世界自然遺産の島である屋久島をテーマに創作活動を続けてきたコムアイとオオルタイチによるプロジェクト、YAKUSHIMA TREASURE。彼らとDentsu Craft Tokyoおよび辻川幸一郎(映像監督)のコラボレーション作品『YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE from YAKUSHIMA』が先日発表された。
レポート:『YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE from YAKUSHIMA』SUPER REPORT @SUPER DOMMUNE

YAKUSHIMA TREASUREに息づく死生観
YAKUSHIMA TREASUREの起点は2019年に遡る。同年、コムアイとオオルタイチは屋久島を舞台に楽曲制作を行い、その成果はYouTube Originalsで公開された映像作品『Re:SET』と6曲入りのEP『YAKUSHIMA TREASURE』として発表された。同じ年の8月、YAKUSHIMA TREASUREは同名義として初のワンマンライヴを恵比寿LIQUIDROOMで敢行。会場の中心には、屋久島の自然を彷彿とさせる緑生い茂るステージが設置され、目前で繰り広げられる壮大な世界観に多くのファンが魅了された。コムアイ「リキッドルームの次は屋久島でライヴをやろうと思っていたんですよ。でも、コロナでできなくなってしまって。それでマネージャーが菅野さん(Dentsu Craft Tokyo)に相談したんです」菅野薫「ただ、ストリーミングとは違うやり方を考えようということだったんですよね。なおかつミュージックヴィデオとも違うし、通常のライヴとも違うものをやろうと。僕は以前ビョークと全編VRの作品を作ったこともあったので、最初の段階ではVRもアイデアのひとつとしてあったんです。


YAKUSHIMA TREASUREの死生観は、コムアイが沖縄・久高島を通して得られたインスピレーションが源泉となっている。久高島はニライカナイからやってくる神々が最初に降り立つとされる場所。ニライカナイとは海の彼方にある異界のことで、沖縄や奄美では生者の魂はニライカナイよりやって来て、死者の魂はニライカナイへと帰っていくという一種の他界概念が息づいている。“殯舟”と“東”の根底にあるのは、ニライカナイの概念と結びついた死生観だ。琉球文化圏とヤマト文化圏の境界線上の島である屋久島はニライカナイの信仰圏ではないが、YAKUSHIMA TREASUREは屋久島に軸足を置きながら南方の島々に伝わる死生観を捉え直そうとしている。コムアイとオオルタイチが膨らませたそうしたテーマを元にしながら、さまざまなクリエイターたちがアイデアと技術を持ち寄ることで本作は広大な世界観を獲得している。
※漫画家。『生物都市』(1974)で第7回手塚賞を受賞。『暗黒神話』(1976)などの記紀神話を基にした作品なども手がけている。




神秘的なライヴとブラウザをつなぐインタラクティブな仕掛け
さまざまな時間の概念が交錯するこの作品のなかで極めて重要な役割を果たしているのが、ガジュマルの森に迷い込んでしまったかのような視聴体験をもたらす撮影技術である。LiDARを使った3Dスキャン、写真から3Dモデルを作成する手法であるフォトグラメトリー、Kinectを使ったボリュメトリックキャプチャなど、さまざまな技術を組み合わせて空間がスキャンされているのだ。その意味で本作は「撮影」されているのではなく、「スキャン」された作品といえる。また、さまざまな試行錯誤を繰り返した結果、本作ではポイントクラウド(点群データ)の表現が選択されている。点描画のように点の集合体で表現されるガジュマルの森は、まるで生命体を構成する細胞のようでもあれば、屋久島の大地を覆う苔のようでもある。そのようにさまざまな技術のもとで完成したデータはウェブブラウザ上で公開される。そこでは視聴者のアクションも反映されるようになっており、その点においても『生と死のサイクル』という根本のテーマが意識されている。黒川瑛紀(フロントエンド・エンジニア)「ユーザーがライヴを観たときのマウスのデータがサーバーに保存されるようになっています。他の人が後から観たとき、前の人のデータが反映されるようになっているんですね。




