神奈川県平塚市で58年間、精密板金加工や精密機械加工業を営んできた株式会社タシロ。金属板を切って曲げて溶接するという複合加工を得意とし、インフラ関連から自動車、航空、食品、医療・衛生分野まで多分野の製造を手掛けてきました。
製造物の大きさも指先サイズのスペーサーから、7.5m×3mの浮桟橋フレームまで様々。そんな同社がコロナ禍に自社開発した製品が、「燻製器・焚火台としても使える、コンパクトな3WAYピザ窯」です。

自宅でも手軽にアウトドアを楽しんでいただきたいという思いで企画したこの商品は、クラウドファンディングで目標金額の約3倍となる120万円を突破。さらに、第93回東京インターナショナル・ギフト・ショー春2022「 LIFE×DESIGNアワード」において、「売りの現場のプロ」である流通業者のバイヤーの投票によって国内外2172社の中からグランプリ(最高賞)を受賞しました。

もともと100%BtoBで受託生産を行っていた当社が「3WAYピザ窯」を生み出した背景について、株式会社タシロの3代目・田城功揮(たしろこうき)がお伝えします。

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3WAYピザ窯とは

3WAYピザ窯は、組み立て前がA4サイズで厚さ10mmと非常にコンパクトな点が特徴です。ピザ窯・燻製器としては約50秒で組み立てられ、焚火台として使う際は20秒以内で組み立てが可能です。

すべてのパーツは板状のため1枚1枚分解洗いができ、衛生的にも安心です。また、すべてのパーツが高出力のレーザー加工機により厚板でもきれいに切断されており、角を取る面取り加工も施しているので小さなお子さまが触っても心配不要。

3WAYでさまざまな使い方ができ、ご家族やご友人と、あるいはソロキャンプで、アウトドアライフがより手軽に楽しく過ごせるギアとなるよう開発した製品です。

国内外2,000社以上の中からグランプリを受賞した「3WAYピザ窯」。背景にある「町工場の未来」への想いとは


コロナ禍を経て、新商品の開発へ着手。知人のアイディアを元に、多くの試行錯誤を重ねて完成した「3WAYピザ窯」

タシロはもともと100%BtoBで受託生産を行っている町工場でしたが、2020年2月頃からコロナ禍の影響を受け始めました。売上げが半減した月もあり、工場内のペンキを塗ったり、大半を職場環境の整備に費やす日もあったと振り返ります。


何とか売り上げを確保しようと、オンライン工場見学・オンライン商談のページをホームページ上に作成し、2000部以上取引希望候補企業にDMを郵送したりしましたが効果は出ませんでした。

何か打開策はないかと考えていたとき、海外のクラウドファンディングの成功事例を耳にします。そのプロジェクトは、抗菌性のある銅や真鍮(しんちゅう)でドアオープナーを作る開発費を募ったもので、開始3時間で50万円が集まったというのです。

自社の技術を活かし、コロナ禍に沈んでいる世の中に貢献できるものがつくれる。「これだ!」と思い、すぐにドアオープナーのラフ画を描き、設計担当者に相談しました。その日のうちに試作品ができ、最終的に真鍮(しんちゅう)製のドアオープナー「タッチレスハンド」ができあがります。これがタシロで販売した初めての自社製品です。

それ以来、社員の趣味や興味を活かしたアイディア製品をいくつか開発・販売するようになりました。例えば、猫好きの社員のアイデアで開発したペット用の冷却シート「ねこの寝床」。オーダーメイドで名前を入れられる仕様で、「愛着が湧く」とお客様に喜んでいただけました。

国内外2,000社以上の中からグランプリを受賞した「3WAYピザ窯」。背景にある「町工場の未来」への想いとは


しかし、コロナ対策グッズなど一時的に売れ行きの良い商品は出来たものの、事業転換できるほどの結果は出ません。既存の商品は価格帯も1000円~3000円程度のものでしたので、より高価格帯のもので、大きく時勢に左右されないような新商品を出したいと思っていました。


