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<動画:SANITAS建築現場風景 >

<SANITAS完成予想図>
慢性的な人手不足や技能者の高齢化が深刻となり、時間外労働の上限規制も強化されたことから、近年、建設業における生産性向上が喫緊の課題となっています。SANITASの建設現場には、建築の最新技術である3次元(3D)モデリング技術「BIM(Building Information Modeling)」をはじめ、飛行ロボット(ドローン)や人工知能(AI)、拡張現実(AR)といったさまざまな最新テクノロジーが導入され、作業の効率化に寄与しています。こうした建築デジタルトランスフォーメーション(DX)の一端に触れてもらうため、玉川学園は西松建設と共同で、建設中の現場を学内関係者に案内し、そこで活用されている技術などを解説する生徒・学生向けの見学会を開催してきました。さらに、現場をライトアップし、タワークレーンを使って光の演出を行う「クローラークレーン・イルミネーション」も実施するなど、学びの機会をたびたび取り入れてきました。
クレーンイルミネーションイベントの開催
https://www.tamagawa.jp/education/report/detail_24732.html


<写真:クレーンイルミネーション>
×<動画:クレーンイルミネーションの紹介動画>
「どのようなスポーツ施設を作るか」というSANITASの設計について対談した前編に続き、後編では「SANITASをいかに作るか」という施工面から、久米設計 設計本部主査の石田哲史氏、西松建設 生産設計副所長の西田泰貴氏、玉川学園 総務部管財課長の細谷清氏課長が語り合いました。

<写真2:座談会の出席メンバー>
――キャンパス内の施設工事として、安全面や環境面で特に配慮した点があれば教えてください。
西田「安全面は一番に留意しており、学生さんや玉川学園の関係者の皆さんに対し、交通災害を絶対に起こさないための配慮をしています。具体的には、車両の大きさに応じて走行ルートや時間を調整したり、資材の搬入時間に合わせて誘導員による先導を行ったりしています。また、正門前にウェブカメラを設置し、車両の通行可能時間帯であっても、歩行者が多ければ車両の出し入れを避けたりするなどの対応をしています」

<写真:西松建設・西田氏>
「環境面では、現場内から排水される雨水排水が調整池を介して近隣の畑などで使われているため、排水する水を泥などを沈殿させてろ過するタンクに通し、さらに水素イオン指数(pH)調整装置を使い、適正な数値の水になるよう調整した上で排水するよう徹底しています。現場は校舎にも近いため、不必要な振動や過度な騒音にも気をつけているほか、ホコリなどが舞わないよう養生シートで囲んだり、散水によって飛散を防いだりなどの工夫を施し、仮囲いの外側の教育環境や学生・生徒の皆さんに、できるだけご迷惑をおかけしないように配慮しています」
――新技術は導入時の苦労も多いと思いますが、BIMをはじめ、建設現場のDXをどのように進めていますか。
西田「昨今、建設現場ではDXが加速度的に推進されていますが、当社でも本社や関係部署、支社と連携しながら、各現場に合ったDXを模索し、日々試行錯誤をしています。SANITASの現場で特に重視しているのは、『顧客に対する新たな付加価値の創造』で、その観点から導入すべきDXを選定しています。

<写真:建築DXの導入例の紹介>
――実際に、どのような技術を導入しているのですか。
西田「具体的なDXの取り組みとして、例えば、ドローンを飛ばして上空から現場を定期的に撮影したり、360度撮影できるウェブカメラで現場内を撮って工事の進捗(しんちょく)を記録し、過去と比較ができる『Drone Deploy』というソフトを使用したりしています。全自動で飛行するドローンは、動画を撮影するだけでなく、現場の3Dモデルも作成できます。撮影データから土量や距離などが測れるため、現場で実測しなくても工事計画などの検討が可能です。
ウェブカメラは現場に4台、正門前に1台の計5台を配置し、現場に行かなくても、手元のスマートフォンやパソコンから現場内の全域をリアルタイムで監視できるようにしています。ほかにも、建物の仕上がりイメージなどの確認や検討にBIMの3Dモデルを用いたり、『CM Builder』というソフトで工事の工程を3Dで可視化し、未来の現場の状況を共有してもらうことで、現場以外の人にも施工の流れを分かりやすく示す工夫をしたりしています。現場では、リアルとバーチャルのデータを融合させるAR技術を使った『GENAR』というソフトを駆使し、完成イメージを工事中の当該箇所に映し出す試みもしていますね」

