
17季ぶりのJ1復帰を目指すJ2ジェフユナイテッド千葉の状況はポジティブなのか。そんな疑問が頭をよぎった。
小林慶行(よしゆき)監督が残り10試合を前に得失点差の話題を持ち出し、「後になって重くのしかかってくる」と口にしたからだ。
第28節終了時点で勝点51、得失点差プラス14の2位につけた千葉。し烈を極めるJ2リーグが佳境を迎える中、選手たちにいまの状況を聞いた。
J1復帰に向けて弱気になるデータ
千葉は2025年シーズンの残り10試合を戦う。17季ぶりのJ1復帰を目指すイレブンは第28節終了時点で2位につけたが、上位チームが混戦する予断を許さない状況だ。
開幕6連勝でスタートダッシュに成功したが、その後失速。一時は公式戦8戦未勝利と苦しい状況が続き、順位を4位まで落とした。
それでもJ2第23節モンテディオ山形戦(1○0)を機に復調。同試合以降は、4勝1分1敗の成績を収めている。
2-1で辛勝した第28節ヴァンフォーレ甲府戦後、小林監督は「勝つことが一番大事なんですが、自分たちの置かれている状況を考えれば得失点差を1でも多く積まなければいけないというのが現実的に重要なところ。それを考えると本当に反省しなければならないと思います。
決めるべきところを決め切れなかったことは、後になって重くのしかかってくると思います。ただ、そうはいっても得失点差の前に勝ち負けがあるので、勝たなければ話にならないところもある」と、得失点の重要性を語った。
直近10シーズンのデータでは、J1昇格をつかみ取った最終順位2位のチームは平均勝点80の得失点差プラス27.6で、J2リーグをフィニッシュしている。

今季の千葉は第28節を終えた時点で、勝点51の得失点差14となっており、データの観点でいえば、残り全勝で1試合平均2点差以上の得点差で勝利しなければ、上記の目安には到達しない。
17季ぶりのJ1復帰に向けて、弱気になってしまう数字だ。もしかすると、状況は決して良くないのかもしれない。
ただ、そんな不安を払拭するかのように「予定どおりですよ」と力強く口にする男がいた。
状況はポジティブと強調する鳥海
千葉の状況はポジティブか否か。残り10試合という節目に際して、ここまでリーグ戦27試合に出場しているDF鳥海晃司に聞きたかった。
今季よりJ1セレッソ大阪から5シーズンぶりに帰還した背番号24は「逆にどうしてポジティブじゃないんですか。だって、2位ですよ。全部勝てば自動昇格できる。優勝を狙える位置にいることは、予定どおりですよ」と力強く口にした。
鳥海の「どうして」という言葉に、質問の意図を伝えた。指揮官が語った得失点差の話だ。
千葉はJ1昇格プレーオフ(PO)行きを逃した昨季最終節で6位に位置し、同勝点で7位ベガルタ仙台が猛追していた。だが、仮に最終節で敗戦を喫したとしても同時刻に大分トリニータと対戦していた仙台が敗戦すれば、得失点差の関係でほぼ確実にJ1昇格POに食い込めるという状況だった(6位千葉が勝点61の得失点差プラス23、7位仙台勝点61の得失点差プラス5)。
得失点差は、16年もの間J2の辛酸をなめ続けてきた千葉にとって留意せずにはいられないポイントのはずだ。

しかし鳥海の認識は違った。
鳥海に昨季の状況を伝えると、「そうだったんですね。でも、それもポジティブですよね。勝てばいいわけですから。やっぱりその位置(J1昇格POを狙える順位)にいて、自分たちでつかみとることができるという状況がポジティブ。他力じゃないんですから、ポジティブですよ」と頼もしい言葉が返ってきた。
調子を取り戻した山形戦以降、千葉は1得点差で肉薄する試合を重ねてきた。
攻撃面では新加入MFイサカ・ゼインが右サイドで躍動し、存在感を放つ。さらに守備面では鳥海とコンビを組むDF河野貴志が完璧にフィットし、スペイン人GKホセ・スアレスがスーパーセーブでピンチを救ってきた。
J2最終局面を前に、泥臭く勝点をもぎ取るという自分たちの“勝ち筋”が見えてきた。

