これまで様々なカルチャーを生み出してきた街「渋谷」から、音楽を通じて日本のエンターテイメントを盛り上げることを目的に、2015年からスタートした「Scramble Fes」が今年も11月4日、TSUTAYA O-EASTにて開催された。

トップバッターは、今年4月にサード・アルバム『祝祭』をリリースしたカネコアヤノ。
午後一という早い時間帯にも関わらず、彼女の演奏を一目見ようとフロアは既に満員状態だ。この日の演奏はバンド編成によるもので、お馴染みの林宏敏(Gt:踊ってばかりの国)、本村拓磨(Ba:Gateballers、ゆうらん船)、Bob(DR:Happy)を率いて登場したカネコ。まずは「天使とスーパーカー」からライブはスタートし無垢な歌声で歌う。軽快なカントリー・ソング「カウボーイ」から、間髪入れずに演奏された「ロマンス宣言」では一転、目をむき出しながらシャウトする場面もあり、素朴な中にも一瞬の狂気を感じさせる。かと思えば「とがる」のイントロでは、何を思い出したのか急に吹き出し、最初から演奏をやり直すなどお茶目な一面も見せ、オーディエンスを大いに魅了していた。

ヨギー、King Gnu、MONO NO AWAREらが出演「Scramble Fes 2018」レポート

Photo by Megumi Suzuki

続いては、メインステージの脇に設置されたサブステージにて東郷清丸。2枚組全60曲というとんでもないボリュームで、タイトルが『2兆円』というどこまでも冗談のようなファースト・アルバムをリリースし、巷では話題を集めている異端のシンガー・ソングライターだ。トレードマークでもある赤いトレーナーを着用し、スタインバーグのヘッドレス・ギターを抱えて登場した東郷。会場に向かって「今日、僕のこと初めて見る人?」と尋ねると、ほとんどの人が手を上げるアウェーの状態である。しかし、マルチ・エフェクターを駆使しながらギターをつま弾き、メロウでソウルフルな歌声を聴かせると、フロアの空気がガラッと変わった。プログレッシヴだがとびきりポップな「サマタイム」や、『みんなのうた』でも流れそうなほどシンプかつで美しい「よこがおのうた」。気づけばオーディエンスは彼を満面の笑みで見守り、無茶振りのようなシンガロングにも気軽に応じている。
最後は、どこかビーチ・ハウスをも彷彿とさせる名曲「ロードムービー」を演奏。彼の名を知らなかった人たちにも、確実に爪痕を残したステージだった。

ヨギー、King Gnu、MONO NO AWAREらが出演「Scramble Fes 2018」レポート

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ニコの「These Days」をBGMに登場したのは、京都を拠点に活動する4人組Homecomings。今年10月にリリースされた『WHALE LIVING』では、これまでとは打って変わって全て日本語詞に挑戦するなど新境地を見せて話題になっている。まずは映画『リズと青い鳥』のエンディングテーマに起用された「Songbirds」から。キラキラとしたアルペジオに導かれ、女性3人の美しいコーラスが会場中に響き渡った瞬間、胸が熱くなる。ファルセットを駆使した畳野彩加の、透き通るような声がティーンエイジ・ファンクラブを彷彿とさせる美メロを歌い上げ、会場は平和な空気に包まれた。その後も「Hull Down」や「Somoke」など、新作からの楽曲を中心に披露。そして最後は、『SALE OF BROKEN DREAMS』から躍動感たっぷりの「HURTS」でディストーション・ギターをかき鳴らしステージを後にした。

ヨギー、King Gnu、MONO NO AWAREらが出演「Scramble Fes 2018」レポート

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メインステージ、サブステージと交互にライブは進行。続いても京都在住のバレーボウイズ。総勢7人が所狭しとサブステージに並んでの演奏だ。
”合唱系ノスタルジック青春歌謡オーケストラ”との異名を持つだけあって、赤いドレスを着た紅一点のヴォーカル、オオムラツヅミが素足で床を踏み鳴らしながら、”ダンス”というよりは”土着の舞踏”とでもいうべき所作を一心不乱に繰り返す中、90年代オルタナティヴ・ロックやプログレ、サイケ、民謡、お囃子などを”闇鍋”で煮詰めたような、摩訶不思議なサウンドを次々と繰り出していく。四畳半のアパートから着の身着のままやってきたような、男子メンバーの出で立ちもユニークだった。

