私たち大洋印刷株式会社は、この度一冊の書籍の印刷を手掛けさせていただきました。その本というのが、401の企業の「PR」というものへの思いを言葉にした書籍「PR、415の使命」です。
401企業のコーポレートカラーを4Cカラーではなく、全てを特色で印刷。2カ月という限られた期間で全ての企業の色を調合し、何度も確認しながら手作業で完成させました。ここでは、なぜ私たちがそんなこれまでの“印刷”の常識から一歩抜け出したような本に挑戦したのか、その思いをつづりたいと思います。
■創業90年、かつてない一冊を刷り上げる
改めまして、大洋印刷の営業四部一課の加山俊介と申します。この会社には入社して16年目でして、入った当初は映画関係の仕事を担当、その後はデザインやアパレル、広告代理店、今では大手外資系メーカーの化粧品関係をメインに幅広いお客さまとやりとりしております。
大洋印刷 営業四部一課 加山俊介
本題に入る前に、まずは大洋印刷の紹介を。当社は1930年に創業した商業印刷を中心とする印刷会社です。社是は「誠心誠意」「チャレンジ」「技術革新」。今はインターネットを使えばワンクリックで印刷物ができてしまう世の中ではありますが、我々は会社が始まって以来約90年、お客さまと向き合い続けながら、常にチャレンジを積み重ねてきました。無闇に「どんどん刷れ!」というのではなく、やはりお客さまの要望にお応えし、ちゃんとものづくりしてこそ、大洋印刷であると思っています。
そんな当社に、今回のとんでもないチャレンジのお話が舞い込んできたのは、昨年の初秋ごろのことでした。
そもそもこの本は昨年8月、PR TIMES社が日本経済新聞の朝刊に「たとえ読まれなくても、ぜんぶ書く」「PR、14の使命」というコピーを掲げて掲出した企業広告がきっかけとなって生まれたものです。
PR、415の使命
今回PR TIMES社が掲出した日経の広告のクリエイティブディレクターを務められていた武藤事務所株式会社の武藤雄一さんは、当社とは20~30年、私自身も10年近くお付き合いさせていただいているのですが、その武藤さんからある日私に電話がかかってきたのです。
「400ページくらいで、1ページに1企業を扱う本を作りたい。それを特色で、コーポレートカラーで刷りたいんだけど、どう?」。
■「やれる?」ではなく「やってみたい?」と尋ねられて
正直、電話をいただいた際にはあっけに取られました。401社分の特色。一社ずつ色を作って刷る……もはや、どうやって印刷すればいいのか、どのような工程を立てれば良いのか、想像もつきませんでした。
武藤さんは「どう?」とおっしゃいましたが、物理的にどうかと聞かれれば、やったこともありませんでしたから、とりあえず「できる、とは思います」とお答えしました。すると武藤さんから、
「どう? やってみたい?」
そう聞かれたんです。「ズルくて良い聞き方だなぁ」と思いましたね。できるかどうかは未知の世界。ただ、やってみたいかどうかと問われれば、「嫌いじゃないです、そういうの」と、気がついたら返答していました。
この「クレイジー」というのが、ある種のキーワードでもあったと思います。「やる」と決めてから早速開いた社内会議で、現場の責任者を集めて「できますかね?」と相談したら、みんなすぐ前のめりになった。「おもしろそうだね」「どうやったらできるかな」、意見を交わしながら、一日何色印刷すれば納期に間に合うのかと逆算して考えてみたり、スケジュールを引いてみたり。
社員全員が、“できない理由”を探すのではなく“できる工夫”を探していました。大洋印刷はとにかく職人が多いので、くすぐられるものがあったのだと思います。社内会議後、現場のオペレーターの人たちも「何かおもしろそうな仕事が入ってくるらしいね」という言い方をしていたので、やはりここはすごい会社だと思いました。私たちも良い意味で「クレイジー」だったんだと、その時実感したのです。
■刷って、洗って、また刷って…「クレイジー」な2カ月が始まった
ただ、もちろんやる気だけでは本は完成しません。コロナ禍である状況を加味しても、2カ月というスケジュール感で、かつ高水準の要求に応えた質の高い一冊を完成させるには、相当な根気が必要でした。
通常、カラーの印刷物はCMYKという4色(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4成分によって色を表す色の表現法の一種)で成り立っていますが、それでは表現できない色に特色を使います。ですが、当社で扱う印刷物でも特色というのは多くても4~5色。今回はおよそ400の色を作るわけですから、まずそれぞれのインクを調合するだけで数週間から1カ月近くかかってしまいます。最初はある程度、色のリストをいただいていましたが、リストで一度カラーチップを探し、他のものもインクのレシピのようなものを元に機械でベースを練り上げて、それらを実際に紙に転写する。それから色を調整して、企業のコーポレートカラーに合わせていき、この作業を繰り返します。全て手作業です。
カラーチップリストと、インク調合のレシピ
刷り出し(大洋印刷では、シート状に本番印刷し、加工所で製本される前の状態のものを指す)
インクの濃度を測るために使用したカラーチャート
また、これだけ色が多いと、色を作るだけでなく、印刷機を洗う回数もとんでもなく増えるのです。刷って、洗って、練ったインクを入れて、また刷る。これを数十回、毎日永遠と繰り返しました。
すべての色を手作業で調合。ミスが生じないよう缶にはNoを記載。
色のレシピをもとに忠実に再現
私も全て現場に立ち合い、401社分の特色を見ましたが、得も言われぬ緊張の日々でした。
実際に使用した油性菊全オフセット印刷機
もちろんミスが起こらないよう細心の注意は払いますが、いかんせん人間がやっている作業ですから、予期せぬミスはどうしても起きてしまうこともあります。
そんな状況下で印刷を終え、次に製本の作業です。本来製本も機械任せであれば難なく終わる作業ですが、当然ページの順番を間違えてはいけないですし、ちょっとしたミスでこの1、2カ月の作業が台無しになってしまう。誰一人妥協することはなかったですし、みんなが「ここはちゃんとチェックしよう」「ここは気をつけよう」と声を掛け合いながら走った2カ月間でした。
■「チームで挑む」姿勢が、本を完成へと導いた
そうしたピリピリに張り詰めた2カ月間でしたから、完成品を手にした時の達成感はとんでもないものでした。「やっと終わった」という感情以上に、「やれてよかった、やり切ってよかった」という思いの方が大きかったのを覚えています。
手を動かしていた当時は目の前の「色を作る」「製本をする」という作業一つひとつに集中していましたが、振り返るとこの途方もない作業は、このチーム、この仲間がいたからできたのだと思います。
“大洋印刷は職人が多い”と冒頭にも書きましたが、当社は仕事にこだわりのある人間がたくさんいます。今回のプロジェクトに携わったメンバーの中には実際、「全ページほぼ特色というのは、何十年もこの仕事をして初めてだったよ。
どんな仕事も「面白そうだ」と思えるのは、社是に「チャレンジ」という言葉があるように、代々大洋印刷に流れてきたDNAなのだと思います。上司部下の関係はあれど、意見を言い合いながら良いものをみんなで作り続ける。私たちは一印刷会社ではありますが、デザイナーさんやお客さまが考えられて想いが詰まったものを最後に仕上げるという大切な役割を担っています。だからこそ、「全員でやり遂げる」という強い意志が、良いものを作る重要なエッセンスであると、みな理解しているのだと、私は思います。
また、今回のプロジェクトに関して言えば、武藤さんをはじめ、デザイナーの株式会社サン・アドの白井陽平さんといった、プロジェクトの根幹となっていたみなさんが我々も巻き込んでくださり、企画段階から入らせてもらったというのも大きいです。
なんでもそうですが、軽く「やっておいてください」と投げられるのではなく、事前の打ち合わせから入っていたり、メールのCCに入れてもらっていたりするだけで、プロジェクトにかける発起人たちの熱量がこちらにも伝わってくるものです。だからこそ、こちらも熱い気持ちでいられる。納品が終わった後、「素晴らしい!」と武藤さんから電話をいただいた時は感動しました。「チームで挑む」意義を教えてもらったと思います。
■“文字の強さ”を感じられる一冊に
改めて振り返ると、武藤さんの言葉通り「クレイジー」な2カ月だったと思います。ですが、そんな日々を費やして完成したこの本には、単なる4つの色や、デジタル上の文字では出すことのできない“文字の強さ”を感じていただけると思っています。
この本を手に取った方が、そうした文字の強さや色鮮やかな言葉たちの素晴らしさに気づいていただければ何よりですし、401の企業のみなさんが書いたPRへの思いもリアルに伝わるのではと考えています。
また再びこうしたプロジェクトに携わらせていただけるチャンスがあるか分かりませんが、お客さまとのものづくりに誠心誠意向き合っていける、私自身もそんな営業マンでありたいと思っています。
今回のPR TIMES社のプロジェクトに携わった大洋印刷の社員
取材=青山ゆずこ、執筆=田代くるみ(Qurumu)、撮影=川島彩水
401企業のコーポレートカラーを4Cカラーではなく、全てを特色で印刷。2カ月という限られた期間で全ての企業の色を調合し、何度も確認しながら手作業で完成させました。ここでは、なぜ私たちがそんなこれまでの“印刷”の常識から一歩抜け出したような本に挑戦したのか、その思いをつづりたいと思います。
■創業90年、かつてない一冊を刷り上げる
改めまして、大洋印刷の営業四部一課の加山俊介と申します。この会社には入社して16年目でして、入った当初は映画関係の仕事を担当、その後はデザインやアパレル、広告代理店、今では大手外資系メーカーの化粧品関係をメインに幅広いお客さまとやりとりしております。
大洋印刷 営業四部一課 加山俊介
本題に入る前に、まずは大洋印刷の紹介を。当社は1930年に創業した商業印刷を中心とする印刷会社です。社是は「誠心誠意」「チャレンジ」「技術革新」。今はインターネットを使えばワンクリックで印刷物ができてしまう世の中ではありますが、我々は会社が始まって以来約90年、お客さまと向き合い続けながら、常にチャレンジを積み重ねてきました。無闇に「どんどん刷れ!」というのではなく、やはりお客さまの要望にお応えし、ちゃんとものづくりしてこそ、大洋印刷であると思っています。
そんな当社に、今回のとんでもないチャレンジのお話が舞い込んできたのは、昨年の初秋ごろのことでした。
そもそもこの本は昨年8月、PR TIMES社が日本経済新聞の朝刊に「たとえ読まれなくても、ぜんぶ書く」「PR、14の使命」というコピーを掲げて掲出した企業広告がきっかけとなって生まれたものです。
広告の掲出と同時に、PR TIMES社では「あなたが考える、PRの使命」を募集し、1週間の応募期間に集まった401の“使命”に「PR、14の使命」を合わせた、「PR、415の使命」を一冊にまとめるという企画でした。

