J1のクラブ数を「16」まで絶対に減らせない理由…Jリーグ“過密日程”の現状
J1のクラブ数を「16」まで絶対に減らせない理由…Jリーグ“過密日程”の現状

Qolyアンバサダーのコラムニスト、中坊コラムの中坊氏によるコラムをお届けします。

ヨーロッパにおける過密日程の現状

少し前の話になるが、2024-25シーズンのUEFAチャンピオンズリーグは、リーグ・アンのパリ・サンジェルマンが決勝でセリエAのインテル相手に圧勝の末、優勝した。

決勝において近年では前例のない、5-0という圧倒的大差がつく一方的な完勝劇。

それに対し、試合内容・戦術分析とは別の観点で、過密日程対策についても以下の通り語られた。

・リーグ・アンは20チームから18チームに減少

→(2023-24シーズンから再編成)

・リーグカップ戦廃止

→(2019-20シーズンを最後にクープ・ドゥ・ラ・リーグを廃止。もう一つの国内カップ戦クープ・ドゥ・フランスは残存)

上記二つの改善策により、最低でも年間5試合以上の削減となり、過密日程回避に至った。

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この内容について、5大リーグのクラブを追う海外サッカーファンから様々な反応が寄せられた。

・遠く離れたサウジアラビアで公式戦を行う金目当て施策は勘弁してほしい(ラ・リーガ、セリエA)

・FAカップとカラバオカップの2つのカップ戦を並行して戦うのは日程が過密すぎるので、カップ戦を一つ廃止するべき

・残すにしてもカラバオカップ準決勝でのH&A・2ndレグ制度は改善すべき(ともにプレミアリーグ)

昨今のヨーロッパ5大リーグにおいては、上記ラ・リーガやセリエAのようなマネー重視の施策についてファンから嫌悪感が集まっている。

リーグ運営のことを考えれば巨額の中東マネーが入ることは有難いのは事実だろう。しかし、わざわざ遠く離れた異国の地で公式戦(スーペルコッパ3試合、スーペルコパ・デ・エスパーニャ3試合)を行う不可解さ、そして国外遠征による疲労蓄積は否めない。

また、プレミアリーグではリヴァプールのフィルヒル・ファン・ダイクやマンチェスター・シティのロドリ等、選手自身が過密日程への批判を強く行っており、あまりにも過酷な日程により選手の怪我が絶えない状況が問題視されている。

「過密日程を回避したからパリ・サンジェルマンが優勝した」という単純な構図では全くないが、元々ファン・サポーター側から過密日程への不満がくすぶっていた中でこの結果となった以上、改めてクラブ数や日程の改善が叫ばれるのは当然の流れと言える。

(もちろん、逆の意見もあり、リーグ・アンと同じく18チーム制を採用しているブンデスリーガからは逆の意見として、実質バイエルンの一強になっていること、下部クラブにお金が行き渡らないことを指摘されている。

また、過密日程対策として2024-25シーズンからFAカップにおける引き分けの再試合制度が廃止になったことについては、再試合制度が貴重な収入源となっている、イングランドの2部、3部等の下部リーグに属するクラブから「裕福なプレミアリーグだけを優先した制度改悪」と非難声明が続出している。)

Jリーグにおける過密日程の現状

さて、世界的な問題となっているサッカー界の過密日程だが、ヨーロッパと同じく、日本のJリーグにおいてもこの問題は指摘されている。

つまり、以下の3つの状況による過密日程が問題視されている。

(1)J1は20クラブ

(2)ACLでの国外遠征

(3)天皇杯+ルヴァンカップ、カップ戦が2つ開催

(1)J1は20クラブ

ヨーロッパトップのリーグ・アンとブンデスリーガは18クラブ制にもかかわらず、それよりも多い。競技人口、クラブ規模、収入額踏まえても、さすがにフランスやドイツよりもトップリーグのクラブ数を多くするのはおかしいのでは。