本作『YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE from YAKUSHIMA』は、コムアイとオオルタイチが産み出したテーマを元にしながら、さまざまなクリエイターたちが関わることで実現した作品である。クリエイターたちに共通していたのは、リアルなライヴの場の単純な代替ではない音楽体験を追求しようという意識だ。こうした作品が、文化庁の文化芸術収益力強化事業の一環として行われたことは重要な意味を持っている。新型コロナウイルスの感染拡大によって表現に関わるあらゆる分野がダメージを受けるなか、どのような表現を生み出すことができるのか。本作がテーマとする「死と再生を巡る死生観」とは、アフター・コロナの時代に向けた新たなヴィジョンともなり得るだろう。この作品には今後の世界を生き抜くうえでのさまざまなヒントが隠されているのだ。
YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVEfrom YAKUSHIMA Official Trailer







Text by 大石始Photo by Masanori Naruse
INFORMATION

YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE from YAKUSHIMA
配信日時:2021年2月11日(木)11:00~3月31日(水)視聴形式:ウェブ配信料金:¥500*詳しい視聴方法、推奨環境、注意事項に関しては、『YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE from YAKUSHIMA』公式サイトをご確認ください。文化庁委託事業「文化芸術収益力強化事業」主催:文化庁特定非営利活動法人 映像産業振興機構(VIPO)yugyo企画演出制作:Dentsu Craft Tokyo【スタッフリスト】クリエイティブディレクター:菅野 薫(Dentsu Craft Tokyo)映像ディレクター:辻川 幸一郎(GLASSLOFT)アートディレクター/デザイナー:坂本 政則(Neuf)プロデューサー:藤岡 将史(Dentsu Craft Tokyo)プロデューサー:宮下 研也(Dentsu Craft Tokyo)プロデューサー:山下 誠(Dentsu Craft Tokyo)プロダクションマネージャー:北本 航(Dentsu Craft Tokyo)プロダクションマネージャー:平野 瞭介(Dentsu Craft Tokyo)プロダクションマネージャー:木ノ内 真人(Freelance)テクニカルディレクター:村田 洋敏(Dentsu Craft Tokyo)テクニカルディレクター:堀 宏行(PAN)エンジニア/プログラマー:黒川 瑛紀(Dentsu Craft Tokyo)エンジニア/プログラマー:田辺 雄樹(Dentsu Craft Tokyo)エンジニア/プログラマー:朝倉 淳(Dentsu Craft Tokyo)ウェブディレクター:佐藤 慧 Dentsu Craft Tokyo)アシスタントエンジニア:成瀬 陽太(Dentsu Craft Tokyo)テクニカルサポート:亀村 文彦(LOGOSCOPE)バックエンドエンジニア:高野 修(S2 Factory)インフラエンジニア:栗山 淳(S2 Factory)ビハインドザシーン ディレクター:中島 昌彦(Freelance)CGディレクター:犬童 宗恒(MARK)CGプロデューサー:貞原 能文(MARK)CGプロデューサー:吉川 祥平(MARK)YAKUSHIMA TREASUREコムアイオオルタイチ美術演出:上野 雄次録音/MIX/音響:葛西 敏彦(studio ATLIO)サラウンド音響:久保 二朗(ACOUSTIC FIELD INC.)音響アシスタント:岡 直人音響アシスタント:馬場 友美音響機材サポート:下萩原 均UFO琴製作:浅村 朋伸スタイリスト:渡辺 慎也ヘアメイク:TORIコーディネーター:田平 拓也 旅樂Special Thanks:屋久島の皆様ライブ制作:井出 辰之助(infusiondesign)ライブ制作:羽田 寛士(infusiondesign)プロデューサー/マネージャー:黒瀬 万里子(yugyo)特設サイト
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