└看護師さんによる、学校での気管切開→喀痰(かくたん)吸引シーン

医療的ケアを必要とする子どもの就学にあたっては、いくつかの選択肢があります。

主な進学先としては、障害の特性や支援の必要性に応じた特別支援学校、地域の小中学校の特別支援学級(いわゆる支援級)、そして地域の学校の一般の学級(普通級)などです。


どの進学先を選ぶかは、子どもの医療的ケアの内容や体調の安定性、学校側の受け入れ体制、家庭の希望などを踏まえ、市町村の就学相談を経て個別に判断されます。

医療的ケア児であっても、地域の学校に在籍するケースは少なくありませんが、通学や日中のケア体制については、家庭・学校・医療・外部支援が連携しながら整えていく必要があります。

今回は、小学5年生・ゆうきくん(仮名)のご家族に、地域の小学校の特別支援学級で学ぶという選択、そしてソイナース(株式会社Medi Blanca)で通学支援・学校付き添い支援を利用するまでの経緯についてお話を伺いました。

地域の学校で学ぶために必要なサポート

「前例がない」から始まった通学支援。医療的ケア児の学校生活を支える現場


――支援学校ではなく、地域の学校の支援級を選ばれた理由を教えてください。

お母さま:

支援学校という選択肢ももちろん検討しましたが、きょうだいと同じ地域で育ってほしいという思いがありました。特別なことを望んでいたわけではなく、近所の子どもたちと自然に顔なじみになって、この地域の一員として過ごしてほしいと考えたんです。

――入学前に感じていた不安はどのようなものでしたか。

お母さま:

不安はとても大きかったです。授業中に体調が変わったらどうするのか、給食時の注入は誰が担うのか、通学中に何かあったらどうなるのか。考え始めると「もしも」が次々と浮かんできました。学校とは何度も面談を重ね、医療的ケアの内容や緊急時の対応について丁寧に話し合いました。先生方も真剣に向き合ってくださり、体制づくりに尽力してくださいました。

――学校との連携はどのように進めていかれましたか。


お母さま:

先生方は本当に丁寧に向き合ってくださいました。医療的ケアについても一緒に学びながら体制を整えてくださり、少しずつ安心材料が増えていった感覚があります。ただ、それでも通学や日中のケアについては、家族だけでは抱えきれない部分があると感じていました。

通学支援と学校付き添いという選択

「前例がない」から始まった通学支援。医療的ケア児の学校生活を支える現場


└通学バスにソイナースの看護師さんと乗り込むところ

医療的ケアが必要なお子さんにとって、通学中も安心できる環境が欠かせません。

そのため、ソイナースでは、医療的ケア児がその子に合った環境で教育を受けられる社会を目指し、学校教員や行政への理解啓発を行いながら、医療と教育をつなぐ役割を担っています。また、児童ごとのケアマニュアル作成や、教職員向けの医療的ケア・緊急時対応の勉強会を実施し、学校全体で安全に子どもを支えられる体制づくりを行っています。

しかし、看護師が入るまでの毎日の付き添いは想像以上に負担が大きかったといいます。

――入学当初、通学はどのようにされていたのですか。

お母さま:

学校では8時半から看護師さんが入ってくださるのですが、通学バスに乗ってもらう人手がどうしてもいなくて、最初は私が付き添っていました。朝は7時半にバスが出て、8時半に学校で引き渡して、そこから歩いて帰ると9時頃。帰りも同じで、下校の時間に学校まで歩いて迎えに行って、一緒にバスで帰る。1日でだいたい3時間くらい、送迎に時間を使っていました。朝の時間帯は特に慌ただしくて、気持ちにも余裕がなくなっていきました。
通学だけでなく、学校での活動時間も含めて、「親だけで支え続けるのは現実的ではない」と感じ始めたことが、外部支援を検討するきっかけでした。

――毎日3時間……それが続くのは相当きついですね。

お母さま:

