カフェを併設したパン屋さんもオーナーのアイデアから始まったそのひとつ。そして、社員が始めたフォト事業部やクルージング事業部ですね。ここからアメニティー事業部が生まれました。他には、8年前に立ち上げた日本語学校をメインとした教育関連事業部もあります。
当然、すべての事業が上手くいっているわけではありません。
岩本:はたから見ていると関連性のない事業が多いため「なぜ?」と驚きを持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、以前から社長を知っている身としては何の驚きもなかったです。相当フレキシブルな人なので、会社もそうしたカラーなんだなと。
二階堂:あと特徴的なのは、北海道、仙台、横浜、長野、大阪と各地にある拠点がすべて株式会社化していることですね。
――支店ではないということですね。
二階堂:そうなんです。事業が立ち上がると株式会社化させるというのが弊社流なんですよね。これは、「天井を作らないため」なのだそうです。ひとつの組織ですと、トップを含め上がいる限り昇進に限界がありますからね。「俺も30歳でこれぐらいになれたんだから、みんなできるよ」というのが社長の弁で、全員が社長を目指せるグループなんです。
――そうしたなかで生まれたのが、今回お話を聞くクルージング事業と、サービス提供部分で連携されているフォト事業ですが、両事業部の立ち上げ経緯についても教えていただけますか?
二階堂:先に立ち上がったのがフォト事業部です。これは、私がカメラを副業レベルの趣味としていたことを機に生まれたものです。社長と話していたなかで、ファミリーフォトなどを休日に撮っていることを口にしたところ、「それは人を喜ばすいいことだ」と言われまして、「フォト事業部として、事業にできないか画策してくれ」と言われまして。ちなみに、最初は無視していたんですよ(笑)。
きちんとした写真って、成人式、結婚式からあまり撮ることがないじゃないですか。じゃあ「大人写真」を提唱しようと考え、20ページくらいの写真集としてお渡しするという事業を始めようと考えました。ただ、1冊単位での印刷&製本サービスをこちらが想定しているコスト感で提供している企業はほとんどなく……。何とか見つけられたことで事業をスタートさせられました。

滝川:クルージング事業も立ち上げは似たようなものですね。飲みの場で社長が「6年ぐらい前に船の免許を取ったんだよ」と話していたのに対し「私も持ってますよ」と答えたところ、「いつかは船長をやれ」と言われて(笑)。
もともと父親が釣り好きで、小さい船を持っていたんですよ。

――いきなり「事業化を考えてくれ」と言われて、大変ではなかったですか?
滝川:ゼロからのスタートですから、最初は何もわからなかったですよね。他社のHPを見て、どういうコースでどれくらいの金額でサービスを提供しているのかを調査するところから始めました。同時に、事業にするなら必要となる特定免許や無線関連の必要資格についても、勉強して取得。そこからようやく事業を始められたという感じですね。
卒業記念・プロポーズ…。「非日常な体験をしたい」方に好評
――事業開始直後、すぐに予約は入りましたか?
滝川:営業もしつつ、HPから1件1件と少しずつ予約が入るようになりました。最初は不動産事業など、他事業のお客様にもお声をかけたことで予約が入った感じでしたね。
ただ、まだまだ「船を貸し切ってクルージングできる」ということ自体の認知が広がっていないので、どうにかしてレジャーの選択肢として知っていただきたいという状況です。
岩本:体験ギフトの大手に登録しているため、そこからもご予約がぼちぼちあるかなという感じですね。手軽に楽しめる「非日常」として、この事業の考え方とギフト需要とがマッチしているんじゃないかと思います。
――印象に残っているお客様のエピソードはありますか?
岩本:女子高生グループですよね。
滝川:HPを見て予約してくれた子たちですね。
岩本:卒業時に特別な体験をしたいということで、リムジンを予約する高校生たちがいますが、そうした感覚で「クルージング」で調べてくれたようです。

――運航開始後はどんな雰囲気でした?
岩本:かなり楽しそうに盛り上がっていましたよ。ティアラをつけて写真を撮ったり大盛り上がりでした。アメリカには卒業式にクルージングすることが文化になっている州があるようで、日本の学生が留学先でその文化を知ったのが発端となり、じわじわと東京の文化にしていこうという機運が高まっているようです。来年以降は、もっと盛り上がるんじゃないかな。
滝川:我々としては、高校生にクルージングの需要があるとは想定していませんでしたから、「高校生の予約を受け付けるなら、保護者の方の同意が必要だ」と大わらわで対応しましたね。
岩本:そうですね。当日は特別な時間を提供できたと感じられて、うれしかったですよ。プロポーズの場所として使われたこともありますが、こちらが泣きそうになりますね。
滝川:人生の大切なシーンに立ち会えるのは感動しますよね。
岩本:体験ギフトをもらって利用した方からは「この体験コースを家族や友人に勧めたい」「船内がきれいで心地よく過ごせました」「スタッフの方も感じがすごくよく、会話の邪魔はしないような配慮がある素晴らしい時間でした」「写真も撮っていただき、子どもたちは先頭から景色も見させていただきありがとうございました」など、うれしい感想もたくさんいただいています。
飲食は持ち込んでいただく形なのですが、事前にご相談いただければこちらでご用意することもできます。以前、依頼リストに「ドンペリ」があったときには「俺、買ったことも飲んだこともないぞ」とびくびくしながら買いに行きました(笑)。船内で特別な時間を過ごしていただけたのならうれしいですね。カラオケもできるので、乗船中ずっとカラオケを楽しまれていたお客様もいます。オフ会なんかにもおすすめですよ。

