ディレクター兼デザイナーの吉永幸善氏

大阪・関西万博の「大阪ヘルスケアパビリオン」リボーンチャレンジエリアにおいて、8月19-25日の1週間、植物由来のバイオプラスチック製品を展示する一般社団法人西日本プラスチック製品工業協会(事務局:大阪市西区、会長:岩﨑能久)。ディレクター兼デザイナーの吉永幸善氏は「万博なので、とにかく楽しんでもらいたい」と掲げ、没入感を味わえるVRゴーグルを使った展示などで工夫を凝らして準備を進めています。

しかし実はミッションがもう1つ。持続可能なモノの消費や生産を目指すための、SDGs目標12「つくる責任 つかう責任」を考えてもらうきっかけをつくることです。この目標は、生産者と、企業や消費者など使用者の、両方の意識・行動がそろわないと進まない難しい課題です。約2年にわたって出展企業のモノづくりに伴走してきた吉永氏は「展示物それぞれが『こんなの、どうでしょう?』という生産者からの問いかけ」だと言います。いかにしてプラスチックの利便性を享受しながら環境負荷をなくしていくか? 未来のプラスチックに挑む企業とモノを取材し、連載でレポートします。

バイオプラスチックパレットで環境対応と農家の所得向上を同時に実現

農業廃棄物であるパームのフサの長繊維がパレット強度を高める副次効果も

プラスチック業界が万博で挑む 「楽しんでもらう」+「考えてもらう」 【連載1回目】いかにしてプラスチックの利便性を享受しながら環境負荷をなくしていくか?


 素材拡大写真(左下)とバイオプラスチックパレット



 家電の化粧カバーや、自動車のグローブボックス、タイヤハウスなどの内外装プラスチック製品製造を主力事業とするワカクサ(奈良県葛城市)は、バイオプラスチックと農業廃棄物を組み合わせた物流用パレットで、環境対応と農家への貢献の2つを同時に実現しようとしています。主に使用している農業廃棄物は、マレーシアから買い付けたパームのフサ。農家にとって処理費用が必要だったフサの部分を有価で購入することで、所得向上へ寄与することが可能です。特筆すべきはその性能。一般的に、環境へ適合するために新たな素材を使用すると、性能が落ちるというのはよくある話ですが、「実は、わずかながら強度は通常のプラスチックパレットを上回っています」と、安本昌広社長は胸を張ります。フサを裁断して添加している長繊維が、パレットの強度を高めているのです。開発を始めて約3年。その道のりは平坦ではありませんでした。

植物の繊維は高温で炭化するため成形温度を高めることができず、一方で、繊維が溶融樹脂の流動性を低下させるために金型の隅々まで流し込むにはある程度の温度も必要。相反する条件を満たすために、京都大学や同志社大学に流動解析などで協力を仰ぎながら、金型の設計見直しや温度の最適化を図りました。

 世界的にプラスチックの環境規制が進む中、同社は素材メーカーや全国の自治体と手を組み、家庭用プラスチックゴミを使った再生プラスチックのパレットを商用化するなど、サーキュラーエコノミー(循環型経済)へと既に舵を切っています。現在、売り上げに占めるサーキュラーエコノミー(循環型経済)事業は28%。バイオプラスチックパレットを2026年にも発売し、顧客の新たな選択肢を増やすことで、サーキュラーエコノミー事業の比率を2030年に50%へと引き上げる計画です。

いかに環境にやさしくても、利便性を損なう商品では普及が限定的 

高温多湿環境下でも劣化しないバイオプラ複合材料で弁当箱や食器をつくる

プラスチック業界が万博で挑む 「楽しんでもらう」+「考えてもらう」 【連載1回目】いかにしてプラスチックの利便性を享受しながら環境負荷をなくしていくか?


 「万博なのだから奇抜なものを、という意見もあった」と企画当初を振り返る、オーエスケー(大阪市東住吉区)の浅野剛企画室部長。社内議論は一周回って、主力商品の弁当箱やコップ、食器など日用品の展示へと落ち着きました。背景には「幸せな食事を通じて食生活の向上と家族や社会のつながりの維持向上を図ることにある」との企業のモノづくりの姿勢があります。幸せな食事で使われるモノが、地球環境にマイナスであり続けてはいけません。一見してなんの変哲もない弁当箱や食器。しかし、その素材は従来とは異なる未来のプラスチックです。

