
[J2第11節、ジェフユナイテッド千葉3-1 ブラウブリッツ秋田、4月25日、千葉・フクダ電子アリーナ]
リーグ戦首位の千葉は秋田に快勝し、4連勝を飾った。
今季秋田から加入したDF河野貴志は3-0で迎えた後半42分に投入されたが、1分後に失点。
自分を見失ったJ2首位クラブでの日々
背番号28にとって悔しさが残る古巣対戦だった。
この日、千葉はリーグ戦通算対戦成績1勝1分6敗の難敵をホームに迎えたが、今季快進撃を続けるイレブンは相性をものともしなかった。前半6分にMFエドゥアルドがリーグ戦2試合連続弾となるヘディングシュートで先制すると、その後FWカルリーニョス・ジュニオが決勝点を含む2得点を奪取した。
今季より秋田から完全移籍で加入した河野は後半42分にDF鈴木大輔主将と代わって、センターバックの位置でプレーした。古巣では高精度ロングフィードと持ち前のヘディングでチームを引っ張り、2年間の在籍でリーグ戦77試合に出場。「秋田がなければ、いまの僕はいない」と充実の時を過ごしたが、今季のJ2では4試合の途中出場に留まっていた。
2月9日に行われたちばぎんカップで先発出場した河野「周りから見ると、去年、一昨年と試合に出させてもらっていたので、期待を裏切るというか。『河野、あんまりだな』と思われているかもしれない」と吐露していた。YBCルヴァンカップ1stラウンド1回戦のJ2カターレ富山戦では、今季初の先発フル出場を果たすも守備が崩壊。2-4の敗戦について「自分らしくないやられ方もしましたし、情けなさを感じて悔しかった」と肩を落とした。
「一時期、ナイーブになるときもあったんです。自分を見失うというか、『自分の良さは何だろう』って。
知り合いの人からも連絡がきて、『お前らしくないし、お前らしさを原点に戻って出した方がいい』と言われました。自分でも、(試合を)振り返りながら観ていて思いましたし、それを言ってもらえて吹っ切れた。もう一回、自分の原点に戻ってやっています」と課題を見つめ直し、奮起を誓った。

背番号28には逆境を跳ね返す力がある。2013年には鵬翔高イレブンの一員として第91回全国高校選手権で宮崎県勢初の日本一を成し遂げるも、本大会の出場機会はゼロだった河野は、主力として迎えた第92回と第93回大会では県代表の座を日章学園高に奪われた。
関西大でも出場機会に恵まれない時期が続いたが、日々の努力でJ3ギラヴァンツ北九州との契約をつかみ取った。
千葉でもこれまでと同じことをやるだけだ。トレーニングから全力でアピールし、本番で100パーセントの力を出す。そう自分に言い聞かせながら、来たるチャンスに備え続けてきた。
スタメン奪取こそが秋田への恩返し
千葉の小林慶行(よしゆき)監督から「やるべきことをやってこい」と背中を押されてピッチに立った河野。前線からの守備がハマらず、秋田に押し込まれる難しい状況での投入だったが、ファーストプレーで力強く相手選手にタックルし、ファウル覚悟で攻撃の芽を摘んだ。
しかし背番号28が与えたフリーキックから千葉はチャンスを作られてしまった。ゴール前に放り込まれたロングボールを必死にクリアした千葉だったが、セカンドボールを秋田に回収されてしまい、最後は後半43分に秋田DF畑橋拓輝(はたはし・ひろき)に右足ダイレクトシュートを決められてしまった。
「正直、僕のミスでもあると思う。相手が跳ね返してくるボールに対して引いていたらダメだし、ファーストで負けたんだったら、セカンドのところは距離を詰めないといけない。クリアするときにラインを上げないと相手の思うつぼですし、そこはすごく意識していましたが、自分がもっとやらないといけない」と反省点を口にしたが、下を向いている暇はなかった。

1得点を返し、なんとかして同点に追いつこうとロングボールを中心に攻め立てた秋田イレブン。河野は古巣の思い通りにはさせまいと、打点の高いヘディングでボールを跳ね返し、身振り手振りを交えながら味方に指示を送り続けた。
後半47分には背番号28がインターセプトからチャンスを演出した。相手選手に身体を当てて、ボールを回収した河野がドリブルで前進すると、ボックス前にいたMF横山暁之(あきゆき)へ縦パスを供給。シュートは打たせてもらえなかったが、“らしさ”が出たプレーだった。
「あの時間ではゼロに抑えるためにセーフティーにやらないといけない。でもあの高い位置でインターセプトをして、ヨコ(横山)に出したパスは自分の良さでもあると思うので、あのようなプレーを少しの時間でも出していければ、もっと良くなっていくと思います」
試合はそのまま3-1で終了。

「(秋田のファンに)挨拶できずに出て行ってしまったので、すごく温かく迎え入れてくれたことが本当にうれしかった。秋田には感謝がたくさんありますし、本当に秋田がずっと大好きです。その人たちに対して『自分はこれだけやれるんだ』というのを示すことが一番の恩返しになると思っています」と北国で培った経験と自信の一端を見た。
キャプテンの鈴木とJ1セレッソ大阪から帰還したDF鳥海晃司がレギュラーを張る千葉のディフェンスライン。「簡単に出られると思っていないし、挑戦する気でここに来た」とスタメン争いへの決意を口にしていた河野は、「あの二人に任せっきりになっている感じもある。あの二人を追いつき、追い越さないと、自分としてもチームとしても成長はないと思っています。僕にないものを持っている二人から盗みながら、自分にむちを打ってやるしかない」と、さらに成長した姿をサポーターたちに披露したい。
千葉は次節、29日の午後2時にえがお健康スタジアムでロアッソ熊本と敵地で対戦する。
河野貴志の本領発揮はここからだ。秋田の吉田謙監督から「貴志ならできる。もっと試合に出てほしい」とエールを贈られた背番号28は「うれしいことではありますけど、悔しいことでもある。
(取材・文・写真 浅野凜太郎)