ヒップホップのフィールドのみならず、さまざまなフィールドで縦横無尽に活動を続けてきたRyohu。そんな彼のソロデビューアルバム『DEBUT』が2020年11月25日(水)にリリースされた。
DEBUT
Interview:Ryohu×TENDRE

Ryohu「音楽家としての距離感はいちばん近かった」
──まず読者の方にはお二人の出会いから説明した方がいいと思うんですけど、お互いの初対面の印象って覚えていますか?Ryohu 僕は覚えてるよ!河原太朗(以下、河原) え、初対面のこと?Ryohu いや、初対面は覚えてないかも(笑)。河原 覚えてないよね。でもそれこそ出口さん(下北沢GARAGEの元店長で、現在はペトロールズが所属する〈ENNDISC〉代表)のイベントかな。Ryohu 太朗ちゃんはまだTENDREって名乗ってない時だよね。河原 全然、前。そのときはいわゆる、GARAGEの地下イベントみたいなやつでTK Family!! (高橋メロン、栗原パンダ、Ryohu、AD再騰二三夫、赤ちゃんズから成るユニット)と一緒だったんだよね。その時に出口さんに「太朗、サックスが吹けるなら吹いてよ」って言われたんだよ。Ryohu よくあるパターンだね(笑)。河原 でもそのあとにコースト(新木場STUDIO COAST)で一緒にやったセッションが俺はいちばん色濃く残ってるかな。
LIVE FILE:呂布 - "All In One EP" Release Party@shibuya WWW
──2016年あたりから一緒に制作をしていたことになる。河原 そうですね。制作の前くらいから楽器を持って行って、何かしら録って遊ぶみたいなことをしてました。──そうなっていったのはどういう流れか覚えてますか?Ryohu それまでも曲を作ってはいたんだけど、サンプリングのみで、MPCだけで完結していて。でもちょうどそのあたりから、もう少し音楽的な作り方はないかな? って思っていた時期だったんですよ。それこそGARAGEにはたくさんのミュージシャンの方たちがいて、それを目の当たりしてるわけで。もっと音楽的に自由度の高い曲を作りたいと思っていた時に一緒にいたのが太朗ちゃんだった。河原 気づいたらRyohuのスタジオに遊びに行ってたんだよね。Ryohu 一番近くにいた気がする。歳もそうだけど、音楽家としての距離感もいちばん近かったと思う。
Blur-EP
──それは制作の面で?Ryohu そう。割とヒップホップじゃないアプローチをしたり、楽器を多用したこともあって、いろいろと可能性を感じたんですよね。



