2025年7月25日(金)・26日(土)・27日(日)の3日間にわたって開催された<FUJI ROCK FESTIVAL ’25>(以下、フジロック)。Qeticでは、フジロックに出演した注目のアーティストのライブにフィーチャーする恒例企画「振り返るフジロック」を今年も掲載する。
<FUJI ROCK FESTIVAL’25> 2025.07.25(FRI)Suchmos @WHITE STAGE

帰還はWHITE STAGEのヘッドライナー7年前にやり忘れた曲 “STAY TUNE”
フジロックのDAY1が終盤を迎えた22:00。WHITE STAGEに示し合わせたような白光に照らされ、それぞれの定位置に付いた6人のシルエットがステージ上にぼんやりと浮かぶ。7年ぶりの苗場への帰還。Suchmosが登場した瞬間、観客は特大の拍手と歓声で出迎える。それは彼らが活動休止を経て、再びフジロックに帰ってきてくれたことに対する万感の想いの顕れだった。待ち望んだ登場曲は、1stアルバム『THE BAY』収録の初期ナンバー“Pacific”。このスタートは、横浜アリーナの復活ライブと同じだ。ただし、苗場の大自然の空間に広がっていくYONCEの歌声は、横アリの室内とはまた違った機微があり、楽器陣の奏でる音色も情緒が増している。いつしかステージ上はオレンジのライトとスモークに変わり、視覚的にも温度を帯びた開幕だ。

2曲目は、再始動後にリリースされたEP『Sunburst』の新曲で“Eye to Eye”。

【Interview】──山本連:自分に関してはゼロからだし、ここまでの期間はパッと言葉にはできない。余韻に浸るとか思い返す間もなくバババっと来ているので、まだ消化しきれていない。

【Interview】──YONCE:さっき思い出したのは、前回出演したGREEN STAGEでのライブの前日にいろいろあって……だから実はライブ中、けっこう上の空というか、あんまり何も覚えていない。あのときはブルージーだった。ライブはたしか60分で7曲とかで、“STAY TUNE”もやらなかったし。でも今回はみんなが観たいものを見せたい。オトナになったのかな。 前回のフジロックで“STAY TUNE”を演奏しなかったことは一部で物議を醸したようだが、それはヒットソングに縛られない彼らなりのアティテュードだと当時は解釈していた。それでも今のSuchmosはそれすらも柔軟に考えられる、肩の力の抜けた成熟味がある。“STAY TUNE”を終えたあとの「はい、カバーでした」というYONCEの言葉は、彼なりの照れ隠しなのかもしれない。

フジロックでの“STAY TUNE”というミッションをこなしたあとの“808”は軽快で、メンバーたちの笑顔も見られる。そしてこの曲を終えたタイミングで、最初のMCタイムに。

「あと50曲ぐらいやって帰ります」制限時間90分で魅せたオールタイムベスト
事前インタビューで、YONCE、TAIHEI、山本連はセトリについてこう語っていた。【Interview】──TAIHEI:昔の曲を今回のために新しくアレンジしたものもある。そういう冒険もセトリに入っているし、ちゃんと体力を使う。今回のセトリはみなさんお好きだと思いますよ。──山本連:横アリより曲数は少ないけど、体感的に物足りない感じは全然ない。 ──YONCE:横アリの準備があったので、そこから選ぶ曲はもちろんあったし、そこではやらなかったけどフジロックではやりたいっていう曲もあった。今回はそれらがうまく合わさったセトリになっていると思う。それに90分っていう制限時間いっぱいをもらったので、俺らとしても満足できるものにしたいし、お客さんにもきっと楽しんでもらえるんじゃないかな。彼らが語るそれらの言葉は、すべてを聴き終えたあとに深く同意することになる。ここからは、夜のとばりに似合う楽曲が続く。

続くMCで、「しかし相変わらずいいフェスだね」とオーディエンスに話しかけるYONCE。ここで改めての紹介を受けたベースの山本連も、「最高!楽しんでますか?」と手短かに挨拶する。彼らにとってもフジロックが特別な場所であることは、インタビューでも教えてくれた。【Interview】──YONCE:来るたびに感じるのは、フジロックはすごく手厚いフェスだということ。素晴らしい景色の中でライブができるって、こんな贅沢が許されるのかって毎回思う。いちお客さんとして会場に紛れ込む時間も最高だし、たまたま足を止めたところで素晴らしいライブが行われていて、それと並んで自分たちのアクトもある。フジロックという輪に入れてもらえてありがたいし、光栄だなって。 ──TAIHEI:昨日は前日リハをWHITE STAGEでやらせてもらえて。