ヨギー、King Gnu、MONO NO AWAREらが出演「Scramble Fes 2018」レポート

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まるで新宿のアングラ劇を見ているようなバレーボウイズが終わり、メインステージではMONO NO AWAREがおもむろにリハーサル(音出し)を開始。まだ本番も始まってないのに、オーディエンスに(フェス名にちなんで)「スクランブル!」と大声で叫ばせるなど、早くも会場を一つに束ねていく。そしてそのまま1曲目の「機関銃を撃たせないで」。ソリッドで奇天烈なロックンロールがフロアを揺らしていく。かと思えばファンクチューン「窓」では、押し寄せるようなウォール・オブ・サウンドが聴き手を圧倒。「そういう日もある」や「イワンコッチャナイ」など、思わず声に出して言いたくなる、不思議な言語センスが炸裂していた。

ヨギー、King Gnu、MONO NO AWAREらが出演「Scramble Fes 2018」レポート

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「リハーサルからオーディエンスを魅了する」という意味では、続く中村佳穂もその1人。ピアノを弾きながらモニターチェクをしているかと思いきや、即興と思しき歌詞を突然紡ぎだし、食い入るように見守るオーディエンスに向けて、まるで挨拶のように歌いかけていく。今や引っ張りだこのギタリスト、西田修大(吉田ヨウヘイgroup)ら4人のサポート・メンバーを率いてのパフォーマンスは「圧巻」の一言。ハスキーでソウルフル、そして何故か耳にすると泣きたくなるような不思議な歌声が、心の一番深いところへストンと落ちていく。
ゾクゾクするほどソウルフルな「get back」、ジョニ・ミッチェルをも連想させる「忘れっぽい天使」など、3日後にリリースされるセカンド・アルバム『AINOU』からの楽曲を次々と歌い上げていく。個人的には彼女のパフォーマンスが、この日のハイライトだった。

ヨギー、King Gnu、MONO NO AWAREらが出演「Scramble Fes 2018」レポート

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しゃがれた歌声の常田大希(Gt, Vo)と、甘くメロウな歌声の井口理(Vo, Key)というコントラストが特徴の4人組バンド、King Gnuはとにかく音がデカイ。着ていたシャツがビリビリと振動するほどの爆音に、慌ててイヤープラグを耳に突っ込んだ。研ぎ澄まされたシンプルなフレーズが、それゆえに太く豊かに鳴り響くツェッペリンばりのロックンロール・ナンバー「Tokyo Rendez Vous」や、井口のファルセット・ヴォイスがたまらなく官能的な、アンノウン・モータル・オーケストラ系のサイケ・チューン「NIGHT POOL」など、昨年リリースされたフル・アルバム『Tokyo Rendez-Vous』からの楽曲を中心に、テンションの高いパフォーマンスを見せつけた。

ヨギー、King Gnu、MONO NO AWAREらが出演「Scramble Fes 2018」レポート

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いよいよ「Scramble Fes 2018」もラストスパート。サブステージには「キイチビール&ザ・ホーリーテッツ」が登場し、高揚感たっぷりのギター&オルガン・ロック「パウエル」からスタート。ところが、キイチビール(ヴォーカル&ベース)の声が、体調不良からか完全に潰れてしまって、普段の甘いハイトーンは見る影もなく殆ど声が出ない状態。それでも他のメンバーのサポートや、ファンの声援に支えられながら名曲「東京タワー」など9曲を完奏。筆者にとってはこれが彼らの初ライブだったので、少々残念ではあったが次に期待したい。

ヨギー、King Gnu、MONO NO AWAREらが出演「Scramble Fes 2018」レポート

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そして大トリを飾ったのは、今年10月にシングル「Summer of Love」をリリースしたYogee New Waves。まずはその表題曲から幕を開ける。
ストーン・ローゼズあたりを彷彿とさせるギターのアルペジオ、浮遊感たっぷりのコード進行が心地よい。その後もアーチー・ベル&ザ・ドレルズの「タイトゥン・アップ」を思わせるベースラインがご機嫌な「CAN YOU FEEL IT」や、言葉を一つひとつ確かめるように歌う、角舘健悟のヴォーカルが胸を打つミドルバラード「Climax Night」など、多幸感溢れるナンバーが次々と演奏されていく。ラストは代表曲「Ride on Wave」を披露し、鳴り止まぬアンコールに「Good Bye」で応じて「Scramble Fes 2018」は無事に幕を閉じた。

ヨギー、King Gnu、MONO NO AWAREらが出演「Scramble Fes 2018」レポート

Photo by Megumi Suzuki

日本の音楽シーンの次世代を担う、フレッシュなアクトが勢揃いした「Scramble Fes」。彼らが来年以降、どんな活躍をしてくれるのかが今から楽しみだ。
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