 こだわったのは、性能を落とさないこと。食器洗浄機や電子レンジなど高温多湿環境下で使用する食器類は、PLA(ポリ乳酸)やPBS(ポリブチレンサクシネート)といった生分解性プラスチックをそのまま使用できません。
「いくら環境にやさしいといっても、食器洗浄機が使えないなど利便性を損なうのでは普及が限定される」と、北田功二郎取締役は市場を冷静に分析します。そこで同社は、素材製造設備を持つ同業他社と手を組み、補強効果のある添加剤とPBSを混合した複合材料を共同で開発。高温多湿環境下でも劣化を抑制できるこの新材料は従来プラスチックより溶融時の粘度が高く、成形が課題でしたが、温度など条件の見直しを重ね、将来の商品化を見越して既存の金型でコストを抑えて成形することに成功しました。現時点で材料に占める生分解性プラスチックの比率は90%。浅野部長は「まだまだ開発途上にあり、バイオプラスチックの比率を高めれば性能が落ちるというせめぎあいを今なお続けています」と笑い、苦労の一端を滲ませながらも「環境にやさしいプラスチックがあり、日用品として使える可能性があることを来場者に伝えたい」と意欲的に語ります。

海洋マイクロプラスチック問題にアプローチ

バイオプラスチックを高発泡倍率で成形し海洋フロートを成形

プラスチック業界が万博で挑む 「楽しんでもらう」+「考えてもらう」 【連載1回目】いかにしてプラスチックの利便性を享受しながら環境負荷をなくしていくか?


 プラステコ(大阪府池田市)は、従来EPS(発泡スチロール)と同様の高発泡倍率でバイオ素材を発泡成形する独自技術を持った企業です。バイオPS(ポリスチレン)に限らず、PLA(ポリ乳酸)やバイオPE(ポリエチレン)ほか、自動車や家電で使うエンジニアリングプラスチックなどでも技術を水平展開。林龍太郎社長は、「いずれはすべての発泡プラスチックをバイオ素材に置き換えたい」と将来展望を語ります。

 発泡材は消費者が目に付くところでいうと、商品の箱や梱包・物流資材などが一般的ですが、断熱や軽量化などを目的にあらゆる製品内部に組み込まれており、そのほとんどが日常的に目に触れる場所にはありません。しかし環境問題が深刻であることは他のプラスチック製品と同様。「とりわけ、漁業や農業の資材など回収がたいへんで、自然界に放置されがちな製品については早期に生分解性へ切り替えるべき」と考え、バイオ素材の海洋フロートを万博展示の主軸に据えました。

 同社が優位性を誇る独自技術は「超臨界不活性ガス発泡成形技術」。従来難しかったバイオプラスチックの発泡が可能なだけでなく、同時に温暖化効果ガスの排出量を削減し、引火性や毒性がないCO2やN2など不活性ガスを使用するため製造現場での環境改善にもつながることから、林社長は「素材と製造プロセスの両方で環境に貢献できる」と胸を張ります。


 ただ「いかんせん、見た目が地味」で、展示の見せ方では頭を悩ませることも。そこで同社は、精密な気泡制御で柔軟性や質感を変化させる技術も確立していることのアピールもかねて、折り曲げできるバイオプラスチックペーパーや、光の透け感を見た目に楽しめるランプシェードなど多様な展示を追加することを決めました。「展示品を通じて素材や我が社を知ってもらい、さらに、環境に想いを馳せてもらうことができたら嬉しい」と万博に挑みます。

先人たちが見い出したワサビの機能を樹脂に

有効成分「「アリルからし油」を内包した湿度感知型機能性バイオプラスチック

プラスチック業界が万博で挑む 「楽しんでもらう」+「考えてもらう」 【連載1回目】いかにしてプラスチックの利便性を享受しながら環境負荷をなくしていくか?


 古今東西、日本の食卓に欠かせない香辛料として親しまれてきたワサビ。味わいにアクセントを付けるだけでなく、生臭さや菌の繁殖を抑制することから、鮮魚を食することが多い日本で発達した先人たちの食の工夫です。その機能性に着目し、防カビ・抗菌・消臭・防虫製品の製造販売を展開しているのが、ヤマキ合成(大阪府東大阪市)。ワサビの有効成分「アリルからし油」をマイクロカプセルにして樹脂へ内包し、湿度を感知して機能性を発揮させる特殊技術を保有しています。ペレット製造から、シート成形など一連のプロセスを確立しており、製造・品質評価ノウハウともに、他企業では真似ができないものです。同社はさらに、万博に向けてバイオプラスチックでの製造に挑戦。機能性とサステナブル素材を掛け合わせた高付加価値製品へと進化を図っています。

