
明治安田J2リーグで首位に立つ、水戸ホーリーホック。8連勝を含む15戦無敗を記録した中盤戦を経て、クラブ史上初のJ1昇格の鍵を握るのは、20歳のドリブラーかもしれない。
高卒2年目のMF齋藤俊輔は自慢のドリブルで相手守備網を切り裂き、パンチ力抜群のシュートセンスでチーム2位の7ゴールを挙げるなど、今季Jリーグ最大のサプライズとなっているチームの主力として活躍。
2025年7月度の『明治安田J2リーグKONAMI月間MVP』も受賞するなど、クラブでの活躍を評価され、『FIFA U-20ワールドカップ チリ2025』に出場するU-20日本代表にも選出。初めて世界の檜舞台に立つ俊英に話を訊いた。
(取材・文/新垣 博之、取材協力:水戸ホーリーホック)
「高校の時よりもゴールを量産」齋藤俊輔が止まらない!
水戸ホーリーホックの20歳のMF齋藤俊輔が止まらない!
9月13日に開催された第29節のベガルタ仙台戦(A)、左サイドの密集地帯でボールをキープした齋藤は反転しながらも繊細かつ巧みなステップワークを駆使したドリブルで相手選手3人を置き去りにし、ボックス内に侵入。左45度の位置から右足で放たれた豪快なシュートは逆サイド内側のネットを揺らした。現在の絶好調ぶりを物語るゴラッソだった。
「実は今、高校時代よりも点が取れているんです!」
齋藤本人が断言するように、彼が高校3年時に戦った通年制のリーグ『高円宮杯JFA U-18サッカープリンスリーグ関東2部』で挙げたゴールが4つだったのに対して、今季のJ2リーグで挙げたゴールはすでに7つ。その全てが5月以降に生まれている。
齋藤のゴールには“ゴラッソ”と表現されるような華麗なゴールが多い。
今季第14節のレノファ山口戦(A)では、左サイドでスルーパスを受け、マイナス方向に相手選手3人を交わし、豪快にトップコーナーに蹴り込んだドリブルシュートが5月度の『明治安田J2リーグKONAMI月間ベストゴール』に選出。
第27節のサガン鳥栖戦(A)では自陣で自らボールを拾い、ドリブルで40メートル以上の長い距離を持ち運び、地を這うような右足での強烈なミドルシュートを決め、こちらも8月度のJ2ベストゴールに選出されている。
アジア杯後に代表落選、コンディション不良に苦しんだ前半戦
現在は飛ぶ鳥を落とす勢いの齋藤だが、今季の彼はU-20日本代表としてJリーグと同日に開幕した2月の『AFC U20アジアカップ中国2025』に出場していたこともあり、コンディション調整に苦しんできた。
「実は去年のシーズン終了後、ハノーファー96(※)へ練習参加する予定もあった中、ありがたいことにアジア杯に繋がるU-19日本代表のメキシコ遠征に招集していただいて、2月のアジア杯にも出場することができました。
アジア杯は自分たちだけでなく、他国を見ても国の威信をかけて戦う強い意識を感じた大会でしたが、自分はコンディションを上げることができずに悔しい想いもしました。日本とは違う国へ行ってのコンディションの作り方や環境への適応については、もっと上手くやっていければ良かったなと思います」
※「ハノーファー96」:2023年から水戸と育成の業務提携をしている現ドイツ2部に属するクラブ、昨年11月には齋藤と同期のDF尾野優日(JFLの横河武蔵野FCへ育成型期限付き移籍中)、MF碇明日麻(ハノーファー96 IIへ期限付き移籍中)がU23チームへ練習参加。今年7月には水戸から期限付き移籍していたDF松田隼風が完全移籍。
アジア杯から帰国した齋藤は第4節から2試合連続で先発起用されたものの、その次の試合はメンバー外。以降もベンチ入りはするものの、第12節終了時点での先発出場はその2試合のみと、開幕から好調を維持するチームの波に乗り遅れていた。
「怪我などはなかったんですけど、帰国後も自分のコンディションをなかなか上げきれず。それが出場時間が伸びなかった理由だったと考えています」
6月には世界中の有力な若手が集う『第51回モーリスレベロトーナメント』(フランス)に出場するU-20日本代表からも落選したが、同時期にスランプを脱するキッカケを掴んでいた。
「津久井(匠海)選手(RB大宮アルディージャ)が移籍したこともあるのですが、スタメンで出るチャンスをもらえてから2試合目の(第20節)FC今治戦(A)で、自分が得意とする形から点をとれて、納得できるパフォーマンスが出せたことから自信を掴み、徐々に良くなってきたと思います。