本当に大変でした。2年くらい続いたと思います。まだ自分が若かったから何とか回せていましたが、下の子も小さかったですし、きょうだいもいるので、家の中のことも回さないといけない。仕事もしたいし、学校側が力を尽くしてくれているのは十分理解しつつも、「何とかならないかなあ」と思っていました。

――その状況が変わったきっかけは何だったのでしょう。

お母さま:

別の保護者の方から「ソイナースという看護ケアリングサービスを使っている人がいるよ」「通学バスにも入っているよ。学校がOKなら利用できるよ」と聞いたのがきっかけです。「そんなやり方があるんだ」と思って教育委員会に伝えたら、すぐ「連絡先を教えてください」となって、そこから動きが早かったです。ソイナースさんも「ぜひ学校側と話したい」と言ってくださって、結果的に通学も含めてお願いできる体制になりました。

――現在、どのような支援を利用されていますか。


お母さま:

看護師さんによる通学バスへの同乗支援と、校内での付き添い支援です。朝は自宅から一緒にバスに乗っていただき、学校では体調管理や吸引などをお願いしています。

「前例がない」から始まった通学支援。医療的ケア児の学校生活を支える現場


└学校では看護師さんは基本的には別室待機。ケアが必要なときはお子さんが待機スペースに来てその場所でケアして教室に戻るなど、”必要なときに必要なことをする”体制を整えている。

――いまの形に落ち着くまで、最初からスムーズにいったのでしょうか。

お母さま:

いえ、ぜんぜんスムーズではなかったです。地域の学校に医療的ケア児が「その学校に通う」ケース自体が初めてで、看護師さんをどう確保するのかも含めて本当に手探りでした。教育委員会の方からも「初めてのケースなので、すぐに決まらなければ、決まるまで保護者が付き添うことになるかもしれない」と言われていました。

――「前例がない」という状況は、具体的にどんな負担につながりましたか。

お母さま:

まず情報がないんです。どう進めたらいいのか、誰に聞けばいいのかがわからない。結局、私のほうが知り合いの看護師さんが多い可能性があるため、「協力して探してくれませんか」とのことで、SNSや知り合いに声をかけたり、教育委員会に1~2週間ごとに電話して「今どうですか?」と確認したり……。
決まるまでずっとドキドキしていました。

――第三者に支援を依頼することへの迷いはありませんでしたか。

「前例がない」から始まった通学支援。医療的ケア児の学校生活を支える現場


お母さま:

ありました。「本当に任せて大丈夫だろうか」と何度も考えました。でも実際に関わっていただく中で、医療面だけでなく本人の気持ちにも寄り添ってくださっていると感じ、少しずつ安心できるようになりました。今は“お願いしている”というよりも、“一緒に見守っている”という感覚です。

――支援が入ってから、ゆうきくんの様子に変化はありましたか。

「前例がない」から始まった通学支援。医療的ケア児の学校生活を支える現場


お母さま:

はい、あります。以前から何でも興味を持って挑戦したがる子でしたが、入学してからは放課後の学校イベント(陶芸や空手)にも積極的に参加していました。ただ、何をするにも親が必ず一緒だったので、支援が入ったことで、自立がとても進んだと感じています。今では本屋さんで自分の買いたい本をレジに並んで買えるまでになりました。

また、学校生活を重ねる中で、少しずつクラスの友だちとの関係ができていきました。


家でも学校での出来事を話してくれることが増え、本人が学校で過ごす時間を楽しんでいる様子が伝わってきます。医療的ケアがあるから参加できない、ではなく、支えがあれば参加できる。そう思えるようになったことは、私たち家族にとっても大きな変化でした。

宿泊学習への同行という新しい経験

「前例がない」から始まった通学支援。医療的ケア児の学校生活を支える現場


└通学中は看護師さんとのおしゃべりを楽しむ

コロナ禍を経て、小学3年生から、宿泊学習など校外での活動が少しずつ戻ってきました。医療的ケアが必要なゆうきくん(仮名)にとって、学校の外で過ごす時間は「参加したい気持ち」と「体調管理の不安」が常にセットになります。