今回PR TIMES社が掲出した日経の広告のクリエイティブディレクターを務められていた武藤事務所株式会社の武藤雄一さんは、当社とは20~30年、私自身も10年近くお付き合いさせていただいているのですが、その武藤さんからある日私に電話がかかってきたのです。
「400ページくらいで、1ページに1企業を扱う本を作りたい。それを特色で、コーポレートカラーで刷りたいんだけど、どう?」。
■「やれる?」ではなく「やってみたい?」と尋ねられて
正直、電話をいただいた際にはあっけに取られました。401社分の特色。一社ずつ色を作って刷る……もはや、どうやって印刷すればいいのか、どのような工程を立てれば良いのか、想像もつきませんでした。
武藤さんは「どう?」とおっしゃいましたが、物理的にどうかと聞かれれば、やったこともありませんでしたから、とりあえず「できる、とは思います」とお答えしました。すると武藤さんから、
「どう? やってみたい?」
そう聞かれたんです。「ズルくて良い聞き方だなぁ」と思いましたね。できるかどうかは未知の世界。ただ、やってみたいかどうかと問われれば、「嫌いじゃないです、そういうの」と、気がついたら返答していました。
なんたって、およそ400種の特色印刷です。大洋印刷に入社して16年、こんな仕事はやったことがありませんでしたし、これから先もきっと、絶対にやってきません。武藤さんも「クレイジーなプロジェクトだよね」とおっしゃっていましたが、本当に私もそう思いました。

