ヴェルヴェット・アンダーグラウンド時代とソロ時代の代表作から隠れた名作まで、おすすめのアルバムを厳選。

ロックンロールのグランドマスター、ルー・リードのディスコグラフィーには、他にない強烈なインパクトを持つ作品もある。
ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのメンバーとして始まり、その後はソロ・アーティストとしてキャリアを重ねた彼は、ワイルドな実験的音楽から完璧なまでにストレートな作品まで、多種多様な作品を残した。ただ、リードは何よりも素晴らしいストーリーテラーだった。彼は他の誰よりも先駆けて、人間が発する驚くべき感情のほとばしりを詩的に表現した。トランスジェンダーのヒロインたち、ドラッグの話、ラヴストーリー、エレジー、ギター・ジャム、ドローン・ミュージックなど、ひとつ間違えば作品を壊しかねない要素を取り込んでアルバムを作った。しかしそれらは常に2歩先を行っていた。約50年のキャリアの中でリードは常に、ロックンロールと彼自身を変革し続けた。そしていつもその時点では、他の誰もリードのやっていることを理解できなかった。彼の作品はよく、一章一章をレコーディングした小説にも例えられた。彼の死から3年経ち、名盤の数々がリイシューされたが、ここでは彼の作品を厳選し、ひとつの参考書としてまとめた。

絶対聴くべきアルバム

『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ(原題:The Velvet Underground & Nico)』(1967年)

60年代を代表するリードのバンドのファースト・アルバム。ロックの歴史の中で最も偉大なデビュー・アルバムと言える。安っぽい殺し屋ソングライターとしてスキルを磨いたリードは、作品の中に慣習を無視した作風を持ち込んだ。
ウェールズ出身のクラシック音楽の反逆者ジョン・ケイル、ドイツの女性ポップ歌手の先駆けクリスタ・”ニコ”・ペフゲン、郊外のロックギター学生スターリング・モリソン、DIYドラム・スタイリストのモー・タッカーと共にリードは、ジャンキーを1人称で歌った『ヘロイン(原題:Heroin)』や『僕は待ち人(原題:Im Waiting for the Man)』、サドマゾ的なサイコドラマ『毛皮のヴィーナス(原題:Venus in Furs)』を制作し、ロックンロールをダンスフロアのティーンエイジャー向けの音楽から、アンダーグラウンドのストーリーやアヴァンギャルドな革新的音楽へと変え、無限の可能性を広めた。アンディ・ウォーホルがプロデュースした作品で、当初はなかなか受け入れられなかった。しかし後に、本アルバムから3ヵ月後にリリースされたビートルズの『サージェント・ペパーズ』に劣らぬ影響力のある作品として評価されている。

『ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド(原題:Velvet Underground)』(1969年)

こちらもヴェルヴェッツの代表作と言えるサード・アルバム。リードのより静かでロマンティックな技巧の光る作品で、最も挑発的で激しい時代と同じくらいパワフルなアルバム。(アンディ・ウォーホルの)ファクトリーに出入りしていたトランスジェンダーの女優キャンディ・ダーリングを歌った『キャンディ・セッズ(原題:Candy Says)』は、おそらく彼の最も優しい曲だろう。『ペイル・ブルー・アイズ(原題:Pale Blue Eyes)』と『ジーザス(原題:Jesus)』も素晴らしい曲だが、ギターソロに圧倒される『ホワット・ゴーズ・オン(原題:What Goes On)』や軽快な『ビギニング・トゥ・シー・ザ・ライト(原題:Beginning to See the Light)』は、彼の最もノリのよい代表的なロック曲と言える。本アルバムは、センシティヴ・パンクのバイブルとなっている。

『トランスフォーマー(原題:Transformer)』(1972年)
ルー・リードの必聴アルバム


ソロ・アーティストとしての地位を確立した強烈なポップ・アルバム。ヴェルヴェッツの大ファンで、大ヒット作『ジギー・スターダスト』をリリースしたばかりのデヴィッド・ボウイもプロデュースに加わった。ボウイは、このアメリカの創造主をグラム・ロックの世界に引き戻した。『アンディの胸(原題:Andys Chest)』など何曲かはヴェルヴェッツ時代に書かれたものであるが、新たに作られた曲は必聴である。
シナトラ張りのバラード『パーフェクト・デイ(原題:Perfect Day)』や、煙草の煙が漂うジャズ・キャバレーでの即興演奏を思わせる曲で、意外にも大ヒットした『ワイルド・サイドを歩け(原題:Walk on the Wild Side)』からは、アンディ・ウォーホルのファクトリー・ファミリーへのリードの思いが伝わってくる。ボウイはリードの生涯の友人であり、『ワイルド・サイド』はジャンルを超えた名曲となった。