普段からどんなものが自社で作れるのかアンテナを張って生活をし、友人と話す機会があれば何か金属の平板から作れるものはないか聞いていました。そんな中、キャンプ好きの友人から「ピザ窯と焚火台を一緒にしたものをつくれないか?」というアイディアをもらいます。

自宅の庭にテントを張るくらいキャンプ好きな友人だったこともあり、簡単に調べると世の中にはまだ無いような商品アイデアだということが分かりました。その後、「一旦は、友人にプレゼントできるものを完成させられたらいいな」と思い、すぐに商品開発ミーティングをZoomで行いました。その後もLINEやZoomでやりとりを重ね、1か月後に試作品が完成します。

国内外2,000社以上の中からグランプリを受賞した「3WAYピザ窯」。背景にある「町工場の未来」への想いとは


国内外2,000社以上の中からグランプリを受賞した「3WAYピザ窯」。背景にある「町工場の未来」への想いとは


今回の3WAYピザ窯も、アイデアこそアウトドア好きな友人にもらいましたが、モニター利用者含め20名以上の方々にアドバイスをいただきながら、約7か月間で30回以上の試作に取り組んで製品化にたどり着きました。

最初は焚火台とピザ窯の2WAYでした。しかし、途中で複数の方から「燻製もできたらいいよね!」とアドバイスをいただき、燻製もできる仕様にして3WAYピザ窯の形式になりました。

国内外2,000社以上の中からグランプリを受賞した「3WAYピザ窯」。背景にある「町工場の未来」への想いとは


国内外2,000社以上の中からグランプリを受賞した「3WAYピザ窯」。背景にある「町工場の未来」への想いとは


初期の3WAYピザ窯はスライド蓋付でした。スライド式のドアをつけてしまうと焼き具合が確認しづらく、スライド式のドアがなくても窯の温度は充分でピザは焼けるし、熱燻もできる。

焚火台も完全燃焼しやすいように通気性を良くしたく柄は空洞部分を多くしましたが、1mm柄と柄が近いだけで熱変形が起きやすくなったりしてしまい、柄の間隔を空けたりデザインを調整しました。

また、なるべく軽く、コンパクトにしたかったためパーツの板厚を3種類に分けています。
100回を超える焚火の熱実験をする中で、熱変形に負けないよう強度を保ちながら最大限軽い仕様にできるよう、火元に近いところから厚いパーツにし、0.1mm単位で調整していきました。結果的に1mm、1.6mm、2mm厚のパーツを組み合わせています。

国内外2,000社以上の中からグランプリを受賞した「3WAYピザ窯」。背景にある「町工場の未来」への想いとは


そんな数多くの試行錯誤を経て、2021年6月30日に無事クラウドファンディングを開始することができました。開始をすると多くの方から反響をいただき、終了時には目標達成率300%、計120万円を調達することができたのです。

タシロにおいて、自社製品の販売事業はまだ売上全体の1%にも満たないのが現状です。しかし、田城はこのような「社員発の自社製品」をもっともっと増やしていきたいという考えがありました。

社員のアイデアを活かした自社開発に取り組み続ける理由

私(田城功揮)は大学を卒業した当初、家業とはまったく関係ない東京の人材紹介会社に就職しました。しかし次第に「育ててくれた家族や地域に貢献したい」という思いが強くなり、数年後に地元にUターンし町工場の世界に足を踏み入れます。

そこで目にしたのが、「プロの仕事の格好良さ」です。

フォークリフトを自由自在に操縦したり、ラフ画からCADを使い的確に図面を起こしたり、この製品はいくらでできるか?と聞いたらほんの数十秒で具体的な見積り金額が返ってきたり……。

計算通りにいかないことも多いものづくりの現場で、職人たちが積み上げてきた技術や50年以上にわたり蓄積されてきた会社としてのノウハウは、日本における重要な財産だと痛感したのです。

国内外2,000社以上の中からグランプリを受賞した「3WAYピザ窯」。背景にある「町工場の未来」への想いとは


しかし、そんな職人たちの技術が結集する町工場は衰退の一途を辿っています。この30年で町工場の50%以上が廃業に追い込まれ、現在でも75%は赤字経営だというデータがあります。
コロナ禍でこうした窮状にはいっそう拍車がかかっているでしょう。

