今までにない2人のこのモードはなんなのか? 成田ハネダ(パスピエ)、吉田靖直(トリプルファイヤー)、TOSHI-LOW(BRAHMAN)、女優・岸井ゆきの、Mummy-D(RHYMESTER)、Ryohu(KANDYTOWN)、髙橋紘一&谷本大河(SANABAGUN.)という多彩な客演たちと織りなされる1曲1曲、それらが詰め込まれたこの1枚のアルバムは一体なんなのか?
今回Rolling Stone Japanでは小出と福岡の2人による『マテリアルクラブ』の全曲解説を独占公開。バックグラウンドで『マテリアルクラブ』を流しながら、ぜひ2人の言葉を読み進めていってほしい。
1.Nicogoly 「マテリアルクラブの自己紹介ソングですね」(小出)
小出:マテリアルクラブの自己紹介ソングですね。マテリアルクラブは何をどういう哲学でもって作っているのかというのを歌っています。固有名詞連発の歌詞も、ラップだからこそできる表現だと思います。あっこのボーカルもとてもいいです。こういうあっこの歌が聴きたかった(笑)。
福岡:制作と並行してこいちゃんが歌詞を書いてくれたんですが、まさに今起こっている現象を歌詞にしている、という内容だったので驚きました。マテリアルクラブのテーマが盛り込まれているし、1曲目に丁度いいコスプレ感の曲だと思います。なぜか「ラッパーの彼女」という設定で歌ってくれと言われました。
2.00文法 「同じバンドメンバーではないのが功を奏した」(福岡)
小出:元々まったく別の曲調だった曲を作り変え、あっこがこのトラックを仕上げてきたとき、この人すごいな!と感心しました。で、そのトラックに僕がまたまったく別のメロディを直感で乗せて出来たのがこの曲です。
福岡:同じバンドメンバーではないのが功を奏したのか、こいちゃんが作ってくれた原曲を躊躇なくリアレンジできました。お互い煮詰まりそうだった頭を切り替えるきっかけになったと思います。リアレンジによって生じた猛烈に細かい打ち込みの整頓作業は全部こいちゃんがやってくれました(感謝)。
3.閉じた男 「吉田くんはもっている男です」(小出・福岡)

小出:トリプルファイヤー吉田くんとあっこの3人でブースの中で飲み会(約6時間)をやって、その音声すべて収録。後日シラフの状態で聴き直して、面白かった部分をサンプリングして作りました。楽しくてプレッシャーもない、新たなレコーディング方法を発見しました。M9”Curtain”と、内容が偶然符合するというマジックも。吉田くんは本当にもっている男です。
福岡:ベーシックオケは私が作って、それの上にこいちゃんがいろんなアイデアを乗せてきてくれました。デモ段階でだいぶ完成していたのでレコーディング本番でデモを越えられるか不安でしたが、結果は3倍増しの出来でした。吉田くんはやはりもっている男です。
4.Amber Lies 「リヴァーヴ大盛りの仕上げも日本じゃないみたいで最高」(小出)
小出:僕もあっこも初挑戦となる完全英詞の楽曲。デモの仮歌がインチキ英語だったのもあり、ディレクターが英詞がいいんじゃないかと言ったのがきっかけでやってみることにしました。監修はReiちゃん。僕の書いた日本語詞を訳してくれました。あと、発音指導も。おかげでそれっぽく歌えましたが、英語の発音って日本語と体の使い方が全然違うんだと勉強になりました。リヴァーヴ大盛りの仕上げも日本じゃないみたいで最高。
福岡:甘いメロディだけど、オケのスパイスが絶妙だなと思う曲です。全体のサウンドに関しても、ここまで思い切ってリヴァービーにするのは初めてでした。Reiちゃんに発音を指導してもらい、手探りの状態で英詞を歌入れしました。英語で歌うのは本当に体力勝負でした。
5.告白の夜 「TOSHI-LOWさんにはきっとトレンディーな曲が似合うはず!」(小出)

小出:TOSHI-LOWさんにはきっとトレンディな曲が似合うはず!と思ってはいたんですが、いざ歌っていただくと、コートの襟を立てたTOSHI-LOWさんの姿が浮かぶほどトレンディな仕上がりになり、ガッツポーズでした。
福岡:打ち込みでバラードを作ることの難しさを実感した曲でした。生のサンプリングを足すなど、音の熱量を加減してバランスを整えました。TOSHI-LOWさんの歌声が入ると一気に世界観が完成して、めちゃくちゃホッとしたのを覚えてます。こいちゃんのトレンディーディレクションが冴え渡る1曲。
6.kawaii 「福岡晃子の中のシュールが開花しました」(小出)

