怒涛の展開で駆け抜けた2025年のSuchmosを、どんな言葉で総括すべきか。それは思っていた以上に難しい問いだ。

「復活」という言葉は便利であり、長い沈黙を経て再びステージに立ったという事実だけを切り取れば、そのような観点で語ることは決して間違いではないだろう。

LIVE REPORT:Suchmos Asia Tour Sunburst 2025 横浜アリーナ・フジロック・Zepp Hanedaを経て 辿り着いたSuchmosというバンドの現在地

しかし、日本国内の単独有観客公演としては5年8ヵ月ぶりとなった〈The Blow Your Mind 2025〉の横浜アリーナ、4回目の参戦でWHITE STAGEのヘッドライナーを務めたフジロック、そして〈Asia Tour Sunburst 2025〉のファイナルとなった今回のZepp Hanedaという、3つの起点となるライブを見届けた今。「復活」の言葉だけでは、どこか足りない感覚が残る。それは彼らが単に“戻ってきた”のではなく、時間をかけて別の場所に“辿り着いた”ように思えるからだ。横浜アリーナ・フジロック・Zepp Hanedaのライブを幸運にも記事にする機会に恵まれ、言葉にしながら感じるのは、それら3つのライブは異なる文脈と意味を持ちながら、確かな1本の線でつながっているということ。そして3部作のようなライブを経て、彼らはSuchmosの現在地を明確に示したのかもしれない。Zepp Hanedaファイナルは、そんな感慨にじっくり浸る夜だった。本稿では、アジアツアーを締め括った12月13日(土)のライブをレポートする。

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LIVE REPORT:Suchmos The Blow Your Mind 2025 新たな未来へと歩み始めた復活の夜振り返るフジロック2025|Suchmos 変わるもの 変わらないもの そのすべてがSuchmos

巨大なアリーナでも野外の大舞台でもない音が近く、視線が交わり、呼吸が伝わるハコ

思い返すと、横浜アリーナは“祝祭”だった。Suchmosが再びステージに立つという事実自体が大きな意味を持ち、音が鳴る前から感情が湧き上がる夜だった。一方で、フジロックはまるで“交差点”。フェスという開かれた場所で、バンドの過去と現在、内と外が交わる機会だった。そうして迎えた日本とアジア13都市を巡るツアーが〈Asia Tour Sunburst 2025〉であり、その最終地点となったのが今回のZepp Haneda。

巨大なアリーナでも、野外の大舞台でもない。音が近く、視線が交わり、呼吸が伝わるハコ。その選択こそが、彼らの今のテンションを物語る。まず、会場に入る前から今宵のムードは始まっていた。Zepp Hanedaに隣接するHICityの飲食店からは、彼らの楽曲が大音量で流れていた。それは公式の演出なのか、それとも店の計らいなのか。いずれにせよ天空橋からZepp Hanedaまで、一帯がSuchmosに彩られている。そこには再始動や復活という言葉が持つ、特別な緊張感はない。その代わりにあるのは、音楽が日常の中に溶け込み、風景の一部として自然と鳴っている感覚。特別な夜でありながら、どこか当たり前のような時間。そんな喜ばしい不思議な矛盾が、ファイナル公演の前提にはあった。

深く体に残る等身大のグルーブ合図も説明もいらない気の抜けたコーラ

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18時、暗転。スタートの“Pacific”が始まる前に、暗闇に立つYONCEが、観客に向かって深々とお辞儀をした。

そうして始まった曲は、アリーナで聴いたときとも、フェスで聴いたときとも明らかに違う。空気を震わせる前に身体に直接届くような感覚で、ひとつひとつの音がとても近い。その音に触れ、改めてSuchmosがライブハウスから生まれたバンドであることを思い出す。幕が開き、ブルーのライトに照らされたステージの上空に、日食のような月が浮かぶ中で“Eye to Eye”。サビでは自然と観客の手が上がり、YONCEの「羽田よろしく」のセリフで歓声も上がる。そして“ROMA”や“Ghost”が続く序盤。あくまでも淡々と彼らは演奏をこなしている。「最後の1本、全力で楽しませてもらいますので、ご自由にどうぞ」というYONCEのMCから“DUMBO”へ。ライブハウスで聴くSuchmosの音楽は、頭で聴く前に身体が反応する。この揺れ方が至福。誰かに指示されたわけでもなく、自然と同じリズムを共有できる。ライティングのフラッシュが場内を照らしたのち、“FRUITS”では深く身体に残るグルーヴが一帯に広がった。
「2021年に活動を休止して、今年の6月に活動を再開して半年、ここまであっという間でした。今年はライブに明け暮れて、いろいろな街でフェスにも出たし、自分たち主催のツアーも今日ここまでやってきたけど、どの会場もお客さんがいっぱい来てくれて。具合の悪い人はいませんか? 無理をしないようにしてください。楽しく帰ってもらいたいので。よろしく」(YONCE)そんなYONCEの言葉を聞くと、きっとそうやってそれぞれの土地で語りかけながら、今回のアジアツアーを回ってきたのだろうと想像した。聞き馴染みのあるドラムのリズムに誘われ、続く“MINT”ではフロアのあちらこちらで、おそらくライブ中に振られて気の抜けたコーラが掲げられる。これはSuchmosのライブでは定番となっている光景であり、もはや合図も説明もいらなかった。音楽が聴く者たちの生活や記憶と結びついている距離感は、意図して作れるものではない。

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ツアーを経て生まれた余白や成熟Suchmosの楽曲群に溶け込む“Marry”