河原「守るための剣と闘うための盾を持とうみたいなテーマがなんとなくあったんです」
──Ryohuくんは当時を振り返って、太朗くんがソロアーティストやプロデューサーとしても活躍するという予感はあったんですか?Ryohu そこまでは考えてなかったけど、当時の太朗ちゃんはampelというバンドをやっていて。「バンドだけじゃなくてもよくない?」とはずっと思っていた。
AAAMYYY - BLUEV (Feat. Ryohu)
──振り返ってみるとすごいですね。Ryohu いわゆる第一章じゃないですか。河原 そうだね。ビギニングみたいな感じはある。Ryohu その第一章が終わって、一緒に制作をしつつもTENDREとAAAMYYYが(ソロアーティストとして)どんどん前に出てきたわけですよ。そうなってくるとスケジュールを合わせるのも難しくなってくるし、僕はあらためてDJセットのスタイルを確立していこうと思ったんです。そして2人とも着実にステップアップして今に至ってるんだと思う。今のこのタイミングは二人にそれぞれの活動を頑張ってほしいと思っているから。──それぞれの音楽的なアイデンティティを見つける時期でもある。Ryohu そう! 二人がRyohuありきでみられるのも違うと思うし。今みんなちゃんと1本柱として立っているからそれは誇っていいと思う。──今年お互いフルアルバムをリリースしたのもめちゃくちゃ大きいですよね。Ryohu すごいよ、太朗ちゃんは!河原 いや、すごいよ、Ryohuは(笑)。でも二人に共通してるとこがあって。ギリギリまで粘るし、曲が出来ない時は出来ないというか。僕たちが作るデモってデモでもないんですよね。リスナーからしたら、雰囲気さえ分かればいいですというものであったとしても、そこにちゃんと費やす時間を濃くしていきたい。そういう気持ちをお互いが強く持ってるんです。だからアルバムを完成できたという意味で言えば、本当にお互いがお互いで喜び合ってる実感は強くあるかもしれない。Ryohu それこそ今回のアルバムはお互いのレコーディングに参加してましたからね。河原 Ryohuとの制作はとりあえず彼のスタジオに遊びに行って、YouTubeで音楽を聴きながら話しつつ、Ryohuがアイディアを出していくんです。そのやりとりは長い期間やっていたから、やっとこれが形になったんだなとか、何年か前に作ったものがこういう形になったのかっていう発見が多かったですね。──今回、二人が作ったアルバムは、自分たちの独立した音楽の像みたいなものを確立しながら、ポピュラリティーみたいなところにタッチしていく気持ちが乗ったものでもあるなと思うと同時に、二人の音楽人生そのものを描いたようなアルバムでもあると思います。河原 うん、本当にそう。自分はTENDREを始めて今年で3年が経って、自分自身に何ができるか、例えばポピュラリティーが必要な場面に対して、あるいはファンに対して、そうじゃない人に対して、自分はどういう役目でいたらいいんだろう? ってすごく考えいて、守るための剣と闘うための盾を持とうみたいなテーマがなんとなくあったんです。人にはそれぞれの考え方があると思うんだけど、別に人に対して寛容でいることだけが平和ということではなく、厳しさもひとつの優しさなんじゃないかと思っていて。そうやって人との寄り添い方にもいろいろあると思うんです。自分にも孤独の時がきっとあるし、隣にも同じような人がいる。そこでもちろん助け合うときは助け合うけど、きっと自分と向き合った先に寂しくない人生があるはずだから。だからこそ、今はこうしっかり考え抜こうというか。特に今年はいろんなことが浮き彫りになりましたから、そういうことは考えましたね。そのなかで自分がどうやったら平常心でいられるかって言ったら、まず自分を落ち着かせることもそうだし「一旦、落ち着こう」ってみんなに投げかけたいなと思った。「自分はこういう風に思ってるんだよね」という一つの投げかけとしてこのアルバムができたと思ってるし、その先に意見交換ができるアルバムになればいいという思いがありました。本当に完成できてよかったという感じですね。
LIFE LESS LONELY
──RyohuくんはTENDREのアルバムを聴いてどんなことを思いましたか?Ryohu 太朗ちゃんは僕の見えないところでTENDREとしていろんな経験をしていて。河原太朗としての人間の深みや厚みみたいなものがちゃんとグラデーションとしてしっかり今回のアルバムで出ているなと思います。音楽として人が滲み出てくる感じですかね。アルバムを聴いて太朗ちゃんにLINEで感想を送ったんだよね。河原 きた。あれは、友人からもらった連絡のなかでいちばん嬉しかった。──太朗くんは今回のアルバムにはやはりRyohuくんとAAAMYYYさんが欠かせないと思った?河原 いや、そこは意外といつも通りで。Ryohuに関しても作っていたトラックがラッパーとの相性が良さそうだったから、本当にすぐ連絡を取ってって感じだよね?Ryohu 話が来た翌日にはラップを書いて送ったので。自分の曲の時もそのスピード感で書けたらいいのにって思いながら。河原 そこがいつも通りの感じが逆に新鮮で、Ryohuとの曲のタイトルを“FRESH”にしたんです。今回のアルバムは特別なものにはなっているんだけど、ここまで培ってきたものをちゃんと今の雰囲気を持ってアウトプットできた実感があるから。それを記録として残せたことが嬉しいですね。


