■物理的な機能停止は「情報の抹消」ではない。データ廃棄の方法を問い直す
情報漏洩は、いまや一企業の存続を左右する喫緊の課題となっています。その対策の鍵となる廃棄工程において、業界で長らく最適解とされてきたのが、「ハードディスクへの穴あけ」でした。しかし、1933年創業の竹下産業株式会社の代表である私、竹下敏史は、その当たり前とされてきた慣習にある疑問を抱いていました。「穴を空けただけでは、情報はまだ物質として残っている。不確実性をゼロにしなければ、本当の安心とは言えない」。この考えから生まれたのが、独自に構築したデータ廃棄法「4工程を踏む情報抹消プロセス」です。
穿孔(穴あけ)、電気的破壊、物理破砕、そして溶解。これら4つのステップを積み重ねることで、竹下産業はデータの復元を限りなく不可能に近づける情報抹消を実現しています。
竹下産業はなぜ、これほどまでに徹底した工程の構築を目指したのか。独自の仕組みを形にするまでの挑戦と、一分の隙も許さないプロとしての矜持を支える社員教育の裏側をご紹介します。
■「本当の安心と言えるのか?」。現場で感じた、情報を託す側と預かる側の温度差
私が3代目として社長に就任したのは、ハードディスク等の電子記録媒体の廃棄に関する問い合わせが急増し始めた2011年。現場に足を運び、廃棄作業の立ち会いや回収業務を繰り返す中で、ある違和感を抱くようになりました。
物理的に穴を空ければ、確かに機器としての機能は停止します。
この「わずかな不安」を残したままサービスを提供し続けるという違和感は日に日に大きくなり、「今の仕組みで、本当に『万全』と言い切れるのか」「お客様に誠実に向き合えていると言えるのだろうか」という強い疑問を持つようになりました。
また、当時は穴を空けた後のハードディスク等の電子記録媒体を「貴重な資源」として買い取り、転売する業者が主流でした。しかし、お客様が我々に託しているのは、何にも代えがたい「情報」という資産であり、何十年もかけて築き上げてきた企業のブランドです。お客様は「情報」を安全に処理してほしいと願っているのに、受け手側がそれを「資源」として扱っていては、真の安心は届けられません。
入り口で「情報」として預かったものを、出口まで「情報」として扱い抜く。その誠実さこそが、これからの時代に求められる価値だと考えたのです。
■法律の壁を自力で突破する。「4つの工程」を一筋の線に繋ぐための孤独な格闘
そこから、どうすればより確実性の高いデータ廃棄を実行できるのか、模索し続けるように。「穴あけ」以外にも、磁気消去などの手法が存在していましたが、それぞれの業者が単一の技術を提供しているに過ぎず、当社で調べた限り、当時は全ての不安を払拭できる一気通貫のサービスはありませんでした。
「ならば、すべての工程を一つに繋ぎ、一切の隙がないプロセスを構築しよう」。
最初に立ちはだかったのは、法律の壁です。ハードディスク等に穴を空けたり、電気を通したりする行為は廃棄物処理には該当しませんが、回収したものを破砕するプロセスには、廃棄物処理法に基づく厳格な処分の許可が必要となります。
通常の廃棄物処理に関する法律は理解していたものの、複数の工程を繋ぐのに必要な許可や法的整合性などは、まだ十分に把握できていませんでした。しかし、理想の仕組みを完成させるまでは誰にも相談せず、自分の力で形にしようと決めていました。そこで自力で学び、難解な法律の解釈を巡って、一つひとつの課題をクリアしていく。そんな孤独な作業が続きました。
■突き動かしていたのは「いつか必ず必要とされる」という根拠のない自信
次に必要となったのが、行政への申請に不可欠な、機械の処理能力を示す「能力計算書」の作成です。しかしハードディスクに特化した破砕機メーカーに資料を求めた際、返ってきたのは「能力計算書なんて出したことがない」という答え。一方で「メーカーも経験がないということは、このサービスはまだ社会に存在していない証拠なのでは」と市場の可能性を確信する機会にもなりました。行政書士の指導のもと、複雑な数値計算を行い、東京都から正式な許可を得たのです。
当時の社員は、現在のわずか3分の1程度にあたる10名。
肉体的には過酷でしたが、それでも「このサービスはいつか必ず受け入れてもらえる」という“根拠のない自信”だけが私を突き動かしていました。
■「空白の時間」というリスクを埋める。理想の破砕機と溶解メーカーを求めて奔走
工程の中で最もこだわったのが、「物理破砕」と「溶解」の連動です。最終工程の「溶解」は国内の専門メーカーに委託していますが、工場到着から炉への投入までには待機時間が生じます。この空白の時間が、セキュリティ上の盲点になりかねません。
「工場に届いた瞬間、データ復旧が不可能な状態でなければならない。そのためには、溶解直前の『破砕』の精度こそが命綱になる」。そう確信し、理想の破砕機を求めて半年以上の歳月を費やしました。また、輸送距離が長いほど紛失や事故のリスクは高まると考え、溶解メーカーも国内で徹底的に探しました。
物理的な破砕の精度を高め、速やかに溶解へと繋ぐ。この時間と距離の隙間を埋めることこそが、当社の追求した一気通貫の責任の形でした。
転機となったのは、2019年12月6日。社会を揺るがした神奈川県庁のハードディスク転売事件です。この事件を機に、NHKをはじめとするメディアが次々と取材に訪れ、当社の「4工程」が全国に紹介されるように。
それまで「そこまで徹底する必要があるのか」と懐疑的だった業界関係者たちも、一変して「これこそが求めていた安全だ」という信頼へと変わったのです。売上も事件後、一気に3倍に。孤独の中で積み上げてきた「不確実性を排除するための仕組み」が、ようやく社会の「安心」というニーズに合致した瞬間でした。
■「凡事徹底」の積み重ね。誰もが100点の仕事を実現する組織づくり
竹下産業の挑戦は、仕組みを作って終わりではありません。真の「情報漏洩ゼロ」を完遂させるのは、機械ではなく、現場で動く「人」の意識だからです。
社員に繰り返し伝えている言葉があります。
そのため、当社では徹底した管理体制を敷いています。採用時の身元保証人の必須化にはじまり、24時間365日の全施設録画、毎月のセキュリティ講習会、そして全社員のメールチェック。厳しすぎると感じる方もいるかもしれませんが、厳格なルールは個人の裁量や不注意によるミスを防ぐための「防波堤」です。仕組みでリスクを最小限に抑えることが、結果として従業員が迷いなくプロの仕事に徹することに繋がると信じています。
この徹底した管理体制は、個人の能力や資質だけに頼らず、誰が担当しても同じ品質を保てる「組織づくり」を実現するためにも必要なことです。私が万が一の事態になっても、揺るぎない安心を提供し続けられる会社。それが理想とする組織の姿です。個人の能力に依存せず、当たり前のことを徹底的にやり抜く。
竹下産業はこれからも、業界の先駆者を目指して歩み続けます。4工程の廃棄処理サービスが、いつか日本のすべての現場のスタンダードになる日まで。お客様が託してくださった「信頼」を、一片の不安も残さず、最高の「安心」へと変えていきます。