「JILL STUART Beauty 」は2025年8月31日にブランド20周年を迎えます。
2005年のブランドデビュー以来、「“かわいい”に恋するすべての人に」をコンセプトに、数々の商品を発売してきました。
今回は、ブランドデビュー時からJILL STUART Beautyのデザイナーを務め、ブランド20年の歴史を知る益田あけみにインタビュー。ブランドデビュー期からこれまでのストーリー、そしてこれからのJILL STUART Beautyの未来について話を聞きました。
益田あけみプロフィール
商品デザイン部 デザイン室 クリエイティブディレクター
1990年入社。さまざまな化粧品ブランドのプロダクトデザイン開発を担当。2004年JILL STUART Beauty開発プロジェクトに参加。現在JILL STUART Beautyをはじめ、複数ブランドのディレクションに従事している。
“ジル・スチュアートの好きなもの”をヒントにして作られていった特別な世界観
―益田さんはJILL STUART Beautyのブランドデビュー前、開発プロジェクトからのメンバーだったそうですが、ブランド誕生時の印象的なエピソードは?JILL STUART Beautyブランドデビュー前の「開発プロジェクト」は中間管理職を通さずに、ターゲットに近い女性たちが“本当に欲しい商品を作る”ため、企画・宣伝・開発・研究・教育・営業などの各部署の若手女性社員を中心に発足しました。当時は今と違って、社内で若手の女性が多く集まるプロジェクトというのはとても珍しかったと思います。
もちろん安全面などに関しては上司のサポートがありましたが、「本当に作りたいものを作りなさい」「自分たちが欲しいと思うような好きなものを作りなさい」と言われ、若手メンバーだけで企画を考えました。そのおかげかJILL STUART Beautyの商品は、担当者同士が楽しい雰囲気で出し合った自由な発想がそのまま生かされていると思います。
例えば当時、企画担当のメンバーが「チークを中心にしたコスメブランドにしたい」というアイディアを出したんです。チーク中心のブランドというのは大変斬新なアイディアだったので、最初は社内でスムーズには受け入れられませんでしたが、結果的にチークが大ヒットしてジルの代表アイテムの一つになりました。
デザインに関しても当時の上司から「とにかくびっくりするようなものを作るように」と言われ、入社して間もないデザイナー2人と私の3人で、「持っているだけで幸せな気持ちになれるデザイン」を提案しました。
―プロジェクトが発足して、ファッションデザイナーのジル・スチュアート氏との初ミーティングがあったと伺いました。ジルスチュアートの世界観は、コスメにどのように反映されていったのでしょうか?
ブランドの世界観やイメージは、ジル・スチュアート本人が好きなものを参考にして出来上がりました。プロジェクトが始まってすぐに、ジル・スチュアートと本社でミーティングしたんです。憧れのファッションデザイナーとの初対面でとても緊張しましたが、その時に彼女がどんなデザインが好きなのか、どのようなコスメを作りたいのかを探るため、思いつくまま好きなワードをあげてもらいました。
ブランドコンセプトの「INNOCENT & SEXY」や、ブランドカラーのランジェリーピンク、ヴィンテージやクリスタル、鏡、ダイヤモンドなど現在のブランドを象徴するイメージも、この時のワードが元になっています。
年月が経過しても全ての原点はここにあるので、新商品の企画の際などにイメージで迷った時は、いつも振り返るようにしています。
また、ジル・スチュアートがヴィンテージのコレクターなのですが、彼女がコレクションしている私物を実際に借りて、ブランドや商品のイメージの参考にしたこともあります。
メイクする仕草も最高にかわいく、ハッピーになれる商品を
―デビューしてからこれまでの20年間のヒストリーにおいて、特に心に残っている出来事があれば教えてください。ジルはデビューの時からずっと、特にチークを大切にしてきました。現在に至るまで、さまざまなアイディアを生み出し、改良を重ねながらチークを開発してきたヒストリーがあります。
ブランドデビューの時には、パウダー状のチークをブラシでつける特殊なタイプのアイテム「ブラッシュ パウダー」を開発しました。簡単ステップで使いやすく、キラキラした上質なブラシがセットされていて、メイクしている仕草も可愛く見えるように作られた物です。まさにジルのメイクアイテムのコンセプトが集約した、エポックメイキングな商品になったと思います。
見た目も大変かわいい商品でしたが、持ち歩きが不便なのが難点でした。そこで、もっと持ち歩きやすいようにリニューアルすることになったんです。それが「ミックスブラッシュ コンパクト」。
リニューアルするにあたって、持ち運びやすくすると同時に毛量の多いブラシをつけることが絶対条件でした。ジルがヴィンテージのコレクターだったことはすでにお話ししましたが、チークのアイデアを模索する中でヒントになったのが、ジルのヴィンテージコレクションの中にあった1920年代のパーティーバッグです。
小さなパーティーバックなのですが、とてもユニークなものでした。バッグの中にパウダーのコンパクトが内蔵されていて、さらにはリップもそのまま刺さるようになっているんです。そこからインスピレーションを得て、チークのコンパクトとブラシをチェーンで繋ぐ「ミックスブラッシュ コンパクト」のデザインを考えました。
チークをつける時に透明のコンパクトのキラキラを見るだけでも幸せな気持ちになりますし、チェーンで繋がったブラシケースがゆらゆら揺れるので、メイクする仕草も最高に可愛くてハッピーになれますよね。「ミックスブラッシュ コンパクト」は何度かリニューアルしながら、ジルのNo.1アイテムになりました。