この「クレイジー」というのが、ある種のキーワードでもあったと思います。「やる」と決めてから早速開いた社内会議で、現場の責任者を集めて「できますかね?」と相談したら、みんなすぐ前のめりになった。「おもしろそうだね」「どうやったらできるかな」、意見を交わしながら、一日何色印刷すれば納期に間に合うのかと逆算して考えてみたり、スケジュールを引いてみたり。
社員全員が、“できない理由”を探すのではなく“できる工夫”を探していました。大洋印刷はとにかく職人が多いので、くすぐられるものがあったのだと思います。社内会議後、現場のオペレーターの人たちも「何かおもしろそうな仕事が入ってくるらしいね」という言い方をしていたので、やはりここはすごい会社だと思いました。私たちも良い意味で「クレイジー」だったんだと、その時実感したのです。
■刷って、洗って、また刷って…「クレイジー」な2カ月が始まった
ただ、もちろんやる気だけでは本は完成しません。コロナ禍である状況を加味しても、2カ月というスケジュール感で、かつ高水準の要求に応えた質の高い一冊を完成させるには、相当な根気が必要でした。
通常、カラーの印刷物はCMYKという4色(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4成分によって色を表す色の表現法の一種)で成り立っていますが、それでは表現できない色に特色を使います。ですが、当社で扱う印刷物でも特色というのは多くても4~5色。今回はおよそ400の色を作るわけですから、まずそれぞれのインクを調合するだけで数週間から1カ月近くかかってしまいます。最初はある程度、色のリストをいただいていましたが、リストで一度カラーチップを探し、他のものもインクのレシピのようなものを元に機械でベースを練り上げて、それらを実際に紙に転写する。それから色を調整して、企業のコーポレートカラーに合わせていき、この作業を繰り返します。全て手作業です。

