ボカロP・johnによるソロプロジェクト、TOOBOE。今年でプロジェクト始動2周年を迎え、11月9日に発売した1st EP『錠剤』表題曲は、大人気TVアニメ『チェンソーマン』第4話エンディングテーマに起用されるまでに至っている。
INTERVIEW:TOOBOE × 擬態するメタ

ギタメタには100%の信頼を寄せています(TOOBOE)
━━聞くところによると、TOOBOEさんは以前より、擬態するメタ(以下、ギタメタ)のおふたりと知り合いなのだとか。TOOBOE そうですね。john名義で活動をしている頃からお互いに存在を認知していて、一緒に作品作りをしたいとずっと考えていました。おふたりがギタメタを結成したのは、僕が今年4月にシングル『心臓』でメジャーデビューをする少し前でしたよね。タイミングもぴったりだったので、ぜひ“心臓”でMV制作をお願いしたいなと。
心臓 / TOOBOE
━━“心臓”のMVについて、公開からしばらく経ったいまだからこそ語れるエピソードはありますか?Bivi あの頃はもう全部がぐちゃぐちゃでしたね。“心臓”のMVが完成するまでには、撮影・編集・作画といった段階的な作業があったのですが、スケジュールの都合上、これらをすべて同時並行で進めなければならなかったんです。朝方、まだ誰もいない駅に行って、走りながらカメラを回したと思ったら、帰宅してすぐに編集して。
ヒガン / 初音ミク
しまぐち たしか、元々ゾンビに襲われる一人称視点の映像にしようと話していて。そこから「それならゾンビ目線にしちゃった方が面白いのでは?」と、僕の脳内にアイデアが浮かんで、興奮のままに例の電話を……(笑)。TOOBOE あの熱量はすごかったですね。だからこそ「もう自由に作っちゃってください」と、ノータッチで納品まで進めてもらいました。当時から、ギタメタには100%の信頼を寄せています。
すべてが逆算的な思考の下にあった(Bivi)
━━この取材のフックとなる話題が早くも飛び出してしまいましたが、まずはMVの全体像について聞かせてください。ギタメタのおふたりは、楽曲・“錠剤”の初試聴時にどのような印象を抱きましたか?Bivi 全体的にいい意味でチープで、がちゃがちゃとしたサウンドがおもちゃ箱のようだなと。それでいながら、歌詞の内容はものすごくドロドロとしていて。そこで、MVでもシュールかつドロドロとした、純粋に「ヤバいもの」を描きたいなと考えたんです。しまぐち そんな楽曲ながらも、イラストレーターのcoalowlさんが制作された、アニメ第4話のエンディング映像に当てはめても違和感がないから面白いですよね。TOOBOE 第4話で大活躍だったパワーちゃんのかわいらしいイメージソングとしても、“錠剤”のオリジナルMVとしても聴くことができる点で、本当に面白い解釈が生まれました。フルサイズでは、歌詞のなかに原作ネタをますます織り交ぜつつ、MVの内容も含めて切ない結末に着地させられたこともよかったなと。

誤解を恐れずに言えば本当に最高だなって(TOOBOE)
━━前置きが長くなりましたが、いよいよあの“年齢制限”の話題に移りましょうか。YouTubeではAI判定によって、特定の動画に対して年齢制限を施しています。年齢制限の掛かった動画は、18歳以上だと確認できるアカウントのみでしか視聴ができないのですが、このたび“錠剤”のMVもその対象になってしまいました。しまぐち 念のため、最初にひとつだけ聞いておきたいのですが……。“錠剤”のMVがYouTubeで公開されてから今日の取材まで、TOOBOEさんと電話でお話する機会もなかったわけですけど……正直なところ、今回の件に少しは怒っているんじゃないかと思ってました。TOOBOE アレ、僕としてはめちゃめちゃアガりました(笑)。年齢制限が掛かったという事実が、誤解を恐れずに言えば本当に最高だなって。というのも、いわゆる“R-18”指定がなされることで、10代の視聴者のほとんどを一旦はステイさせるわけじゃないですか。━━その通りです。