 従来樹脂をバイオ樹脂に変えて混ぜればOK、とならないのが機能性材料の難しいところ。有効成分を内包した際のペレット・シートへの成形の可否、そして、製造後の有効成分の残存量の2つが重要で、防カビ・抗菌事業部の浅井ひろみ主任は「有効成分とバイオプラスチックの相性がポイント」だと、開発のカギを語ります。

 最適な相性を探し出すのは、日頃も多様な樹脂を扱い、知見を蓄積して合成樹脂に携わってきた企業としての腕の見せ所です。
バイオプラスチックの情報収集と検討に十分な時間をとって、多様な種類から候補を選定。同時にグレード別での製造可否も検討した上で1回目を試作することで、わずか計2回の試作で最終品に落とし込みました。国内外から多数の来場者が集まる万博で展示するのは、もうすぐ。浅井主任は「バイオプラスチックの付加価値で、強みが増した製品群になる」と確かな手ごたえを感じ、万博で披露する日を待ちわびています。

髪にも地球にもダメージを与えないコーム

理美容師の多種多様な要望に応え続けるモノづくり

プラスチック業界が万博で挑む 「楽しんでもらう」+「考えてもらう」 【連載1回目】いかにしてプラスチックの利便性を享受しながら環境負荷をなくしていくか?


 理美容室でカットやセットをしてもらう際、プロが実に多くの種類の櫛を使い分けていることに皆さんお気付きのことでしょう。リーダー(大阪府東大阪市)は、プロユースの中で、歯が直列に並んだ薄型の櫛「コーム」に特化して成長したメーカーです。目の粗い歯や、細かい歯、それらが組み合わさったものもあれば、持ち手が異なるタイプなど、形状はさまざま。これらは、同じブラッシングでも洗髪前と後でも異なるほか、カットやパーマなど作業の違いもあり、髪質やスタイルなどでもそれぞれに「正解」があります。最適な解を追い求める理美容師たちを影で支えるのが同社の役目。吉川晴久社長は「多種多様な要望に対して、検討を重ねてふさわしいモノを作るのがプロに対するリスペクトであり、リーダーのプライドだ」と胸を張ります。その工夫は形状設計にとどまらず、素材分野でも進展。万博では、バイオマス素材採用によって環境対応を進め、髪へのダメージも大幅軽減する機能を付加した、新たなコームを展示する予定です。


 竹炭配合でバイオマス度99%の仕様にし、バイオマスマークを取得する一方、滑りが良く帯電防止力を持つ素材をクラスターテクノロジー(大阪府東大阪市)と共同で開発し、髪への負担が少ないコームに仕上げました。

 同社は90年代に、北米や欧州などで市場開拓を積極的に進め、滑らかな櫛通りと程良いホールド感で評価を得て多くの海外ユーザーにも支持されています。機能のみならず、環境を意識したモノづくりを志向した背景には、環境先進国のユーザーを含め、より多様な顧客の視点を取り入れて、コームを進化させようとする強い意志があります。  その成果が万博での展示物。吉川社長は「環境負荷や人体への影響を軽減させる技術をこのコームに詰め込んでいることを伝えたい」と開発した製品を眺め、未来社会に想いを馳せています。

【参考資料】

■関連情報(リリース・記事)

万博展示概要リリース

当協会会長インタビュー記事

展示・商談会リリース

オルガン制作プロジェクト記事

オルガンおひろめリリース

オルガン奏者決定リリース

■万博出展に関して

当協会は、公益財団法人大阪産業局と大阪商工会議所が共同設置した中小・スタートアップ出展企画推進委員会の「リボーンチャレンジ」事業を活用し、「Nature Positive from bio plastics.(ネイチャーポジティブ―バイオプラスチックから始まる自然と共生する社会―)」をテーマに万博に8月19~25日の7日間出展します。会場では、本リリースにあるバイオプラスチック製パイプオルガンほか、18社のプラスチック成形会社がバイオプラスチック製品を展示する予定です。

■一般社団法人西日本プラスチック製品工業協会について

西日本地区におけるプラスチック製品製造業界唯一の総合団体で、正会員297社、賛助会員116社の合計413社で構成しています。技能検定実技試験や人材育成、勉強会・セミナーの実施、情報提供等で会員をサポートするほか、会員同士の交流・情報交換の場の設定、技術振興事業などを展開しています。

バイオプラスチックに関する取り組みに関しては2022年に開始。SDGsをテーマにした懇談会を開催しているほか、バイオプラスチックに関心を有する企業や大学等研究機関、行政等支援機関で構成するネットワーク「大阪バイオプラスチックビジネス推進ネットワーク(OBPN)」を立ち上げ、脱炭素や海洋プラスチックごみ問題の解決に向けた動きを加速しています。
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