今シーズンから取り組んでいるフィジカル面、特に下半身の強化の効果もあって、単純に足が速くなっていますし、相手に身体を寄せられたり、球際の競り合いなどでも簡単には倒れないようになってきている実感もあって、そういった面も自信に繋がりました」(公式プロフィールでは昨季66kg→今季68kgに筋力増量)
飛躍的向上を見せる守備力、導いた恩師と大黒柱の存在
目に見える形で増えたのはゴールだけではない。水戸がクラブとしてのフィロソフィー(哲学)を体現している守備での貢献だ。場数を踏めば踏むほどに齋藤の守備力は向上を見せ、現在は自らのボール奪取からゴールも奪えるようになっている。
「元々は守備面をメインに指導されていた森直樹監督が就任された去年の途中からは、守備をやらないと試合には使ってもらえないので、守備を継続してやることによっての成長も感じますし、シーズンが進むにつれて良い形で出せるようになって来たと思います。
単純に“守備”と言っても自分1人だけではできないので、自分はチームの1つの駒だと考えています。ちゃんと監督の指示通りに動けているかどうかも分かったうえで、今はそこから自分で考えたり、判断したりと言った守備ができてきて、それが今はゴールにも繋がっている実感があります」
攻撃面でのドリブル突破が「リスクをかけたプレー」であるように、守備面でもリスクを考えてプレーできるようになった齋藤は守備時にも躍動している。
そんな齋藤がプロデビューを飾ったのは、森監督が就任してから5試合目となる昨季の第18節、V・ファーレン長崎戦(H)。前体制では1度もベンチ入りすら経験していなかった高卒ルーキーはその後、出場5試合目となった第24節の横浜FC戦(H)で驚愕のプロ初ゴールを挙げ、最終的にはリーグ16試合に出場した(先発は2試合)。
齋藤を大抜擢した森監督は“恩師”と呼べる存在だ。

「実はコーチ(昨年5月途中まではディベロップメントコーチ)をされていた時の印象があまりなかったんですけど、監督に就任されることになった時には自分たちの前で泣きながらスピーチをしていただきました。それが去年のJ2残留につながったように感じています。
クラブに長く在籍されていて(現役時代を含めると今季で23年目)、本当にクラブを愛している人だなと思います」
守備面を整備・強化する森監督の指導によってリーグで3番目に少ない28失点の堅守が際立つ今季だが、攻撃面では新任の林雅人コーチの存在が大きい。
長年に渡ってオランダで指導者としてのベースを築いた林コーチによる理論的なアプローチが攻撃力アップに繋がり、現在リーグ2位の45得点を挙げているチームの得失点はリーグ最多の「+17」。6月21日の第20節以降、3カ月以上に渡って首位をキープしているのも納得の数字だ。
「練習でやったことが試合でそのまま出て来たり、ミーティングでも細かく具体的な指示で選手に要求してもらえるので、分かりやすいです。反面、特に攻撃面では選手個々の持ち味を出せる“戦術的な余白”があって、それを林さんを中心としたコーチングスタッフがオーガナイズとして用意してくれているので、すごくプレーしやすい環境を与えてもらっていると思います」

ここまで齋藤が挙げた7ゴールのうち、4つはFW渡邊新太のアシストによるものだ。J2得点ランク2位の13ゴールを挙げながらも、リーグ3位の7アシストも記録する30歳の大黒柱の存在は20歳の青年にとって大きい。
「単純にゴール前でパスをくれるというだけでなく、いつもシュートを撃ちやすい形でパスをもらえていますし、アタッカーとしてゴールもアシストも量産できるのは凄いことだと思います。
しかも、それだけでなく、チームで最年長に近い選手が前線から体を張ってプレスのスイッチを入れる献身的な姿を見ていると、『自分もこの人に付いて行こう』と思わせてくれる大きな存在です。最近は自分がFWに入ることも多いので、より一層にそう感じています」
中村俊輔や西川潤と同じ経路を辿り、水戸へ
神奈川県横浜市出身の齋藤は兄の影響から4歳でサッカーを始めた。両親にサッカー経験はなかったが、幼い頃からサッカーを薦められたそうだ。