―現在の「ミックスブラッシュ コンパクト」にはブラシがついていませんが、リニューアルの背景は?
愛用してくださるお客様から「チークとブラシが繋がっていると、中身を使い切った時にブラシも捨てなくてはいけないのはもったいない」という声があったのがきっかけで、チークとブラシを別の商品にすることになりました。
チークのコンパクトからはブラシがなくなりましたが、代わりに揺れるチャームがついていて、キラキラと輝くかわいいイメージはそのまま大切にしています。
「ダイヤモンドは女の子の一番の友達」。パッケージデザインはキラキラした輝きに重点を
―最初はジル・スチュアート氏の好きなものからヒントを得て生まれたブランドのイメージは、20年間変わらずに守られ続けているのですね。JILL STUART Beautyといえば、ときめくようなかわいい世界観が特徴的で、唯一無二かと思います。この世界観が作り上げられるまでにはたくさんの工夫がなされてきたと思うのですが、何かエピソードがあれば教えてください。
ジル・スチュアートの言葉に「ダイヤモンドは女の子の一番の友達」というものがあります。私たちって、ダイヤモンドのようにキラキラした可愛いものを見ると思わず吸い込まれて、やっぱり幸せな気持ちになれるんですよね。JILL STUART Beautyのボトルなどのデザインでも、特に輝きには重点を置いてきました。

ブランドデビューの頃は、実はキラキラした輝きを出すのにけっこう苦戦したんです。試行錯誤を重ね、コンパクトやボトルに使っている透明素材を輝かせるために「ダイヤモンドのブリリアントカット」や「クリスタルガラス」などを研究して、3Dで作成したモデルで検証し、よりキラキラ輝くデザインを追求してきました。使っている素材も、透明感を重視して選んでいます。デビュー時は苦労しましたが、当時の製品と並べて比較すると、輝きが増していることがわかると思います。

―ジルの可愛いキラキラは、研究と工夫を重ねて作られてきたのですね。ほかにもジルの“かわいい”を表現するために工夫してきたエピソードはありますか?
印象に残っているのが、2014年に1代目が発売された「リップブロッサム」。当時、企画からのリクエストは「びっくりするようなリップ」でした。

口紅容器のデザインはいろいろありますが、機能が確立しているので新しい提案が難しいんです。そこで「口紅を塗る時に何が欲しいか?」という社内アンケートをとりました。すると圧倒的だったのが、「鏡が欲しい」という意見。
そこで、リップ容器をお花に見立てて「塗っている仕草もかわいく見えるシークレットミラー」をデザインしました。「リップブロッサム」は昨年4代目が発売されましたが、よりかわいく見せられるよう、デザインも少しずつ進化しています。現在、リップはジルのアイテムの中でチークに並ぶ人気商品となっています。