(2)ACLでの国外遠征

まだロシアがCLに参加していた時、移動の過酷さからロコモティフ・モスクワやCSKAモスクワと同組になった際「モスクワ送りだ」と嘆く西側クラブのサポーターは多かったが、ロンドン=モスクワ間より東京=シドニー間の方が移動時間は長い。

ロンドン=モスクワは最短で4時間程度、東京=シドニーは10時間ほどかかるため、ヨーロッパのCLより、アジアのCLの方が過酷であり、より日程緩和を意識しなければならないのでは。

(3)天皇杯+ルヴァンカップ、カップ戦が2つ開催

スペインやイタリア、フランス等、カップ戦は一つの国が大半。そんな中で日本は2つのカップ戦を並行して戦うため、日程的には厳しい。どちらか一つに絞るべきでは。

J1のクラブ数を「16」まで絶対に減らせない理由…Jリーグ“過密日程”の現状
J1のクラブ数を「16」まで絶対に減らせない理由…Jリーグ“過密日程”の現状

以上、3つの制度についていずれも課題を抱えている状況ではある。

ただ変えるとすれば、J1の20クラブ制を改善することが最も望ましく、実現可能性が高いと考えられる。

理由としては、過去、1999~2004年までは16クラブ制でJ1を戦っていたからだ(その後、コロナ禍の特例を除き2005~2023年まで18クラブ制、そして2024年からは20クラブ制となっている)。

過去、16クラブ制でリーグ戦を行っていて、大きな問題が生じていなかったのだから、元に戻すことは可能だろう、という理論である。

(ACLについてはAFC側との交渉が困難を極めるうえ、日本は現在のAFCにおけるプレゼンスが低いため何か意見しても改善はほぼ不可能だろう。カップ戦は長年スポンサードしてくれているヤマザキビスケット社からの恩義という縁を考えれば廃止は難しい。)

しかし、ここでタイトルに戻るが「J1のクラブ数を16まで絶対に減らせない理由」について述べていく。

J1のクラブ数を16まで絶対に減らせない理由

理由は大きく3点。

(1)J1クラブ側の大半は20クラブ制度に賛成

(2)J2、J3とクラブ数を合わせる必要性あり

(3)少数精鋭より裾野拡大のメリット

それぞれ理由を深掘りして述べていく。

(1)J1クラブ側の大半は20クラブ制度に賛成

コロナ禍の2020年に降格なしとして、2021年に20クラブ制でスタートする際にJリーグ側から「特例として20クラブ制にしたため、2021年はJ1から4チーム降格させて次のシーズンからは18クラブ制に戻す」というレギュレーションを発表。

コロナを理由として特例で降格なしにしてJ1クラブ数増やしたのだから、特例解除でクラブ数を戻すのは当然という認識だったのだが、意外にもこの時、「4チーム降格、18クラブ制に戻すことについてクラブ側から反対の声が多かった」という報道がなされた。

そして数年後、クラブ数を18から20に増やした際に、J1クラブ側は満場一致で賛成、クラブ数増に至る。

つまり、ファン・サポーターからすれば「J1のクラブ数を多くしたら過密日程になるから反対」という声がある一方で、クラブ側からすると「J1のクラブ数は多い方が良い」という考えであることがわかる。

何故クラブ側は賛成なのか?シンプルに理由は以下の2つだ。

・試合数が増えて入場料収入増

・J2に落ちにくくなる(J1に残りやすい)

18クラブ制に比べれば4試合増となり、入場料収入はその分増大、露出度も高まる。

また、18クラブ中3クラブ降格より、20クラブ中3クラブ降格の方が残留はしやすい。

この二大理由から、クラブ側が拡大路線に賛成するのは当然のことだと思う。

J1のクラブ数を「16」まで絶対に減らせない理由…Jリーグ“過密日程”の現状
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ただし、現場の指揮官、選手達からすると逆で、特に監督は過密日程への不満を露わにしており、あくまでフロント側が賛成という形だ。