僕らの作品がメインストリームにはあるとは考えてはいない(しまぐち ニケ)
━━今回のMVに関連して、BiviさんがTwitterでポストしていた「生々しさをコミカルに表現する事で冷笑的に感じる」というコメントも気になりました。しまぐち Biviさんの仰る通りだと思います。僕の認識が間違っていなければ、『チェンソーマン』や、米津玄師さんが歌っているオープニングテーマ“KICK BACK”、あとはSEKAI NO OWARIさんの“Habit”のMVも同じ流れにある作品ですよね。TOOBOE そうですね。作品に登場する本人たちは真剣で、本気で必死そのものなんですけど、彼らの姿を観ている僕たちはなぜだかめちゃくちゃ笑っているという。僕もギタメタもこうしたメタ構造が大好きだし、いまの時代的にも多くの人が求めている要素なのではないでしょうか。しまぐち まぁ、我々は時代に弾かれちゃいましたけどね。TOOBOE そう、AIによってね……(笑)。Bivi そもそも僕自身、ふざけたものが大好きで、もうフェチの領域なんですよ。1番のサビで後ろのテレビに流している、注がれるミルクや打ち上がる花火も、性行為のメタファーとして皮肉っぽく映していたり。しまぐち あの映像、僕が制止するまで時間をかけまくって選んでいましたもんね。Bivi あの時間が今回の制作でいちばん楽しかった。他にも、フラフープをしている女の子などの色々な候補があるなかで、最終的には遠目でも視認できるものがよいなと結論に至って。あと、映画の虐殺シーンであえて美しいメロディを流す演出もよくあるじゃないですか。━━非常に効果的な音楽の使い方ですよね。Bivi 『チェンソーマン』にも通ずるところですが、シリアスなシーンにおちゃらけ要素を加えると、逆にそれがエグみとして増幅されるんですよね。それと、“心臓“は一人称視点から描いた体験型映像でしたが、“錠剤”は一貫して引きの固定映像にしているので、客席からショーを見ている感覚になるんです。そうした点で、物語におけるおふざけ感を他人事として体感できるし、“心臓”の作風ともうまく差別化できました。━━なるほど。少し戻りますが、TOOBOEさんからは先ほど「時代が求めている」といったコメントもありました。『チェンソーマン』然り、やはり時代は炎上がトピックなのでしょうか。TOOBOE 『チェンソーマン』は『週刊少年ジャンプ』での連載当時こそ、作品の生々しさやダークさから“アンチ・ジャンプ”のような立ち位置の作品で評価されていたんです。ただ、いまはもうアニメ化もされて、注目度もトップクラスじゃないですか。やはり、自分の魅力を世間に知らしめた瞬間、自らがメインストリームの存在になれるんですよ。『チェンソーマン』に引っ張られて、同じテイストの作品が今後ますます増えていくでしょうね。Bivi 思えば、韓国のサバイバルドラマ『イカゲーム』もやたらとフィーチャーされていたり、一時期はラップバトルも流行っていたり。あくまで想像ですが、インターネットの住人たちは昔からそうした類の作品が大好きだったのだろうなと。そしていま、これまでカルチャーの端にあった作品の面白さが、SNSの発達も相まって市民権を得てきたのかなと思います。しまぐち とはいえ、僕らの作品はメインストリームからは外れている気がしますけどね。TOOBOE やっぱり最高ですよね(笑)。Bivi 今回のMVは、数字よりも“やったことに意味がある”タイプの作品だなって。TOOBOE 『チェンソーマン』のストーリーや、オープニング/エンディングテーマのすべてを超えるためには、その次元まで表現を突き詰める以外に方法がなかったんですよ。そもそも、『チェンソーマン』の制作陣が尖ったことをしているのに、それを手伝うアーティストが尖っていないだなんて、意味がわからないじゃないですか。ギタメタの作ってくれたMVで間違いなく正解でした。
『チェンソーマン』第4話ノンクレジットエンディング / CHAINSAW MAN #4 Ending│TOOBOE 「錠剤」https://www.youtube.com/watch?v=xIKW3NKYBWw&t=2s僕らもまた、厨二病的な尖り方を一生やっていたい(Bivi)
