J1サンフレッチェ広島FW木下康介が乗り越えた葛藤…古巣柏に宣戦布告も「彼らはサッカーを通じた仲間」
J1サンフレッチェ広島FW木下康介が乗り越えた葛藤…古巣柏に宣戦布告も「彼らはサッカーを通じた仲間」

[2025JリーグYBCルヴァンカップ決勝、サンフレッチェ広島 3-1 柏レイソル、11月1日、東京・国立競技場]

広島がJリーグ杯決勝で柏を3-1で下し、2022年以来2度目の優勝を達成した。

今季途中に柏から広島へ完全移籍したFW木下康介は先発出場。

かつてのチームメイトたちと火花を散らしたが、試合終了後には誰よりも早く柏イレブンの元へ駆けつけた。

宣戦布告のストライカー

心を鬼にして戦った。

この日、ストライカーの位置で先発出場した木下はタイトルをかけた争いで、古巣の柏と熱戦を繰り広げた。

「みんな知っている面々で仲がいいからこそ、非情になって戦わなきゃいけないという気持ちでした。グラウンドでは友情を捨てて、相手としてリスペクトを持って戦えた」

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ルヴァン杯決勝の舞台に立った木下

試合前日には「たたきのめしたい」とファイナルへの意気込みを口にしていた。

今年6月22日に、2024年シーズンより所属していた柏から広島への完全移籍が発表されていた背番号17は、自身の発言を「宣戦布告」と表現。愛するクラブとの対戦を前にあえて強い言葉を発して、自らを奮い立たせた。

身長190センチの長身を生かしたポストプレーで、古巣の脅威となり続けた木下。守備時には、激しいプレスとタックルでかつてのチームメイトたちにぶつかった。

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最前線でボールを収めた木下(右)

「柏への想いがあったし、優勝争いをするライバルチームに行く葛藤もありました。でも(移籍を)決断した以上は、もう非情になって戦わなきゃいけないので、試合前日にも厳しいことを言ってあおりました。

(ボールを)握られることは分かっていました。

柏でプレーしていた分、そのときの感覚や選手の特徴は知っているので、守備のときにも『こうやってくるだろうな』と思えていたことは有利だった」

試合は前半のうちに広島がセットプレーから3得点を奪取。後半36分には1得点を返されたが、最後まで集中した守備を披露した広島が3-1で決勝戦を制した。

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柏の脅威となった木下

「6月に移籍を決断した時点で、優勝争いをする運命もちょっと予想はしていました。ただ何にせよ、僕の決断が正しかったと証明できたと思います」と、古巣を打ち破ってつかんだタイトルは格別だった。

しかし木下の足は自然と柏イレブンの方に向いていた。

試合終了のホイッスルと同時に崩れ落ちた柏の選手たち。その中に一人だけ、敵軍の木下がいた。古巣戦を制した男は、広島の選手たちが作った歓喜の輪には入らず、真っ先に古巣のチームメイトたちの元へ駆け寄り、健闘を称えあった。

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木下(左)と仲が良かったDF古賀太陽(右)

「向こう(柏)で過ごしていた時間の方が長いので。優勝のうれしさはありましたが、やっぱり思い入れはあるし、試合が終わってしまえば彼らはサッカーを通じた仲間。優勝を祝う前に“そこかな”と思いましたね」

試合終了後のミックスゾーンでも柏の選手たちと熱い握手を交わしていた木下。ファイナルの重圧を背負っていたストライカーから、隠していた古巣への愛があふれた。

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タイトルを獲得した広島イレブン

「もう、これ以上ないですね。報われました。本当に緊張感があった1週間でしたが、みんなで団結して素晴らしい結果を手繰り寄せることができました」と葛藤の移籍を乗り越え、自身の決断を正解に変えた木下は、広島のさらなるタイトル獲得に向けて再び歩みだした。

(取材・文 浅野凜太郎、写真 縄手猟)

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