本プロジェクトは、サイバーエージェントが所有する「極AIお台場スタジオ」のバーチャルプロダクションや生成AIを活用したクリエイティブ、学生の感性を掛け合わせて共同で作品を制作いたしました。
◼︎対談参加者
加藤 千典(株式会社Cyber AI Productions)※写真左寺嶋 寧々(sense.)※中央左
渕上 駿介(sense.)※中央右
多田 圭吾(株式会社Cyber AI Productions)※右
縦型ショートドラマ制作プロジェクト始動のきっかけ
加藤:もともと、ここ数年盛り上がりを見せているショートドラマ市場に対して「我々は動画制作プロダクションとしてどう参入すべきか」といった話を社内でしていました。そんなとき、社内から「従来と違ったフレッシュな視点で動画制作をしたい」といった意見もあり、新しい視点を持った学生との共創プロジェクトを実施する結論に至りました。渕上:お声がけいただいたときに、他にも映像分野に特化した学生サークルもある中で、「どうしてsense.に声をかけてくれたんだろう」と驚いた記憶があります。sense.はこれまで公募や三田祭などプロジェクトベースで映像制作を進めてきたので、“学生×企業”という共創機会に意義があると感じ、参加を決めました。
加藤:sense.の皆さんにお声がけしたのは、仕事でsense.出身の方々と出会う機会が多く、縁を感じたことが大きな理由です。楽しみもあった一方で、今回のプロジェクトでは「広告の作り方を学生に教えて作ってもらう」のではなく、学生の新鮮な視点を取り入れながら共に作ることが必要だと思っていたので、あくまで“学び合う”スタンスを取ることを意識していました。
多田:このプロジェクトをどう進めていこうか考えたときに、まずは「お互いを知ること」が重要だと考え、sense.のメンバーに極AIお台場スタジオを見学してもらい、その可能性や技術を体感してもらうことから始めました。「どのようなことができるか」を知ってもらった上で、生成AIやUnreal Engineといった具体的な技術を伝えるワークショップを行うことにしました。

▲生成AIのワークショップ
縦型ショートドラマ「輪廻タクシー」が生まれるまで
渕上:極AIお台場スタジオを見学させてもらったおかげで「どんな撮影ができるのか」といった具体的なイメージに繋がりました。企画については、「どういった企画にしたら新しい挑戦となるのか」といった視点からも考えるよう意識しました。通常の作品では何日もかけてロケ地を巡らなければならない中で、スタジオでは一箇所でさまざまな背景を使って撮影できる点がバーチャルプロダクションの魅力だと思い、「いろんな場所に行く」というテーマから着想したのが「輪廻転生」です。浮かんだストーリーを元に寺嶋に脚本を書いてもらいつつ、脚本に合いそうなビジュアルの作り方についてどのような技術を取り入れるかを同時進行で検討しました。
寺嶋:走り出しのときには想像できないくらい、新しい技術が山盛りの作品になりました。

多田:ワークショップで「どのようなことができるのか」を知ってもらえたからこそ、美術面でも生成AIを活用して細部にこだわってもらえたと思います。たとえば、タクシーの車内にお札などが貼られているのですが、あれも全て生成AIを活用して制作しました。撮影当日は、Cyber AI Productionsとsense.のメンバー合わせて20人にも満たない体制かつ2日間という短期間で実施しましたが、技術の活用によりスムーズに進行できました。

▲生成AIを活用し、撮影前に美術イメージを共有・検討するためのビジュアルを作成。

▲イメージをもとに制作された、実際の車内美術。
寺嶋:中でも衣装・美術に関してはsense.のメンバーのほとんどが初心者だったのですが、手探りだった中で、多田さんやプロの衣装さんと意見を交わしながら進められたことで、自分たちの発想を形に出来ました。
多田:僕はなるべく「お金がないからこれはできない」とは言わずに、皆さんの「やりたい」を叶えたいと思っていたので嬉しいです。皆さんとても吸収が早くて、僕も刺激をもらいました。手前味噌ですが、僕が大学生のときに経験したかったプロジェクトになったと心から思います。

