
Qolyアンバサダーのコラムニスト、中坊コラムの中坊氏によるコラムをお届けします。
34歳、原口元気の現状
刺激的なタイトルかもしれないが、これは昨シーズン9月以降から半年近く見た中での自分の忖度抜きの感想である。
原口元気の過去の経歴については今更語るまでもないが、下記の通り実力も知名度もある日本を代表するMFだ。
・2009年、17歳で浦和レッズとプロ契約を締結、その年でクラブにてスタメンを確保
・2014年から2024年までの10年にわたりドイツ・ブンデスリーガでプレー
・日本代表には2011年に初選出されて以降コンスタントに出場を積み重ね、トータル74試合出場
・国際大会では2018年ロシアW杯に出場、右サイドハーフのスタメンを掴み、決勝トーナメント一回戦のベルギー戦で先制点を挙げる活躍
・W杯最終予選としては史上初となる4試合連続得点を記録
2024年9月、Jリーグに、そして浦和に10年ぶりの復帰となり、2025年シーズンは背番号も9へと変更し副キャプテンに就任。そんな原口だが、復帰以降のプレーを見ているとこのタイトルの通りの感想を抱く。
まず、昨シーズンは「逆輸入で加入直後であり、コンディション不良」というエクスキューズがあった。これは2024シーズンJリーグMVPを受賞した武藤嘉紀ですら、2021年8月にニューカッスルから神戸への逆輸入加入直後はそうだったため、ヨーロッパからJリーグに戻ってきた際、即座にフィットするのが困難である旨は理解できている。
また、起用されたポジションが慣れないボランチでの起用なのも厳しい状況だった。岩尾憲(現徳島ヴォルティス)がシーズン途中退団、サミュエル・グスタフソンが怪我のため他に人がいないがゆえ、本職はサイドハーフの原口を無理矢理ボランチで起用し、パフォーマンスも良くなかった。
そして今シーズン。途中加入だった昨シーズンとは違い開幕前のキャンプから参加しコンディションも整い、本領発揮、ついに真価が問われる時がきた。原口自身も開幕前にはJリーグ公式のインタビュー動画にて下記の通り力強い宣言を残していた。
「何のために(ヨーロッパから)帰ってきたかと言うと、このクラブを優勝に導くため。浦和は30年間で1回しか優勝できてないことを選手もフロントも全員が目を背けてはいけないと思う。僕自身、本当にそこだけにフォーカスしたい。
だが、ここまでのプレーを見る限り完全に期待を裏切る内容となっている。
コンディション調整に失敗しているのか、実力的にスタメン獲得競争で負けたのか、背番号9のクラブ生え抜き元日本代表はスタメンで起用されることはほとんどなく、試合終盤の途中投入というクローザーとしての役割が多い。
試合に入り込めていないしテンポも悪く、前線で相手のパスコースを潰すこともなく易々と縦パスを入れられてしまうシーンも。投入後にチーム全体の守備安定に繋がってはおらず、クローザーとして求められる役割を全うできていない。真の世界レベルのクローザーである、リヴァプール遠藤航の動きとはほど遠い。
スタメン起用された試合でのパフォーマンス
今シーズン唯一のスタメン出場となった3月の柏レイソル戦(●0-2)を現地で観戦した時は長い出場時間であるがゆえに、より粗が見えてしまった。
原口はトップ下で出場。今季多くの選手を補強した浦和において、2列目は特に激戦区。この試合では左からマテウス・サヴィオ、原口元気、前田直輝という並び。攻撃と守備両方で原口の動きの悪さが目に付いてしまった。
まず攻撃。どうしてもマテウス・サヴィオと被ってしまう。
互いの持ち味が発揮されずじまいであり、有効策とは言い難かった。仮にサヴィオと原口のスタートポジションを入れ替えていたとしても同じ課題が生じたものと思われる。
この点についても前述のインタビューにて原口は、下記の通りコメントしていた。
「ヨーロッパで10年やっていて、毎年サヴィオみたいな選手と争ってきたので、別に何とも思っていないし普通の世界。マテウス・サヴィオとは共存できると思う。」
次に守備。こちらはより深刻で、原口が一人果敢にプレスをかけるのだが、このプレスが組織的なものではなく単騎で突っ込む形。そのため、原口のプレスにより生じたスペースを柏がうまく利用し、ボランチの熊坂光希が活き活きとDFラインからボールを受けて前線に配球するプレーが散見された。
本来、前線の3,4人が意識して組織的に強度の高いプレスをかけていけばそれは有効。例えるならカタールW杯における日本2-1スペインにおける堂安のゴールに至った前田大然や伊藤純也ら複数人による戦術的に意思統一された激しいプレスである。