町工場で働く作業員たちも、安価な海外製品に圧倒され、一生懸命作った製品がなかなか売れずにやりがいを感じられにくくなり、離職者が増加しています。「汚い、きつい、危険」の3Kのイメージがあり、就職希望者も減っているのが現状です。

私は、職人一人ひとりのアイデアを活かした製品を開発・販売することで、より多くのお客様に町工場の技術力を知ってもらえると考えています。そして、お客様から直接喜びの声を聞くことで、職人たちもものづくりのやりがいをもっと強く感じることができます。

このような「喜びの連鎖」を積み重ね、全国の町工場を元気付けていきたいのです。

国内外2,000社以上の中からグランプリを受賞した「3WAYピザ窯」。背景にある「町工場の未来」への想いとは


従業員20人弱の町工場の製品が、2000社以上の中からグランプリを受賞

「3WAYピザ窯」のクラウドファンディング開始から8ヶ月。嬉しいニュースが飛び込んできました。町工場の活性化を目的とした活動チーム「町工場プロダクツ」として共同出展した第93回東京インターナショナル・ギフト・ショー春2022「LIFE×DESIGNアワード」にて、「3WAYピザ窯」が2000社以上(※)の中から最高賞のグランプリを受賞したのです。

【グランプリ受賞】精密板金加工のタシロ、第93回東京インターナショナル・ギフト・ショー春2022「LIFE×DESIGNアワード」にてグランプリを受賞!PR TIMES×

「LIFE×DESIGNアワード」では、まず「現場のプロ」である流通業者のバイヤーが投票で製品をノミネート。その結果をもとに、著名デザイナーや有力バイヤー、メディア関係者によって最終的な受賞製品が決定されます。審査項目は、独創性、機能性、アイデア性、品質の高さ、安全性などが当てはまります。

受賞の知らせを聞き、このように大きなアワードでグランプリはおろか、入賞できるなんて思ってもみなかった私たちは非常に驚きました。
しかし、この結果によって町工場の力を世間の方に少しでも知ってもらうことができたのではないか、と非常に嬉しい気持ちで一杯です。

国内外2,000社以上の中からグランプリを受賞した「3WAYピザ窯」。背景にある「町工場の未来」への想いとは


小さな町工場の大きな夢

「3WAYピザ窯」を販売してから田城が一番嬉しかったと振り返るのは、タシロで20年以上働く社員が話す様子でした。「『お父さんは仕事でこういうものをつくっているんだよ』と自分の子どもに伝える機会となった」と聞いたことに大きな喜びを感じます。

自社製品をお客様に楽しくお使いいただくことで、作り手のやりがいも増やしたい。そして、日本のものづくりを支える町工場のイメージやブランド力を少しずつ向上していきたい。従業員20名弱の小さな町工場ですが、この大きな夢を本気で叶えていきたいと思っています。

当社はこれからも社員一人ひとりのアイデアを活かし、お客様も作り手も笑顔にできる製品を開発していきます。目標は、毎朝の朝礼で「今日は○○さんの企画した商品が10個、△△さんの企画した商品が20個、注文がありました。製造をお願いします。」といってスタートさせること。

最近では内定者が企画した蚊取り線香ホルダ(BONSEKI―盆石―)がギフトショーに出品できたり、「自分のアイディアで商品化したい」という強い思いを持って入社をしてくれた社員も現れ、少しずつ文化(想い)が根付き始めています。

今後、当社の製品を見かけられた際にはぜひ、作り手の姿を思い浮かべながら手に取っていただけたら嬉しいです。

国内外2,000社以上の中からグランプリを受賞した「3WAYピザ窯」。背景にある「町工場の未来」への想いとは


商品ページ

◆3WAYピザ窯 ピザ窯・燻製器・焚火台として使えるコンパクトアウトドアギア

https://store.shopping.yahoo.co.jp/tasiro/3way.html

◆BONSEKI―盆石― 石のようなフォルムが美しい線香ホルダ

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