(2)J2、J3とクラブ数を合わせる必要性あり

現在、J1、J2、J3の全カテゴリーが20クラブで統一されている。現行の春秋制から秋春制へシーズン移行の際、20クラブで統一というのは非常に重要なポイントであり、クラブ数統一には大きな理由がある。

現行のシーズン制の場合、昇格・降格が12月中に決定して2月から新シーズン開幕となるので、年が明ける前に各スタジアムの確保に動ける。

一方、秋春制となると昇格・降格が決まるのは5月頃。

この場合、年が明けており新年度も明けているため、スタジアムの確保が難しくなる。

Jクラブの大半は自前でスタジアムを保持しておらず、自治体からの借り物。つまり、使用にあたって事前調整が必要となる。5月頃にJ2降格が決まって、18クラブだったJ1から22クラブのJ2になって試合数が変わり、ホームゲームの会場確保に慌てて調整するのは困難。

しかし、J1~J3までクラブ数を合わせてしまえば、昇格・降格しようがリーグ戦のホームゲーム開催数は変わらないので年度や年が変わる前にスタジアムを確保しやすくなる。

年をまたぐシーズン制であることを踏まえれば、クラブ数は統一する必要性があり、J1だけ16クラブに減らすことは難しい(「だったら秋春制を止めろよ」というのはまた別の話)。

「J2やJ3も16にクラブ数減らせばいい」という案もあるだろうが、それについては、(1)で述べたとおり、試合数減は収入減に直結するのでこれも困難である。

(3)少数精鋭より裾野拡大のメリット

前述の「(1)J1クラブ側の大半は20クラブ制度に賛成」と「(2)J2、J3とクラブ数を合わせる必要性あり」は目先の話、事務的な手続きの話、いわばミクロの話ではあるが、この「(3)少数精鋭より裾野拡大のメリット」についてはマクロな視点からの話である。

タイトルの通り、クラブ数を増やせば増やすだけ、サッカーの存在感は増し、競技人口も増え、日本サッカー界の発展に繋がるという大きな話を忘れてはいけない。

過密日程解消のためには全カテゴリーを16クラブにするのが望ましい。

一方、デメリットとしてその分、プロのクラブ数は減り、プロサッカー選手も減る。

トップカテゴリーではないJ2やJ3を経由して日本代表入りした選手が数多くいる中で、底辺の拡大、裾野を広げるという視点は持ち続けるべき。その視点を無くしてはならない。

よく、韓国サッカー界の指導者や関係者からは「日本と韓国の違い、日本が進んでいる点」として一様に「土台・底辺の拡大が日本は韓国より遙かに凄い」と述べている。

高い視座から見れば、プレミア化でJ1を16クラブにするより、過密日程だろうと拡大路線でプロ60クラブを維持することで、日本サッカー界の底上げに繋がるという思考は一定程度理解できる。

J1のクラブ数を「16」まで絶対に減らせない理由…Jリーグ“過密日程”の現状
J1のクラブ数を「16」まで絶対に減らせない理由…Jリーグ“過密日程”の現状

20クラブ制を維持した中での対応策

以上、ヨーロッパの過密日程からJリーグで同様の課題を述べた上で、それでもJ1のクラブ数を減らせない理由について述べた。

ここまで述べた上での私の結論は、「過密日程に対して、もはや根本的な解決はとれない」。

だからこそ、クラブの強化部はターンオーバー可能な戦力を用意するスカッド編成が求められる。そして、監督はターンオーバーを駆使して最大限、選手の疲労を軽減する采配が求められる。

逆に言えば、この“過密日程Jリーグ”において、ロクな補強をしないフロント、ターンオーバーをせずスタメン固定化で戦い続ける監督は悲惨な目に遭うし、結果は出ない。これを認識するしかない。

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