カラーチップリストと、インク調合のレシピ

刷り出し(大洋印刷では、シート状に本番印刷し、加工所で製本される前の状態のものを指す)

インクの濃度を測るために使用したカラーチャート
また、これだけ色が多いと、色を作るだけでなく、印刷機を洗う回数もとんでもなく増えるのです。刷って、洗って、練ったインクを入れて、また刷る。これを数十回、毎日永遠と繰り返しました。

すべての色を手作業で調合。ミスが生じないよう缶にはNoを記載。

色のレシピをもとに忠実に再現
私も全て現場に立ち合い、401社分の特色を見ましたが、得も言われぬ緊張の日々でした。
印刷自体は1カ月かけて行ったのですが、通常の印刷物は、片面で1日、両面で2日あれば終わってしまう。ですが、これだけの色の特色の場合はそれだけの時間がかかりますし、1つでもミスすればおしまいです。やり直す時間など絶対にありません。

実際に使用した油性菊全オフセット印刷機
もちろんミスが起こらないよう細心の注意は払いますが、いかんせん人間がやっている作業ですから、予期せぬミスはどうしても起きてしまうこともあります。
そんな状況下で印刷を終え、次に製本の作業です。本来製本も機械任せであれば難なく終わる作業ですが、当然ページの順番を間違えてはいけないですし、ちょっとしたミスでこの1、2カ月の作業が台無しになってしまう。誰一人妥協することはなかったですし、みんなが「ここはちゃんとチェックしよう」「ここは気をつけよう」と声を掛け合いながら走った2カ月間でした。
■「チームで挑む」姿勢が、本を完成へと導いた
そうしたピリピリに張り詰めた2カ月間でしたから、完成品を手にした時の達成感はとんでもないものでした。「やっと終わった」という感情以上に、「やれてよかった、やり切ってよかった」という思いの方が大きかったのを覚えています。
手を動かしていた当時は目の前の「色を作る」「製本をする」という作業一つひとつに集中していましたが、振り返るとこの途方もない作業は、このチーム、この仲間がいたからできたのだと思います。
“大洋印刷は職人が多い”と冒頭にも書きましたが、当社は仕事にこだわりのある人間がたくさんいます。今回のプロジェクトに携わったメンバーの中には実際、「全ページほぼ特色というのは、何十年もこの仕事をして初めてだったよ。
でも、やりがいしかなかったね」と言ってくれる人もいました。

どんな仕事も「面白そうだ」と思えるのは、社是に「チャレンジ」という言葉があるように、代々大洋印刷に流れてきたDNAなのだと思います。上司部下の関係はあれど、意見を言い合いながら良いものをみんなで作り続ける。私たちは一印刷会社ではありますが、デザイナーさんやお客さまが考えられて想いが詰まったものを最後に仕上げるという大切な役割を担っています。だからこそ、「全員でやり遂げる」という強い意志が、良いものを作る重要なエッセンスであると、みな理解しているのだと、私は思います。
また、今回のプロジェクトに関して言えば、武藤さんをはじめ、デザイナーの株式会社サン・アドの白井陽平さんといった、プロジェクトの根幹となっていたみなさんが我々も巻き込んでくださり、企画段階から入らせてもらったというのも大きいです。
なんでもそうですが、軽く「やっておいてください」と投げられるのではなく、事前の打ち合わせから入っていたり、メールのCCに入れてもらっていたりするだけで、プロジェクトにかける発起人たちの熱量がこちらにも伝わってくるものです。だからこそ、こちらも熱い気持ちでいられる。納品が終わった後、「素晴らしい!」と武藤さんから電話をいただいた時は感動しました。「チームで挑む」意義を教えてもらったと思います。
■“文字の強さ”を感じられる一冊に
改めて振り返ると、武藤さんの言葉通り「クレイジー」な2カ月だったと思います。ですが、そんな日々を費やして完成したこの本には、単なる4つの色や、デジタル上の文字では出すことのできない“文字の強さ”を感じていただけると思っています。
この本を手に取った方が、そうした文字の強さや色鮮やかな言葉たちの素晴らしさに気づいていただければ何よりですし、401の企業のみなさんが書いたPRへの思いもリアルに伝わるのではと考えています。
また再びこうしたプロジェクトに携わらせていただけるチャンスがあるか分かりませんが、お客さまとのものづくりに誠心誠意向き合っていける、私自身もそんな営業マンでありたいと思っています。

今回のPR TIMES社のプロジェクトに携わった大洋印刷の社員
取材=青山ゆずこ、執筆=田代くるみ(Qurumu)、撮影=川島彩水
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