背番号24は残り10試合を前に「あと10試合で昇格できるなという感覚」と自信を口にした。生え抜きから繰り返し強調される“ポジティブ”という言葉は、死闘を乗り越えてきた経験に裏付けされたものだ。
背番号24は「まずは泥臭く勝つことが大事だと思います。複数得点を取れて、ゼロで抑えられるのが一番理想だとは思いますけど、勝たないと、そもそも始まらない。ただ、僕自身を含めてクオリティの部分はもっと上げられると思いますし、満足している選手はいない。
というのも、今年J1から来ましたけど、パスのクオリティや選手の立ち位置、守備の質はもっと突き詰められる選手たちがそろっている。それはキャンプのときも感じましたし、だからJ1相手に1試合も勝てなかった。でもクオリティはすぐに上がるものではない。サポーターを含めたチームの一体感やまとまり、そういう雰囲気を大事にしながら、1試合1試合を大事にしなければいけない」と、J1復帰への10試合を戦う。
J1復帰を後押しするストライカーの帰還
J1復帰に向けて、チーム内トップタイの今季7得点を記録しているストライカーの帰還も“ポジティブ”な要素だ。
千葉はJ2第21節カターレ富山戦以降欠場していたFW石川大地がトレーニングに復帰。当初は2、3週間ほどの離脱予定だったが、7月の中断期間中に行われた練習試合で受傷箇所を再負傷した。
「『さあ、ここから行くぞ!』というタイミングで、振り出しに戻ってしまった。再負傷で長引いてしまい、浮き沈みがあるような難しい時間を過ごしました。同じ箇所を2回やってしまったので慎重にもなりますし、長い期間を見ないと復帰させられないということで、難しさはありました」と石川。

石川の負傷中に、チームはJ1横浜FCからFW森海渡を期限付き移籍で獲得。同選手にいまだゴールはないが、身体を張ったポストプレーやパワフルな裏抜けからチャンスを演出している。
また背番号20がスタメンを務めていたポジションは、FWカルリーニョス・ジュニオが定位置を確保。出場した直近3試合で2得点を奪っており、石川と同じくゴール数を7に伸ばした。
ライバルたちの台頭について「頼もしかったですね。みんなが難しい試合でも勝点を取ってくれた。目標は昇格することですし、素直にすごくうれしかったです」と口にしつつも、内心ではふつふつと湧き上がるものがある。
「やっぱりピッチに出られないもどかしさもありました。自分も早くこのピッチに立ってゲームをしたかったです」

石川は悔しさをトレーニングにぶつけている。
今月10日に行われた公開練習では、復帰明けにも関わらず、パワフルなヘディングシュートで指揮官にアピール。コンディションの良さを証明した。
「いま、自分の中で明らかにギラギラした気持ちが出ている。それがないと試合に出られないと思うので、アピールの部分では自分は前線の選手ですし、そういう気持ちは絶対になくさないで、練習からやっていきたい。
もちろん、気持ち的なしんどさはありましたが、起きてしまったことはしょうがない。すぐに復帰したときのイメージを持ってリハビリに臨めたので、心と体がいい状態にあります。いまはゴールしか考えていないですね」と、戻ってきたストライカーがラスト10試合を勝利に導く。
全試合が決勝戦
小林監督は「次が自分たちにとっての決勝戦」と全試合を位置付け、“あえて”緊迫した状況であると選手たちに伝えた。ここからは、1試合でも落とせば自動昇格圏内、最悪の場合はJ1昇格PO圏内から脱落するデスゲームだ。
「この状況で集中力がないわけない」とMF髙橋壱晟(いっせい)。一寸先は闇の中でもイレブンは、他クラブの状況うんぬんではなく自分たちに矢印を向けている。なぜなら、勝ち続ければJ1に戻れるというポジティブな状況にあるからだ。

これ以上は勝点を落とせない危機感はあるが、全勝すれば無条件でJ1に行ける。千葉は不退転の覚悟で残り10試合を戦う。
(取材・文・構成 浅野凜太郎)