しかしこの試合での浦和は原口が単独でプレスしに突っ込んでしまい、柏からボールを奪えないどころか、生じたスペースを柏にうまく使われてしまうという守備の綻びの原因となるプレーを見せていた。
原口ほどのベテランかつ国際大会経験も豊富な選手が戦術皆無の気持ちだけしかないプレスで穴を作ってしまうのは見ていて驚きだった。
スタメンで起用されたのはこの第4節のみで、これ以降は昨シーズン同様全て後半からの途中投入となっている。
パフォーマンスが悪い中、ほぼ全試合出場
見せ場を演出したのは第7節のセレッソ大阪戦(この試合では見事な潰れ役として渡邊凌磨のゴールを演出)と、第11節の横浜F・マリノス戦(左サイドからアシストを記録)。その他の試合ではさしたる良さを見せていない。
にもかかわらず、浦和加入後からほぼ全試合に出場している現状から、不満を持つファン・サポーター達から、「原口はクラブと全試合出場義務の契約が結ばれているのでは」と囁かれるほど。
その契約が本当に存在するのかは明らかになるはずもないが、「原口が浦和加入後、ほぼ全試合出場していること」、「出場した試合で良いプレーを見せていないこと」、この2つは事実。(第15節のガンバ大阪戦のみ、出場せず。それ以外は今季全試合出場)
パフォーマンスが悪かった場合、次の試合で出場機会がないのはプロの世界なら当然のこと。しかし原口には必ず出場の機会が巡ってきて、チームの勝利に貢献できていない現状に対し、ファン・サポーターが不満を持つこと自体は理解できる。
2018年ロシアW杯にて右サイドハーフは原口。左サイドハーフは乾貴士。乾も同じくベスト16のベルギー戦で得点を挙げており、逆輸入としてJリーグに帰還している。

そんな二人が第8節の清水エスパルス戦(○2-1)にてピッチ上で対峙したが、現在34歳の原口に対し36歳の乾は何度もチャンスを演出する等、さすがというべきパフォーマンスを見せた。乾がこれだけ出来るのなら、原口も出来ると思ったのだが。
逆輸入補強の見極めの甘さ
ここまで記載した通り、タイトルの論点に戻るが、もはや今の原口元気はJ1では通用しない実力なのかと思ってしまう状況だ。それと同時に、ヨーロッパで通用しなくなった選手がやすやすと活躍できるほど、J1は甘くないリーグであることも認識する必要がある。
これは原口元気のみに限った話ではなく逆輸入全般に言える。
今シーズン悪い意味で最も注目を集めてしまった逆輸入だと、ガンバ大阪の奥抜侃志だろう。彼はポーランドとドイツで2.5シーズンプレーした後ガンバに加入したが、開幕戦であるセレッソ戦で全く冴えず覇気のないプレーで大敗(●2-5)の要因ともなった。
元々、ニュルンベルク在籍時には戦術理解度の低さからミヒャエル・クローゼ監督から「途中投入・途中交代」という屈辱的な懲罰交代をくらっていたほど。自分もこのエピソードが強く印象に残っていたため、ドイツでベンチ外が続く選手に移籍金7800万円も払い、鳴り物入りで加入となったがうまくガンバは使いこなせるのだろうかと不安に思ったものだった。残念ながら、開幕戦での失望後、奥抜にチャンスは全く与えられていない。
一方で、奥抜と同様に今シーズン、ドイツから逆輸入となった伊藤達哉のように家庭事情で帰国する形ならまた話は異なる。在籍していたマクデブルク側のリリースで語られていたが、伊藤家で子供が産まれたため日本へ戻りたいという本人の希望があり、その流れで川崎フロンターレが獲得に至った。彼は川崎で見事な活躍をみせており、ACLEも並行して過密日程を戦うクラブの貴重な戦力になっている。
・ヨーロッパのクラブでバリバリの主力 or まだまだヨーロッパでプレーできる実力の選手が逆輸入移籍
・ヨーロッパへ挑戦したもののクラブでポジションを掴み切れずに1,2年で日本に戻ってくる or 衰えてしまいヨーロッパで通用しなくなってから日本に戻る
両者は全く違う。
この点、神戸はまさに前者の選手を多く補強しリーグ連覇を成し遂げている(大迫勇也、武藤嘉紀、酒井高徳等)。
浦和の場合、神戸同様に近年は逆輸入が多いが、残念ながら主力としてチームに貢献できていたのは酒井宏樹だけ。金子拓郎はスタメンだがまだそこまでの活躍レベルではない状況、そして松尾佑介はだいぶ調子を上げているが、他の選手たちはポジションを掴み切れていない。
木下康介(既に退団)、安部裕葵、中島翔哉、二田理央、本間至恩(セレッソ大阪へレンタル)。
そして原口元気。