
Qolyアンバサダーのコラムニスト、中坊コラムの中坊氏によるコラムをお届けします。
過酷なレギュレーションの中、ACLE準優勝を成し遂げた川崎フロンターレ
川崎フロンターレのみなさま、AFCの理不尽極まりないレギュレーションによる中東での戦い、本当にお疲れ様でした。
東アジアのクラブがサウジアラビアのクラブに軒並み衝撃的な大敗を喫する中で、川崎だけがサウジアラビアとカタールのクラブを下して決勝に進出したのは偉業だと思います。
さて、タイトルを手にすることはできなかったものの、準優勝という結果、そして約10億円の大きな賞金を手にすることができた川崎。
【賞金内訳】
ACLE参加費80万ドル
+勝利給50万ドル
+ベスト16賞金20万ドル
+ベスト8賞金40万ドル
+ベスト4賞金60万ドル
+準優勝400万ドル
-財団寄付20万ドル
=630万ドル≒9億4,500万円(1ドル150円計算)
山口瑠伊とチョン・ソンリョンの現状
個人的な興味としては、「この賞金で、GKのポジションに一体誰を補強するのか」という点に尽きる。
さすがに補強費用に突っ込めるのは一部ではあるものの、それでも通常よりは補強予算がある状況。まずは川崎のスカッドについて語りたい。
2025年シーズンの川崎は山口瑠伊(26)とチョン・ソンリョン(40)でGKのポジション争いをしている。 この「ポジション争いをしている」という状況がそもそも望ましくない。
理想は正GKが常にポジションを明け渡さずに、誰から見ても「守護神はこのGK」と思われる状況が望ましい。しかし川崎の場合は今年に限らずここ数年、不動の正GKという存在感までに至らず、守護神が定まりきっていない状況だ。
チョン・ソンリョンは現役韓国代表として2016年に韓国の水原三星から加入し、以降クラブのリーグ初優勝をはじめとする国内7タイトル獲得に貢献。実力的にはまさに不動の正GKであり、2019年の一時期は新井章太(現ヴィッセル神戸)にポジションを奪われたものの(ルヴァンカップ決勝も新井がスタメン)、その後は復調し2020年Jリーグベストイレブンにも名を連ねた。
しかし、近年はかつてのパフォーマンスから衰えが見え、シュートストップの安定感がやや失われている。そのため、2023年からは京都サンガから加入した上福元直人とのポジション争いが始まる。
この時はソンリョンの方がセービング技術では勝るものの、上福元が飛び出しの思い切りの良さ(退場者が出て10人になった際、CBの位置まで上がって数的不利をカバーしたこともあった)、そしてキック精度の高さでソンリョンを上回ったため、上福元は川崎在籍の1年半の間に27試合に出場。
「飛び出しとフィードセンスの上福元か、シュートストップのソンリョンか」というポジション争いだった。結果的にどちらも全幅の信頼をおけるほどの安定感がなかったため、正GKが定まりきらなかったのが、2023~2024年のポジション争いである。
また、上福元の湘南ベルマーレ移籍後に入れ替わりで町田ゼルビアから加入した山口瑠伊と2025シーズンはポジション争いをしているが、これも悩ましい。

確かに山口は、ACLEファイナルズが開催されたサウジアラビアの地においては見事なセーブを連発し決勝進出の立役者になった。ただ、大一番のJ1第16節、国立競技場での鹿島アントラーズ戦で露わになったようにシーズントータルで見ると川崎の正GKとしては実力不足の面が否めない(この試合で山口は飛び出しの判断を二度誤り、鹿島・田川亨介の決勝点に至った)。
さりとてソンリョンも第5節横浜F・マリノス戦ではスタメンで出場したが、かつての安定感あるセービング技術が失われていることを露呈してしまい、終盤立て続けにゴールを決められ3失点を喫した。
2019年に起きた新井とのポジション争いは一時的なものでその後復調したが、2023年以降の上福元とのポジション争い以降は、ソンリョンの衰え、そしてライバルとなった上福元や山口も絶対的な守護神とまでは言えない実力のため、川崎の守備が安定しない要因の一つとなっている。
となると、タイトルに戻るが「川崎はACLEの賞金約10億円でGKに誰を補強するのか」というところがクラブとして大きなポイントとなる。