滝川:東京スカイツリーの真下あたりで少し停泊してほしいといったご要望にも、ある程度はお応えできます。自由度の高さ、柔軟さが貸し切りならではのメリットだと思いますね。夏の時期ですと、都内の花火大会を船上からご覧いただけるコースもあるんですよ。
――「まだまだ船に乗るという選択肢が広がっていない」というお話がありましたが、何か工夫されていることはありますか?
岩本:「船って貸し切れるのかな」と頭によぎっていただけたら、調べてHPに行き着く可能性があるのですが、その発想にすら至っていなければ知っていただけません。裾野を広げるべく、昨年末から、まずは社員に乗ってもらおうということで、社員が家族、親兄弟、お客様と乗船する場合、会社が費用を負担するという福利厚生を始めました。
「クルージング事業もやってるんだね。どんな感じ?」とお客様に聞かれても、その社員が乗ったことがなければ何も答えられませんから。まずは自社の社員に体験してもらい、徐々に「船の貸し切りって、いい体験だよ」と広がっていってほしいなと思っています。

――船というと、船酔いが気になる方もいらっしゃるかと思うんですが、いかがですか?
岩本:運河なので、イメージされているよりは揺れないと感じる方もいらっしゃるんじゃないかと思いますが、揺れないわけではないですね。
二階堂:私も何度か乗りましたが、運河ではなく東京湾に出ると風がある分、揺れやすくなるため、酔いやすい方は酔い止めをあらかじめ飲んでおかれることをお勧めします

特別な時間を、たくさんの写真に。写真撮影サービスも提供
――クルージングサービスは、ただ船に乗るだけではなく、オプションで撮影もお願いできるんですよね。
二階堂:大手スタジオ子供写真の写真撮影は、データをもらえる枚数が少なかったり、追加でほしいと思ったらお値段が上ることが多いと思うのですが、うちは著作権フリーできれいに撮れている写真すべてをデータでお渡ししているんですよ。
岩本:思い出として忘れていても写真って、見るだけでそのときのことを思い出せるじゃないですか。そう考えると、ポーズを決めて撮った1枚の写真だけをもらうより、自然な雰囲気含め、いろいろな場面の写真があったほうがいいんじゃないかなと思うんですよね。
二階堂:写真業界って長らくデータを渡さない時代が続いていましたが、今はその写真を使ってSNS投稿をしてもらえたりするので、結果的にうちのサービスを知ってもらえるきっかけを増やすことにもつながるんですよ。
――他、サービス開始後に新たに導入した、変更したといったことはありますか?
滝川:夏場はデッキでも気持ちいいですし、室内にはクーラーもありますが、追加したのは冬場のデッキ利用に用意した冬場のこたつですね。やっぱり船に乗られる方は、デッキに出て風に吹かれながら景色を楽しみたいだろうなと感じるんですよ。でも、冬場はかなり寒いので、せめて足元だけでもあたたかく過ごしていただきたいなと思い、こたつをご用意しました。
岩本:好評でしたよね。今年も寒くなってきたら出そうと思います。

船から見る「まだ知らない東京」を楽しんでほしい
――あらためて、どんな方にクルージングを楽しんでいただきたいと思いますか?
滝川:クルージングはあまり知られていませんが、手の届く「特別」だと思っています。まだまだ「船に乗る」選択肢が頭にない方が多いため、まずは「特別なことをやってみたい」「体験したことがないことをしてみたい」という方の選択肢として「船を貸し切る」が入るようにしていきたいなと思います。
「誕生日は船の上で祝う」ですとか、船上でプロポーズした方が「記念日に毎年船でデートをしよう」と年に1回乗っていただくのもよいのですが、BBQに代わる仲間との娯楽やデート・お子様と一緒に乗船する家族利用など日常的に使っていただけるとうれしいですね。
岩本:同意ですね。加えていうと、8人程度まで乗れる船の規模感で貸し切りクルージングを生業にされている事業者さんはそう多くないんですね。選択肢として認知を広げるには、業界全体での底上げ、ムーブメントを起こすことが必要だと思うので、そのあたりも視野に入れながら進めていけると業界としてもハッピーになれるのかなと思っています。

滝川:1人でも多くの方に乗っていただき、「船に乗ったんだけど、良かったよ」という口コミが広がっていけば、少しずつ輪が大きくなっていくのかなと思っています。船っておもしろいですよと伝えたいですね。
日本は島国ですが、一般の方が船に乗ったことがある人よりも飛行機に乗ったことがある人の方が多いんじゃないかと思うんですよね。船に乗ったことのないまま人生を終える人も多いんじゃないかなと。うちの船は夏場はクーラーもありますし、冬場であれば暖房やこたつもあります。この記事を見て、まずは「意外と手ごろに船を貸し切れるサービスがあるんだ」と知ってもらいたいですね。読んで気になってくださった方は、電車や徒歩のときとは違う「ふだん見えない東京」を見に、ぜひ一度体験していただけるとうれしいです。