2010年代、日本のヒップホップは新世代の登場で確実に作品の質と幅を拡げたと言える。BAD HOP、KANDYTOWN、もしくはFla$hBackSといった多くの新しい才能が新しい意識と新しいビートと共にシーンに話題を提供した。

INTERVIEW:STUTS
音楽表現の原体験としてのヒップホップ
━━今日はよろしくお願いします。まずはSTUTSさんの育った環境からの音楽的な影響があれば伺いたいです。家では色んな音楽が流れているというわけではなかったのですが、現行のポップスではなく、山下達郎さん、ユーミンさん、あとビートルズ(The Beatles)とか。基本的にはその3組のアーティストがよく車とかで流れていたような感じでした。━━そこからどのようにヒップホップ を聴くようになったのでしょうか?小学校の頃に音楽好きな友達がいてあるCDを貸してもらって、その中に色々日本の音楽が入っていたんです。その中にCHEMISTRYさんの楽曲が入っていて、気になって自分でCHEMISTRYさんのファースト・アルバムを買ったんです。そこにDABOさんをフィーチャリングした“BROTHERHOOD”という曲があって初めてヒップホップに触れて。その曲をずっと聴いていたらちょうどRIP SLYMEさんとかKICK THE CAN CREWさんとかがテレビとかでも流れ始めるようになって、それでハマっていきました。それまで音楽を能動的に聴くっていうこともあまりなかった。
DARTHREIDER - SUPER DEAD
MPCを通した自己表現から生演奏との出会いまで
━━その頃から後のご自分のソロ、例えば第一作『Pushin’』の構想はあったのでしょうか?そうですね。普通にインスト曲半分、ボーカル曲半分のアルバム作りたいなっていうのは思っていましたが、自分の作品を作りたいという思いが芽生え始めたのも、自分でMPCを叩くようになったからかなと。他のアーティストのためのプロデューサーというよりは、どちらかといえば自分も表現したいものがあるという意識が、MPCでライブし始めてから芽生えました。━━大学の卒業旅行で行ったニューヨークのストリートでMPCを叩くパフォーマンスをして、それをYouTubeで発表したのが2013年ですね?あの動画がきっかけで、2014年とか15年ぐらいにはヒップホップのイベントだけでなくバンドのイベントにも呼んでもらえるようになり、バンドの方々とも知り合えるようになりました。その流れで今のレーベルに誘ってくださったA&Rの方やAlfred Beach Sandal(北里彰久)さんとも出会って制作が始まったので、あの動画は大きなきっかけです。Alfred Beach Sandalさんと作った最初の曲は“Soulfood“ですが、生楽器でガッツリ歌える方と一対一で作るっていうのは初めてで、僕の家でずっとセッションしながら作ったこともあり、トラックで生楽器を使うことへの興味は強くなりました。
STUTS – Conflicted
━━2016年にリリースされたファースト・アルバム『Pushin’』のタイトルの現在進行形の動詞は何よりもまずMPCという機材のパッドを叩くことが思い浮かびますが、“押していく、プッシュしていく”という気持ちや行為にも繋がり、2年後にはセカンド・ソロ・アルバムとしてよりカラフルな『EUTOPIA』がリリースされます。STUTSさんのビートとトラックは、例えば、感情を揺さぶるようであっても、ただ寂しくメランコリックなのではなく、鼓舞していく、奮い立たせていくように感じます。そう感じてもらえて嬉しいです。
星野源 – Pop Virus
━━中学生の時に1人でトラック制作を始めた少年がビートを通じてまずは楽器を弾くミュージシャンと相対して音楽を作る経験をした後、次には、バンドやセッションは人間同士の音楽を通しての関係だと思いますが、そういう場へ辿り着く、というようにやや図式的に理解してしまいます。バンドに多幸感みたいなものはあるのでしょうか?多幸感も大きいんですけれど、それよりも今までに経験したことがない感覚が大きいです。こうやって自分が聴いていた音楽って出来ているのだという感覚と、自分がその一部になってるみたいな、とても新鮮な感覚でした。一人でビートを作っているのとはだいぶ違う感覚でしたね。