2007年、川島永嗣の補強を振り返る
「川崎の補強ポイントはGK」と明確に定まっている状況、古くは2006年がそうだった。
古くからの川崎サポーターなら記憶していると思うが、この時の川崎はジュニーニョ・我那覇和樹・マギヌンら強力アタッカー陣の大活躍と谷口博之の得点力でリーグ2位という好成績を残す。
ただし、DF陣は伊藤宏樹、箕輪義信、寺田周平の通称「川崎山脈」で見事な壁となったが、GKは相澤貴志と吉原慎也の二人とも安定感がなく、どちらも正GKとして務まらず入れ替えが起き、得点を重ねるもそれ以上の失点で落としたゲームもあった。
そのため、2006シーズン終了後、2007シーズンに向けてサッカーダイジェストら各サッカー雑誌における「J1補強動向・補強ポイント」の特集号においても川崎の補強ポイントは「GK」と明確に書かれていた。
「補強が必要なのはGK」と書かれる事実は重い。
FWやMFならば層の厚さが求められるし、連戦の中でローテーションが行われるため「FWが補強ポイント」=「今のスタメンFWが実力不足」ではない。
しかし、GKの場合は頻繁にスタメン入れ替えをするポジションではないためフィールドプレーヤーと明確に異なる。そのため、「GKが補強ポイント」=「今のスタメンGKが実力不足」という意味になる。
なお、2007年の川崎においては、守護神として名古屋グランパスから川島永嗣を1.5億円の移籍金を払い獲得した(これは当時の川崎としてクラブ史上最高額)。この補強は大当たりとなり、川島は前述の相澤・吉原とは格の違うプレーを見せつけて正GKとして君臨することとなる。
GKの補強は3パターン
今回も2006年の状況と似ており、今年もしくは来年には実力あるGKの補強がマストだと認識している。では、誰を補強するのか?ざっくり分けると以下の3パターンとなる。
(1)国内から補強
(2)Kリーグから韓国人GKを補強
(3)東ヨーロッパから補強
(1)の国内から補強はムリと思った方が良い。今のJリーグにおいて有望なGKはクラブ側がまず出さない。出すなら海外移籍だけであり、国内のライバルには移籍させない。
(2)はかなり現実的で、それこそ9年前にソンリョンを韓国から補強した時の再来とも言える。一時期、Jリーグにおいても多くのクラブが韓国人GKを補強したことにより席巻したが、自分も韓国人GKへの信頼は厚い。
その背景としてKリーグは外国人GKが禁止されており、自国の選手のみ登録可能となっているためだ。そのため、KリーグおよびACLで経験を積んだGKをヨーロッパや日本代表選手に比べれば安く補強できる。
(3)の成功例としては、元ジュビロ磐田のクシシュトフ・カミンスキー、元ベガルタ仙台・FC東京のヤクブ・スウォビィクといったポーランド人GKだ。彼らは本当にシュートストップがうまかった。年俸的にも移籍金的にも、西ヨーロッパに比べればリーズナブルのためJリーグクラブでも払える。
今回、川崎は約10億円の賞金を手にし、それをそのまま全て補強費に使えるわけではないが、それでも通常よりは補強予算がある状況。
現在の韓国代表GK陣は皆、国内メンバーだ。蔚山のチョ・ヒョヌ(33)、大田のイ・チャンギュン(31)、光州のキム・ギョンミン(33)が候補である。金泉尚武に在籍中のキム・ドンホン(28)は兵役中のため難しいか。もしくはポーランド等の東ヨーロッパから実力あるGKを補強してくる可能性もある。

チョン・ソンリョンはここまで大きな貢献をしており、Jリーグの中で歴史に残る素晴らしいGKの一人。ただ、さすがに40歳という年齢による衰えは隠せないのは事実。
前述のカミンスキーもスウォビィクもシュートストップ技術は素晴らしく、多くのサッカーファンの記憶に残ったが、やはり晩年は一気に衰えが出て、失点を重ねる姿やキック精度の乏しさで致命的なミスを起こしたのも事実ではある。
リーグを4度優勝し、ACLEで決勝まで進出したクラブの正GKが定まらない状況はあってはならず、強化部も確実にここは補強ポイントと認識しているはず。誰を補強するのか。とても興味深い。