――宿泊学習は、ゆうきくんご本人も楽しみにされていたのでしょうか。

お母さま:

はい、とても楽しみにしています。係が決まったり、みんなで計画したりするのも含めて、本人の中で「学校のイベント」って特別みたいで。レクリエーション係になったり、役割があるのも嬉しいみたいです。毎年その時期になると、てるてる坊主を飾ったりして、すごくワクワクしていますね。

――一方で、保護者としては心配も大きいのではないでしょうか。

お母さま:

正直、ドキドキします。宿泊学習は11月頃の寒い時期なので、体調を崩しやすいんです。
コロナ禍も経験しているので、「風邪をひかないかな」「当日まで体調がもつかな」って、毎年ビリビリするような気持ちで準備しています。

――宿泊学習の同行体制は、どのように決まっていくのでしょうか。

お母さま:

学校としても初めて行く場所や初めての活動は、まず一回目は「親御さんも一緒に来てほしい」と言われることが多いです。校外学習でも、最初は夫が同行して状況を見て、二回目からは看護師さんだけでも大丈夫という形に変わっていきました。

ただ、気管切開のカニューレ(管)を固定する紐(※機器まわり)の交換や入浴など、どうしても家庭の介助が関わる場面があります。看護師さんも女性の方ですし、そこは「お父さんも一緒に」ということで、今は毎年、夫と看護師さんの二人体制で同行しています。夫は結構楽しみにしていて、家族としての思い出にもなっています。

――看護師さんが同行することで、宿泊学習への参加はどんな意味を持つと感じますか。

お母さま:

「医療的ケアがあるから無理」ではなくて、支えがあれば参加できる。そこがすごく大きいです。本人が楽しみにしている行事に、親が無理して何とかする形ではなく、学校と看護師さんと一緒に体制を作って参加できる。そういう経験が積み重なること自体が、とてもありがたいですし、本人の自信につながっていると思います。

地域で学び続けるための仕組みづくり

「前例がない」から始まった通学支援。医療的ケア児の学校生活を支える現場


└水分を注入する前のシーン

――今後、どのようなサポートがあればより安心だと感じますか。

お母さま:

先輩たちの事例や国、行政の支援が拡充してきた一方で、地域によって支援体制にまだまだ差があると感じています。どこに住んでいても、必要なサポートが当たり前に受けられる仕組みが整ってほしいです。

――同じように医療的ケア児の通学に悩む保護者へ、伝えたいことはありますか。

お母さま:

一人で抱え込まないでほしい、と伝えたいですね。学校や通い方など選択肢が増えてきたので、実際に色々と見てみることも大切だと感じます。「無理かもしれない」と思っていたことも、支援があれば実現できる場合があります。身近な看護師さんや相談員さんなど、相談できる先があることを知ってほしいです。

――ゆうきくんに、これからどのような学校生活を送ってほしいですか。

「前例がない」から始まった通学支援。医療的ケア児の学校生活を支える現場


お母さま:

友だちと笑ったり、時には悔しい思いをしたり、いろいろな経験をしてほしいです。医療的ケアがあっても、ひとりの子どもとして、たくさんの挑戦をしてほしいと思っています。

おわりに



医療的ケア児が地域の学校で学ぶためには、家庭だけでも、学校だけでも十分とはいえません。通学支援や学校付き添いは、医療的ケアを届けるだけでなく、子どもが社会とつながり続けるための仕組みでもあります。

ソイナースでは、小児経験のある看護師がチームで関わり、在宅での生活や普段の様子も踏まえながら、子どもと学校双方にとって安心できる看護体制を構築しています。

ゆうきくんの一日は、特別な出来事ではなく、必要な支えがあれば実現できる“もう一つの当たり前”です。その当たり前を、どの地域でも実現できる社会へ。今後の体制づくりを、ソイナースも一緒に考え、サポートしていきたいと考えています。
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