“MINT”の余韻を経て始まった、サビで会場が一体となる“Alright”の「お前の基準に踊らされたくない」や、祭囃子のようなOKのドラムで始まった“To You”の「くれよ真実だけ」などの歌詞は、Suchmosが自分たちらしくいればいるほど説得力を持って胸の内に届いてくる。ここでじっくりと時間を使う。そのタイミングで客席から「TAIKINGサイコーだよ!」といった声がステージに届き、笑いが起こる。そんな近さもライブハウスの良さだ。その後に披露した“Hit Me, Thunder”など、中盤のセットはライブ全体に呼吸を与える役割を果たす。

勢いで押し切らず、音数を減らし、間を作る。余白を生む選択は、演奏への自信の表れでもあるだろう。

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そしてこの日のライブで、個人的に新たな発見があった楽曲が“Marry”。7月にリリースしたEP『Sunburst』に収録され、11月22日の「いい夫婦の日」には10年来の盟友である俳優の間宮祥太朗が出演するMVが公開された曲。新たなSuchmosを象徴する曲として復活後のライブではたびたび披露されてきたが、初めて聴いたときは少なからず新鮮な違和感があった。しかし、この日のライブの“Marry”は、彼らの楽曲群にすんなり溶け込む。最初からそうだったという人はいるのかもしれないが、自分の耳はようやく、曲に感情や理解が追いついたのかもしれない。変化は主張するものではなく、時間とともに馴染み、気づいたときにはそこにある。「今日で(ツアーの)14本目ですけど、さっきステージ袖で『この6人で今年はライブを何回したんだろうね』って話していて、言っても20本ちょいとかだと思います。まだそれぐらいしかやっていないうちの、今日は1回。まあこれはみなさんに話してもしょうがないですけど、(ライブの抽選に)当たらなかった人たちがいっぱいいると思う。じゃあもっと大きいところでやってくれよっていう話もあると思うけど、ここならこうやってある程度まで見える、みなさんの感じが。

なんだかこういう場所でやっぱり最初のツアーをやりたいなって。じゃあこのツアーが終わったら大きいところで……なんてことはないですけど、近いうちに何かお知らせできることがあると思います」(YONCE)

「復活」という言葉だけでは語れない今のSuchmosの音楽に向き合っている

「心してかかってこい」(YONCE)という言葉で始まったライブの後半は、“A.G.I.T.” “STAY TUNE” “808”を畳み掛ける。フロアの温度は確実に上がり、Zepp Hanedaはひとつの塊のようになるが、この日のSuchmosは過剰にならない。それは今の彼らが頑張って盛り上げているわけではないからだろう。ライブハウスという空間で等身大の音が鳴る。“STAY TUNE”ですら、演奏はノスタルジーに寄らない。懐古やお決まりよりも、現在の在り方や感覚を優先するステージだ。

LIVE REPORT:Suchmos Asia Tour Sunburst 2025 横浜アリーナ・フジロック・Zepp Hanedaを経て 辿り着いたSuchmosというバンドの現在地
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本編のラストは“VOLT-AGE”から“YMM”へ。十分な高揚感を持ちながら、こちらも抑制が効いている。さらに鳴り止まぬ拍手で舞い戻り、アンコールで演奏された“Whole of Flower”と“Life Easy”に関しても、すべてを出し切って終わるのではなく、余韻を残すフィナーレだった。この日のライブは、演奏も演出も研ぎ澄まされていた印象。ライトに照らされて浮かぶ6人のシルエットも、メンバーそれぞれの存在感を際立たせていて美しかった。その上でステージを照らす電球スタンドは7本──この1本多い光の意味を、あえてここで説明するのは野暮だろう。

YONCEがMCで観客に伝えた、“Suchmos以外の音楽もたくさん聴いてほしいし、本気で遊べる何かを一緒に探しましょう“というメッセージも意味深い。ミュージシャンが自らのライブでそうそう言わないセリフだが、そこにはバンドのスタンスが端的に表れていたように思う。自分たちだけを見てほしいわけではないし、音楽はもっと広く、もっと自由で、さらには音楽以外にも素晴らしいものはたくさんある。そんなフラットな彼らの感覚や姿勢をファンは推す。横浜アリーナで再会し、フジロックで外と繋がり、Zepp Hanedaで現在地を確かめた。冒頭でも述べたが、2025年のSuchmosは「復活」という言葉だけでは語れないフェーズに入っている。ただ戻ってきたのではなく、離れていた時間で培ったものも含めて更新しながら、今の自分たちの音楽に向き合っている。それが何よりポジティブで、健全で、彼ららしい。 次にSuchmosがどんな場所で、どんな形で、音楽を奏でるのかはわからない。だがひとつ信じられるのは、これからも自分たちのペースで、自由に音楽を続けていくのだろうということ。2025年の彼らのライブを目撃した者なら、その「未来」を見届ける準備がすでにできているはずだ。

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Photo by 岡田貴之Text by ラスカル(NaNo.works)

EVENT INFORMATION

Suchmos Asia Tour Sunburst 20252025年12月13日(土)@Zepp Haneda

セットリスト01. Pacific02. Eye to Eye03. ROMA04. Ghost05. DUMBO06. FRUITS07. MINT08. Alright09. To You10. Hit Me, Thunder11. Marry12. A.G.I.T.13. STAY TUNE14. 80815. VOLT-AGE16. YMM<アンコール>17. Whole of Flower18. Life Easy

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