<図:CM Builderのサンプル画面>
――このようなDXに取り組む“オープンな建設現場”は、学生の良き「学びの場」になりますね。
西田「そうですね。過去の情報と、ウェブカメラで見られるリアルタイムの現在の状況、さらに未来の姿をイメージした3Dモデルが時間ごとに移り変わっていく様子を見学会などで見てもらうと、一目で直感的に理解できるため、生徒・学生さんや先生方には驚かれますね。平面で見るより、やはり3Dでモノが動く様子を見た方が断然、興味を持ってもらいやすいですし、実際に喜んでもらえます。定例会議などでも、3Dモデルを画面上に映し、それを動かしながら説明することで、関係者間の情報共有もしやすくなります。
学生さんの最新技術の学びの場になるとともに、当社にとっても良い企業アピールの場になっています。現在は現場でも時短などの働き方改革が進み、限られた時間の中でDXを推進するのはパワーが要ることも事実ですが、新技術に挑戦し、そこで良いものが見つかれば、次の現場にも生かすことができ、職場環境の改善や生産性、業務水準の向上にも寄与できると考えています」


<写真:見学会の様子>
――このSANITASを学生がどう使い、どのように成長することを期待しますか。
石田「前回も申し上げた通り、“きょうそう”の場として、ぜひ自由な発想で使っていただきたいですね。運動が苦手な子にとっては、体育はハードルの高いものかもしれませんが、その中でも頭を使うことが得意な子もいるでしょう。その一つのきっかけとして、『コミュニケーションコリドー』にはゆとりをもたせ、可動式の家具や、自由な発想で掲示や装飾、あるいはサインを設置できる壁面を設けています。SANITASでさまざまな活動が行われることによって、どんな子でもそこに入っていけるようなきっかけが生まれていくとうれしいです。
今回、設計をCADではなくBIMで行い、さらに施設や利用環境を経営資源として管理するファシリティマネジメント(FM)の視点も入れて実行するとの強い意志を当初から玉川学園さんが提示してくれたことで、DXの導入がよりスムーズに進められました。今後は、このBIMデータが建物の維持・修繕に加え、スポーツ・教育の情報通信技術(ICT)化への適応などにも活かされ、さらにSANITAS が2029年以降の玉川学園の次の100年を担う建物として長く愛されていくことを願っています」

<写真:久米設計・石田氏>
――将来、SANITASでスポーツを学ぶだけでなく、建築やデジタル技術に興味を持つ学生が育つとしたら、どのようなことを伝えたいですか。
西田「昨今の建設現場は様変わりしました。図面は手書きに替え2次元CADで作成していたものが、現在はBIMの3次元モデルへと進化しました。現場運営でもDXが浸透し、働き方改革や生産性向上といった課題の解決に向けた取り組みが進んでいます。人手不足や技能者の高齢化といった問題にはAIを駆使し、蓄積した大量のデータから知識を抽出し技能の伝承に生かすなど、デジタル技術は多方面での応用が期待されています。

<写真:現場での建築DXの利用の様子>
――玉川学園として、BIMをはじめとする建築DXはどのような効果がありましたか。
細谷「BIMなどのDXを導入してもらったおかげで、現場見学会などでは学生が興味を引きつけられ、建設業という仕事に目を向ける良い機会となりました。3Dモデルによって完成形を直感的に把握できることから、打ち合わせも円滑に進み、工程の後戻りなども少なく、工事も予定通り進行しているように思います。

施設を経営資源としてとらえ、いかに戦略的に建物を維持・管理していくか。こうしたFMの観点から、“100年建築”を実現するためにも、今後は計画的に建物を適切に改修・運用していく必要があります。その際、DXによる図面のモデル化などがもたらす恩恵は非常に大きいといえるでしょう。これにより、次世代の玉川学園を担う人たちへと、確かな形で受け継いでいけると確信しています」

<写真:現場での建築DXの活用を紹介する関係者>
〇関連情報:
新たな複合スポーツ施設「SANITAS」の期待を熱く語る~玉川学園「SANITAS」座談会~ https://prtimes.jp/story/detail/b3QjjkiwDRx
以上