2月に早くも新シーズンが開幕するJリーグだが、このオフも移籍が活発に行われた。
Jリーグの移籍を見ていると“まだまだ戦えそうな選手たち”が契約満了後、JFLやその下の地域リーグへと移籍していくことが少ない。
Jリーグの契約満了は、プロ野球の戦力外通告と似ているようでかなり異なる。
Jリーグの場合、出番が得られない選手だけが契約満了になるわけではない。財政的な問題やチームの若返り、戦術のフィット感の問題からシーズンでは出番を得ている選手、時にはレギュラークラスでも放出を余儀なくされる。
J1でのプレー経験が豊富な秋野央樹は、2023年シーズンをもって契約満了後にトライアウトを経て元所属クラブであるV・ファーレン長崎と再契約。いきなり、キャプテンに就任し2024シーズンをボランチのレギュラーとしてプレーした。
ここまで返り咲くのは稀としても、使えないと烙印を押された選手だけが契約満了になっているわけではないことは容易に分かるだろう。
契約満了になった選手たちは新たな所属先を探すことになるが、プロ野球の戦力外とは違い、多くが次の所属チームを見つけることができる。
その中で、予想以上に多いのが地域リーグへの移籍だ。先に述べたように前年度J1やJ2で出番を得ていたケースでもだ、
例えば、関口訓充は、2021年に仙台でJ1 28試合1ゴールであったが、契約終了し退団。2022年は関東1部の南葛SCへ移籍した。
関東1部は上から数えると5部相当であり、4カテゴリ(ディビジョン)下の格差移籍となる。なお、同シーズンは、関東1部で18試合2ゴールをあげている。
格差移籍が起こるこれだけの理由
このような格差移籍が起きる背景は、愛媛FCサポーターでも知られる漫画家能田達規氏の『となりの代理人 -フットボール・エージェント-』でも描かれている。
極力ぼかした範囲で記載をすると、地方のJクラブか、大都市圏の地域リーグかで移籍を悩み、最終的に格下のはずの地域リーグを選ぶという話だ。
では、選手が移籍する際に、何がフックになるのか理由を5つほど取り上げたい。
1.故郷のクラブやデビューしたクラブへ帰るパターン
1つ目は生まれ故郷や出身地のクラブでキャリアの最後を終えたい、故郷のクラブで上に行きたい、盛り上げたいというパターンだ。
カテゴリこそ異なるが、清武弘嗣のパターンがそれだ。大分県出身の清武は、2025シーズンからユースからデビュー時に在籍したクラブである大分トリニータへ移籍している。
同じく、愛媛出身の有馬潤は高知大学卒業後にJFLソニー仙台へ加入。2018年にふるさとのクラブで意識していたというFC今治へ加入した。
一見、同じカテゴリに見えるがFC今治はJFL昇格組、ソニー仙台は母体がソニーという大企業でもあり、周りからは「「安定した立場を捨てて今治に行くの?」「もしそこでJ3に上がれなかったらどうするの?」と周りの人からは言われたこともあります」とFC今治のnoteにて述べている。
故郷ではないが、デビュー時のクラブに帰るパターンも同じと言えるだろう。
2.家族や住環境の問題
2パターン目が家族の問題だ。
子供がいまの学校から離れたくない、家を買っていて単身赴任になるなど家族の住環境を考えると、元所属チームから近いチームを選びたいと思うのは当然だ。
家と言えば、岡山一成が有名だ。
2006年に川崎フロンターレからJ2柏レイソルに期限付き移籍をすると、岡山劇場と讃えられるほどの大活躍を見せた。すると、サポーターのゲートフラッグがきっかけで「岡山。
大久保嘉人が2021シーズンにセレッソ大阪へ移籍した際は、子供を連れての単身赴任が話題になった。この大久保のパターンはJ1への移籍だが、1のデビュークラブへ帰る、2の住環境をうまく整理した例と言えるだろう。
3.年俸が良い
Jリーグは世界的にも珍しくJ2やJ3でも財政的な規模がJ1を上回るチームが存在している。