おすすめのアルバム

『ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート(原題:White Light/White Heat)』(1968年)

ヴェルヴェッツのセカンド・アルバムは、アンフェタミンをロケット燃料とし、アンプのボリュームをフルにしたニューヨークのノイズロックの元祖となった。独特の歌い方で、後にニルヴァーナがカヴァーした『ヒア・シー・カムズ・ナウ(原題:Here She Comes Now)』などソフトな曲もある。しかしアルバム全体を通して攻撃的で、特に17分を超える激しい『シスター・レイ(原題:Sister Ray)』は、ヴェルヴェッツの狂乱のライヴの定番となった。

『ローデッド(原題:Loaded)』(1970年)

4枚目のアルバムのリリース前にリードはヴェルヴェッツを脱退してしまい、これが彼のバンドでの最後のアルバムとなった。しかしリードの傑作の数々も収められ、特に『スウィート・ジェーン(原題:Sweet Jane)』や『ロックン・ロール(原題:Rock & Roll)』は名曲である。また『ニュー・エイジ(原題:New Age)』はリードのバラード・コレクションの中でも秀逸な曲で、『オー・スウィート・ナッシン(原題:Oh! Sweet Nuthin)』は、60年代を引きずる70年代ロックのスピリットを代表する曲と言える。

『ベルリン(原題:Berlin)』(1973年)

リード版プログレッシヴ・ロックで、華麗なオーケストラ的な音楽に乗ってドラッグの後遺症、ドメスティック・ヴァイオレンス、家族の不和などの暗いストーリーが展開される。リリース当初は評論家たちに酷評を受けたことは有名な話である。しかし、『キャロラインのはなし(2)(原題:Caroline Says II)』や『ベッド(原題:The Bed)』など深く共感できるストーリーが展開され、カニエ・スケールの野心と幾重もの皮肉が込められた本アルバムは、今日では傑作として再評価されている。

『ロックン・ロール・アニマル(原題:Rock n Roll Animal)』(1974年)
ルー・リードの必聴アルバム


性別不詳でドラッグ中毒のロックンロール・モンスターを演じるルー・リードがステージ上で繰り広げるライヴ。
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの曲を新たな時代に合わせて焼き直し、70年代のギター・ロックの中でも高い評価を与えられるステージである。特に叙事詩的な『スウィート・ジェーン』での激しいプレイは逸品である。

『ブルー・マスク(原題:The Blue Mask)』(1982年)

80年代、リードはクスリを断って結婚もし、ベーシストのフェルナンド・ソーンダース、ヴェルヴェッツを崇拝するポスト・パンクギタリストのロバート・クインと共にポスト・ヴェルヴェッツの彼のキャリアの中で最も激しいバンドを結成した。そうして制作されたアルバムには、ありのままの自分をさらけ出した『マイ・ハウス(原題:My House)』や『アンダーニース・ザ・ボトル(原題:Underneath the Bottle)』に激しくも魅力的にうねるギターを重ね、これまでとは違ったサウンドを生み出した。

『ニューヨーク(原題:New York)』(1989年)

エイズ蔓延の危機に怯えながら、リードは珍しく政治的な語り口調の曲を書いた。ロバート・クインが去り、代わりにマイク・ラスクのより繊細なギターサウンドが加わったことにより、リードが曲を装飾する空間が広がった。そうして生まれたのが都会のラヴストーリー『ロミオ・ハド・ジュリエット(原題:Romeo Had Juliette)』や、『ワイルド・サイド』を歩いてこの世を去った友人たちへのレクイエム『ハロウィン・パレード(原題:Halloween Parade)』である。

『1969~ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・ライヴ(原題:1969: The Velvet Underground Live)』(1974年)

まるで不安障害を抱えたグレイトフル・デッドのように、きらびやかに変身したロックンロール・ダンス・バンドとして、ステージ上でパワー全開だった時代のヴェルヴェット・アンダーグラウンドを垣間見ることができる。

『メタル・マシン・ミュージック(原題:Metal Machine Music)』(1975年)

シンプルなドローン・ミュージック、ノイズ・セラピー、そして悪ふざけが入り混じったアルバム。1時間以上に渡るギターのフィードバック・サウンドは、ファンや評論家たちを激怒させ、当初は誰にも受け入れられなかったが、後に純粋なきらめくカタルシスとして評価されるようになった。

『コニー・アイランド・ベイビー(原題:Coney Island Baby)』(1976年)
ルー・リードの必聴アルバム

『メタル・マシン・ミュージック』に続いて発表された本アルバムは、ドゥーワップ、ブルックリン、架空のフットボール・コーチ、レイチェルという実在のトランスジェンダーの恋人らへ向けた楽しく軽快なラヴレターである。今なお正当に評価されていないが、再評価されてもいい頃である。


