YKK APは、メーカーとして商品を製造・販売するだけでなく、お客様のもとで「正しく施工され、生涯にわたってその価値を発揮すること」までに責任を持つことも役割だと考えています。その想いを現場の最前線で実行しているのが、“フィールドエンジニア(以下、FE)”です。
■「フィールドエンジニア」とは
施工品質に責任を持ち、現場の課題を改善し、商品改善に繋げる技術集団。フィールドエンジニアの役割を説明するにあたり、まずはフィールドテクニカルセンター(以下、FTC)について紹介します。FTCは、商品の省施工化や施工作業負荷軽減のための施工治具の開発や、新商品の施工検証、流通店の競争力強化に向けた技術支援や、商品の品質確保のための組立・配送等の研修指導など、幅広い業務を行っています。そのFTCに所属し、施工現場の最前線で活躍する技術者がFEです。全国13拠点で39名が活動しています。FEグループは、樹脂窓やリフォーム・エクステリア商品の施工に関する技術支援や、代行店の品質監査、商品の改善点を抽出しFTCへのフィードバックも実施しています。2000年頃、FEの前身が設立された当初は、現在の役割とは大きく異なっていました。当時は、サッシを組み立てて窓の完成品を作る役割を担っており、この経験を通じて培われた組み立てのノウハウは、現在の流通店の作業改善提案などの礎となっています。その後、時代とともに役割は変化し、商品のメンテナンスや不具合の原因調査が中心となった時期がありました。「鍵がかからない」などの相談内容を現場ごとに都度対応していましたが、大元を正さないと不具合は減っていかないとの気づきから、不具合発生を未然に防ぐために施工者への施工研修会などの「技術支援」を強化しました。その結果、2016年以降は「不具合調査」よりも「技術支援」が占める割合が多くなり、およそ8割を占めるようになりました。

FTCとFEについて説明する山本センター長
これらの技術支援や不具合対応を行う根底には、「メーカーとして“モノづくり”だけではなく“施工”まで」という想いがあります。
■FEグループの具体的な活動:現場の声に応える
FEの活動は多岐にわたりますが、その軸には常に「現場」と「お客様の声」があります。商品の施工研修会と施工現場でのサポート
商品がもつ本来の性能を発揮できるよう正しく施工してもらうため、商品を実際に取り付ける大工や流通店などの施工者向けに、施工方法を伝える研修会を全国で年に約1800回実施しています。特に、リフォーム商品である内窓の施工については、2023年から始まった国土交通省・経済産業省・環境省が合同で実施する住宅省エネキャンペーン(※)による補助金の影響で、異業種からの参入が増えています。そこで、新しく内窓を取り扱う施工者が正しく現場調査・施工ができるよう、実際の商品を使っての研修会を自社の研修施設や施工者の事務所で実施します。また、初めての施工現場ではFEも同行するなどのサポートを行い、不安に思う施工者を陰ながら支えています。
内窓の施工研修会の様子:参加者が熱心に学ぶ

実際の商品を使用して説明
現場の「生の声」の収集とフィードバックで商品の改善へ
研修会や施工現場での対話を通じて、施工者から商品の扱いや施工に関する課題や改善要望などの現場の貴重な情報を、直接収集しています。施工者との対話について植木さんは、「我々は工務店さんや流通店さんと非常に近い関係で、そのため直接生の声を聴くことができます。お客様からは時には厳しいご意見もいただきますが、改善を行うことで感謝の言葉をいただけるのがFEのやりがいです」と語ります。これらの情報は、全てFTCに集約され、新商品の開発レビュー時に過去のトラブル情報と合わせて品質目標の確認に活かされています。
FEのやりがいを語る植木さん
植木さんが関わった商品改善事例として、連窓FIX窓の脱落防止金具の形状変更があります。元々の仕様では、連窓のFIX窓にガラスを入れる際に、ガラスが先に取り付けられている金具に当たってしまい、ガラスが割れるリスクがありました。そこで、改善要望を上げて、ガラスを入れた後からでも取り付けられるように金具の形状を変更。

山本センター長は「我々は施工だけでなく実は、商品のことも見ています。FEが現場の声を拾い上げ、FTCがその情報を集約し商品開発と商品改善について討議し、施工及び商品改善に携わる。より安全で、より効率的に施工ができるように必要があれば、商品の形状を変えてもらう。施工をサポートする治具も作る。施工者に寄り添いたいという想いです。おこがましいですが、少しでも楽になってもらえたら」と語ります。
施工方法の改善提案
お客様の課題に対して、商品改善だけでなく、適切な施工方法を提案することもあります。砂澤さんは、樹脂窓の網戸レールを取り付けるための切り欠き作業(部材の一部を切り取るなどの加工作業)が難しいという現場の声を聞き、実際に自分で試したところ、カッターの刃が反れてしまい窓を傷つけやすいという難しさを実感しました。そこで、ケガキノギスを使うより効率的で安全な方法を検討し、施工店へ提案したところ納得していただけたとのこと。このように、より安全で効率的な「施工方法」や使用する「道具」の提案まで含めた現場の課題解決に取り組んでいます。
施工方法の提案について語る砂澤さん
これらの活動を通じて、FEは現場対応だけでなく、施工方法の改善、商品改善、作業補助具である治具の開発につなげることで、お客様の作業効率向上や安全性確保をサポートし、ひいてはYKK AP商品の品質担保と信頼向上に貢献しています。お客様の声に耳を傾け、施工者の視点に立って考えるFEの想いが、活動の根底にあります。
■“感動”をお届けできる技術者を目指して
FEの活動と商品改善の成果もあり、不具合件数は2015年から9年間で着実に減少し、2024年度には約80%減少し、顧客満足の向上とYKK APブランドへの信頼獲得につながっています。今後の意気込みについて「FEの活動を通して、お客様に安全・安心を届け、施工者とお施主様双方に『YKK APの商品を選んでよかった』とご満足いただけるように努めたい」と語る植木さん。建築業界全体が直面している少子高齢化による施工者不足という課題に対し、デジタル化やAIの活用も視野に入れていきます。山本センター長は「先輩たちから受け継いだものを後輩に伝え、現場経験を積んだ『お客様に“感動”をお届けできる技術者』を育てたい」と自身の目標を語っています。
FEは、現場の最前線でお客様に寄り添い、その声に耳を傾け、商品価値の最大化と現場の課題解決に貢献する存在です。彼らの活動を通じて、YKK APはモノづくりから現場での取り付けまで責任を果たし、お客様一人ひとりの満足度向上に繋げることで、更なる企業価値の向上を目指します。
(※) 2050年カーボンニュートラルの実現に向け、家庭部門の省エネを強力に推進するため、住宅の断熱性の向上や高効率給湯器の導入等の住宅省エネ化を支援する補助事業の総称。