河原「自分たちが爺さんになっても同じことを言ってたら面白いなって」
──Ryohuくんはどうですか? 自身の1stソロアルバムをリリースしたことに関して。すごく感慨深いと思いますけど。Ryohu 去年までだったらリリースライブとかがあるわけじゃない? そういうのがないからさ……。たしかに僕も感慨深いって思ってるんです。このアルバムを聴いてくれたみんなと同じように。完成した達成感といろんな思いがリリース直後に出てきて、それが最近より増してもきているから、その思いをライブで吐き出したいなって思うようになってるんだよね。でもその思いも噛み締めつつ、個人的には今年は自分の子供が生まれたり、30歳になったりと、いろいろいいこともあったので。これがいい締めくくりとスタートなのかなって思いますね。──こうして2020年にマインドをシェアできたことがお互いにとっても幸福なトピックだっただろうし。Ryohu 本当にそうですね。河原 思い出すのはRyohuの車に乗っけってもらって、そこで「ロイル・カーナー(Loyle Carner)の“Ottolenghi”って曲がすごく好きなんだよ」って話をして、Ryohuに聴かせた時に、車内のムードがすごく曲と合っていたんですよ。それをお互いしみじみ「この感じいいね」って言ったのを覚えていて。その瞬間にちょっと大人になったような気がした(笑)。自分たちが爺さんになっても同じことを言ってたら面白いなって。Ryohu いいね(笑)。出会って10年くらい経つしね。河原 Ryohuのアルバムをトータルで聴いた時に思ったのは、景色が浮かんだことで。自分的にはRyohuの軌跡の全てを落とし込めた気がするんですよね。『DEBUT』という名前にふさわしいアルバムってこういうことだなって思います。──来年に向けてはどうですか?Ryohu まだリリースして間もないからあんまり分からないけど、最近は「音楽最高!」って思ってます。今回のアルバムを作って、いい作品を作りたいなってより思ったかも。──これだけ音楽的に人生を描いたアルバムを作ったなら、なおさらね?Ryohu うん、だからよりいい作品を作るためにじっくり考えたいです。自分の中に浮かんだアイディアとかは太朗ちゃんやいろんな人に話しながら自分のなかで精査していこうかなと。あとは単純に音楽を聴いて吸収したい。太朗ちゃんの曲を聴いても参考になる部分もあるし。──いいですね。太朗くんはどうですか?河原 今回のアルバムができたからこそ「次はこういうアプローチで作ってみよう」とか、自分の中でアイディアがたくさん生まれてきていますね。来年は、演奏も含め自分で全部やらなくてもいいなって思っていて。ちょっとシンガーモードに行ってみたい気持ちもあるんです。別にマルチだからいいってものでもないし、すべてにおいて完璧なわけでもないですから。自分が好きな音はもちろん自分で作っていきますけど、自分が作り上げる像よりプラスアルファで広げられる作品を来年は作っていきたいですね。──楽しみですね。個人的にはいつかAAAMYYYも加えて、3人の作品を聴いてみたいなと。河原 ちなみにいま作ってますよ。AAAMYYYも加わった曲を。──それは誰の曲になるんですか?河原 それはまだ決めてない(笑)。Ryohu もう三人で取り合いですよね(笑)。僕の曲になるかもしれないし!河原 トラックを作ってるのは俺だけど、誰のものになるかはわからない(笑)。三人単位のものかわからないけど、今後、三人が音楽で戯れている曲はそのうち出てくると思います。Ryohu やっぱ、パイセンが旗を振ってくれないと! 河原 10年経って初めてパイセンって言われたよ(笑)。

取材:三宅正一文:笹谷淳介写真:堀哲平取材協力:下北沢GARAGE


TENDRE河原太朗のソロ・プロジェクト。2017年『Red Focus』にてデビューし、今年9月にはRyohu、新井和輝(King Gnu)といった盟友も参加した2ndフル・アルバム『LIFE LESS LONELY』をリリース。Charaや堀込泰行、三浦透子といったアーティストへの楽曲提供・プロデュース、SIRUPやベニー・シングスとのコラボレーションなどを行う他、J-WAVE "TOKYO MORNING RADIO”では別所哲也氏の代打としてナビゲーターを務めるなど、その活動は多岐に渡る。HP|Twitter|Instagram|Spotify|Apple Music
INFORMATION



DEBUT
2020年11月25日(水)Ryohu初回限定盤(2CD)¥3,800(+tax)品番:VIZL-1824POS:4988002894802通常盤(CD)¥3,000(+tax)品番:VICL-65438POS:4988002894819VOS/SSC専売盤 初回限定盤(2CD+Tシャツ)¥5,800(+tax)品番:NZS-823POS:4988002894826収録曲:01 The Moment02 GMC03 Heartstrings04 You05 Tatan’s Rhapsody06 Somebody Loves You07 No Matter What08 Foolish09 Anytime, Anywhere, Anyone10 True North11 Level Up12 Eternal13 Rose LifeDisc2 *初回限定盤付属EP『Collage』01 Flower02 Thread03 CloudApple MusicSpotify

LIFE LESS LONELY
2020年9月23日(水)TENDRERALLYE LABEL/SPACE SHOWER MUSIC収録曲:01. LIFE02. WINDY03. FRESH feat Ryohu04. DUO05. JOKE06. NOT EASY07. HOPE08. LADY09. TAKE10. LONELY詳細はこちら
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