『ストリート・ハッスル(原題:Street Hassle)』(1978年)

流行りのパンクと向き合い、一部はライヴ・レコーディングされた本アルバムへのスプリングスティーンの参加は、特に突飛なことではなかった。ヴェガスのR&B『アイ・ワナ・ビー・ブラック(原題:I Wanna Be Black)』や『リアル・グッド・タイム・トゥギャザー(原題:Real Good Time Together)』を収録。

『テイク・ノー・プリズナーズ(原題:Take No Prisoners)』(1978年)

狂乱のライヴの中でリードは、彼のヒーロー、レニー・ブルースを印象的かつ効果的に仕向けた。有名なリフを弾きながらリードは、ある評論家を「トゥ・ファッカー」とこきおろした。

『ソングス・フォー・ドレラ(原題:Songs for Drella)』(1990年)

ウォーホルの死をきっかけに、リードは再びジョン・ケイルと組むこととなった。2人の完成されたアーティストが共同で師への敬意を表したことよりも、ヴェルヴェッツの再結成の方に価値がある。

『Lulu』(2011年)
ルー・リードの必聴アルバム

メタリカとのコラボ作品には多くのあざけりの声が上がった。しかしデヴィッド・ボウイは本アルバムを「リードの最高傑作」と評している。時が正しい評価を与えるだろう。賛美歌のような『ジュニア・ダッド(原題:Junior Dad)』は繰り返し聴くべきである。

印象の薄いアルバムの中の傑作

「オーシャン(原題:Ocean)」
アルバム『ロックの幻想(原題:Lou Reed)』(1972年)より

幻想的なヴェルヴェット・アンダーグラウンド後期をうかがわせるリードのデビュー・アルバムに収められた曲のひとつ。どらの音で始まるこの曲には、プログレッシヴ・ロックの雄イエスのリック・ウェイクマンがドラマチックなピアノを聴かせている。


「キル・ユア・サンズ(原題:Kill Your Sons)」
アルバム『死の舞踏(原題:Sally Cant Dance)』(1974年)より

半自伝的な内容で、教養のない両親が子供に電気ショック療法を受けさせようとする。コック・ロックのギターソロが自由に疾走する。

「警鐘(原題:The Bells)」
アルバム『警鐘(原題:The Bells)』(1979年)より

崖の上に立つ男を歌ったこの崇高なジャズ・エレジーに、リードはトランペッターのドン・チェリーを招いた。当時はリード自身もまさに崖っぷちだった。

「ポジティヴ・ドリンキング(原題:The Power of Positive Drinking)」
アルバム『都会育ち(原題:Growing Up in Public)』(1980年)より
ルー・リードの必聴アルバム


暗く滑稽な酒飲み賛歌であり、自己中心的な自己弁護の歌。「酒は脳細胞を殺すと誰かが言う/どうせそうなるのなら、ベッドから出て(飲みに行ってやろう)」

「アイ・ラブ・ユー、スザンヌ(原題:I Love You, Suzanne)」
アルバム『ニュー・センセーションズ(原題:New Sensations)』(1992年)より

80年代に入ってリードはサウンドをがらりと変えた。歯切れのよいファンク・ロックをベースにしたシャングリラス風のヒット狙いの曲。

「スウォード・オブ・ダモクレス — 外面的に(原題:Sword of Damocles – Externally,)」
アルバム『マジック・アンド・ロス(原題:Magic and Loss)』(1992年)より

アルバムを通じて差し迫る死を直視する。癌と放射線治療を歌ったエレジー風のフォーク・ロック。冷淡さと贖罪の両面を歌った曲。

「セット・ザ・トワイライト・リーリング(原題:Set the Twilight Reeling)」
アルバム『セット・ザ・トワイライト・リーリング(原題:Set the Twilight Reeling)』(1996年)より

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの短期間の再結成あたりから、アーティストのローリー・アンダーソンとの関係が発展していった。再生を歌ったこの曲はバラードで始まり、最後はアンプのボリュームが上がっていく。


「ロック・メヌエット(原題:Rock Minuet)」
アルバム『エクスタシー(原題:Ecstasy)』(2000年)より

自己嫌悪と殺人的な怒りを語る。2016年にオーランドのゲイ・ナイトクラブで発生した銃乱射事件と恐ろしいほど呼応する。

「パーフェクト・デイ(原題:Perfect Day)」
アルバム『ザ・レイヴン(原題:The Raven)』(2003年)より

アルバム『トランスフォーマー』にも収録されていた印象的な1曲を、エドガー・アラン・ポーへのトリビュート・アルバムで再レコーディングした。リードの遺産相続人のひとりでもあるアントニー(ヘガティ)が、アヴァンギャルドなクルーナー唱法を披露している。
編集部おすすめ