当然、“俊輔”の名前の由来は日本サッカー界のレジェンドMF中村俊輔氏(横浜FCコーチ)にあるようで、“本家・俊輔氏”にも挨拶済。「下の名前には触れられなかったです(笑)」とのことだ。
幼稚園に通う年長の頃からは地元・横浜市に拠点を置く「SCH.FC」でプレー。1つ上の学年にFW内野航太郎(ブレンビー/デンマーク1部)、MF松村晃助(法政大学3年、横浜F・マリノス特別指定選手、2027年からの正式加入内定)が在籍しており、幼少期から高いレベルの環境下でサッカーを楽しんだ。
小学校3年時からは横浜F・マリノス・プライマリーに加入し、順調に同ジュニアユースにも昇格。しかし、中学2年の終わりにはコロナ禍で世の中全体の活動がストップしてしまった。
「前年の2019年にF・マリノスのトップチームがJ1で優勝していて、あのアタッキングフットボールはJリーグや日本サッカーに革命を起こしたと思っています。
あの年は何度も現地で観ていたので、だからこそ、『ユースに昇格したい』という想いが強かったのですが、中学3年の6月頃までは活動が止まっていました。本来なら見られていたはずのユースの選考会の時期も極端に短くなってしまったので。今考えても本当に悔しく、難しい時間でした」
ユースへの昇格が叶わなかった齋藤は神奈川県の名門・桐光学園高校に進学。横浜F・マリノスのJユースから桐光学園への進学は中村俊輔氏や藤本淳吾氏といった元日本代表も辿った経路だ。また、齋藤が入学する2年前までは当時のU-17日本代表のエースFW西川潤(サガン鳥栖)も在籍。彼もまた、F・マリノスのJユース出身だった。
「ありがたいことに多くの高校からオファーをいただきました。また、3歳年上の兄が高体連でプレーしていて、その兄が『今の神奈川県で1番強くて良い環境』と言っていたのもあって、桐光学園に決めました」
高校入学直後はまだまだ収束しないコロナ禍の影響もあったが、高校3年時にはプリンスリーグ関東2部で水戸のユースとも対戦し、インターハイ(令和5年度全国高等学校総合体育大会)では決勝進出。決勝のみベンチスタートとなり、惜しくもPK戦の末に準優勝に終わったものの、大会直後には水戸からの正式なプロ契約のオファーも届いた。
「水戸には高校3年の5月から7月にかけて2度の練習参加をしていて、プロ契約のお話はインターハイ終了直後に桐光学園の監督から聞いて初めて知りました。
実は大会中に同期入団することになるMF碇明日麻選手の水戸への加入が発表されて、彼は高校サッカー界のスター的存在だったこともあって、『2人は獲らないだろうな』と思っていたので、ホッとしました(笑)。
水戸を選んだ理由としては、まず自分がどうしても『高卒でプロになりたい』と考えていたことと、実際にオファーがあったのが水戸だけだったこと。高校時代の自分はまだまだ無名な選手だと自覚していたので、本当にありがたいお話でした。
正式加入するにあたっても、育成の業務提携で海外クラブへ練習参加に行けることや、選手をピッチ内外で育成するプロジェクトもたくさんあることなどをプレゼンしていただいて、しっかりと納得したうえで決断しました」

「水戸をJ1に昇格させて、水戸からロス五輪、世界へ」
現在、大混戦のJ2リーグは残り8試合。水戸は長崎に勝点で並ばれながらも依然として首位をキープしている。その中で20歳の青年はクラブとU-20日本代表として、どのような目標を掲げているのだろうか?
「今シーズンは個人として5ゴール5アシストを目標にしていたんですけど、今7点決めているので、少し(U-20W杯で)離脱しますけど、二桁ゴールを目指して残りのシーズンを戦っていきたいと考えています。
正直、シーズン前はこの時期に自分たちが首位にいるとは想像してなかったのですが、今はクラブとしての目標は優勝しか考えていません!
U-20W杯についてはアジア杯で悔しい想いをしたので、まずは自分が試合に出て結果を残すことを考えています。クラブが重要な時期を迎えるなかで自分が抜けるので、不甲斐ないプレーはできないですし、ちゃんとU-20W杯に行って来た“意味”を示す大会にしたいと思います」
毎月のように各賞を受賞し、特大のインパクトを放つ齋藤には今後、海外移籍のオファーも殺到することが予想される。現時点で海外をどの程度意識しているのだろうか?
