
[天皇杯ラウンド16、東洋大 1-2J1ヴィッセル神戸、8月6日、兵庫・ノエビアスタジアム神戸]
昨年の全日本大学選手権(インカレ)王者の東洋大は、J1王者神戸と対戦し、延長戦の末に1-2で惜敗した。
この日、左サイドバックでフル出場したDF山之内佑成主将(4年、J1柏レイソル内定、JFAアカデミー福島U-18)は、現在J1首位を走るタレント軍団相手に、身体を張った守備や推進力のあるドリブル突破で存在感を示したが、延長戦後半アディショナルタイムの失点に力尽きた。
激戦の末の悲劇
「うーん」
試合の総括を頼まれた東洋大の井上卓也監督は、わずかに顔を伏せ、悔しさを押し殺すような表情で3秒ほどの沈黙を挟んだ。
その間、会見場に静けさが満ちる。
「神戸を相手にして、残念と言える試合をしたチームに対しては、非常に誇らしく思います」
井上監督が喉の奥から絞りだしたコメントは、J1王者を敗退一歩手前まで追いつめた東洋大イレブンの戦いぶりを表していた。

前半13分に、神戸に先制を許した東洋大だが、失点以降は落ち着いた試合運びでペースをたぐり寄せた。
そして前半36分に左サイドを強引に突破した山之内が中央へ折り返すと、ボックス内にフリーで走りこんだMF湯之前匡央(まひろ、4年、柏U-18)が左足でフィニッシュ。東洋大が前半のうちに試合を振り出しに戻した。
だが、後半は神戸がロングボールで押し込む展開が続いた。
東洋大の背番号5は「ブロックを敷いたところに、ロングボールを使って押し込んでくるやり方に苦しみました。前半は少し自分たちの時間が作れたところで1点を取れましたが、それ以外は苦しい展開しかなかった。耐えて最後に何かしらチャンスをつかむことができればと思いましたが」と終始圧倒された試合を総括した。

それでも、東洋大は全員が身体を張ってギリギリのところで耐えしのぎ、勝負を延長戦へと持ち込んだ。
延長戦では腕章を巻いた山之内が泥臭い守備でチームを鼓舞。
神戸のブラジル人FWエリキとのデュエルでは、激しく身体をぶつけるもノーファウルで奪い切り、「よっしゃー!」と雄たけびを上げた。
「自分が目指すところはそういうところ(J1の舞台)だと思いますし、ああいう勝負にこだわって、勝っていけるようにしていきたい」と相手エースとのマッチアップを振り返った。
守備で健闘を見せていた東洋大だが、延長戦後半16分にGK磐井稜真(2年、東京ヴェルディユース)がクロスボールをはじき損ねると、相手FWに詰められて痛恨の勝ち越しゴールを許して万事休す。
PK戦目前での敗戦に、イレブンはひざから崩れ落ちた。
天皇杯躍進で感じた成長
東洋大が今大会の台風の目となっていたことは間違いない。
1回戦で仙台大を4-2で破って以降、柏レイソル(2◯0)、アルビレックス新潟(2◯1)と、J1のチーム相手に立て続けにアップセットを達成。破竹の勢いで天皇杯を勝ち上がってきた。
勢いづくチームを、主将として牽引してきた山之内は「チーム全体で守るところは一つ、(J1チーム相手の)勝利から得られたことかなと。自分は攻撃と守備のところで一対一のところは通用すると思いました」と、天皇杯での経験を糧にする。

これまで力強くチームを引っ張ってきた山之内だが、今大会の躍進には自分たちも驚いているという。
「(ここまで勝ち進めるとは)思っていなかったです。ただ、こういうところで自分に何ができるのかは常に意識してやっている。こういうところで結果を出すためにやっています」
来季は柏への入団が内定しているDFは今大会を戦いながら、日々成長を実感している。
東洋大の背番号5は「試合の中でチャレンジして失敗を重ねながら、攻撃でどうしたら敵は困るか、どういう立ち位置を取ればチャンスになるかを模索しながらプレーするところは、自分の中で成長できた部分です」と、き然とした口調で語った。

今大会で目に見える進化を遂げた大学屈指のDFが、今後もさらなるレベルアップを続けた場合はどのような未来が待っているのか。
この日、マッチアップしたエリキは山之内の将来性についてこう語っている。
「ゆくゆくは日本代表のユニフォームを着て活躍できるぐらいのポテンシャルは持っていると思う。これから彼の活躍を期待すると同時に、手ごわい相手になると感じた」
エリキの言葉が示す通り、山之内は大学サッカーの枠を超え、さらなる高みへと歩み始めている。
(取材・文 縄手猟)