「リップブロッサム」も「ミックスブラッシュ コンパクト」も、商品の見た目のかわいさだけではなく、メイクする仕草が最高にかわいく見えることを意識して、皆さんがハッピーになれるデザインを目指しています。
―デザインの打ち合わせでは、「かわいい!」とかなり盛り上がることもあるのだとか?
そうですね。デザインの打ち合わせの時にスケッチや模型をテーブルに並べるんですが、企画担当者が部屋に入るなり「キャーッ!かわいい~っ!」と声をあげてくれることがしょっちゅうあります。
打ち合わせの雰囲気も、和気藹々としていてとても楽しいです。20年前の開発プロジェクトの時に、「作りたいものを作りなさい」と言われて、プロジェクトメンバーの若手女性陣に任せてもらえたという話をしましたが、その時のスタンスは今も引き継がれていると言えるのかもしれません。
現在も、入社してまもない新人メンバーの企画がそのまま採用されることもあります。若手メンバーたちが、これまでにはなかった全く新しいアイディアを持ってきてくれることも多いんです。例えば過去には実現できなかったデザインでも、現在は技術の進歩によって実現可能になっているケースもあるので、革新的なアイディアを積極的に取り入れるようにしています。
若手メンバーが挑戦したいことをなるべく形にできるように、私もサポートしたいと思っています。
20周年に込めた想いと、これからのブランドの未来
―20年経った今、ブランドデビュー時と比較して変わったことがあれば教えてください。とにかくブランドの規模が大きくなったことです。
百貨店4店舗だったデビュー時は、正直こんなに大きくなるとは思っていませんでした。たくさんあるブランドの中でも特にかわいい世界観が好きな方向けのニッチなブランドになるはずが、想像以上に皆さんに支持していただきました。
20年間でじわじわ成長を続け、右肩上がりで伸びています。24年12月期には過去最高を記録しました。
2011年にはEコマースをスタートし、コーセーのEC販売においては先駆け的な存在にもなりました。飛行機に乗った時も、機内誌をめくるとジルの製品が大きく載っています。20年で「かわいい=ジル」と言われるくらい、“パケ買いコスメ”の代表となり、さらには“デパコスデビューブランドの代表”として有名ブランドの仲間入りを果たしたことは、非常に感慨深いです。
その背景には、SNSの普及があると思います。デビュー当時は、お客様の個人的なご意見はブログかネットの掲示板くらいでしか見られませんでしたが、今では日本だけでなく、海外のジルファンの皆様もSNSに動画や写真をアップしてくれるようになりました。
ジルのデザインはInstagramとの親和性も高く、たくさんの人に世界観を知ってもらう後押しになったと思います。SNSが一般化してからは特に、パッケージも写真映えするデザインがより重要になっています。
―商品カテゴリーも20年間でかなり増えましたね。
当初はポイントメイク、ベースメイクのみでしたが、フレグランスやバスボディ、スキンケアなど商品数が増えて、さらに別ブランドの「Flora Notis JILL STUART」も誕生しました。
その中でも特に、フレグランスが人気になりました。フレグランスの代表商品「クリスタルブルーム」は2024年に10周年を迎え、今年も記念の商品を発売しています。次々と商品が展開していき、毎年恒例の「サムシングピュアブルー」や「サクラシリーズ」、ポイントメイクカテゴリーの「リップブーケ セラム」も誕生。すっかり大きなシリーズに育って驚いています。
ちなみに「クリスタルブルーム」の開発時には、ニューヨークまで行ってジル・スチュアートに会い、香りを試してもらってヒアリングしたんです。その時にジルが「フレグランスのイメージにぴったり」 と言ってヴィンテージドレスを持ってきてくれたのですが、箱のフラワーパターンはそのドレスの柄をもとにデザインしたものです。
―今回の20周年アニバーサリーコレクションにはどのような想いを込めましたか?
デビューから5周年、10周年、15周年……と5年ごとにアニバーサリーコレクションを発売しています。毎回、通常の限定シリーズでは提案できない特別なアイテムを発表してきました。今年は20周年になるので、さらに特別なコレクションをご用意しています。ぜひ楽しみにしていただきたいです。
20周年だからこそ意識したのは、“ジルらしさ”。デビュー当時からずっと好きでいてくださるお客様もいらっしゃいますので、20年の感謝の気持ちを込めました。どなたでも使いやすいのはもちろんですが、20年間ファンでいてくださる方にも「やっぱり持っていたいな」と思っていただけるような、ジルらしいベーシックなアイテムをご用意しました。アイカラーやチークなどですね。また、限定のアイカラーについてくるポーチには、20周年をロゴにしたモチーフをつけました。
―これからのJILL STUART Beautyについて。5年後、10年後……どんなブランドの未来を想像していますか? また、JILL STUART Beautyで益田さん自身が今後やりたいことや夢があれば、最後に教えてください。
ジルのブランドストーリーが「すべては女の子の“かわいい”のために」から
「“かわいい”に恋するすべてのひとに」へと変化したように、今後は女性に限らず、すべての“かわいい”が好きな方たちにJILL STUART Beautyのコスメで幸せになっていただきたいです。
そして世界中のお客様から「“かわいい”No.1はジル」と言われる存在でありたいです。
また、ここから20年後もさらに成長していってほしいという願いがあります。その想いを次の世代にも伝えていきたいですね。若いデザイナーたちが、もっとワクワクする“びっくりするほどかわいい”デザインを提案できるように、私もサポートして貢献できればと思います。