バーチャルプロダクション撮影ならではの難しさ
加藤:制作準備でちょっとしたハプニングもありました。LEDウォールに投影する背景素材の風車を撮影しに行ったら、風車が撤去されてしまっていたことがあったんです。寺嶋:ロケ地に辿り着いたら何もなくて、数ヶ月前に撤去されたと聞いたときには心が折れそうになりましたが、それも生成AIで簡単に再現することができたので、技術の進歩に感動しました。
渕上:バーチャルプロダクションの撮影では、撮影した動画や静止画素材といった2D素材のほか、Unreal Engineを用いた3DCGの背景素材をLEDウォールに投影するのですが、シーンごとにどの手法が適しているかを議論しながら進めました。特にスクリーンプロセスの撮影では、人物と背景との距離・高さ・角度を全て揃えないと違和感が生じてしまうので「どう投影したら自然に見えるか?」についてはかなり試行錯誤しました。
加藤:人物の移動と同時に、生成AIで完成した背景のシンボルまで移動してしまう事態も発生しましたよね。移動した人物と、移動した先にあるはずの風景との辻褄が合わなくなるので、撮影を一時中断してホワイトボードに地図のようなものを書いて、「この風車がここにあるなら、人物があそこにいるときにはうつるはずがない」といった部分から認識をすり合わせました。特に今回は“移動”が多く、時空を超えるなど全体的に複雑な構造だったのもあって、いい経験になりました。

プロジェクトの感想と今後の展望
加藤:sense.の皆さんを見て勉強になったのは、新しい技術を活かすスピードの速さです。新しい技術ができたとき、来たるタイミングで使おうと一旦置いてしまう人って多いと思うんです。そうではなく、「すぐ試す」大切さを思い出させてもらえました。今回のプロジェクトは「新しい技術を取り入れていけば、短期間で良質なクリエイティブを生み出せる」という証明にもなったと思います。渕上:sense.にとっても学びだらけでした。まず撮影現場を経験したことがない人からすると「どのように企画が生まれて、作品として世に出るまでに何が必要なのか」といった流れから体験することができましたし、生成AIなどを活用した新しい制作方法についても知識を身につけられました。
多田:僕自身、学生時代にsense.のような映像制作の学生団体に入っていたのですが、僕が大学3年生の頃にsense.が生まれて「こんなかっこいい動画を作れるサークルがあるんだ!」と驚いていたんです。今回僕が企業側として学生と組むことになり、企業視点でこのプロジェクトを見たときに、とても意義のある、面白いものだと感じました。
寺嶋:私は大学に入ってから映像制作を始めたのですが、今回新しい技術を取り入れてみて、「これからはもっと気軽に動画制作ができる時代になるんじゃないか」と感じました。今後動画制作へのハードルがより下がることで、「表現したい」という気持ちをもっと自由に映像で形にできる時代になったら楽しいのではないかなと思います。
渕上:たくさんの映像コンテンツにあふれ、生成AIでクオリティの高い動画を簡単に作れる世の中で、市場の“価値”は変わりつつあるのではないかと感じています。毎年sense.には30~40人くらいの新入生が参加してくれているのですが、それは、価値が変わりつつある今でも、それだけクリエイティブに興味関心がある人が多いことを示していると思っていて。今回のプロジェクトでの経験を活かし、制作フローから体験できる機会を作りつつ、良い動画制作を進めていきたいです。
加藤:常にフレッシュな視点を取り入れながら、新しい技術を活用した良質なクリエイティブを届けていけば、我々もより良い映像を制作できるし、それがまた新たな才能との出会いに繋がるといった良い循環を生んでくれるのではないかと思っています。

作品について
ショートドラマ「輪廻タクシー」全8話https://www.youtube.com/@sense.265/shorts
sense.について
映像・CG・デザインなど、多様な表現に取り組む学生たちが集う、慶應義塾大学の学生を中心としたマルチクリエイティブサークル。HP:https://senseart.jp/
株式会社Cyber AI Productionsについて
Cyber AI Productionsは、広告効果と映像クオリティを両立する映像制作集団です。AIやCG、バーチャルプロダクション等の最先端技術を活用し、メディアに適した表現手法で、未だ見ぬ映像クリエイティブを生み出します。HP:https://www.cyber-ai-productions.co.jp/