
Qoly専属評論家の元Jリーガー高木義成さんがサッカー界の疑問や問題などに独自の視点で切り込む『高木義成の高木式GK視点コラム』。
今回はFIFAワールドカップ2026アジア最終予選(3次予選)オーストラリア代表戦で0-1で敗れた。
先発したGK谷晃生のプレーを高木義成さんが評論した。
ひどい記事を読んだと高木さんがお怒りです
媒体名はいわないけど、ひどい記事を読んだよ。内容は谷くんのパスミスにより『崩壊の予兆』と書いてあったけど、内容がお粗末すぎだ。
恐らくパスミスで代表のリズムが狂うことはないと思うんだよ。ただ(後半2分34秒前の)谷くんへパスを出したパサーと、パスを受けて出した谷くんの準備が稚拙だったというだけ。
谷くんは余裕を持ってボールを受ける準備をしている様子がない。体も外に流れてしまっていて、DFが自分の方を向いて慌てて準備したのではないか。
身長が大きい選手にありがちな癖で、谷くんも歩幅を合わせて蹴る場面をよく見るんだよね。身長が高い選手にありがちな癖だなと認識していて、実際ああいったミスはよく見る。
今年の町田ゼルビア対アビスパ福岡戦で谷くんがやったバックパスの空振りも、当てるだけでいい場面だったのになぜフルスイングしてしまったんだろう。
不運ながら福岡戦ではバックパスのボールが跳ねてしまったけれど、オーストラリア戦はボールが跳ねてはなさそうだし、谷くんの準備ができていなかっただけだと思う。
オーストラリア戦で先発した谷(左)GK目線でいえば、パスを渡してしまったオーストラリアの選手の横にもう一人いて、一瞬バックパスのボールから目が切れちゃったのかもしれない。谷くん本人が何も言っていないから分からない。
あのようなプレーの影響としては、バックパスに対して慎重になることが確かにあると思うし、その時間帯は簡単に前へボールを運ぶという選択肢が優先されるかもしれない。ただ、あのパスミスで失点していないし、ちまたでよく言う『あのGKもっているね(運がいいね)』と思っちゃうよね(笑)
あの瞬間はフィールドプレイヤーは切り替えていこうとなっていると思うし、あのプレーをやってから谷くんはすぐに手を挙げていたから自分のミスだから切り替えるという意志も出していた。敗戦に直結するでかいミスではないと思う。
『崩壊の予兆』というけど、それ以上にフィールドプレイヤーが点を取れた。あの試合は決めるところを決めていれば、3-0で勝てた試合だと思うけどね。
だからGKのミスが負けの因果関係というのは雑すぎる。あんなしょうもない記事書いちゃうんだねと残念に思ったよ。
あのプレーを語るなら、谷くんはバックパスに対する準備ができていなかったかな。あれを準備していたというなら無理がある。谷くんは経験があるわけだから、ゴールを背負わないように外して受ける選択肢もあった。そのリスク管理をしていない。あのミスについてリスク管理を指摘することはできると思う。
ただあのパスミスで試合に負ける、負ける予兆があったといった雑なコラムを書ける気持ちが分からないね。
失点シーンの分析
失点は谷くんのポジショニングに問題があったと思う。ゴール幅から出てなぜかチャレンジしに行っちゃった。ワンタッチで出したときに角度もほぼない中で、なぜポストより前へ出てしまったのか理解できない。
このポジショニングはもしかしたら谷くんの癖なのかもしれない。そして、あのシチュエーションでピンチをニアで防いだ成功体験があるのかもしれない。
もう一つは代表チームの守り方であの場所にボールが入ったらGKは、「ニアを『積極的に』消しにいけ」という約束事があるのか。もしそうだとしたら仕方ないか(私にはよく理解できないが)。
総じて失点シーンは、谷くんのポジショニングミスだったと思う。

彼は身長も(187センチと)高いし、ゴール幅を守ることもできるからそのポジションを取ったがゆえに、ゴールラインに近いところを守らなければいけなくなってしまった。
あの場面はニアに集まってしまった選手がポジションを取り直したときに、視界があまり良くなかったのではないかと考えられる。
ポジショニングのミスで谷くんが失点したと書いている媒体があったら、俺はその記事を支持するし、それに対して積極的に意見したいと思う。
いまの谷くんの立場だと爪痕を確実に残さなくてはならない立ち位置なのは明確であり、あそこで「守ってやる」という『攻撃的なキーパー』の感覚でニアのボールを取りに行った可能性もある。
もし谷くん本人があの場面は、守らなければと思って積極的にいったと話していたら俺は谷くんの意見を絶賛すると思う。
例えば「僕は何としてでもあそこで大ヤマを張って、このゲームを何とかしてゼロで抑えたかったです」と言っていたらの話ね。
ただ習慣的にミスをしている場合は、仕方ないとしか思えないよね。
チャンスは奪われてしまう。それがGKというポジションだから。でも与えられているときに何もできなかったら、今度は自分がチャンスを奪われてしまうよね。
(高木義成)
東京ヴェルディ1969、名古屋グランパスエイト、FC岐阜に所属、18シーズンでJリーグ通算238試合に出場した守護神。2017年に現役を引退した。 Web Football Magazine Qolyの専属評論家、オフィシャルコラムニストとしてサッカー界の疑問や問題などに切り込むQolyオリジナルコンテンツ『高木義成の高木式GK視点コラム』を連載。 現在はタイ在住で、料理人として新たな道を突き進んでいる。