2023シーズンのJリーグ資料によると、J1の売り上げ最下位のサガン鳥栖は売り上げ24億9700万円、湘南ベルマーレが28億1200万円だが、J2清水は50億円超え、磐田も約42億円と上回っている。同じようにJ2最下位の群馬が約8億円に対してJ3松本は約14億5000円とやはり上回っている。
2024シーズンに話題となった、J3・大宮アルディージャのレッドブル入りをはじめ、下位クラブでも財政的にはポテンシャルの良いクラブがある。これは地域リーグでも同じで、アマチュアの地域リーグでも、プロ契約をしある程度の年俸が保証されるパターンだ。
反面、J2、J3でも赤字経営や売り上げが少なく財政に苦しいチームは、年俸が低いことが多い。
ちなみに、Jリーグでは、プロ契約の規定を満たした上であればアマチュア契約の選手も許されている。かつては、鈴木隆行が2011シーズンに水戸ホーリーホックと無報酬でのアマチュア契約が話題を呼んだこともある。(2013シーズンにA契約へ変更)
4.上を狙えるクラブビジョンがある
最後が、上を狙えるクラブビジョンがあることだ。
現在の地域リーグやJFLには野心や壮大なクラブビジョンをもったクラブが多数存在する。彼らは、お互いに激しく戦いJリーグ入りを競っている。
東京都だけを見ても、先ほどの南葛SCをはじめ、SHIBUYA CITY FC、クリアソン新宿、本田圭佑が発起人のEDO ALL UNITEDなど面白いクラブがある。
FC今治や栃木シティなどJ加入を果たしたクラブもある。クラブビジョンに惹かれ、自分の手で昇格を勝ち取りたい気持ちになる選手たちは少なくない。
5.期限付き移籍先のクラブに完全移籍をする
若手で出番を得られずに契約終了になったケースで多いのが、期限付き移籍でお世話になったクラブへ期限付きをするパターンだ。
とりわけ、高卒で加入し3年程度在籍したが、元クラブでは出番がなく、期限付き移籍先のクラブで成長し、Jへ復帰しようと考えることは珍しいことではない。
また、似た理由として慕う監督が、地域リーグに加入し、その縁で誘われるケースもある。
2025シーズンのJリーグ格差移籍 主な一覧
それでは、2025シーズンを控えた今シーズンも格差移籍は起こっている。
今までに決まった主な格差移籍を見てみよう。
島田譲
アルビレックス新潟(J1)⇨ クリアソン新宿(JFL)
清水圭介
セレッソ大阪(J1)⇨ FC BASARA HYOGO(関西1部)
中山仁斗
ベガルタ仙台(J2)⇨ クリアソン新宿(JFL)
高木俊幸
ジェフユナイテッド千葉(J2)⇨ 東京ユナイテッドFC(関東1部)
武富孝介
ヴァンフォーレ甲府(J2)⇨ おこしやす京都(関西2部)
坪川潤之
カターレ富山(J2)⇨ SHIBUYA CITY FC(関東2部)
脇本晃成
カターレ富山(J2)⇨ ベルガロッソいわみ(中国)
沼田圭悟
レノファ山口(J2)⇨ 沖縄SV(JFL)
大迫暁
カターレ富山(J3)⇨ FC刈谷(東海1部)
櫛引政敏
ザスパ草津(J3)⇨ レイラック滋賀(JFL)
平松宗
ザスパ草津(J3)⇨ VOYAGERS(岐阜県1部)
重松健太郎
FC大阪(J3)⇨ FIFTY CLUB(神奈川県1部)
中原秀人
鹿児島ユナイテッド(J3)⇨ ラインメール青森(JFL)
中でも話題を呼んだのが、高木三兄弟で知られる高木俊幸が33歳にして東京ユナイテッドを舞台に選んだことだ。高木は浦和、清水、セレッソ大阪などでプレーし、これまでJ3以下でのプレーはなかった。
また、元U-23代表GKの櫛引政敏は、JFL レイラック滋賀を舞台に選んだ。昨シーズンはザスパ草津群馬でシーズン途中からキャプテンを務めており、33試合に出場していた。
最後にアルビレックス新潟の島田譲が34歳にしてJ1からクリアソン新宿へ移籍したのも意外だった。
クリアソン新宿は30歳以上のJ経験者を4人も補強。昨シーズンはJFL14位と低迷しただけに、Jリーグで出番があるのに契約終了したオーバー30を狙って補強しJFLを勝ち抜く戦略だ。
このように、JリーグからJFL、地域リーグへ移籍することは、新しい挑戦として前向きな移籍も多い。選手たちの今後の活躍にも期待したい。