「あと50曲ぐらいやって帰ります」という、YONCEの言葉に沸き立ったあとの後半戦は、新作EP『Sunburst』の先行配信曲“Whole of Flower”でスタート。浮遊感のあるTAIHEIのコード進行とOKの正確なダウンビート、Kaiki Oharaの印象的なスクラッチ。曲の輪郭を描く山本連のベースとTAIKINGの余韻を残すバッキング。それらの上で“Sadness is not gone in my head but 笑おう ただの1日を”とYONCEが歌う1曲は、改めて素晴らしい今のSuchmosだ。続いて披露された『Sunburst』の新曲“Marry”は、YONCEがアコースティックギターを弾きながら歌う直球の歌詞が、再始動後のSuchmosの変化を感じさせる曲。ロックもブルースもフォークも、さまざまなジャンルの音楽が鳴り響くフジロックという場によく似合っていた。オトナの雰囲気を漂わせたと思いきや、ここからラストに向けて、悪ガキ乗り全開の“To You”(新作EP未収録の新曲)でギアを上げる。YONCEはタバコを吹かしながら「くれよ真実だけ」「お前らしくいてほしい」とシャウト! TAIKINGのギターソロはこの日もキレキレだ。

ライブ終盤は、横アリではやらなかった“A. G. I. T.”でまずファンを喜ばせると、“VOLT-AGE”でその熱量をキープ。そして、骨太なチューンが続いたあとの“YMM”が気持ち良すぎた。ステージを闊歩し、自由に踊り、白目を剥くYONCE。演奏陣も顔を合わせて笑顔を浮かべた。そしてYONCEが「EPツアー」というワードを連呼したあと、2014年のROOKIE A GO-GOの思い出を振り返りながら、“このあともつつがなく、楽しく、気持ち良く、しあわせに過ごせることを祈ります。Suchmosでした。ありがとうございました」という言葉に続き、本編ラストで届けられたのは“Life Easy”。Suchmosにとって、2015年リリースの1st E.P.『Essence』に収録されたバンドにおける原点とも言える曲であり、活動休止前の〈“Suchmos THE LIVE” YOKOHAMA STADIUM〉、そして再始動後の〈Suchmos The Blow Your Mind 2025〉でも大トリを務めた曲だ。やさしいメロディと言葉が場内に広がる。途中、YONCEは「みなさんの音楽との距離はいかがですか?」と観客に問い、フリースタイルの歌唱で「楽しいーーーー!」と叫ぶ。【Interview】──YONCE:フジロックはどう楽しんでもOKなところが魅力。ほかのフェスって意外と導線がきっちりしていて、ステージに人が向かうような流れになっているけど、フジロックはそれすらも強要されない。川に入りながら遠くから聞こえる音楽がなんかいいなとか。単純にステージに向かうだけじゃない、音楽と自分の“いろいろな距離”を教えてくれるフェスだと思う。 今回のフジロックでSuchmosが披露したセトリからは、昔から応援してくれるファンも、新たに知ったファンも、誰も取りこぼさないという彼らのやさしさを感じた。もしかしたらそれも、彼らの成長と呼ぶのかもしれない。大充実で大満足の本編はそうして鮮やかに幕を閉じた。
フジロックで“新たな現在地”を提示Suchmosの音楽はこれから先も続いていく
メンバーが舞台袖に捌けても、オーディエンスの拍手がやまない。聴きたい曲がたっぷり盛り込まれたワンマンレベルのライブを観られても、感動と興奮がアンコールを求めてしまう。結果、彼らは戻ってきてくれた。「1曲だけ付き合ってください」と始まった“GAGA”。この曲が本編に入っていなかったのが不思議な、付き合うという表現では収まらない、最高のダンスナンバーだ。この曲、この時間を共有せずに、WHITE STAGEを去った人はお気の毒でしかない。

「どんなノリだ、フジロック!」(YONCE)煌びやかなレーザーが交錯するステージで、この日一番と言っていいほど、メンバーそれぞれが自由に演奏し、自由に歌い、自由にタバコを吸い、自由に踊っている。そんな彼らの姿を見て、フロアの観客もタテでもヨコでも構わないノリで、ひとりひとりが好き勝手に揺れている。「木々へ感謝を。ゆくゆく木々に感謝される人間になりたいと思います」(YONCE)YONCEは最後まで掴みどころのないセリフを残し、グランドフィナーレ。Suchmosのフジロックへの帰還は、彼らの過去・現在・未来を繋ぐようなライブだった。この内容でケチをつける者はいないはず。過去の自分たちを回収した上で、“新たな現在地”を提示したライブだったと思う。同時に、Suchmosが再始動のフェスにフジロックを選び、WHITE STAGEのヘッドライナーを務めたのは、“自分たちの音楽はこれから先も続いていく”という意志表明でもあったように感じる。変わるもの、変わらないもの──そのすべてがSuchmosだった。
Photo by Shimizu SoutarouInterview & text by Rascal(NaNo.works)
INFORMATION
FUJI ROCK FESTIVAL’25
7月25日(金)26日(土)27日(日)新潟県 湯沢町 苗場スキー場
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