小出:問題作です。福岡晃子の中のシュールが開花しました。元々はニューウェーブっぽいインストだったんですが、それがなぜかこんなことに。岸井ゆきのさんによる「ずっと何言ってんの?」的なナレーションはもちろんですが、単純にインストとしてもシュールだからすごい。
福岡:架空の動物のドキュメンタリーを作りました。ゆきのちゃんの素晴らしいナレーションを録音したのち、それをPCで再生してその音をまたマイクで拾うという、今思えばとんでもなく勿体無い(贅沢ともいう)ことをさせてもらいました。
7.Material World 「全ての素材が曲の中で燃焼されている」(福岡)
小出:Mummy-DさんとRyohuをお迎えしたこの曲もまた、マテリアルクラブの哲学についての楽曲です。「何かを作る上で、自分に影響を与えるすべてのものが素材」というのがマテリアルクラブの名前の由来。そこにはもちろん「人間関係」も含まれます。M1”Nicogoly”で歌われるように、Dさんの言葉があったから、この曲で歌われるようにRyohuとBase Ball Bear「3.5枚目」を作ったから、今があり、マテリアルクラブがあるわけです。
福岡:この曲のオケはほとんどこいちゃんが作ってきてくれました。デモの段階からめちゃくちゃ格好良いと思っていたんですが、Mummy-DさんとRyohuのラップが入ったらもう本当にマテリアルワールドになって、全部が繋がりました。全ての素材が曲の中で燃焼されていると思います。
8.Curtain 「アルバム制作中に起きた最大のマジックといえるのがこの曲」(小出)
小出:このアルバム制作中に起きた最大のマジックといえるのがこの曲。音はなく、岸井ゆきのさんのリーディングのみで構成されています。元々は”kawaii”のナレーションの別パターンとして用意したものだったのですが、ゆきのちゃんのリーディングが素晴らしかったことで、次曲へとつなげる演出を思い付き、この構成が生まれました。そして、前述の通り、これを録った翌日に収録した「閉じた男」に、『カーテン』というワードが偶然出てくるという奇跡も呼ぶわけです。
福岡:ゆきのちゃんのリーディングが本当に素晴らしかったです。女優さんのすご技を間近で体験しました。その時間のスタジオの空気感やこいちゃんのディレクションを吸い上げて、どんどん物語の人物が出来上がっていく。最後に一気に読み上げたものが採用されるというすごいことが起こっていました。
9.WATER 「『マテリアルクラブいけるな』という手応えを得た」(小出)
小出:初期にできた曲。僕らが最初に「マテリアルクラブいけるな」という手応えを得たのは、この曲が出来た時ではなかったでしょうか。情報量の多い曲ですが、いきなりこれを作れたというのは自信になりました。ラップと歌の中間のような歌唱と、歌詞をじっくり聴いてください。ただ、割とギターでどうにかしようとしてるので、バンドっぽい考え方というか、実はそこまでDTMっぽくはないんですよね(笑)。
福岡:スタジオで2人で2台パソコンを並べて作り始めたのがこの曲でした。その光景がバンド始めたてのような初々しさがあって、その通りに曲にも初々しさが残っています。何度も再構築したり検証したり、なかなか手のかかる曲だっただけに愛情もひとしおです。
10.New Blues 「過去も現在も未来も、素材である、ということで」(小出)
小出:このアルバムで唯一、いつも通りに歌唱している曲です。出来たときから最後の曲にしようと思っていました。歌詞も最後に書きましたが、なぜか仮歌の段階で「1998」とだけは言っていたので、なんとなく98年のことを思い出してみたら、今から20年前。中2。それって自分が本格的に音楽の道に進みたいと思い始めた時なんですよね。不思議だなと思いながら、過去と、「違う未来」のことに思いを馳せて歌詞にしました。過去も現在も未来も、素材である、ということで。
福岡:タイトルがとても好きな曲です。未来からみる今のBluesという視点でも、歌詞も音もとてもハマっているなと思います。個人的にはこういうシンベを入れたのが初めてだったので楽しかったです。管楽器も最高!
Edited by Aiko Iijima

『マテリアルクラブ』
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