「小さい頃は海外のサッカーはほとんど見た記憶がないんですけど、最近はアーセナルとアーセナルの主将であるMFマルティン・ウーデゴール選手(ノルウェー代表)が好きで、プレミアリーグをよく見ています。
自分はまだ語学の勉強はしてないんですけど、いずれはヨーロッパの5大リーグ(イングランド、スペイン、ドイツ、フランス、イタリア)でプレーして、チャンピオンズリーグに出場したいと考えています。
そのためにも今シーズンは水戸でJ1昇格を決めて、最近は水戸から次のロサンゼルス五輪(2028年)に出られるような選手になっていきたいと考えるようになりました。
そして、“水戸から世界へ”ということを考えたいと思います」
U-20W杯で期待したい「フィニッシャー」齋藤俊輔
世界を意識するうえでは南米のチリで開催されるU-20W杯での活躍は欠かせない。
グループAに入った日本は現地時間9月27日にグループステージ初戦のエジプト戦を迎え、9月30日には開催国チリとの第2節、10月3日には最終節のニュージーランド戦が予定されている。
決勝は10月19日に行われるため、齋藤はクラブがJ1昇格をかけて戦う大事な終盤戦を最少でも3試合、最大4試合を欠場する可能性がある。
プロ入り前の齋藤は世代別日本代表と縁がなく、今回が初めての世界大会となる。U-20日本代表のメンバーについても同世代ながら一目置く選手がいるようだ。
「今年に入ってからフル代表でデビューしたMF大関友翔選手(川崎フロンターレ)とMF佐藤龍之介選手(ファジアーノ岡山)は一緒に練習していても“止める・蹴る”の基本技術からレベルが高く、全ての質が違うなと感じます。J2では見られない質の高さです」
海外組が思ったように招集できなかったこともあり、現時点では船越優蔵監督率いるチームが本大会でどのような戦い方を選択するのかは分からないが、大関と佐藤は齋藤と共に2列目のポジションを争うライバルとなる可能性がある。
ただ、大関は司令塔型のプレーメイカーで、佐藤はチャンスメイクに秀でるアタッカー。ドリブラーから自らゴールを奪えるスケールの大きなアタッカーへと大きく変貌を遂げて来た齋藤との共存は可能だ。
代表では大関と佐藤が作り上げたチャンスを仕留めるフィニッシャーとしての活躍に期待したい。
齋藤には1度見たら忘れられない魅力がある。そんな本人にとってのプロ入り後に挙げたベストゴールは、「やっぱり、去年の横浜FC戦で決めたプロ初ゴールですね!自分でもビックリしましたから」だった。
昨季第24節の横浜FC戦、前線右サイドで後方からのロングボールを収めたFW安藤瑞季の巧みな落としを、センターサークル敵陣側の高さでスピードアップした状態で受けた齋藤はそのまま強引にドリブルで中央突破を図り、相手DFとGKの合計3人をごぼう抜き。最後は倒れ込みながら決めた驚愕のプロ初ゴールだった。
敵も味方も年上の先輩ばかりの中で、出場5試合目の高卒ルーキーがこのプレーを選択するだけでも勇気が必要な中、やってのける齋藤は自身のスキルに自信があったのだろう。
そんなボールを持てば何でもできるアタッカーが、守備やオフ・ザ・ボールの動きに進化を見せ始めている。攻守で活躍する意識が強いのはユースに昇格できず、プロ入りがJ2からだったからかもしれない。
ただ、彼はまだプロ入り後にリーグでフル出場したことがない。交代枠が5人となって久しく、攻撃陣のフル出場は珍しくなった現代サッカーだからこそ、現在の齋藤にはゴール以上にフル出場のほうが嬉しく感じられるかもしれない。
初めてフル出場した試合で決勝点を挙げた際のヒーローインタビューでは、「ゴールよりも初めてのフル出場のほうが嬉しいです」と、素朴に語る齋藤の姿も見てみたいものだ。

【プロフィール】
齋藤 俊輔(さいとう しゅんすけ)
2005年4月26日生まれ(20歳)
174cm/68kg 神奈川県横浜市出身
ポジション:MF・FW 背番号:8
4歳でサッカーを始め、6歳の頃から地元・横浜市内に拠点を置く「SCH.FC」でプレー。小学3年生の頃から横浜F・マリノス・プライマリーに所属し、同ジュニアユースに昇格も、ユースへの昇格はならず。日本代表のレジェンドMF中村俊輔を輩出した神奈川県の名門・桐光学園高等学校に進学。高校3年時にインターハイで準優勝するなど実績を残し、J2・水戸ホーリーホックからのプロ契約を勝ち取った。プロ1年目となった2024年は序盤からチームが低迷する中、現指揮官・森直樹監督就任後にプロデビュー。第24節の横浜FC戦でプロ初ゴールを記録するなど、16試合(先発2)に出場。高卒1年目ながら上々のステップを踏んで迎えた今季は第29節終了時で21試合に出場(先発15)し、チーム2位の7ゴールを挙げる大活躍。今年2月にはU-20日本代表として『AFC U20アジアカップ中国2025』の2試合に先発出場。同大会で出場権を勝ち取った『FIFA U-20ワールドカップ チリ2025』での活躍が期待されている。