作品ごとに浮かび上がる「ヒップホップを知ってほしい」というポジティヴな内面
━━『Eutopia』の制作は、内面的にもファーストとは異なった時期に制作されたといえるでしょうか?『Pushin’』は心境的にもそれまでのベストアルバム的な感じというか、一個の作品というより、それまでに出来たいいものをまとめたみたいな感じです。2枚目はまず“EUTOPIA(実在するユートピア)”というテーマを思いつくきっかけになった曲が出来て、このテーマで作ろうという感じで進めました。だから、『Eutopia』からが本当のアルバム作りだったのかなっていう感じです。━━ユートピアは実在するのだというテーマというか、確信ですが、それは音楽と結びついた確信なわけですよね? 今回の『Contrast』にもそれは浮かび上がり表れていると感じます。ありがとうございます。良かったです。辛い時があってもやっぱり音楽で違う世界に行ってたみたいな原体験があったので、自分が音楽作る時にもそう考えながら、そういう感覚になりながら作っているところがあるかな、と思います。━━本作『Contrast』の前には、コマーシャル、リミックス・ワーク、映画音楽に並んで、BIMさん、RYO-Zさんとの”マジックアワー”がありました。“マジックアワー”は、RYO-Zさんというヒップホップにハマったきっかけにもなった方と曲を作らせてもらったので、リスペクトとオマージュを込めたものをという気持ちがまずあって、それに今っぽいヒップホップな感じを混ぜたいと思って。やっぱり、もっとみんなヒップホップを好きになったらいいのに、という気持ちがすごくあるんです。本当にそれはずっと思っていて、そこに少しでも、自分がいい影響を与えられる存在になったらなっていうのは思います。そんなのおこがましいんですけれど。ちゃんと格好いいヒップホップが、もっと日本にも浸透して、みんな聴くようになったらいいのになっていう気持ちは、音楽を作り始めた時からある気持ちかもしれません。━━最後に今回のEP『Contrast』について伺います。ここでは色々なチャレンジをなさっています。参加アーティスストは『Eutopia』から高橋佑成さんのようなミュージシャンの方々、SUMINさん、鎮座DOPENESSさん、Daichi Yamamotoさんといったゲストですが、数が多いとは言えませんが、いずれも大変自分の世界を持った方々で興味深い選択だと思います。そして、全体として、もし世界にヒップホップという音楽がなかったら、STUTSさんの『Contrast』もなかったであろうという意味も含め、サウンドからヒップホップを感じます。嬉しいです。自分が作っている感覚としてはずっとヒップホップを作っているっていう感覚なんですけれど、今回は確かに4つ打ちっぽい曲とかもあるので……。『Contrast』は、やはり、普段生活している上で色々なことがあってそう感じることも多く、“境界線”や“境界”ということをテーマに作りたいなと思っていたんです。当たり前のことなんですけど、自分の感情が動く時のことを考えても、自分の中に色々な自分がいたり、同じ場で生活している人たちでもそれぞれで見えている世界が本当に違ったり。そういうテーマについて考えることが多かったんです。でも、境界を英語にすると”Boundary”とかはっきりと分け隔てる壁みたいなイメージになるので、それとは違うなと思って、”Contrast”と名付けました。この単語が一番イメージに合ったので。
STUTS - Mirrors feat. SUMIN, Daichi Yamamoto & 鎮座DOPENESS
━━今回のEPで新たにチャレンジされている点でいえば、STUTSさん自ら歌とラップも披露されていて、私は坂本龍一さんの初期の作品でのご自身のヴォーカルが好きなのですが、個人的にはそれを思い出したりしました。ありがとうございます。昨年秋くらいから自分が歌った楽曲を試しに色々作っていて、その中から今回の2曲が産まれたんです。できてから1ヶ月くらいは誰にも聞かせられなかったのですが、徐々に友達に聴いてもらったりしてこれなら発表してみてもいいのかもと思いはじめて。自分では未だに客観的には聴けないんですが、結果、パーソナルな面がすごく強くなったミニアルバムかなと思っています。そういった意味でも今までの作品とは違うと思います。今までの作品は、プロデューサーとしての自分が作品を客観的に見ているという感じだったのですが、今回は作品と自分との距離が近くて客観的に見られない、そんな感じがすごくあります。今回の作品は、今のタイミングでもっとプロデューサー的なものを作った方が良かったかもしれないとは思いつつ、これを作らずにはいられなかったという感じなんです。その理由になった大きな心境の変化っていうのはなんだろう……。今まで挑戦してみたかったけどできなかったことが、色々な方々と曲を作らせてもらった経験から、色々なことを吸収させてもらったおかげで形にできるようになったかもしれないなって思った……、だからこそ、やってみたって感じです。そういったものを今回ミニアルバムという形でまとめ上げられたのは良かったのかなと思います。━━30年後も自分が生きていたら(笑)、愛聴していると思います。今日は本当にどうもありがとうございました。

Text by 荏開津 広Photo by Yuki Aizawa

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RELEASE INFORMATION

Contrast
2020.09.16(水)STUTSPECF-5004Atik Sounds Atik Sounds/SPACE SHOWER MUSIC¥2,000(+tax)購入・ダウンロード・ストリーミングはこちら
EVENT INFORMATION
STUTS From Atik Studio
2020.09.17(木)ゲスト:武嶋聡2020.09.24(木)ゲスト:北里彰久 / 鎮座DOPENESS2020.10.01(木)ゲスト:coming soon視聴はこちら

STUTS "Contrast" Release Live
出演:STUTS with 仰木亮彦 (Gt), 岩見継吾(Ba), 吉良創太(Dr), TAIHEI(Key)LIVEWIRE 配信ライブ2020.10.26(月)OPEN 16:15/START 17:00見逃し配信:2020.11.02(日) 23:59までTICKET:2020.11.02(日)21:00までADV ¥2,000 DOOR:¥2,500TICKET:LIVEWIRE

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