映画を観た観客に伝わらないことは、テイラーが掛け値なしに偉大なソングライターだという事実だ。
映画に登場するテイラーの手による楽曲は1975年の「アイム・イン・ラヴ・ウィズ・マイ・カー」だけだが、冗談のオチとして使われるだけで、「ボヘミアン・ラプソディ」という複雑で壮大な楽曲の対局にある曲という立ち位置だ。映画の中のバンドメンバーは長年そのことをネタにテイラーを容赦なくいたぶり、唯一それを楽しんでいるのはマイク・マイヤーズ演じる架空のレコード会社重役だけである。
だが実際は、クイーンのコンサートでは、長年ライブのハイライトでこの曲がプレイされていたのである。その証拠に1981年のモントリオールでのライブ映像を見てほしい。
クイーンはこの翌年にもう一度ツアーを行ったのち、アメリカでのライブ活動を休止した。映画では、メンバー全員が女装している「ブレイク・フリー(自由への旅立ち)」のビデオに対する、世間のピューリタン的な反応がアメリカでのライブ活動をやめる原因としているが、現実はアメリカのコンサート・サーキット内で目玉バンドでなくなっただけの話である。アルバム『ホット・スペース』も『ザ・ワークス』も商業的には鳴かず飛ばずだった上に、コンサートチケットの売り上げもヨーロッパ、南米、オーストラリア、アジアのほうが多かった。
この1981年のモントリオール公演は、存命中のフレディが「アイム・イン・ラヴ・ウィズ・マイ・カー」を演奏した最後のコンサートだ。ところが、アダム・ランバートをヴォーカリストに迎えて活動している現在のクイーンは、この曲をほぼ毎回演奏しており、大いに盛り上がっている。