━━今回の対談を総括して、様々な趣味趣向のリスナーが存在するなかで、“錠剤”のMVが最も刺さってほしいのはどんな方ですか?TOOBOE “錠剤”以外にも共通していますが、僕の音楽は学校のクラスを見渡して「俺以外の奴らは全員頭悪い。馬鹿ばっかりだ」って考えているような“自称天才くん”に聴いてほしいと常々思っています。しまぐち TOOBOEさん、僕もまったく同じです(笑)。Bivi たぶん、ここにいる3人とも同じですよ(笑)。TOOBOE そうですよね! “錠剤”のMVも、「俺はこんないい曲を知ってるけど、お前らはまだ◯◯とか聴いちゃってんの?」みたいに構えている子まで届くと、僕はめちゃめちゃうれしくて。厨二病を愛する人がずっと大好きで仕方がないんです。Bivi 僕らもまた、厨二病的な尖り方を一生やっていたいですよね。しまぐち これは皮肉でもなんでもなく、「こむぎこ2000さん」をはじめ、周囲の映像作家・アニメ作家さんはすごい方々ばかりで、万人に愛されるような作風と人柄の持ち主なんです。そういった方々と真っ向勝負をしたくないから、僕自身はどこか斜に構えてしまう視聴者に「俺はギタメタ好きだけど?」って使い方をされていたい。それで「誰それ?」と言われるまで、セットで楽しんでほしいですね。Bivi とはいえ、考えなしに斜に構えているのはカッコよくないですよね。むしろ、斜に構えることをエンタメとして昇華したいというか。あまり日の当たらないニッチな共感覚を王道っぽくポップに魅せていきたいなと。TOOBOE これも皮肉ではなく、ポップな作品を綺麗に作れる方々をすごくリスペクトしていて。とてつもない才能だと思います。そんな方々がいるからこそ、僕らにしかできない表現も存在するわけですが。しまぐち ある意味で『チェンソーマン』で描かれるような“Loser感”と共通するのかもしれないですね。━━最後に、TOOBOEさんとギタメタは今作を通して、今後の音楽/映像シーンにおいてどのような役割を担っていってほしいとお互いに願っているかを教えてください。TOOBOE ギタメタには世界的なクリエイターになってほしいです。僕らはここまで、王道を直視せずに来てしまいましたけど、きっとどこかで訪れるんですよ。王道なものを作らなければならないタイミングが。でも、クレイジーな作品を作れる人が生み出す王道って、実は無敵だと思うんです。━━具体的には?TOOBOE 『ワンピース』の作者である尾田栄一郎先生や、米津(玄師)さんもそう。最初はアンダーグラウンドな作風だと評価されてきたクリエイターが、腰を据えて本気でポップに向き合ったとき、無敵の作品が生まれるんです。ギタメタには“錠剤”のMV然り、今回のような経験をたくさん重ねることで、本当に無敵のクリエイターになってほしいですね。しまぐち うれしいお言葉です。Bivi 逆に僕らは、TOOBOEさんは作曲の幅がとても広い方だなと感じていて。自身の世界観のなかで、新境地をどんどん見せられているのがすごいなと。しまぐち たしかに。ただ僕としては、幸せ……というより、今後の作品のために、TOOBOEさんには心のすべてが満たされてほしくはなくて(笑)。━━「我々のために、TOOBOEさんには死んでもらいましょう」と言わんばかりの論調ですね。しまぐち 単純に僕、何かを求め続けるアーティストが好きなんです。なので申し訳ないのですが、TOOBOEさんの生活が充実しすぎないよう、どうか宜しくお願いします(笑)。
Text by 一条皓太

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擬態するメタアニメ作家/イラストレーターのしまぐち ニケと映像作家のBiviによる映像制作ユニット。「企む(たくらむ)アニメーション」をテーマに、技法や常識に縛られない実験的、挑戦的な作品を制作する。
RELEASE INFORMATION

錠剤
2022.11.9(水)TOOBOE【初回生産限定盤】CD,BD/ SRCL-12280-12281/ ¥3520(税込)【BD(初回生産限定盤)】TOOBOE 1st LIVE『解禁』@東京キネマ倶楽部(2022.5.3)視界/毒/心臓/水泡/ダーウィン/爆弾/春嵐/紫/千秋楽/赫い夜【通常盤】CD / SRCL-12282 / ¥1200(税込)【期間生産限定盤】CD,BD/ SRCL-12283-12284/ ¥1870(税込)【BD(期間生産限定盤)】TVアニメ『チェンソーマン』ノンクレジットエンディングムービー【CD】1.錠剤2.ivory3.まるで亡霊4.ヤング5.錠剤 -Anime ver.-(期間生産限定盤のみ収録)
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