
[天皇杯4回戦(ラウンド16)、J1・FC町田ゼルビア1-0 J1京都サンガF.C.、8月6日、東京・町田GIONスタジアム]
町田は京都に1-0で勝利し、クラブ史上初の準々決勝(ベスト8)へ駒を進めた。
後半14分に決勝点を沈めたFW藤尾翔太の額には、真っ赤なすり傷。
最悪と振り返るダイビングヘッド
町田をクラブ史上初のベスト8に導いた男が「ホンマに最悪ですね、あれは」と自嘲気味に笑った。
0-0で迎えた前半36分に藤尾が見せたプレーに、スタジアムは「えっ」と声を漏らした。右サイドのMF仙頭啓矢(けいや)からのクロスボールにボックス内で反応して決定機を迎えた藤尾は、とっさの判断でダイビングヘッドからゴールを狙った。
前線でボールを収めた藤尾(左)「僕の中ではもうすこしバウンドしてくると思ってのヘディングでしたが、ゴロに近いボールだった。そのまま足でいく判断ができればゴールにつながったので、あれは反省です」と、地面に叩き付けられたボールはゴール左側に外れ、強引にでもシュートをねじ込もうとした藤尾はグラウンドに頭を強打した。
起き上がると額には真っ赤なすり傷ができていたが、背番号9はすぐさまプレーを再開した。
「相手より早くあそこに入れたのは良かったけど、決め切るところまでが仕事。予測と判断とクオリティの部分は課題で、どこの部位でもいいからゴールを決めないといけないです。チームの連勝を止めないために僕にできることはゴール前の仕事なので、そこにこだわりたい」と、何よりも得点がほしかった。

昨季はリーグ戦9得点の活躍で町田のJ1優勝争いをけん引していた藤尾は、ここまでリーグ戦22試合に出場し、2得点を記録。今シーズンはウィングバックなど、本職とは異なるポジションを任されていたパリオリンピックのU-23日本代表は、ここまで真価を発揮できていなかった。
一方で、町田は前節のJ1東京ヴェルディ戦(1○0)で白星を飾り、破竹の勢いで公式戦7連勝。
藤尾は「試合に出るからにはゴールという結果を示さないといけない」と強い気持ちで試合に臨み、自らのゴールでチームを救った。
ストライカーの座は譲らない
試合は両チーム通じて計22本のシュートが生まれた。拮抗した展開が続く中、藤尾は前線で身体を張りながら、チームの攻撃を活性化させた。
互いにビッグチャンスを仕留め切れないまま迎えた後半14分に、背番号9がワンチャンスをものにした。
DF昌子源の低弾道パスがボックス前中央に侵入していたDF望月ヘンリー海輝(ひろき)へズドンと入った。望月からのラストパスに反応した藤尾は、自身の進行方向と反対側に流れたボールに素早く反応し、左足ダイレクトシュートをゴール右側へ突き刺した。

「ボールの位置は感覚で分かっていたので、足を振り抜きました。ニアに打とうと思ったんですけど、相手が滑ってきて、キーパーもそっちを警戒すると思った。相手よりも早くアクションできたのがすべてですし、結果的にファーへ打ったのが入って良かった」と、天性の感覚で決勝点を奪った。
6月11日に行われた天皇杯2回戦の京都産業大戦(2○1)以来となるホームでのゴールを奪ったストライカーは、平日ナイターの試合に集まったサポーターの元へ駆け寄り、喜びを分かち合った。

「自分の中ではワントップが一番ピンときている。
イレブンはこの1得点を死守し、1-0で勝利した。

次戦は10日午後7時から町田GIONスタジアムで、J1首位神戸と第25節を戦う。勝利すれば優勝争いにぐっと近づく大一番を、中3日で迎える。
熱戦を終えた藤尾は「こういう時間帯でも来てくれるサポーターの前で、勝利する僕たちの姿を見せられたことはうれしいです。来てもらえるからには勝たないといけない責任も生まれる。ここまで来たからには、優勝しか見えていない。そこは全員で共有しながら、目の前の1試合に勝ちたい」とタイトルだけを見据えている。

この正念場を乗り切るためならば、どんな形でもゴールを奪う。額に向こう傷を負った藤尾は、ストライカーの座を誰にも譲る気はない。
(取材・文 浅野凜太郎、写真 MaiNishimoto)